淡雪ダンジョンへの移動
T県からN県までの移動は主に新幹線だ。
修学旅行の時もそうだった。
とりあえず、駅へと向かい自由席の切符を購入する。
これが意外と大きな出費になった。
財布の中が意外とすっきりし、もの寂しげな感じを醸し出す。
「これだけ出費したんだ。ちゃんと回収して、またいっぱいにしてやるからな」
一人で財布に話しかけるさまは不気味だったに違いない。
新幹線の自由席は運よくすいていた。
そのおかげで窓際の席をとることができた。
よーし。これで景色を楽しみながら移動できるぞ。
ゆっくりと動きを始める新幹線。
そのスピードはだんだんと上がっていく。
自分の中のボルテージもスピードに比例して上がっていくような感じがした―――。
ってとこまでは記憶にある。
ただ、解せないのはいつの間にか目的地についてるってことだな。うん。
景色みられるぞー。とかほざいてたくせに寝てるとか。
あほなの、俺?
多分だけど、興奮しすぎで疲れたのか俺は寝てしまったらしい。
んな。ばかなって思うけど。おそらくそうらしい。
でも、とりあえずN県につくことはできたようだ。
ただ、寝起きのせいか少し理解が追い付いてないけど。
目的の駅はN駅と言って、N県の観光名所に行くには間違いなく使われるハブステーションだ。
だから、多くの観光客が俺と同時に降りた。
スキー用品を抱えた人々、それらを迎えに来た、旅館の人や、バス会社の人たち。
かなりの賑わいを見せていた。
もちろん。俺は何の予約もしてないので誰か待っていてくれているとかそういうのはない。
「えぇっと。淡雪ダンジョン、N駅 行き方、検索っと」
スマホのマップを使って移動方法を調べる。
《淡雪ダンジョンは、N駅から6キロほど離れたところにあります。移動手段は、歩き、もしくはバスでの移動になります》
バスのマークを押すと運賃が表示される。
《バスの運賃は400円です》
400円かー。
うん。歩きだな。
GPSをオンにしてナビに従って歩きで行くことにした。
雪用の靴に履き替えたおかげで、想像よりかは歩きやすかった。
一面真っ白、だなんて景色、T県じゃめったに味わえないから少年心が躍る。
雪の中に思いっきり飛び込んでみたい衝動にも襲われたけど、何とか自制心で抑えた。
淡雪ダンジョンへの移動の途中懐かしい店を見つける。
「なっつかしいなぁ、あそこ。修学旅行の時によったお土産屋じゃないか?たしか、俺は木刀を買ったんだっけな」
そうだ。お土産代として渡されたお金の大半をそれに費やしたんだ。
で謎の木刀を家に持って帰ってきたときに母さんは大笑いしていたっけな。
「なんで、こんなもの買ってくるのよ。ほかにいいものあったでしょ」
って。
その木刀は今、俺の部屋で物干しざおとしての役割を全うしているけど。
◎ ◎ ◎ ◎
淡雪ダンジョンは道路から少し離れたところにその門があった。
雪の中にポツンと存在する門は、異様な感じを醸し出していた。
決して景色と混ざらず、調和しない不気味さを。
ほかにも俺と同じように淡雪ダンジョンへ来た人たちもいるようで、この雪の降り積もるという厳しい環境の割にはにぎわっていた。
俺はそういった人々をよけ門の前へと移動し、ふぅっと深呼吸をしてから。
「じゃぁ、いきますか」
俺は両手を前に出し先に門の中へと入れる。そのあと、目を閉じてから次にだんだんと体を門の中へと移動させる。
ブゥゥゥンと体が浮遊するような何とも言えない感覚を味わったのちに、少し時間をおいてから目を開けると、そこにはダンジョンが広がっていた。