鈴蘭ー幸福の再来ー
数多の令嬢に囲まれて。その手に頬に触れ、柔らかな微笑みを返すーー幸福の、再来?
彼女は持っていたものを手離した。
一度過去が甦ってしまうと、もう花を贈る気持ちにはなれなかった。
暫く前に"あの人"が怪我をした。膝の上に、驚く程綺麗になった手巾がある。
応急で手当てをした幾日の後、突如返された手巾。
血の付いた物など捨てただろうと思ったのに……まさか手元に戻って来るなんて。気付かれたのかもしれない。刺繍の"小花"に見せかけた花の意味をーー
今の自分は相応しくないのだと突き付けられた気がした。
自室にはあの人から贈られた鈴蘭が、未だ処狭しと飾られている。
花束どころでは無いその量を、手入れするのは執事でーー何処と無く迷惑そうだった。"あの人"に対してだけ不思議と執事は正直になる。
彼女にとっての"幸福の再来"はーー熱を持ち始めた頬を手で覆う。傍に居たい。
捨てられていなかった手巾、破棄されなかった婚約。まだ、間に合うのだろうか。
自分に何が出来るのか? あの人の為に。相応しく在る為に。
(この記憶が役に立てるなら良かったのに……)
全く思うように行かなかった過去を振り返る
ーー本当に、役立たないのか。
封じていた力を解き放つのは"今"かもしれない。
傷付けるだけの力なら要らない。でも、護る力が欲しい。
ーー強くなりたいーー
あの人を護る力と、傍に立つ強さを。
この闇に叶うならーー