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花嫁選抜3

ソフィーさんの「お友達を作ろう大作戦」を一部抜粋してお送りいたします……。



ソフィーはその日も、掻き集めた情報がぎっしり詰まったノートを眺めていた。

何の情報かと問われれば、もちろんこの城に集められた自分を除く十四人の花嫁候補たちのこと。

母親と「お友達をたくさん作る」と誓った彼女は、日々、奮闘している。

同じ領から来たクリオネを初めとし、大半のお嬢様方とは砕けてお茶ができる仲になった。

とても良い傾向である。

自分らしくいつも通りに居ていい、と言ってくれたメイドのオリビアには感謝しかない。

あの一言で、ここまで来れたのだ。


彼女はそのオリビアが淹れてくれた紅茶を飲みながら、次の作戦を考える。

ちなみに今回のターゲットは中央のイーリス・ベルドモンドだ。

伯爵家の娘で、金髪ショートカットがトレードマークである。


「ソフィー姫」

「ああ! リアム。おかえりなさい」


部屋に戻って来たリアムに、ソフィーは待ちきれない反応で腰を上げる。


「どうでした?」


そわそわして尋ねるソフィーに、リアムは少し表情を緩めて言った。


「馬の準備に問題はありません。明日は天気も良いでしょう。絶好の乗馬日和かと」


その言葉に、ソフィーはパッと顔を輝かせた。


「やったわ! 早速、イーリス様にご報告しないと!」


イーリスが馬に乗れるという情報を聞きつけたソフィーは、それを機に彼女と距離を縮める寸法である。

彼女は弾む足取りでイーリスの部屋へ向かう。


「突然の訪問、失礼いたします」


少しお待ち下さい、とイーリスの護衛騎士に言われて、ソフィーは扉の前で待つ。

しばらくすると、イーリスが自ら顔を出した。


「ご機嫌よう。どうかされたか?」


金髪ショートカットの彼女は、剣もかなりの腕前だそうで。

ドレスを着ているのだが、その立ち姿と話し方には、勇ましさがにじんでいる。


(やっぱりかっこいいっ!)


中性的な容姿が相まって、ソフィーはときめいた。


「明日、乗馬の許可をいただいたのです。よろしければ、一緒に遠乗りなどいかがでしょうか?」

「乗馬の許可?!」


——ここは中央領主の城だぞ!?


なんて事を申し出るのだと、イーリスは驚かされる。

ここが彼女の、つまりは西領主の邸であれば、その提案は理解できなくもない。

だがしかし、この城に来てそれも花嫁候補が遠乗りしようだなんて、普通はしない事だ。

やりたくても我慢していたイーリスは、突然降って来たチャンスに戸惑う。


「許可はちゃんと頂いております。もちろん、イーリス様の分も。どうでしょう……」

「一緒に、と言ったが、あなたも馬に乗れるのか?」

「はい! 早馬にも乗れます!」


問題ない!と目を輝かせるソフィー。

イーリスは自分のメイドと護衛騎士を見比べた。彼らは微笑みを浮かべ、こくんと頷く。


「………わかった。準備をしておこう」


そろそろ部屋に閉じこもっているのも、辛いと感じるようになっていた。

イーリスは、ソフィーの誘いならば受けても良いかと、首を縦に振るのであった。









「ええ?! 乗馬?!」


「はい。中央のイーリス様と。かなり遠くまで行かれたようですよ。途中からは、殿下もご一緒されたとか」


「殿下?!」


「はい。久しぶり激しい運動をなさってソフィー様は腰が立たなくなってしまったそうで。殿下がお姫様抱っこでお部屋まで運びなり、今、城ではその話で持ちきりですよ」


「O・HI・ME・SA・MA・DAKKO??」




レシルの言葉は衝撃のあまり、片言になっていた。


ちなみにその後、ソフィーに筋肉痛に効く軟膏を処方したのは彼女である。






◆◆◆◆◆◆◆◆






「オリビア。今日は南のウルティア様とお茶会よ」


「はい。お嬢様」


「彼女の着ている東南風の服装もとても素敵なのだけれど、ウルティア様は西北風の洋服に興味があるそうなの。お茶会が終わったら、用意した服をプレゼントできるようにしておいてくれる?」


「はい。かしこまりました」



東領と南領の服は和服に近い。逆に西領と北領は洋服である。

真ん中の中央は、どちらの服も見られるが、どちらかと言えば洋服が多い。

ソフィーの情報網によると、南領から来たウルティアは、その洋服に興味があるらしい。

今回、彼女はウルティアの褐色の肌に合うように、グリーンのドレスを用意している。

ちょうど、この間よく効く筋肉痛の薬をくれた中央領宮廷医師—つまりはレシル・モーガンが、南領の出身ということで話を聞き、話題は補充してあった。



「ご機嫌よう。ウルティア様」

「お、おはようございます。ソフィー姫様」


ソフィーは西領主の娘ということで、「姫様」と呼ばれることは少なくない。

ウルティアは南領の有力一族の娘であるので、緊張した面持ちでソフィーの前に座っていた。

それなりに礼儀作法は学んではいるが、慣れない環境で、右も左も分からないまま時は過ぎ、何も出来ずにいたウルティア。

ソフィーからお茶に誘ってもらい、とても嬉しい反面恐縮していた。


「そう緊張しないでください。美味しいお茶があるんです。是非、飲んでみて。きっとホッとするわ」


彼女の緊張をひしひしと感じたソフィーは、そう言って茶を勧める。

ウルティアも緊張で喉が乾いていたところなので、カップを手に取ってそっとそれを口につけた。


「お、美味しいです」

「それは良かったです」


ウルティアの怖い顔が少しだけ和らいで、ソフィーも微笑む。


(——天使だ。天使がいらっしゃる……)


それを見たウルティアは言葉を失った。

まるで陶器のように白く滑らかな肌に、ふわふわした桃色の髪と緑色の瞳。

目の前に座って純正な微笑みを浮かべるソフィーこそが、北と西に伝わる神話に登場する「天使」の姿なのだと彼女は納得した。


「南領では、床に座ってお食事をするのですよね。こちらの様式にはもう慣れましたか?」


「は、はい。少しずつ、慣れて来ましたっ」


「それは良かった。そうそう、そちらではパンのような生地でタコを包んだお料理があるそうですね。是非食べてみたいです」


「タコヤキのことですか。そんなマイナーなお料理をよくご存じで。わたし、大好きなんです」


その天使は、自分の生まれ故郷についてよく知っていて、心配していた会話は滞ることなく弾んだ。


「とても楽しかったわ! 是非、今度一緒にタコヤキを食べましょ!」

「はい!」

「あ、そうだった。これ。よかったら着てね」

「え?」


天使に渡された箱の中身は、なんと、ずっと気になっていたドレス。


「よ、よろしいのですか?! こんな高価そうな」

「いいんです。きっと似合うから、着てみてください!」

「天使様!!」


ウルティアはソフィーの手にオチた。









「最近、御令嬢の皆さんは、違う領の服装をするのが流行みたいですね」

「そうですね」


レシルはメイドに同意する。

同じ服装に飽きて来たのかな、なんて彼女は思った。


「この流行を作ったのは、レシルさん推しのソフィー様だそうですよ?」

「え?」


そんなことは初耳だ。

レシルはそうだったのかと目を丸くする。


「ソフィー様が南のウルティア様にドレスを贈って差し上げたそうで」


メイドはそこでレシルに耳を貸せと手招きする。

彼女は首を傾げながら、そのメイドに耳を貸した。


「ここだけの話。ウルティア様がお返しにとソフィー様に東南風の服を用意しようとしたところ、殿下もご協力なさったそうです」


「殿下!?」


「ちなみに、用意されたお洋服は確か、アオザイと言うそうで、身体にフィットしてラインを綺麗に見せるものなのですが、ソフィー様にサイズがピッタリです」


「スリーサイズ、流出!!」




ちなみに、健康診断と銘打って、将来花嫁になるやもしれない御令嬢がたのスリーサイズの計測をしたのは彼女である。







◆◆◆◆◆◆◆◆







そうしてソフィーが次々とお友達を得ていくにつれて、思いを募らせる者たちがちらほら。




ひとりは、

最初は彼女の行動が面白くて騎士からの報告を楽しみにいていた、金の瞳をした王子。

次々に他の令嬢を手中に収めていくソフィーの手腕には、目を見張るものがあった。

それなのに、本来の目的であるはずの自分の攻略には来ないことが、その王子は次第に気になり始め、ついに自ら動き出す。

活発なソフィー姫の行動をいち早く把握し、状況に応じて手を回した。

時には、馬に乗って駆けつけ。

時にはオーダーメイドの服を贈り。

時には彼女が目がない甘味を用意した。

もちろん、(はしゃぎ過ぎて)体調を崩したなんて聞いたときには、すぐに医師を向かわせ自分も様子を見に行った。

その時思ったが、ソフィーがこの城に来る前に女性の医師が雇われていて本当に良かった。


——彼女を他の男になんて触らせたくない……。


金の瞳をした王子は、すでに彼女に心を奪われていた。








またひとりは、

彼女を昔から知っていて、今は護衛を務める騎士。

ソフィーの側に付き、彼女の要望に応え続けた彼は、メイドのオリビアの次にソフィー姫のことを間近に見てきた。

彼女がどんなに心優しく、それでいてユーモアのある楽しい人か騎士は知った。

そんな彼女は時に無防備で、側から見ていると危なっかしくて放って置けない。

昔は西領主の屋敷で共に遊んだ仲だが、大人びたソフィーは、いつの間にか「可愛らしい」と表現するにはあまりにも気品があり、美しくなっていた。

そんな彼女に、目が釘付けになることも少なくないが、もう、かつてのように触れられる人ではない。

彼は護衛騎士として、彼女を陰から見守り続けている。


——彼女を守ることが俺の任務だ。


騎士は、その感情に名前をつけようとはしなかった。









もうひとりは、

彼女のことを生まれる前から知っていながら、全く状況を予測することができなかった、女宮廷医師。

本来の進むべき物語に手を加え、何とかソフィーと騎士を結ばせようとした彼女であったが、運命とでも言おうか……。

最初は上手くことが運んでいたはずだった。

婚約者という、どうにも出来ない障害を取り除き、「花嫁候補」としてソフィーを騎士と再会させることができたのだ。

しばらくの間は、王子のことになど目もくれないソフィーと、そのすぐ側にいる騎士との関係は非常に上手く進んだと思われる。

それなのに、あろうことかその行動によって、王子の方からソフィーに気が向けられることになるとは。

そうなれば、もう一介の医師にはどうにもできない。

あとは彼らに選択を委ねるしかなかった。

だが、それでも彼女はよくやっていた。

リスクを背負いながらも、一番可能性がある道を選択して来たのだ。


——お願いだから気がついて……。


女宮廷医師は、彼女に願いを託すことしかできなかった。










そして、もうひとり。



「——ソフィー姫を持っていかれるのは都合が悪いなぁ」



男の低い声が、静かに響く————。






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