家庭科室の決闘(3)
さて、大森林に住むルー=ガルーとお話し合いの機会をせがまれるという超展開が突如発生したわけだが、常識的に言えば、このお話し合いの席に出向けば一瞬で死ぬことになる。狼憑きが言う「話がしたい」は、「俺と決闘しろ」だからな。瞬きする間もなく元強化決戦兵士のミンチが完成すること間違いなしだ。
だからあたしの脳みそは「学園のためにルー=ガルーの招待を受けろ」とかファエバなことを抜かすルデリットに対して反旗を翻せって叫んでるし、たぶんそれは正しい選択肢だ。
でもあたしは強化決戦兵士だ。理性の雄叫びになんぞには屈しない。
「いいぜ、ルデリット。ルー=ガルーに会って、お話しと洒落込もうじゃねえか」
我ながら阿呆だなと思いつつも、あたしはルデリットの提案に乗った。ゴールドバーグは顔を赤くしたり青くしたりしながら何かを言おうとして、過呼吸気味になってる。
「安心しろ、ゴールドバーグ副会長閣下! ルー=ガルーのご提案は、本当に言葉通り、話がしたいってだけで間違いない。
もちろん相手は狼憑きだから、お話し合いの途中で爪なりなんなりが飛び出す可能性はゼロじゃないが、あるとしたらそれは事故だ。こっちが慎重に対処すれば、そもそも暴力沙汰にはならねえよ」
自信満々のあたしの言葉を聞いて、ゴールドバーグは逆に冷静さを取り戻したようだった。
「信じがたい! 随分と自信があるようだが、いったいどんな根拠があると?」
根拠ね。ファエバ! 根拠の99%はあたしのカンだ。
だが1%くらいは、理路整然とした根拠もある。
「簡単だよ。あたしとジジは、旧校舎まで落ち延びてきた狼憑きをぶっ殺した後、ほぼまるまる一週間、旧校舎で野営してる。
もしルー=ガルーがあたしらと決闘したいんだったら、その間に仕掛けてきたさ。そしてあたしらは死んでた。決闘したいってなら、わざわざ生徒会の秘匿回線をハックするような手間をかけるまでもないんだよ。
つまり奴さんは正面から招待状を出すという礼儀は守りつつ、『もし断ったら学園はどうなるかな? 理性的な判断をしてくれたまえ』っていう政治も仕掛けてきてるってこと。ここまでされちゃ、ご招待を受けるしかねえよ」
ゴールドバーグは反論しようとして、モゴモゴと口ごもった。実際、最強の狼憑きの称号を名乗るだけのことはあるんだよな。生徒会の秘匿回線をハックしたのも、メッセージの一部だ。「こっちは野生の獣などではなく、諸君らの秘匿回線を自在に傍受し発信できる程度の知性と技術を備えている」と言いたいわけ。
「それにしても、ルー=ガルーはどうやって生徒会の専用回線を割ったのでしょう? 彼らが特殊な電子戦装備を持っているとは思えません。ボクが全力を投じたとしても、その手の装備なしに生徒会の秘匿回線を割るなんて無理ですよ」
「推測になっちまうが、まず間違いなく精霊魔術だろう。精霊魔術師は魔女術師と仲が良い。旧校舎での研究にも、もしかしたら精霊魔術師が関わっていたのかもしれない。
精霊魔術側から見ると、手紙も、モールス信号も、電子信号も、全部同じ意味を持つ。情報媒体は現実世界にあっても、情報そのものはアストラル空間を伝播するってのが精霊魔術の考え方だからな。
精霊魔術を使ってアストラル空間にダイブして、情報精霊を暴力で制圧すれば『秘匿』なんてそこまでだ。科学レイヤーでどんなに強固なセキュリティをかけたところで無駄だよ」
「なるほど。では古式自然崇拝部にセキュリティ強化の協力を依頼しておきます」
「セキュリティ強化は必要だが、素人精霊魔術師どもに無理させすぎんなよ?
狼憑きは半分精霊みたいなもんだ。ルー=ガルーともなれば、精霊としての自分を完璧に使いこなせるだろう。並の電子防御精霊じゃあ太刀打ちできないし、精霊魔術師と電子防御精霊の紐帯契約が半端だと、現実世界がなかなかグロいことになるぞ?」
「肝に銘じます。さすがパティさんは魔術領域にも詳しいですね」
「まぁな。生徒会の魔術担当は誰だ?」
「アンドレア君です。パティさんはハカセとお呼びでしたっけ? 3日後の朝には出張から戻ってきます」
なるほど。ハカセなら各種魔術の基本はひととおり抑えているし、本人は神聖魔術の司祭資格を持ってる。どうしようもなく軽薄で浮気性なクソ野郎だが、一応は親衛司祭だからな!
しかし、そうか。予定より早めにハカセが戻ってくるってなら、作戦変更だな。
「ルデリット。ルー=ガルーにメッセージは送れるか? 4日後の夕刻にそっちに行くと伝えてほしい」
「ルー=ガルーがハックしたチャンネルはそのまま保持していますから、そこに流せば本人まで届くかと。アンドレア君を連れていくつもりですか?」
「あたしやジジじゃあ、ついカッとなってこっちからルー=ガルーに決闘を申し込みかねん。交渉の窓口をハカセにするほうが、どう考えたって賢い」
「ジジさんはともかく、パティさんはやりかねませんね……わかりました」
と、非常に効率よく打ち合わせが続いていたところにゴールドバーグ副会長が泡を食ったような顔でくちばしを突っ込んできた。
「待ち給えカミンスカ委員! いま君は『ルー=ガルーに自分から決闘を申し込む』可能性を示唆しなかったか!?
ルデリット会長、やはりカミンスカ委員をこの任務に派遣すべきではありません!」
ファロファロ! ケツの穴が小さい男だな。いちいち揚げ足とってくるんじゃねえよ。
あ、でもこれはチャンスだな。仕掛けてみるか。
「ゴールドバーグ副会長に心配させてしまったようで恐縮だ!
ならば提案があるんだが、この任務にゴールドバーグ副会長も同行するというのはどうだろう? あたしが暴走しそうになったときも、副会長なら上手く手綱をとってくれるんじゃないか?」
ゴールドバーグ副会長閣下はたっぷり10秒ほど沈黙してから、「いいだろう」と口にした。ファエバ! マジで!? コイツってこんなに根性あるの!?
「カミンスカ委員は、あくまでシルバーバレット作戦の一部を担っただけだ。作戦全体の責任者が同行しないというのは、筋が通るまい。
だがルデリット会長が同行するわけにはいかない。僕が適任だろう」
あっちゃあ……そこは盲点だったわ。でもこればっかりは副会長閣下の主張が全面的に正しい。しくじった。なあルデリット、ヤブヘビやらかしたのは謝るから、なんかこういい感じにコイツの参加を辞退させられねえ?
「なるほど。ではゴールドバーグ副会長の同行を許可します。
パティさん。文民がチームに混ざることを、重々意識して行動するよう、強く期待します。具体的にはゴールドバーグ副会長を五体満足な状態で帰還させることも、任務の一部とします」
ファエバ! アザール! ファロファロ! 完全にセルフ墓穴じゃねえか!
「それにパティさんは一週間後、エメラルド生徒とのお茶会があるのでしょう?
でしたら安全・迅速・確実にルー=ガルーとの『お話し合い』をなんかこういい感じにまとめて、ご帰還ください。
では、この非公式会議は以上とします。パティさん、今回の作戦では比較的潤沢に予算が使えますので、必要な資材のリストを明日0700までにご提出ください」
ファエバ! アザール! ファロファロ!




