3話「決闘とギルドカード」
決闘!あと、一瞬だけ過去の話!
「試合始め!!」
杖を構える前に距離をとる。
「あんなに大口叩いといてもう逃げ腰かしら!?こっちから行くわよ!〈イグニス〉!」
ノルエスの杖の先端に付いた赤い宝石が発光し〈フレイム〉よりも遥かに巨大な炎が目の前を通過した。
「危なっ…じゃこっちも〈カタラクタ〉」
杖を構えて唱えると目の前の炎を大量の水で一瞬で消し飛ばして消火した。
「じゃこれはどうかしら!〈インベル〉」
確か水の上級魔法だったか。これがインベルか。使いようによっては目くらましになるな
「凄いじゃん。〈グラシエス〉」
目の前に広がった大量の水を一瞬で凍らせた。
「そろそろおしまいにしようか。〈グラヴィタ」
「甘いわね!〈フレイム〉」
素晴らしい判断だ。俺は魔法を使う時一瞬隙を作るようにして戦闘していた。それに気づいて突いてくるのを待っていた。俺が今撃とうとしたのは重力魔法〈グラヴィタス〉だがそれをブラフにするのが本当の技。
「そっちこそ」
そう言って身体強化魔法で炎を避けて相手の懐に潜り込んで剣を首元に向けた。
「なっ…負けたわ。」
「勝負あり!」
周りがざわつき始めた。すぐに離れなければ人波に埋もれてしまう。というかこの後の生活のことを忘れていた。こんなことをしている場合ではなかった。家も泊まる場所すらもない。一体どうすればいいのやら…
「アンタそんなに強いのにまだ学ぶことがあるの?」
「言っただろう。上級魔法を学びに来たのさ。母さんが教えてくれなかったからね。」
「母さん母さんってあなたの両親ってそんなに凄いの?」
まずい。親の話にされてしまった。言うべきか…いやここは言わずにしておこう。もっと話がややこしくなるし避けて通ろう。
「ごめんそれは言えない。じゃ俺今夜泊まる場所探さないといけないから。じゃあね」
そう言って場を離れる。
学校からでて数時間、街を歩いているとある場所を見つけた。
「ここは…冒険者ギルド《竜翼》…?」
冒険者ギルド…ゲームとかでよく見るあれか。確か世界中を旅する冒険者がそこでクエストを受けて、あらゆる場所で手に入れた宝やモンスターの売買や納品をしたりする場所だったか。ここなら恐らくだが金は稼げるはずだ。
ドアを開けると屈強な大男や鎧をまとった好青年、露出が多い服を着た女性などがいた。
受付っぽいとこにいた人に声をかけることにした。
「あの、俺12なんだけど冒険者登録って出来るのかな」
「は、はい。出来ますけど…その服と鞄ってキミ学生だよね。学校には許可とったの?」
許可が必要だったか。それは盲点だった。というか許可さえ取ればいいのか。案外優しいものなんだな。あの学校は。
「すみません、許可とってないんで明日また来ますね。」
「はい。わかりました。」
ギルドから出ようとすると明らかに酔った様子の男に話しかけられた。
「おいいそこのガキィ…うぃっぅぅ…ガキのくせにギルドカード作るたァお前調子乗ってんなァ。あ?」
酒臭い。早く離れて欲しいな。一発首元に入れて気絶させるか。
「あれ?消え…た…」
首元を思い切りグーパンすると、ドスンと音を立てて倒れた。顎でも良かったが顎は死んでしまうので辞めておいた。
「この人片付けといてくれますか?じゃ俺はもう行きますね」
周りがざわつき始めたのでその場を後にする。今晩は『小鳥の羽休め』に行って空いてるか聞くか。
数十分歩いて到着した。
「すみません、部屋空いてますか…」
「おや、カリスじゃないか。合格は決定したのかい?」
「はい。お陰様で…」
「あんた2泊するんじゃなかったっけ」
そういえばそうだった。しかもまだ1泊目で金を無駄にするとこだった。しかし帰りにギルドに寄っておいて正解だった。金を稼ぐ手段を見つけることができた。
「すみません。忘れてました。」
「アッハッハ!根詰めてたみたいだね。お疲れ様。もう部屋に戻って寝たらいいよ。あ、風呂は右のドア入ってすぐだよ。体休めてきな。」
ヘルエスさんがいい人すぎる…とりあえずヘルエスさんの言葉に甘えて風呂に入ることにする。
「ありがとうございます!では使わせていただきますね。」
部屋に鞄を置いて着替えを用意して風呂へ向かった。中に入るといわゆる露天風呂と言われるところでとても広かった。
「おぉ…」
思わず声を出してしまった。明日は早いからとりあえず体を流して風呂に入って直ぐに出よう
「うしっ入るか。」
風呂に入るとさっきまではしなかったはずのゆずの香りが漂ってきた。
確かゆずの風呂は体内部に残った疲労を回復させる効果があるんだっけ。
正面を見ると体にいい入浴の仕方が記載されていた。特に目に入ったのは半身浴で10分間浸かることだった。確かに今入っている風呂は丁度胸の辺りまで湯が入っていた。記載されている場所のすぐ横に10分タイマーが設置されていた。どうやら本当にいいらしい。
「…でるか。」
10分たって体をもう一度洗って上がった。
風呂を上がって体を拭いていると、学校で溜まった疲れがいつ間にか消えていた。
「おぉ…すごいな…」
服を着て風呂場をでると、ある飲み物が目にとまった。
「?マンザナ酒…?確かりんごだったような…」
りんごの酒…初めて見た。この世界ではまだ12だし飲むのはまずいだろうか。ここは我慢して8年後に飲むとしよう。
「これでいいか」
隣に置いてあったソーダを買った。
金を払って飲みながら部屋に戻って今までとこれからをまとめた。
明日は学校に行ってギルドカード作成許可書を貰ってギルドカードを作成して金を稼ぐ。そしてその金で資材を集めて銃やその弾、小刀の材料を集めないといけないな…やることが多いと時間が早く進んでしまうから時間も気にせねば。そう考えているうちに寝てしまっていた。
「…学校行くか。」
◆
学校に着くとみんなから一斉に話しかけられた。
「お前あん時凄かったじゃん!!7属性全部使えるって本当だったんだな!!」
「お、おう…でもまだ中級魔法までしか使えないけどね」
「カリスくんだったかな?他にはどんなことができるの?」
「剣術も出来るし銃も扱えるよ。あとは戦闘には関係ないけど料理とかあとは音楽とかもできるかな」
「「「すげぇぇ!!」」」
料理は以前の仕事で使うことがあったから覚えた。フランス料理やイタリア料理、日本の料理も作ることが出来る。
音楽はピアノやバイオリン、ギターやフルートもできる。歌は得意ではないが音痴ではない(断言)
「はいはい!カリスくんって彼女いるの?」
盛っているのか。あ、でも学生はこんな話でいつも盛り上がるのか。ここは素直にいないと言っておこう。
「いないよ。作る気も今のところはないかな。告白とかされたりしたら付き合うけどね。」
「えっなんで作る気ないの?もしかして興味ない感じ?」
以前もそうだったが彼女は作る気は無い。付き合ってしまうと『一緒にいるのが当たり前』と思ってしまい、失った時の失望や絶望、その他諸々のマイナスの感情が仕事の邪魔をするからだ。あの時のように。
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『テリア!テリアッ!!』
『カリス…ごめんね…』
『なんで!どうしてキミが死ななきゃいけないんだ…』
『カリス…私もあなたのことが大好きだよ…ごめんね…ありがとう』
『なんで…あぁ…』
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「いや、将来の為にね。もちろん今の学生の時は付き合ってみたいし好きな人も作ってみたいよ。」
「もしかしてその将来の夢って結構危ない感じ?」
「ちょっとね」
この世界では裏では暗殺者、表は冒険者をしようと思っている。
暗殺は依頼ではなく個人で主に領主、財閥の長や国の王をターゲットにする。全員を殺す訳ではなく、例えば領主だったら領民を苦しめるようなやつだったり財閥だったら金の横領、無断の使用とか法に違反する行為をするものを主にする。ただ、それは依頼を受けて行うのではなく、冒険者をやっている途中にその領主などが問題を起こした時にのみ実行する。
「はいみんな〜もう授業だよ〜」
1時間目は数学だった。どんな内容なのかきになるが、その前にこの世界の計算の仕方がわからない。ちょっとだけ心配だ。
「じゃまず足し算と引き算の復習ね」
ん?まさかこのレベルか?
「13250+2450解ける人」
…?なんで誰も手を挙げないんだ?こんな簡単な問題なのに…とりあえず授業を進めるために答えておこう
「はいカリスくん!」
「15700です。」
「「「「おぉ〜」」」」
えぇ〜…これは少し違う方向の問題が発生したな。魔法学に関しては恐らく難しいだろうが他の一般の教科がこれとは少し危ない気がする…
「では次引き算ね。27815-18500解ける人」
これもか…何故なんだ。これはちょっとやばそうだな。教育概念を変更する必要があるな。とりあえず今日はこのまま授業を終わらせて、放課後になったらみんなに教えよう。
「はいではカリスくん!」
「9315です。」
40分後授業が終了した。
その後、国語 外国語 社会科の授業を終え、ノルエスの元へと向かった。
「な、なによ」
「1時間目の算数の授業なんだけどさ。あれレベル低いと思わないか?」
ストレートに聞いてみると目を少し細めて呆れたような声色でため息混じりに突っ込んできた。
「いやあれが普通じゃないの?それともアンタあたしバカにしてる?」
「俺あのレベルの問題は全部解けるんだけどさ、それをキミに教えたくてね」
一瞬会話の中で沈黙が生まれた。すると突然ノルエスが吹き出してバカにしてきた。
「アッハハハハハ!アンタ面白いこと言うのね。このクラスでもアタシに関わろうとするやつなんていないのに話しかけてきて一言目が勉強教えてやるって凄いわよ。」
とりあえずこれやっとけば数学全部出来るやつを作ってノルエスに渡した
「なにこれ。かけざん?わりざん?なにこれ」
「次に出てくる内容のものだ。受け取ってくれ。このままじゃ学園全体のIQが下がってしまう。君が変えてくれ。」
「あ、アンタが変えればいいじゃない。なんでアタシが。」
「俺はこれから金を稼がなきゃいけない。しかもこのクラスには仲のいい人がいない。君がこのクラス全体にこれに書かれた内容を伝えてそれを学園全体に伝えれば、頭が良くて魔法も優秀でなんでも出来る超人集団の完成だ。」
本当は何も考えていないがこのままでは自分の学力も下がってしまいかねないしこのままテストで100点を取り続けたらまた大変なことになる。俺ばかりが他人に教えていると俺に聞けばなんでも分かると相手が思ってしまうからだ。
そしてこちらは友達がいないのでキャラが強いノルエスを利用してクラス全体、学年全体、学校全体に広めていけばいいと考えた。
「とりあえず頼んだ。俺は担任に用があるから」
「あっちょっと!…もう!やるって言ってないのに!…はぁ…」
無理やり話を絶って職員室に向かって担任に話をつけた。
「仕送りはないのかな?」
「母さんと父さんには迷惑をかけたくないんです。学校とか身の回りの事は自分で管理しないと将来にも繋がらないので」
カルマス先生は驚いたような表情が一変してにこやかな表情に変わった。
「将来に関しても考えているとは凄いねぇ。はい。これ許可証ね。でも、学校が1番大事だからね。そこだけ気をつければいいよ。まぁ君は出来そうだけどね。」
「ありがとうございます。では失礼します。」
先生の元を離れて職員室を出る。
「彼、凄いですねぇ。まるで大人のような振る舞いですね。」
「将来が楽しみですね。どんな人になるのか楽しみです。」
◆
「よし。」
許可証にサインをしてギルドに持っていく。
学校を出て街を歩いていると肉の匂いがしてきた。
「らっしゃい坊や。テリスト牛の焼肉はどうだい!」
「1本ください」
「1本!?たくっ…おい!お前男だろ!男ならもっと持ってけ!ほれ!」
袋に2本も追加してくれた。
「金はでかくなって出世払いで払ってくれよ!」
いい人だ。この街の人達はどんな人もいい心を持っているな。関係を大事にせねば。
「よし。」
肉を食べながら歩いて数分、ギルドに着いた。中に入ると人は少なく、酒を飲むやさぐれた人が1人と男女が酒を飲んでいた。
「あ、昨日の」
「はい。これ持ってきました。お願いします。」
「はぁい。カリスくんね。私はアリス。よろしくね。」
軽く会釈をし、その後に書類を渡された。
内容は学生のギルドカード登録の原則についてだった。
1.Cランク以上のクエストは受けない。
1.大型モンスターに遭ったらすぐに本部に戻って報告。
1.クエストが失敗したら10〜15万メルスの賠償
などが書いてあった。
「これにサインして。サインしたらあそこの紫の帽子被った子に紙渡してくれたらギルドカード登録してくれるわ。」
サインをして紫の帽子の人の所へ向かった。
その人の横には母さんが魔力を測った時に使った石板が置いてあった。だが少し彫ってある型が違った。
「お願いします。」
「はぁい♡カリスくんね。お姉さん坊やのような子が大好きなの♡」
怖ぁい…以前からそうだがお姉さん系の女性は昔から苦手だ。以前はお姉さんに食べられそうになった時があってそこからお姉さんがトラウマになって苦手だった。
「あ、あの…」
「はいはい。ここに手当てて魔力を流してみてね。あら、可愛いお手手ね♡」
いますぐ逃げ出したい。帰りたい…泣きそうだ…
石板に魔力を流してみると赤く発光しだした。
「まぁ!あらあら…あなたとんでもない子だったのね…お姉さん負けちゃったかも…ちょっと待っててね。おじさん連れてくるから」
そう言って階段を上がっていって奥の部屋に行ってしまった。
しばらく待っているとちょび髭を生やしたガタイのいいおっさんがこちらに向かってきた。
「キミが例のカリスくんか。俺はギルド長のエンプリー・キングだ。確かに。いいオーラを纏っている。」
目を見るとちょっと睨まれた。煽られたみたいな感じだったので少し威嚇してみる。
「!フッ…フハハハハハ!この俺に威嚇とはな。いいぞ童!おい!ランク班!こいつをBランクにしてやれ。とんでもない大物だ。」
なんだかよく分からないが周辺の人が凄く驚いていたので恐らく前例がないのだろう。
人気者になるのを避けてきたがもう避けきれないらしい。
「童よ。名はなんという」
「カリス。カリス・ペルシズです。」
「ん?ペルシズ…?まさかお前エルスさんの息子さんか…?」
「よく知ってますね」
一瞬で静かになった。空気が重い
「フッ…フハハハハハ!!そうかそうか!童が!そうかそうか…話には聞いていたが…立派になったなぁ。よし。ギルドカードの作成と登録だったな。Bランクでよかったか?」
「はい。お願いします!」
どうやら知り合いらしい。あとで父さんに手紙で聞いてみよう
「よし。完成だ。俺公認の印に金枠にしておいた。よし。早速だが初クエストだ。まずはテリスト森林で魔物の討伐だ。ウィンドウルフの討伐に行ってきてくれ。」
「わかりました。では行ってきます。」
話が早かった。とりあえず鞄を預けて杖と剣を持ってギルドを出た。
初任務!初討伐!