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フォージ城塞学園(4)

 音響センサーの警告によれば、100メートル以内で軽度の社会的衝突(・・・・・)が起きているらしい。シンプルな言い方をすれば口喧嘩、ないしそれに類する行為だ。実に素晴らしい。喧嘩は経済性を下げるのだから、喧嘩をする奴らは両方とも悪だ。よってあたしには当事者双方を殴って喧嘩を終了させる義務がある。ファエバ!

 そんなわけで、ウキウキ気分で音響探知。建物の形状データとあわせて推定するに、だいたい11時方向の部屋のなかで反社会的な行為が発生していることがわかった。走れば8秒弱で到着する。ETA+00:00:08ってやつ。待ってろ反社ども。


 あたしは軽く周囲を探知して通路が無人なことを確認してから、全速力でダッシュ。全速力で走る強化決戦兵士と人間の歩行者が交通事故を起こすと、歩行者は最悪で死、良くても軽度の骨折は免れない。悪を討ちにいく以上、こっちがひき逃げ犯になっちゃならないんだよなあ。ファロファロ!

 予想に逆らわず、目標地点までは7.8秒で到着。急減速。間髪入れずに、閉じたままのドアを蹴破る。こういうのは初手でガツンとやるのが大事だ。


 そうして部屋に飛び込んだあたしは、不覚にも、0.5秒ほど動きを止めてしまった。


 部屋の真ん中には白い大きな丸テーブルがあって、テーブルを囲んで12人の女子生徒が座っていた。どいつもこいつも念入りにキラキラさせた制服を着ている。でもそんなことが理由で、あたしは一瞬のフリーズを起こしたわけじゃあない。

 テーブルの上には、シンディが四つん這いになっていた。犬か猫のように、ソーサーに注がれた茶をペチャペチャ舐めている。


 シンディは、声も出さずに、泣いていた。ファエバ! アザール! ファロファロ!


 いかに戦闘能力の低い〈聖女〉と言えど、こいつら(ただの人間)を相手の12対1で不覚を取るつもりはない。だが12人全員を殴り倒そうとすると、何人かを逃がす可能性が高い。それじゃあ作戦を完遂したとは言えない。殲滅せよ(キル・エム・オール)。戦争の犬の雄叫びが脳裏に木霊する。


 0.5秒の遅れを取り戻すべく、作戦遂行の方針を一瞬で定める。

 群れの頭を、刈る。それが一番手早い。

 12人のうち、リーダーは誰か? 答えは簡単、身なりが一番キラキラしてるやつ。ターゲット、ロックオン。


 あたしは戦闘速度で走り込んで、机に飛び乗り、ターゲットの目の前に立った。ターゲットを含めた12人のクソアマどもは、まだ状況が分かってないのか、いやらしい笑顔を顔に張り付かせている。この手のクソどもは、いつだってこうだ。

 あたしはまだ状況がわかっていないターゲットの顎をかすめるように、ブーツのつま先で蹴りを入れる。メディカルモニタがターゲットが脳震盪を起こしたことを告げる。糸が切れた操り人形みたいに、ターゲットはへにゃりと机に突っ伏そうとした。

 そんなことは、このあたしが許さない。あたしは蹴った勢いのままに机から滑り降りながら、ターゲットの奥襟を右手で掴む。カワイイ概念を意識した無駄にビラビラした服は、掴みどころしかない。右手を前に突き出しながら、部屋の隅にある謎の円柱に向かって数歩前進。ターゲットの背中を柱に叩きつける。


 はい、ここで重要なポイントその1の解説だ。人間は脆い。特に顔と頭は、極力ノータッチでいこう。さもないと「暴力を伴う私的制裁」がバレて、楽しい営倉生活が待ってるぞ☆ミ ファロファロ!


 柱で背中を強打したターゲットは、一瞬、息を詰まらせた。右手は離さないまま、すかさず左手でみぞおちに一発、肝臓に一発。ターゲットの顔がちょっと人様にはお見せできないような形相に歪む。アザール! ようやく、背後で悲鳴があがった。でも彼女たちは動けない。「ボスを見捨てて逃げた」らどうなるか、こいつらはよく知っているからだ。

 そしてあたしも、よーく知ってる。こういうクズどもは、軽く撫でた(・・・)程度じゃあ懲りないってことを。


 だからあたしは右手でターゲットの体を吊るしながら、背後に声をかける。


「シンディ! 立て! 茶のポットを持ってこい!」


 目の前で荒れ狂った暴力の嵐を前に呆然としていたシンディは、弾かれるようにして立ち上がったけれど、そこで立ちすくんだ。ファエバ! それじゃあ、ダメだ。それじゃあ、戦士にはなれない。だからあたしは、もう一度命令する。


「シンディ候補生! 早くしろ(シェネール)!」


 シンディが深呼吸する音が聞こえた。彼女はテーブルの上を歩いて大きなポットを手に取ると、迅速に、かつ安全に机から降りる。技術的には不完全とはいえ、戦士の魂が入った動きだ。音だけでもわかる。


「パティおね……いえ、パトリツィア隊長。ご命令のポットです」

「よろしい。次の命令を待て」


 シンディからポットを受け取ったあたしは、しつけ(・・・)の最終段階に入る。

 ようやく呼吸できるようになりはじめたターゲットの口にポットの注ぎ口を押し込むと、茶を流し込む。ターゲットは一瞬でパニックを起こし、必死で水攻めから逃れようとしたが、まるで無意味だ。茶が鼻の穴から吹き出し、口の端からこぼれ、ターゲットのギラギラした服を汚したけれど、まだまだポットは重い。


 はい、ここで重要なポイントその2の解説だ。人間は脆い。少量の液体でも溺死することがあるので、この制裁をする相手は強化決戦兵士に限定したほうがいい……って、あたしを指導(・・)した先輩が言ってた。ファロファロ! 強化決戦兵士でも溺死しそうになるんだよコレは! ファエバ! ファロファロ!


 ガボガボゴボゴボと下品な音を奏でる楽器になったターゲットを前に、残った11人は一層派手な悲鳴を上げた。そのうちの1人が「誰か! 誰か助けて! サファイア様が! サファイア様が殺される!」と叫ぶ。おっと。これはなかなか、忠誠心の高いヤツがいたものだ。いいだろう、あたしがご主人さまの代わりにご褒美をやろう。

 あたしは白目を剥いたターゲット――サファイア様――を床に投げ出すと、救援シグナルを発したクソアマの前に、ポットを片手に笑顔で歩み寄った。あと3歩で女に手が届くというところで、彼女は気絶して床に倒れる。ファエバ! つまんねえな! 部下の鍛え方が足りねえぞ、サファイア様? まあいい、一番忠誠心の高い下僕の心は折った。


 あたしはポットを机の上において、床に転がったままのサファイア様の隣に立つ。狙いすました蹴りを胴体に一発。サファイア様は大量に茶を吐き出すと、意識を取り戻した。


 はい、ここで重要なポイントその3の解説だ。人間は脆い。こうなった人間を蘇生させたいときは、プロに任せよう。こう見えてもあたしはプロだ。少なくともあたしに搭載されたメディカルモニタは、オンライン状態なら、医療のプロと同等の診断能力を持ってる。


 あたしはかがみ込むと、床でゼイゼイと息を切らすサファイア様の顔を覗き込んだ。真正面から、視線を合わせる。クソアマは即座に視線をそらした。はい、格付け終了。だが念には念をいれなくちゃなあ?


「よう、サファイア様。あんたは、あたしの妹ぶん(シンディ)に、手を出した。そうだな?

 まさかアレを、本人と合意の上での遊びだ、とかなんとか歌いはしねえよなあ? ああ!?」


 怯えきったサファイア様は、ガクガクと頷いて、それからブルブルと首を横に振った。意思表示としては不明瞭もいいところだが、意味することは明瞭だ。


「いいか、あたしは優しい! とてつもなく、優しい!

 だから今回は、一番あんたを苦しめない方法で、落とし前をつけさせてもらった。

 この意味がわかるな、サファイア様?」


 クソアマは何度も何度も頷く。サファイア様の下半身から微妙に刺激臭がし始めたのは、突っ込まないようにしてやろう。あたしは優しいからな!


 ともあれ、話はこれで終わりだ。さっさと部屋に戻って、トレーニングの時間にしよう。シンディにトレーニングパートナーをさせるのもいい。そのほうが効率もいいしな……ああ、いや、まだダメだ。もうひとつだけ、確認しておく必要がある。サファイア様に聞いても答えねえだろうから、シンディに聞くか。


「シンディ。あたしの質問に、正確に答えろ。

 さっきのお前みたいなことをされてるヤツは、他にもいるのか?」


 シンディは軽く息を呑むと、「います」と簡潔明瞭に答えた。ファロファロ!


「フォージ城塞学園の学生は、私の知る限りでも、4つの身分に別れています。

 一番上は、パティ様のように、生徒会に所属する学生。

 二番目は、サファイア様のような上級学生。

 三番目は、私のような下級学生。

 四番目の身分もあると言われていますが、私は会ったことがありません。

 この学園では、身分が上の相手に、身分が下の者は、逆らえません」


 やっぱりか。生徒会を頂点とした階級社会は、「フォージ城塞学園」関係の設定の中でもド定番だ。って、あたしって生徒会だったの? マジ!? だったら殴らなくてもクソアマに命令できたんじゃねえか! ファエバ! いや、そんなの関係なく殴ったとは思うけど。

 だが、これはちょいと面倒な状況だ。サファイアどもがシンディを虐めてたのは、「当然認められるべき行為」ってことなんだから。その理屈で言えばあたしがこのクソアマをぶん殴ったのも当然OKなんだけど、なぜかあたしの場合、「お前のはOKじゃねえよ」って怒られることが多い。なぜだ。ファエバ!


 まあ、いい。まもなく警察部員が駆けつけてくるはずだ。そいつらから逃げても良いことはひとつもない。だってあたしは無過失だからな! 状況を説明して、不逮捕特権みたいなヤツを使って部屋に帰ろう。フォージ城塞学園の生徒会だろ? それくらいの特権はきっとあるさ。


「パティ姉さま、無過失なら不逮捕特権の出番もないのでは?」

「うっせー黙れ」


 そんな感じでシンディとじゃれていると、ブーツの足音も高らかに10人くらいの重武装した人間たちが近づいてきた。んんん、うち1人は強化決戦兵士だな? この学園にあたしの同類がいたとはね……いや、この足音、このセンサーの反応は、間違いなく……


「サファイア様はご無事ですか!?」


 そう叫びながら一足早く飛び込んできた女は、案の定、あたしの顔見知りだった。ファロファロ!


「よう、ジジ。サファイア様はお元気だよ。ちょっと水泳しただけだ。ピンピンしてる」


 ポリカーボネイト製の盾を構えたジジは、派手にため息をつくと、防御姿勢を解いた。それから軽く、自分の胸元に手を添える。ジジはストレスを感じているとき、無意識にこの仕草をする。


「聞くべきことは山ほどありますが、まずは詰め所までご同行頂けますか、隊長?」

「おう、あたしもお前に聞くべきことが山ほどある。

 だがまずはひとつだけ、聞かせてもらおう。

 その詰め所は、広いのか? まだ今日の日課(トレーニング)が終わってねぇんだわ」


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