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廃墟テニス部(1)

 朝イチでサファイア様との軽いメンツバトルを終わらせたあたしたちだったが、不幸にもその日の1コマめは歴史学だった。だが今日のあたしにはシンディという強力なバックアップがいる……と思ったんだけど講義開始5分でシンディは撃沈した。ファエバ! ウッソだろお前!? あの「文学とか歴史学には強い」宣言は、「5分くらいなら耐えられます」って意味だったのか!? つうかこれで「には」ってことは、ダメな学科はどんだけダメなんだ!?

 驚くほど役に立たなかった援軍(だが援軍なんていつだってそんなもんだ、だろう?)が気持ちよさそうに眠るのを見ていたあたしも、気がつくと意識が飛んでいた。ファロファロ!


 まあ……まあ、いい。いいってことにする。


 講義が終わった瞬間になぜかスッキリと目覚めたあたしは、2コマめが音楽と聞いてさらなる絶望感を味わいつつ、シンディのケツを椅子ごと蹴飛ばして起こす。シンディは「ふぎゅ!?」とかいう不思議な鳴き声をあげて目を覚ましたが、それと同時に校内にアナウンスが流れた。


「生徒会上級執行委員のパトリツィア・カミンスカ様。

 緊急の要件がございますので、生徒会室までお越しください」


 いいね。緊急の要件。行進曲をいくつか歌えるのがせいぜいなあたしにとって、音楽の時間はどう考えたって拷問の時間にしかなりようがない。それよりはルデリットの御用聞きでもしたほうがマシってもんだ。


 そんなわけでシンディを引き連れて(シンディも露骨に嬉しそうなのが泣ける)生徒会室に向かったあたしだったが、生徒会室ってやつはこれまたキンキンキラキラした部屋で、目がチカチカする。ざっと10人くらいの学生たちがなにやら書類と向き合ってたが、そのうちの一人が立ち上がるとあたしたちを出迎え、「奥の部屋」に案内してくれた。生徒会役員はそこにいるらしい。

 「奥の部屋」に入ってみると、予想に反してそこはえらく殺風景だった。学園の地図とおぼしき絵が壁にかかっている以外、これといった装飾はない。机も椅子も実用一点張りだ。もっとも折りたたみの会議机にパイプ椅子なんてことはなく、見た目に反してきっとすんげえ高級品なんだろうなって感じ。


 部屋にはすでに先客がいた。ルデリットと、ジジだ。

 ルデリットは当然として、ジジも呼び出されたか。こりゃ荒事になるな。


「よく来てくれました! 適当に座ってください。

 予想はついているかと思いますが、おそらく面倒なトラブルが起きました」


 あたしたちがそこらにあった椅子に座ると(シンディはキョドってたが、あたしが命令して座らせた)、ルデリットがあたしの前に結構な厚みのある資料を置いた。中身を読めばいいんだろうが、経験上、こういうのは作戦の責任者から直接説明を受けたほうがいい。あたしらの仕事は、書類に残せないことって多いからな。ファエバ!


「今回のミッションは、表向きは行方不明者の捜索ということになります。

 3日前から、あるサークルに所属する男子学生6名と連絡がとれなくなりました」


 サークル? と思ったけど、あたしの頭上にクエスチョンマークが飛んだのを察したシンディが小声で「趣味を同じくする非公式な集団ですね」とフォローしてくれたので話を先に進めてもらうことにする。こういうところは優秀なんだよなコイツ。


「この学園の生徒のことですから、3日連絡が取れない程度であればサボりその他の可能性も完全に消しきれはしないのですが……問題は彼らが所属するサークルが廃墟テニス部だということです」


 廃墟テニス部? と思ったけど、今度はシンディからのフォローがない。ちらりとシンディの顔色を伺うと、頭の上にクエスチョンマークがクルクルしている。ここは辞書を起動させ……る、までもないな。直接聞こう。


「待った、廃墟テニス部って何だ?」


 ルデリットは苦笑すると、即座に解説してくれた。


「この学園には、今ではもう使われていない旧校舎があります。現校舎の外れから旧校舎までは50キロ弱あり、最低限のメンテナンスはなされていますが、事実上の廃墟です。

 その旧校舎の探検をするテニス・サークルが、今回行方不明者を出した『廃墟テニス部』です」


 ファエバ! 説明されたけどやっぱりわからねえ!

 どこから何を聞けばいいのか悩み顔のあたしを見るに見かねたのか、ジジが説明を引き取った。え、お前ってこういうのに詳しいの?


「これは一種の暗号のようなものです。

 テニス・サークルが意味するのは、運動の一種であるテニスを嗜む同好会であるということではなく、主に若い学生たちが交流を持つための緩い集まりだ、ということです。

 つまり廃墟テニス部とは、廃墟と化した旧校舎に男女が集まり、非日常的な空間において突発的な交際が発生する、ないし進展することを目論む集団を意味します。

 我々警察部としては、風紀面から見ても安全面から見ても極めて好ましくないタイプの同好会として活動を監視しているのですが、完全な取り締まりが不可能であることも隊長にはお察し頂けるかと」


 ファロファロ! つまりアレか、わざわざ廃墟に出向いてサカるのが目的な連中が、廃墟に行ったっきり3日ほど帰ってこねえ、と。そんなのまだサカってる最中なんじゃねぇの?

 でもルデリットの表情は揺るがなかった。


「ボクらとしても普通なら『どうせまだお楽しみなんだろう』と判断するんですがね。

 でも今朝早く、そこまで楽観的ではいられない情報が飛び込んできました。

 旧校舎フリークライマーズ・ギルドというサークルがありまして、こちらは名前の通りの活動をしている、これはこれで危険なサークルなのですが、彼らによると昨晩旧校舎で大型の猛獣の(・・・・・・)ような生物(・・・・・)を目撃した、と」


 ……ほほう。学園から50キロとかいう至近距離に、正体不明の猛獣、ねえ。


「学園には自動防衛システムが完備されていますが、旧校舎となると最低限のカバーしかされていません。旧校舎はフォージ山の麓にあり、なかば森に飲み込まれていますから、大型の野生生物が出没する可能性は十分にあります。

 第9中隊の皆様には、目撃された大型の猛獣の正体を突き止めると同時に、可能な範囲での駆除をお願いします。行方不明者の探索と救助は、それよりもさらに優先度を下げて頂いて結構です。地図その他の資料は、お手元に揃っています」


 ふむ。確かにあたしとジジが出張れば半日で解決するし、行方不明者が生きてようが死んでようが見つけるのも簡単だ。その程度の探知能力なしには、〈聖女〉なんてやってられん……のだが、いろいろと腑に落ちないことが多いな。


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