第6話 お使いと無駄使い
「ミルルの【お使い】は他の【使い手】から【使い手】能力を借りてくることができる力だよ」
村への道を歩きながらキャズマが説明してくれた。
「え! じゃ、じゃあ! 私もお借りできるんですか!」
自身の能力【剣使い】を使いこなせないカヤは強い興味を示す。
ただでさえ体力が尽きかけていたのにヌエドラゴンから逃げるため走ってしまい、カヤの疲労は限界に近かった。
それでもキャズマのこの話は聞かずにはいられない。
【使い手】の能力を借りられる!?
なんと魅力的な力だ。
もしかして自分が使いこなせるような能力もあるのでは!
返答を求めるようにカヤはキャズマとミルルの顔を交互に見る。
「借りられるのは僕だけだけどね」
「えぇぇ……」
しかし夢はあっさりと破れた。疲労がより増したようだ。
「この力はお兄様が借りてこい、と命じることで発動するのです。そしてミルルは【使い手】とキスすることで能力をお借りすることができるのです」
「え? 借りる時にもキスするんですか!?」
「そうなのです」
そこでカヤは「男とはダメ」という先程ミルルが言った言葉を思い出す。
「あぁ、男性とはダメというのはそういう……」
「そういうこと。天地が逆転しても認められないよね」
キャズマが話にそんな例えを用いるなんて!?
これは余程のことだと直感的に感じとるカヤ。
「じょ、女性とならいいんですか……?」
「男とじゃなければいいよ」
「へぇ……」
カヤは改めてミルルの姿を見る。
キャズマの妹。自分と同じくらいの歳と想像していたが、思っていたよりも外見は幼い。歳下だろう。
ボリューム感のあるフリフリした衣服を身にまとっていて、ドレスのように裾が大きく広がった膝丈スカートが特に目を引く。
カヤも王宮ではドレスを着用していたがミルルの服装はデザインこそ近いようで実際はより動きやすそうだ。
また、彼女にとても似合っている。
サラサラとした黒髪を左右で束ね、白い肌に色づく頬と唇の紅が際立つ。
笑うときにチラリと見える八重歯は笑顔をより魅力的にしていた。
端的に言うと非常にかわいい。
まるで本当の人形のように。
カヤもまた類を見ないほどの美少女であり自分もそれを自覚しているが、自分よりかわいい存在が許せない! みたいなことはない。
かわいいものはかわいい。
そしてかわいいものはより多いほうがいい。幸せ。
そういう思考だった。
つまり、カヤはミルルを気に入った。
このまごうことなき美少女が女性とキス……だと!?
カヤはミルルが女性とキスしている姿を想像する。
マトモなキスを見たのが先ほどのキャズマとミルルの接吻なので
キャズマが美少女に置き換わる形で脳内変換をおこなう。
「……!」
ドキンと胸が高鳴る。
なんだこれ!
えもいわれぬ感情がカヤを襲った。
待って、それなら美少女同士はどうなる……!?
カヤの想像の中の女性が美少女に変化した。
「……」
あ! いい! これはいいぞ!!
美少女同士のキス。なんて美しいんだ……!
いや……でも……どうせなら……。
まるで襟を正すかのように一呼吸置く。
意識を集中すると想像の中の美少女が自分の姿になった。
カヤの脳内で、ミルルと自分がキスをしている。
「……ッッ!!」
素晴らしいっ……!
これほどの美がこの世にあるのかというほど圧倒的な美しさだった。
赤面し身悶えるカヤ。
思わずゴクリと喉も鳴る。
カヤの感情の高まりに呼応し、想像の中の二人の接吻は熱を帯び激しさを増していく。
ああっ! そんなことまで……!
「……カヤ様? 大丈夫なのです?」
「はっっっ!!」
現実に戻った。
ミルルはなぜか満面の笑みを浮かべている。
「だ、大丈夫です! ははは! 何だか暑いですね!」
笑いながらカヤはあらぬ妄想を頭から追い払った。
色々な意味で恥ずかしくてすぐにはミルルの顔が見られない。
お、落ち着くんだ!
何か話題は……!
「でもでも! 能力をお借りできるのは素敵ですが、その度にキスするのは大変ですね!」
「そうなのです。しかも自分の【使い手】能力を公言している人なんて普通はいないのです」
「で、ですよね!」
「だから求める力を借りてくるのも大変なのですよ? お兄様?」
そう言ってミルルはちらりとキャズマに視線を送る。
意味を察したキャズマは舌打ちをするとミルルの頭を無言で撫でた。
幸せそうな顔をするミルル。
「……あ、いいなぁ……」
思わず口にしたカヤの言葉に怪訝そうな表情を返すキャズマ。
「え? まさかカヤもやって欲しいの?」
「んあ!? いえ! そういうわけではなくてですね!」
両手をブンブン振って全力で否定する。
ミルルを撫でるキャズマの姿を見てカヤは兄との日々を思い出していたのだった。
「そ、そうだ! ミルルちゃんって呼んでもいいですか!?」
「はい、もちろんなのです!」
「やった! 私のこともカヤちゃんって呼んでくれると嬉しいのですが……!」
「いえそんな、お姫様をちゃん付けでなんて呼べないのです」
「うぇぇ……そんなの気にしないでいいんですけど」
誤魔化すように言ってしまったがカヤがミルルをちゃん付けで呼びたいと思っていたのは本心だった。
ミルルちゃんと呼べるのは嬉しいが、カヤちゃんと呼んでもらえないのは悲しい……。
「そういえば。カヤ様はお一人なのです?
キンリーンのお城からお逃げになってきたと聞きましたが、お姫様さまなら護衛やお付きの人がいると思うのです」
「え? ああ、それはですね……」
カヤが一人の理由。
キャズマには興味ないと切って捨てられたがミルルは疑問に思ったようだ。
「城を出た時は一人、護衛の騎士がいたのですが、その……敵の使い手に倒されてしまったんです」
「まぁ……」
「勇敢な騎士でした。私は彼の分も生きなくてはいけません」
「カヤ様……!」
ミルルが抱き着いてきた。
キャズマもカヤの頭を優しく撫でる。
「ミルルちゃん……キャズマ……」
二人の気持ちはカヤの足に歩く力を与えていた。
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