第4話 ヌエドラゴンと戦う無駄使い
「カヤ、大丈夫?」
「は……はいぃ……」
暗闇の森を歩いて数時間が経過していた。
キャズマはまったく疲れを見せないがカヤは足が痛くなっていた。
「すみません、キャズマはドラゴンとも戦って負担が大きいはずなのに私ばかりこんなで……」
「気にしなくて良い。僕がカヤの護衛を引き受けたんだし」
疲れても歩く以外に方法はない。
「目的地はまだ遠い?」
「そうですね。現時点で半分ほどの距離です」
「今日中に着くのは無理かな」
「のっ! 野宿……でしょうか!」
今日中に到着できなければ、当然だが野宿するしかない。
ということは今日初めて出会った男性と一夜を共にする……!?
そんなことが許されていいのか? どうなんだ?
自問するカヤ。
「野宿は避けたいな」
「で、ですよね! あはは!」
「仕方がない。村を目指そう」
「村?」
「僕が昨日一泊した村だ。アタトス村、だったかな。今から向かえば夜までにはたどり着けるはずだ」
キャズマはアタトス村に宿泊し、翌朝この暗闇の森に入った。
そしてギノツ町へ向かって移動している最中にカヤに出会ったというわけだ。
「でも……」
城を逃げ出してからまともに休息をとっていない。
精神も肉体も疲労していたカヤにはベッドで休めるかもしれないのはひどく魅力的だった。
一刻も早く目的地に着きたい気持ちとがせめぎ合う。
「早く先へ進みたいのは分かる。だが野宿して、もし夜に魔獣が出たら面倒だ」
「それは……そうですね。分かりました」
キャズマに夜通し護ってもらうわけにもいかない。
今日は森から出て、目的地には明日朝早くから向かおう。
カヤは気持ちを切り替える。
「その村への道は分かるのですか?」
「うん」
アタトス村を出てからカヤと出会った場所まで歩いた道も、そしてそこから現在位置までの道もキャズマは全て覚えていた。
ここからアタトス村まではどう進めば到着できるかも分かる。
そうやってまた、いくらかの距離を歩いた。
村までもう少しだよ。
そうカヤに声をかけた直後。
「……!」
「出たか」
キャズマ達の前に現れた影。
それはカヤも見た事がない奇怪な魔獣だった。
頭、胴体、足、尾がそれぞれ異なる動物のもので、背中には巨大な竜の翼。
クマドラゴンを超える巨体。
「きゃ、キャズマ! これは何ですか!?」
「魔獣ヌエドラゴンだ。ちっ、もう少しで村だったのに」
キャズマは護身刀を抜き、構えた。
「カヤ、隠れて。こいつは他の魔獣とは違う」
「は、はいぃ!!」
カヤは近くにあった大きな木に身を隠した。
疲労が蓄積していたとは思えない素早さを見せる。
「キャズマ! 大丈夫ですか!」
「問題ない、と言いたいが。ピンチだね」
「ええっ!?」
「これだよ」
キャズマは右手に持った護身刀をカヤの目線の高さまで持ち上げた。
「その刀が何か……あっ!」
護身刀はボロボロだった。
刀身はあちこち欠け、ヒビも入っている。
「僕の刀は今こんな状態だ。使えてあと一回だな」
「そんな!」
「折れたらそこまで。【刀使い】の能力は使えない」
そこへヌエドラゴンの前足による強烈な一撃が飛ぶ。
刀で受け止めようとして、キャズマはとっさに身をかわした。
「あぶない。あんな攻撃を刀で受けたらさすがに折れるね」
さて、どうやって倒すか。
あの巨体だ。斬りつけた所で致命傷を与える事はできないだろう。
刀の限界も近い。やるなら一撃で頭を落とす。
キャズマは刀を鞘に収めた。
虎の足を持つヌエドラゴンは主に前足の爪を使って攻撃を仕掛けてくる。
マトモに食らえば危ないが、キャズマのスピードなら充分にかわすことができた。
攻撃をかわしてこちらが攻撃できる隙を待つ。
「グルルルル……」
ふいにヌエドラゴンの動きが止まった。
よし今だ。キャズマは地を蹴ってヌエドラゴンとの距離を詰める。
後は居合切りの如く、鞘から刀を抜き放ち……
「ひゃぁぁぁぁぁ!!」
「!?」
必殺の一撃を撃つ直前、カヤの悲鳴が響いた。
視線を送ると……カヤがヌエドラゴンに襲われている!?
「ちっっっっ!」
ヌエドラゴンは二頭いたのだ。
今、目の前の魔獣に刀を使ってはまずい!
キャズマは体を捻ると一気に大地を駆ける。
「ハッ!!」
そして刀撃を二頭目のヌエドラゴンに放つ。
走るスピードも上乗せされた強力な一撃によりヌエドラゴンの首は叩き落とされた。が、護身刀も折れてしまった。
「走るよカヤ!」
「は、はい!!」
そのままカヤの手を取りキャズマは走った。
一頭目のヌエドラゴンから逃げなくては。
刀はもうない。攻撃の手段を失ってしまったのだ。
「グオオオオオ!」
素早く逃げに転じたのが功を奏し、ヌエドラゴンから身を隠す事には成功した。
だが逃げ切れたわけではない。
ヌエドラゴンはまだこの場を去ってはいないのだ。
キャズマ達を探すようにウロウロしている。
「あ、ありがとうございますキャズマ!」
「礼はいいよ。問題は敵がまだいるのに刀が折れたことだ」
「私のこの剣をお貸しできればいいんですけど……私が持つよりもキャズマが使った方が絶対に有益だと……思います……ううう」
カヤは言っていて悲しくなってしまった。
彼女が持っている剣は王家専属の武器職人が作ったものだ。
これならそう簡単に折れることもないだろう。
「それは剣なのです。【刀使い】では使いこなせないのです」
「ですよね……んん?」
今のは!?
驚くカヤ。
ここには自分とキャズマしかいないのに。
「誰ですかっ!?」
声の方に振り返ると女の子が一人、立っていた。
自分の身長の二倍はある槍を持っている。
「あなたは……!?」
「……お前か」
「お兄様、突然目的地を変えられると困るのです」
「別にいいだろう、どうせお前には分かるんだから」
お兄様!?
この女の子がキャズマの妹――!?
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