第10話 ネコチャンと無駄使い
「へぇ。それっぽくなってきたね」
「どうするのです!?」
「やります! 私だって王の娘です! 王女です!」
――よかろう。試練は三つじゃ――
「三つ……! 分かりました!」
――まずは石を正しき場所に置くのじゃ。さすれば欲する力の在処が示されるのじゃ――
「……え? 正しき場所?」
「ここだね。どこかに誘照石をはめるんじゃない?」
石碑の文字の上には無数のくぼみがあった。
すべて同サイズで等間隔に並んでいる。
「このくぼみのどこかに!? たくさんありますが!」
「こういうのは、そういうものだろう。残念だけど他に言いようがないよ」
「間違えたら……」
「何かペナルティがあるかもしれないね」
「ひえぇ……」
「カヤ様! 頑張ってくださいなのです!」
試されているのだと思うとカヤは緊張で石を持つ手に汗がにじむ。
どこにはめればいい?
あまりにノーヒント。
誘照石に何か反応があるかもと考えたが、何も感じない。
この試練は直感か、もしくは運を試すのが目的なのかもしれない。
であれば王の器などではない自分がこれをクリアできるのか。
カヤは不安に駆られる。
その時ふと、兄タンケウロの顔が頭に浮かぶ。
そうだ、私が兄を助けるんだ!
私もキンリーン王家の者。きっとできるはずだ。覚悟を決め……
「遅いよ」
「え?」
小さく呟くと、キャズマが石碑に手をかざした。
そして無数のくぼみの上をなぞっていく。
直後、地面が細かく揺れ出した。
「空が!」
目の前で空が崩れる。
まるで空間に何かが塗ってあったかのようにボロボロと剥がれ落ちると、人の背丈くらいの高さの祠が出現した。
「ほ、祠ですっ!」
「驚きなのです!」
「あれが"欲する力の在処"か。良かったね、見つかって」
「キャズマ、何をしたんですか!?」
「あぁ、【使い手】の術がかかっていたんだよ。【封印使い】……いや【幻術使い】かな」
【使い手】の術なら【無駄使い】であるキャズマに効くわけがない。
解くのも簡単だ。
「えぇ……せっかく覚悟を決めていたのに……」
「また挑戦すればいいじゃないか。もちろん僕のいない時にしてね」
「……」
いまいち釈然としないカヤだが気を取り直して祠の扉に手をかける。
「っ!! こんな……木の扉が……とてつもなく重いです……!」
二枚の扉を同時に開こうとしたが、びくともしない。
それならと片方の扉の取手を両手で掴んで引く。やはり全く動かない。
「ううう……ま、まだまだ……!」
「カヤ様! もっと踏ん張るのです!」
薄い木の板を貼り合わせた簡素な造りの扉だが、見た目に反してとても重く頑強だ。
ミルルの応援を得たカヤが引いても扉はビクともしない。
「僕がやろう」
「え、でもきっとこれが二つ目の試練……」
キャズマが祠に触れると扉が消えた。
カヤが懸命に引いていたのはただの取手で、そこは扉ではなかったのだ。
言うなら壁に取手だけがついているみたいなもの。
どれだけ引こうと押そうと壁が開くわけがない。
「えええ!?」
「これも【使い手】の術だね」
「そんな……」
「こちらは裏側だな。本当の扉は反対側かな」
「キャズマ! 王家の試練をそんな簡単に突破しないでくださいよっ!」
キャズマと共に祠の反対側に回りながら不満を口にするカヤ。
何だこれ。王の試練って何なんだ。
王家の者じゃないと解けないとか、そういう仕様にするべきではないか。
反対側にはやはり扉があった。
今度は取手を軽く引いただけであっさりと開く。
「開いた……」
「第二の試練もクリアだ」
「やったのです!」
「え、いや、でもこれでいいのでしょうか?」
「無駄な時間を使わず済んでいるんだ。何も問題ないでしょ」
「私、なんだか納得いきませんっ!」
「全くじゃ」
「え?」
頭より上、少し高い所から声が聞こえた。
祠の上だ。
カヤが反射的に見上げると、そこには黒い翼を大きく広げた魔獣が立っていた。
「ぶっ、ぶ、ブラックパンサードラゴン!!」
ブラックパンサードラゴン。高い運動能力とパワーを持つ魔獣で黒豹龍とも呼ばれる。
優れた跳躍力と飛行能力があり、このような障害物のない草原で戦うのは非常に厄介な相手である。
謎の声は「試練は三つ」と言っていた。
隠された祠を見つけることが第一の試練。
偽物の扉を見破ることが第二の試練。
では第三の試練は、この魔獣と戦うこと!?
そんな……いきなり難易度が上がりすぎではないか!?
獰猛な肉食の魔獣を前にしてカヤは恐怖で身がすくむ。ここはキャズマに任せ……いや! この最後の試練は自分の力でクリアしてみせる!
「キャ、キャズマは手を出さないでくださいっ……!」
剣を抜いて構えるカヤは顔だけキャズマの方に向けて言った。
ヌエドラゴンも瞬殺するキャズマならブラックパンサードラゴンも敵ではないだろうが、それでは意味がない。
キャズマは極めて冷静……というよりも無反応だった。
今回は武器を構えてもいない。
「……ふふっ」
何だかんだ言ってキャズマも最後くらいは私に挑戦させてくれているのだ。
恐怖の中、カヤから笑みがこぼれた。
やるんだ……!
カヤは足を開き腰を落とすと柄を手を強く握った。
「……ふむ」
「え?」
ブラックパンサードラゴンは軽く頷く。
次の瞬間、その姿が煙のように消えてしまった。
「えぇぇ!?」
最後までお読み頂きありがとうございました!!
ブックマークや、広告下の『☆☆☆☆☆』を押して応援していただけると嬉しいです。
皆様の反応が励みになりますので、是非お願いいたします!!