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フォージ城塞学園(3)

 つーかーれーたー!


 ファエバ! アゾール! ファロファロ!


 あーたーしーはー! つーかーれーたー! ファロファロ! ハシシュが! 食いてえ!


 いかんな。シンディのテンションが伝染してる。異常事態の謎が解けたわけでも、この異常事態が危険ではないという確証が得られたわけでもないってのに。でも疲れたのは事実だ。マジで。ファエバ! 精神的にガチで参った。ぐんにょり。明日の自分のためにも、この約9時間で何が起こったのかだけでも箇条書きでメモしておきたい。


0745:シンディが部屋に侵入、着替えさせられる。この段階で疲れ果てた。


0830:「学園」に登校。登校する過程で多くの学生たちとすれ違う。指揮官要諦に従い都度「おはよう」と大声で挨拶した(自分の中隊を指揮して思い知った。挨拶はマジで大事)。だがこの空間において女子生徒は同一状況下において「ごきげんよう」と比較的小声で発生するのが通例であるらしい。「おはよう」と大声を出すのは特定の男子生徒に限定されるとか。ファロファロ! 挨拶くらい好きにさせろ! ラスまで「おはよう」で通した。

※シンディが「お姉さまのご挨拶はこうでなくては」と言っていたのが気になる。彼女に限らず、この空間には「あたし」がこれまでもここに存在していたと認識している者が多い。というかそういう認識でないヤツに、まだ会ってない。


0900:講義の開始。今日は火曜日らしい。火曜の1コマめは詩文。ファロファロ! 講師はわけわからん詩を14分かけて読み上げて途中で号泣するし、教室にいた学生どもも泣き始めるしで、一瞬で精神的にグロッキーになった。プーキシン? プーシキン? 作者がそんな名前だということしか覚えていない。途中で意識が飛んだ。シンディとは学年が違うとかで教室が別なので、途中で何が起こったかを聞くこともできない。協力者が必要だ。


1000:1コマめは気がついたら終わっていて、休息時間になっていた。1コマが50分しかないんだが? これで何を学べる? 何を教える? ファエバ! 2コマめは数学だった。教室の面々は開始5分で67%が睡眠状態に陥った。講師は眠った生徒に対し適切な懲罰を行うべきだ。テーマは三角関数の基礎。ここは17歳向けの教室のはずだ。なぜ9歳で学ぶ内容を教えるのか? そんなことだから皆が退屈して寝るのでは?


1100:3コマめ……と思ったが「お茶の時間」になった。アザール! ファエバ! 50分ごとに10分もの休憩が挟まるのに、それでも休憩時間が足りないのか? 全員で食堂に移動し、茶と菓子が配布された。菓子はとてつもなく旨かった。だが周囲の視線とその後に配布された装備から推測するに、この菓子は手づかみで食うものではなかったようだ。


1200:4コマめ……にはならず、そのまま昼食の時間になった。は? 今まで食ってたよな? ファエバ! だが栄養補給の機会が多いことに文句はない。今度は【カトラリー】が出現するまで待った。【カトラリー】は装備品のチェックでもするのかと思うくらい種類が多かったが、タギング機能を最大限活用することで何をどういう順番で使うかは推定できた。【フィンガーボール】は意味不明だったから自動辞書を起動したら「飲料水ではない」と丁寧に書かれていた。いや普通は飲むだろこの水? ファロファロ!

※【鏡台】のときにも気になっていたが、この空間には金属製品がやけに多い。【カトラリー】もすべて金属製だった。常識的に考えてプラスチックだろ? 金属は鬼種に感知されやすいため、人間ですら忌避するものだが。


1400:まぁ聞いてほしい明日のあたしよ、昼飯の時間は2時間ある。菓子の時間から合算すると3時間だ。アザール! ともあれ明日は出てきたメシをもう少し時間をかけて食ったほうがいい。さもないと猛烈に暇を持て余すことになるし、自分の皿から食料を提供しようとする女子生徒や、追加補給しようとする【給仕】の相手をするのがしんどい。昼食と設定されたメシを全部食った段階で、1日の摂取上限カロリーはとうに越えている。ファロファロ! アザール!

※【肥満】という概念の実物を初めて見た。実在するんだな……この空間が「実在」するとして、だが。


1400:1400に正規の昼食時間が終わってから、1時間の休憩時間が始まった。ファエバ! 脳が理解を拒む感覚、マジヤバい。仕方ないから上着を脱いで筋トレをして過剰なカロリーを燃やす。上着は重いが防御能力は皆無だ。なんでこんなものを作ったのか。


1500:教室に戻って3コマめ。歴史学。あたしは死んだ。だが教室の面々の50%が戦死するまでは耐えた。勲章がほしい。ファロファロ!


 ……と、いう流れで現在時刻は1615。1600で本日の講義は終わりだそうだ。ここから先は課外活動があるらしく、学生が一斉に寮に帰るということにはなっていない。

 メモを読み返しながら一日を振り返るに、あたしは今日一日だけでも相当回数の規則違反をやらかしていると推測できる。周囲の学生が「そんなことをするのは非常識だ」という目であたしを見た回数をカウントすれば、2桁にはなるだろう。

 にもかかわらずあたしは一度も殴られていないので、この「学園」の規律は極めて緩い。つまり、これから始まる課外活動に参加しなくても、懲罰を受ける可能性は低い。ということで、あたしは寮の部屋に帰る! 帰るったら帰る! ファエバ! 帰ったら部屋で日課(トレーニング)をこなす!


 決心を固めたあたしはえいやと気合を入れて立ち上がると、自室を目指すことにした。さすがに〈聖女〉たる者、一度歩いた道を忘れるだの、道に迷うだのはあり得ない。こちとら歩くAWACSだぞ舐めんなコラ。

 ま、この空間の正体を見抜けない程度の、ポンコツだけど。


 部屋への道をゆっくりと歩きながら、あたしは考えを巡らせる。


 現状は、異常事態オブ異常事態と評価するしかない。あらゆることが、おかしい。通信(コミュニケーション)系は全部オフライン表示なのに、オンラインが前提となるセンサ類はオンラインを主張してるとか、常識的に言ってあり得ない。故障? ファロファロ! そんな都合の良い故障があってたまるか!


 でもあたしが一番引っかかってるのは、この学園の名前だ。タギング機能によれば、ここは【フォージ城塞学園】ということになってる。学生や講師たちが何回か「この栄誉あるフォージ城塞学園」みたいな言い回しをしたから、傍証もまぁ十分だろう。タギング機能のバグってことは、まずない。

 これの何が問題かって? ファエバ! なんもかんもが問題だ。

 長い話を短くすれば、「フォージ城塞学園」なんてものは現実世界には存在しない。絶対に、だ。じゃあ物語世界には存在するのかと聞かれれば、これも微妙と言わざるを得ない。なぜなら「フォージ城塞学園」は口承による共同幻想で、強化決戦兵士たちにとっての数少ない娯楽だからだ。


 強化決戦兵士を育成する側にとってみると、KPI(重要業績評価指標)は「経済性」の一点に帰着する。完全な総力戦となっている鬼種との戦争において、経済性以外に適切な評価基準なんてあり得ない。つまり強化決戦兵士に対する福利厚生施策は「必要最低限」が積極的に目指される。

 だから音声だけで供給される娯楽は、あたしらにとっては最も馴染み深いものだ。おんぼろラジオの前に40人くらいのガキが鈴なりになるってのは、幼児体験として染み付いてる。


 「フォージ城塞学園」はそんなおはなし(・・・・)の中でもぶっちぎりに大人気の設定(・・)で、よくわからん数の学生が暮らす、人間専用の超巨大学園っていうフィクションは、とんでもない数のフォーク(複製)を産んだ。

 具体的に言えば、なんの因果か学園に紛れ込んでしまった強化決戦兵士の主人公が軟弱な人間を救うとか、普段は冴えない学生が夜になると強化決戦兵士の力を駆使して学園の闇に巣食う悪を討つとか、そんなやつだ。

 クライマックスの定番は、主人公が強化決戦兵士ってことがバレそうになったりバレたりするんだけど、これまで助けてきた無力な人間の学生たちが連帯して立ち上がって、主人公を庇ってくれるってパターン。で、庇ってもらった主人公は諸悪の根源を圧倒的な暴力で駆逐する。悔しいけどスカッとするんだよな、これが。ファエバ!


 ただ、「フォージ城塞学園」がバカウケしたのは、あたしら好みのおはなしが多かったからってだけじゃあない。基本的には脳筋アホなあたしらの残念な想像力でも飲み込める、適度に素っ頓狂な設定の数々もヒットの要因だ。

 なかでも「学生による完全な自治」っていう設定は妙な方向に膨れ上がって、あたしがガキの頃には「学園政治を支配する生徒会」を頂点とした階級社会設定を筆頭に、「狙撃部」だの「警察部」だの、果ては「陸軍部」だの「海軍部」だのが爆誕していた。課外活動で戦争すんのかよ。ファロファロ!

 当然だけどこの手の設定はフォーク先で泡沫みたいに作られては消える。だから「フォージ城塞学園」の正式な設定は存在しない。一連のおはなしを体系的に記録しようなんてプロジェクトもなかった。コストカットが目的の娯楽を、カネをかけて収集調査するとか馬鹿げてる。ファエバ!


 だから。


 今みたいに「ちゃんと存在が知覚できるどころか、〈聖女〉の各種センサーさえもがこの空間を【フォージ城塞学園】だと認識する」なんてのは、「ファロファロ!」とか唱えてお茶を濁したくなるレベルの超絶異常事態だ。

 相互に矛盾した大量の荒唐無稽な設定。広大な空間と膨大な数の登場人物。無数に語られるエピソード群。しかし参照すべき統合的なDB(データベース)は存在しない。科学であれ魔術であれ、この状態から、いまあたしが体験してる「現実」を構築するとなれば、アホみたいな手間とカネがかかる。

 経済性がすべての強化決戦兵士に、誰がそんな金満サービスを提供する? しかもあたしはもう死んだってのに? ファロファロ!


 まあ……まあ、いい。考えるのはやめだ。こちとら歩くAWACSだぞ。高度かつ統合的な情報分析までは期待すんな。

 そんなことより、どうもさっきから気になることがひとつ増えた。あたしに搭載された各種センサー類が、「トラブルが近くで起きてるぞ」と囁いてる。ファエバ! 部屋に戻ってトレーニングに汗を流す前に、軽く腹ごなしといこう。


 さあて、脳みその時間は終了! 筋肉の時間だ!


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