パトリツィア・カミンスカ、最後の戦い(2)
人類がこんなクソったれな戦争をするようになるまでには、わりといろいろあった……らしい。詳しくは知らん。
あたしら強化決戦兵士は法的に言うと人間ではなく、歴史だの文学だのは人間の学習プログラムにしか採用されていない。どんなに長生きしたとしても25歳くらいが生物学的な寿命のあたしら(なお社会的な平均寿命は17歳から19歳の間くらいで、平均寿命で死ぬヤツの死因はほぼ全員戦死)が歴史とか学んだところで時間の無駄ってのは、マジでそうですね以外になんも言えん。アゾール!
ともかく、あたしらが戦ってる相手は鬼種と呼ばれてる。ちなみにデーモンはただのクソミームで「De.M.On」って綴るのが正しい、つまり本当はもっと長ったらしい正式名称があるらしいんだけど、マスゴミを筆頭に誰もがデーモンとしか呼ばないからデーモンでいいんじゃないだろうか? ちなみに鬼種の一般的な外見は赤いスライム状の軟体なので、鬼とか悪魔とかいう言葉のイメージからは割と遠いのだけど、マスゴミは科学が苦手だから仕方ない。ファロファロ!
この鬼種だが、どうやら宇宙から来た謎の生命体らしい。学者の間では生命体なのかどうかの議論がまだ終わってないらしいけど、生きてるってことにしないと殺せないので、生きているものとする。動点Pみたいなやつだ。
で、宇宙からの侵略って言い方をするといかにもアレなんだけど、実際には侵略ってより「餌場に集まってきた」のが正解。人類はあるとき夢の超エネルギーであるイーサー(これも正式名称は違うんだけどマスゴミが以下略)を発見し、宇宙へと乗り出していったんだけど、宇宙にはイーサーが大の好物っていう奴らがいた。鬼種だ。かくしてイーサーロケットの航路を辿って宇宙から地球へとやってきた鬼種どもが、地上で勝手気ままに繁殖しはじめたってのがこの大戦争のスタート地点。イーサー発電所は窒素からイーサーを生成する装置と一体化しているから、鬼種にとってみれば無限に餌が供給される楽園なのだ。アゾール!
遊星からの新生物Xの存在が確認されてからっていうもの、人類のどんな都市にもあるイーサー発電所を中心に鬼種は繁殖し、連中はやがて人類と同じような振る舞いをしはじめた。つまり、自分の生存圏を拡大するためなら、他の生物を殺すようになった。
それまではファーストコンタクト祭りでおっかなびっくり対応だった人類も、鬼種が人を殺すとなると、もう「封鎖」なんかでは論外ってことになる。世界のあちこちで鬼種と人間の戦いが始まり、思い余って超大昔に完全廃絶されたはずの核兵器まで使う国もあったらしい。ファエバ!
幸いにも核攻撃は鬼種にも有効だったんだけど、汚い花火をボンボコ飛ばして優位を取れてた時期は短かった。鬼種は生存競争に急激に適応して、食ったイーサーのエネルギーをレーザービームみたいに照射して弾道弾を撃ち落としたり、逆に大質量の物体を飛ばしてきたり、果ては動物みたいな姿を模して直接襲いかかってきたりするようになっていった。人類は身体能力に優れた生き物ってわけじゃないんだから、羆みたいなのに襲いかかって来られるだけでも十分にヤバい。
それに加えて、イーサー発電に依存しまくっていた人類は、イーサー発電が禁じ手になった途端、工業生産力がガタ落ちした。当時の人類にしてみれば「いまさら発電用に石油だの石炭だのを掘ることになるとは」だったわけ。結果、それまで当然のように使ってたいろんな素材がなんもかんも一気にレア素材化して、この段階で人類同士の殺し合いも結構ガチなやつが起こったし、非公式なやつなら今でもたくさん起きてる。ファエバ!
ここまで追い込まれたにもかかわらず、人類は巻き返しに成功し始めた。理由は簡単で、人類はこの窮地に慣れたからだ。つまり、何をどう使えば効率的で、何は迷信として片付けられず、どんな理念を無視して良いかを学んだ。強化決戦兵士とか戦烏とか〈魔女〉とかは、その結晶というわけ。アゾール! 鬼種の大出力対空レーザー砲は金属に対しては(それが少量であっても)高い照準精度を誇るけれど、それ以外に対してはなぜか絞りが甘いってのも、この人海戦術が成果を上げる理由になってる。
とはいえ、鬼種は馬鹿じゃあないし、人類も馬鹿じゃない。人類の首脳部は、クローン兵士による人海戦術も近いうちに対策されると踏んでる。人類は、大陸間弾道弾が大気圏に再突入した瞬間に迎撃されたショックを、百年近く経った今でも忘れていない。
だからこそ、いまやってるファエバな人海戦術が有効なうちに、鬼種にとって生命線となるイーサー発電所を一基でも多く破壊するぞ! ってのが現状というわけ。自転車操業っぽいやり方だけど今のところこれは上手く行っていて、今回のオーバーロード作戦の目標となる超大型イーサー発電所を破壊できれば、あとは人類が爪に火をともすようにして再生産した核兵器による飽和攻撃(なお花火の輸送は戦烏に乗ったあたしらの同胞がやる予定)ですべてのイーサー発電所を破壊できる見込みだとか。そんなに上手くいくのかね? いってくれなきゃ困るんだけどさ。
さて、ジジを先頭にして機外に飛び出したあたしらは、既に発電所に陣取った大型鬼種からのエネルギー照射を受けていた。具体的に言うと、外気温は摂氏70度前後。このまま照準が収束しなくても遠からずあたしらは死ぬし、収束したら芯まで黒焦げのローストチキン以上のブツが完成する。
だがあたしらにとってみると、照準が収束してくれたほうがありがたい。照準が収束したせいで、ジジがかざした盾がジリジリと溶け始めている。ジジ周辺の温度は急激に上昇しているが、それ以外の空間の温度は下がりつつある。レーザー砲を撃ってる鬼種の意識は、完全にジジに向いてるってことだ。
ジジに攻撃が集中しているのを確認したあたしたちは、ジジも含めて、全速で前進を続ける。ジジの背後にはハカセがぴったりと追随し、あたしたちはジジたちから距離をとって走る。
最初の500メートルライン。これが越えられなければ、このおはなしはサドンデスで終了だ。
ジジの盾が赤熱し、燃え始めた。耐熱塗料を何重にも塗った特殊ポリカーボネイト製の盾が一枚、溶け落ちる。残り200メートル。ジジはすかさず二枚目を正面にかざすが、これも時間の問題だ。ジジの周囲5メートルの気温は90度を越えている。ジジも、ハカセも、意識は飛んでいると思って間違いない。残り100メートル。積み重ねてきた訓練と、戦士としての誇り、そして強化に強化を重ねられた身体が、二人を支えている。たとえ意識が途切れても闘争本能が、闘争本能が折れても脊髄に書き込まれたプログラムが、二人を前進させる。残り10メートル。ジジの二枚目の盾が、溶け落ちる寸前だ。皮膚は焼け焦げ、髪も燃えている。
でも、彼らはたどり着いた。
「偉大なるディモクラティア神も照覧あれ、我は神の下僕にして、美しの〈聖女〉パトリツィアを称える者なり!」
ハカセの――アンドレア司祭の絶叫が戦場に響く。アゾール! 祈るなら、もっとマシなことを言え!
そしてそのとき、ほぼ同時に3つのことが起こった。




