廃墟テニス部(2)
「話は理解した。だが何点か、あんたの口から説明してほしいことがある」
あたしは脚を組み直すと、資料の上に肘をついた。
「まずは、そもそも論だ。動物の殺処分程度のことで、なんであたしらを呼び出した?
警察部は機銃が乗った装甲車を持ってる。陸軍部の装備はもっと良いだろうし、狙撃部はこの手の仕事にうってつけだ。もちろん、最強なのはあたしらだがな」
ルデリットは「当然の疑問ですよね」と頷くと、小さくため息をついた。それから手元にあった操作卓に、軽く手をかざす。途端に外部環境モニタが「強力な通信妨害波を検知」と警報を発した。おいおい、そこまでセンシティブなネタなのかよ!?
「フォージ城塞学園の旧校舎は本来、ある特殊な研究と実験を進めるために作られた、研究所でした。研究施設が先に作られ、後に附属の学院までもが設立されるに至ったという流れです。
この研究所で行われていたのは、強化決戦兵士のプロトタイプ作成の研究です。旧校舎は強化決戦兵士の揺り籠だったと言っても、それほど間違いではありません」
ファエバ! そんな設定、初めて聞いたぞ!?
思わず動揺するあたしを尻目に、ルデリットは滔々と説明を続けた。
「もっともこの歴史的事実は、現代では隠蔽されています。なぜなら旧校舎では、倫理規定と保安規定に著しく反した、呪術医療実験が繰り返されていたからです。
旧校舎の研究者たちは、呪術医療と魔女術を組み合わせ、そこに最先端の再生医療をミックスさせることで、後天的な【狼憑き】を安定して量産することに成功していたんです」
人工的な狼憑きを量産! そりゃ凄まじい話だ。あたしは一度だけ作戦中に天然ものの狼憑きを見たことがあるが、あたしらの目から見ても「すげぇ!」の一言に尽きた。戦闘能力としてはティエラとカツシローを足して足しっぱなしにした感じだったかな。まあ、その作戦中にそいつは死んだんだけど。
アザール! いまはそんな思い出なんざ、どうでもいい。話の雲行きがヤバくなってきやがった。あたしは恐る恐る、あまりにも自明なことを聞く。
「その前置きから考えるに、この話のオチは『その後いろいろあって研究所は廃墟になったが、フォージ山麓に広がる深い森の中には今も人造狼憑きが徘徊していて、ときどき旧校舎にまで降りてくる』にしかならねえと思うんだが……?」
ルデリットは、にっこりと笑った。
「ご名答です。記録によれば5年に一度くらいの頻度で、狼憑きと思われる敵性生物が旧校舎に出没します。
おそらく彼らはフォージ山周辺の生態系における頂点であり、それゆえにゆっくりとその数を増やし、やがて最弱の個体が人里に押し出されるものと思われます」
いやいや待ってくれ、自立した知性を持つ生体兵器を開発する場合、生殖能力を与えてはならないというのがナントカ条約で決まっていたはず……ああ、だからルデリットは「倫理規定と保安規定に著しく反した」と言ったわけか。ファエバ! なんだよこの無駄にリアリティのある設定は!
「というわけで標的はほぼ疑いなく狼憑きですが、残念ながら確定ではありません。ただボクとしては狼憑きであってほしいと、強く願っています。森の中で突然変異を遂げた異常個体などではなく。
そして標的が最低でも狼憑きであると予測できる以上、対処にはプロが必要となります。これが、第9中隊を招集した理由のすべてです」
なるほどねえ。だがそうなると、ルデリットにはもうちょい囀ってもらう必要がある。
「敵の予測は理解した。あたしらが出る必要があるというのも納得だ。
だったら教えろ。その人造狼憑きの弱点は何だ?」
5年に一度のペースで旧校舎にまで落ちてくるグズ狼憑きが出るのなら、この学園だって5年に一度のペースでそいつを狩ってきたはずだ。じゃなきゃ旧校舎をタイトルに冠したアホ集団が複数成立するなんてあり得ない。生徒たちにとって、旧校舎はあくまで人類の領地であるのが普通だってことだ。
つまり。人造狼憑きには何か決定的な弱点があって、学園側はそれを突くことで対処してきた。正面決戦では学園の素人たちには勝ち目がない以上、そうとしか考えられない。
「無論、彼らには大きな弱点があります。
彼らは強化決戦兵士のプロトタイプでもあります。ですから彼らの体内には、強化決戦兵士同様、超小型生体イーサー炉があります。炉のタイプは古く、H08b型であることが確認されています」
ちらりと、ルデリットの顔に人殺しの表情が混じった。ファエバ! なるほど、だったら安定して奴らを殺せる方法がある。だがそれは安定してるだけで、安全な方法ではない。あたしらなら安全な方法で殺れるが、狼憑き相手に〈盾騎士〉と〈聖女〉のツーマンセルでは、さすがに安定とは言えない。
やれやれ。あたしはちらりとジジに視線を送る。ジジは小さく頷いた。あたしは肩をすくめる。
「いいだろう。どんなに長くても一週間以内に、そのグズ狼憑きを狩る。だから今日から一週間、旧校舎を封鎖してくれ。いま現地にいる生徒の安全までは保証できんが、減らせる犠牲者は減らした方がいい」
ルデリットはにこやかに頷くと、「封鎖は手配済みです」と告げた。手回しの良いことで。ともあれ、話し合いの時間は終わりだ。急いで資料に目を通して、作戦を練らなくちゃならない。
だから、あたしは立ち上がると、笑顔のルデリットに向かって最後の質問をした。
「これで最後の質問だ、ルデリット。
この偉大なるフォージ城塞学園の生徒の中に、強化決戦兵士が混じっている可能性はあるか?」
ルデリットは通信妨害装置をオフにすると、微塵も笑顔を揺らすことなく、こう答えた。
「可能性の話をするなら、ゼロではないでしょう。この学園の学生規則によれば『本学の生徒は人間に限る』となっていますが、実際には生徒の正確な総数すら誰も把握できていないのですから。
ですが、生徒会のメンバーに強化決戦兵士が紛れているなんてことは、あり得ません。
ご想像頂けるかと思いますが、ボクには敵も多い。栄光ある生徒会に、学生規則に反する生徒が混じっているとなれば、ボクは一発で失脚するでしょうね」




