体重
「やばい。あいつ地面に潜る気だ」
岩もぐらは地面を掘り始める。両手を地面に突きさしては抜き、そしてまた突きさすを繰り返す。それと同時にちょくちょく爪先から液体を出して地面を解かすことで地面掘削を効率化しているらしい。
「地面に潜られたら、見失うっちまうぞ。そしたら圧倒的に不利になる」
しかし、俺たちには止めるようなすべを持ち合わせていない。
ただただ、岩もぐらが地面の中へと吸い込まれていくのを見ているしかなかった。
「こうなったら、一刻も早く逃げるしかねぇっ。完全に潜るにはまだ時間があるからそのうちにっ」
俺は姿勢を低くしてから地面に倒れてる綾瀬に背中に乗るよう指示を出す。
「ほらっ。俺の背中に乗れっ」
背負うのには俺の力だけだと円滑に進まない。
綾瀬の少しの協力があるだけでかなり背負いやすくなる。
なのに、まったく俺の背に乗ろうとしない。
「どうしたの?早くっ?何かあるの?」
頬を少し赤らめ、もじもじする様子を見せる綾瀬。
「だって…。おんぶなんてお父さん以外にしてもらったこと…、ないし」
はぁぁぁ。
俺は大きくため息をつく。
「いや、そんなことかよ。気にすんな。てっきり俺に触られたくないのかと思ったよ。ほれ」
乗るように再び催促する。
「優しく…してね」
いや、なんだかエロイな。その言い方。なんか勘違いしそうなんだけど。
綾瀬はやっと俺の背中に乗ってくれた。
「ありゃ?ちょっと体重、重くね?」
俺は背負ったままの感想を思わず小さな声で言ってしまう。
もちろん綾瀬は俺に背負われてるわけだから顔が近いところにあるせいで思いっきり聞こえている。
バチーーン。
右頬に完璧な一発。
岩もぐらにやられる前にやられそう。
「女の子に向かってその一言はないでしょ」
「いやいや、今一刻を争う場面だから。それくらいは大目に見てほしいんだが」
「…ごめん」
しゅんとする綾瀬。
俺は急いで走る。綾瀬を背負いながら。
どこから岩もぐらが顔を出して攻撃して来るかわからないから走り続ける。
しかし、どこへ逃げても足元に岩もぐらの移動する振動がついてくる。
「なんで、こいつは俺のいる場所が地下にいるくせにわかるんだ?」
「わかったわ。岩もぐらは振動を頼りに私たちの位置を把握してるんだわ。目が見えない分ほかの感覚で補ってるから」
「つまり逃げるのは悪手。動かないが正解よ」
「いや、いまさら言われても。ここで止まったら下からズドンと一発攻撃くらうんだけど」
「だったら…」
綾瀬はアイデアを耳打ちしてくれる。
「それだったら、いけそうだっ。よし、やってみよう」
俺は走りを途中でピタッとやめる。と、同時に
「《跳躍強化 Lv.1》」
と叫んでからジャンプをする。
綾瀬を背負ってる分、さっきよりかは高く飛べないが滑空時間は綾瀬の作戦を実行するには十分だった。
「綾瀬っ。頼んだっ」
「わかったわ」
綾瀬はダンジョンに入ってすぐ採取した岩つむりの殻岩を何個か取り出し、それを四方に投げる。
ガランッ。ゴトンッ。
遠くの方でそれらのアイテムが着地した音が聞こてくる。
ドッシャァー。
岩つむりの殻岩の落ちたところから岩もぐらが勢いよく顔を出す。
最初に俺たちがくらった攻撃と全く一緒だろう。
あのご自慢の頭で突き飛ばす攻撃。こうやって見るとかなりの迫力だ。
俺はそのまま着地し地面に振動を与えないように、静止する。
「これで、あいつは私たちがどこにいるか見失ったはず」
「一時的に…だけどね」
「それでも、あの攻撃をよける手段ができたのは大きいよ」
「そうね。何もないよりかは…はるかにね」
少しだけだけど、希望の光が見えてきた。
対岩もぐら、そろそろ終わります。




