大空真明と葉本佳那
帰りのホームルームが終わる。これが終われば即ダンジョン。
とはいかなくなった。
担任からの呼び出しだ。俺は職員室に行かなくちゃいけない。
本当なら大野は俺のクラス担任なのだから、この教室で話をすれば済むはずなのに、わざわざ職員室まで呼ぶということは重要なことなのだろう。
なんとなく内容は察してはいるけど。
なんて考えているとこのクラスのボス的存在、スクールカーストがあるとするならば間違いなく一番上にいるであろう大空真明がバンバンと机を叩いて煽る。
「おまえ、また先生に呼ばれてんのかよ。そろそろ探索者になるのあきらめろとか言われんじゃねえの。そろそろ認めろよ。僕じゃ無理ですってな」
大空真明は、周りからはシンミョーと呼ばれてる。
俺は名前をもじってソラマメって呼んでるけど。
大空も俺と同様、探索者を目指す人間だ。ただ俺と決定的に違うのは、強くそれなりに実績があること、そして一番重要だが彼女がいることだ。
彼女の名前は葉本佳那。こちらも、スクールカーストで言えば圧倒的に上にいるだろう。短髪で、背が高く大空と同じくらいの身長である。
だからこそ、お似合いのカップルだと学校中で思われているし、俺もそう思う。そして葉本も大空同様、探索者を目指している。
ただ面倒なのは、こいつらが俺に絡んでくる。ということだ。
なんで絡んでくるかを説明しようとすると高校入学までさかのぼる。
最初にこの二人に出会ったとき、それは高校一年の頃であった。
ダンジョン探索に入るのは高校まで認められていないためにこの時のレベルはみんな1だった。
最初の自己紹介の時に俺は探索者になりたいといったから、自己紹介が終わるとすぐに大空たちが俺に近づいてきた。。
「俺は、大空真明っていうんだ。で、こっちは彼女の佳那。おれも君と一緒で探索者を目指してるんだ。よろしくっ」
この時の大空はさわやかな青年という感じで、右手を前に出し握手を求めてきたからそれに応じた。
「で、狩集君はスキルとかあるの?」
「あるにはあるらしいんだけど…、わかんないんだよね。ほら」
スキルパネルのスキルの欄にある????を見せる。
「ふぅん。こんなこともあるんだ。初めて見たよ。じゃぁ、俺のを見せるね」
スキルパネルのスキルのところには《暗視》と書いてあった。
「暗視って、暗いところとかでも見られるってやつ?」
「そうさ。このスキルのおかげで。夜中に目が覚めても困らないんだ」
といってからソラマメが軽くはははっと笑う。
ソラマメのうしろから葉本が顔をすっとだす。
「わたしはねぇ。ぐへへ。こんなスキルなの。《追跡》」
「《追跡》って、すごいじゃん。敵の動きがよくわかるってことじゃないの?」
「そうなの。便利なの。でも、名前が少し気に入らなくて。だってストークよ。なんか変態みたいで…、いやじゃない?」
「べつにいいじゃん。使えるスキルなんだからさ。大事にしないと」
なんてやりとりを1年の春くらいにやってた。
同じ夢を見る者同士、部活にも入ってなかったから、何回か一緒にダンジョンにももぐってた。まさにパーティー。そんな感じだった。
特に、《暗視》と、《追跡》のペアは敵なしという感じで敵を見つけたら葉本の《追跡》で敵の位置を把握する。
把握した場所までは大空が《暗視》で、俺らを誘導して倒すみたいなことをしていた。
ある時ダンジョンから帰還すると
「あとは、狩集君が何とかレベルが上がって、スキルも判明したら俺らさ、最強のパーティーになれるんじゃない?」
なんてことを大空が嬉しそうに語っていた時もあった。
でも、高校1年の終わりにもなるとさすがにレベルの上がらない俺は、二人が戦うようなモンスターに太刀打ちできなくなったから自然にパーティから離れた。
そのときから、大空の俺に対する態度が変わった気がする。
何か事あるごとに突っかかってくるようになった。
多分、仲間としての期待が大きかった分、それが逆に大きな失望となり、このような状態になったのだろう。
だから、このように俺が馬鹿にされるのは悔しいけど、半分くらいは受け入れている。
俺は大空の罵声を背中に受けながら教室を後にして、大野の待つ職員室へと向かった。
大空に言い返すにはまだ実力がない。
実力を必ずつけて絶対に見返してやる。
そう思いながら。