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花嫁選抜2



ライアンは自分の部屋に戻って、上質なソファに深く腰を下ろした。

何度目かになるため息を漏らせば、控えていたケインが無礼にも吹き出す。もうライアンは何も言わなかった。


「……失礼いたしました。しかし、何をそんなに嫌がられているのです? ご令嬢がたは皆お綺麗な人ばかりで、殿下は選び放題なんですよ?」

「たかが男一人に、あれだけ集まられても困る」

「“たかが”って……。まぁ、確かに人数比はアレですけど」


ケインはもし自分が彼の立場ならば、三ヶ月めいいっぱいお嬢様たちにチヤホヤされて楽しむのに、と思う。


「それでも気をつけないと、令嬢たちの護衛騎士に先を越されることになるかもしれませんよ?」

「それは、自分もその機会を狙っているという意味で捉えて正解か?」

「あははは。そんな、恐れ多い……」


明後日の方向へ視線を飛ばしたケイン。

どうやら強ち間違いでもなかったらしい。

ライアンの近衛騎士として、ケインは彼の側に付いているので、必然的にライアン目当てのお嬢さまとも顔を合わせる。何か起きても、おかしくないという話だ。

禁断の愛、という奴なのかもしれないが、現実にそんな事が起きてしまえば、笑い事では済まされない。


「と、とにかく。こんな機会は滅多にありませんから、殿下も本命を逃さないようにお気をつけください」


(……本命、ね)


ライアンは立ち上がると、仕事机の端に追いやられた資料を手に取る。

中央からは4人。北は3人。西が2人。南が2人。そして東から4人。


(面倒臭そうなのは、東と北だな)


東領では一夫多妻が許されている。そのせいか東は恋愛に対して男性も女性もハードルが低く前向きに捉えがちだ。それをここでも発揮されてしまうと、一人を選ばなくてはならないライアンの立場的には前途多難に見える。

そして北領は何が問題かといえば、「美の北」と言われる代表者である彼女たちを適当にあしらうと、芸術的価値が分からない人、と非難されて外交問題になりかねないことだ。言わせて貰えば、北はプライドが高いのである。

勿論、これらはそれぞれの領で多く見られる傾向というだけで、今回呼ばれた彼女たちに全てが当てはまるとは言わない。

しかしながら、ライアンはすでに心が折れかけていた。


「どう転んでも、ここから選ばなければならないのか……」


そう。この様な場が設けられてしまった以上、彼はこの中から花嫁を選ぶ義務がある。

反抗期の盛りで縁談を断り続けていたのが、倍の面倒ごとになって降りかかってくるとは夢にも思わなかった。彼だって、時が来ればそれ相応の人と結婚するつもりではあったのだ。


(適当に選んで、破談となると笑えないな)


押しかかる「選択の自由」と言う、自己の責任の重さに頭を抱えたくなる。

これだけの令嬢を集めたのだ。

それなりに見定めて相手を選ばなければ、後に批判の目を浴びるのは自分だ。


こんなことになるなら、もっとはやく(当たり障りのない)婚約者を囲っておくべきだった……。


後悔しても仕方ない。

ライアンは自分の将来のために、集められた姫君たちと対峙することを決めた。








「ねぇ、オリビア」

「はい。お嬢様」


ソフィーはこれから住むことになる部屋で、深刻な表情を浮かべていた。


「わたし、どうすればいいのかしら」


想定外の状況に、彼女は困惑している。

オリビアはトポポ……とカップにお茶を淹れて、ソフィーの前に置く。

ソフィーは「ありがとう」と呟き、それを飲んで心を落ち着かせた。

ふう、と息をついて肩の力が抜けたところを見てオリビアは言う。


「そう気負わず、いつも通りでいらっしゃればよろしいかと」


将来中央領のご子息と生活を共にするための人材を見つけるためにこの場が設けられたのだ。

あまり気取ったことをして無理をしていても、結婚後の暮らしに支障が出てしまう。


「そうかしら……。いえ、そうよね!」


ソフィーは頭の中でオリビアの言葉を復唱し、何とかなると自分に言い聞かせた。


「わたしらしく、上手く乗り切ってみせるわ!」


彼女はぐっと拳を握ってやる気に燃える。

決意をしたソフィーは、そうと決まれば行動に移らねばとオリビアを見上げる。



「じゃあ、オリビア。さっそく、御令嬢の皆さんが好きそうなネタを集めるわよ!」


「……はい?」



オリビアはポカンと口を開いた。





「まずは同じ西のクリオネ様から行きましょう!!」




ソフィーは一番最初に、同じ西領から参上しているクリオネをお友達候補にロックオンしたのだった。

無論、ライアンのことはアウトオブ眼中である。



こうして、ソフィーの「お友達を作ろう大作戦」が幕を開ける……。
















「え? 今日は北のラシェル様と?」


「はい。何でも、ラシェル様のお召し物のデザインについて、ソフィー様が熱心に語られたそうで。途中から場所を変えて、仲良くお話をしながらお茶をなさっていましたよ。とても楽しそうでした」



仕事の合間を縫って、ソフィーの行動把握をしているレシル。

メイドたちとは仲が良いので、自分のことをソフィーのファンだと銘打って、彼女たちから情報を聞いているのだが……。


(ソフィー様、未知数過ぎる……)


レシルは毎日毎日、ソフィーの行動に驚かされるばかり。

シナリオを変えるように仕向けた張本人は自分なのだが、ソフィーの行動力が凄すぎてついて行けない。彼女には予想の斜め上を行かれてしまう。

シナリオは崩壊。

操作は不可能。

まあ、そんな行動力に溢れていらっしゃるところを前世で読んで、彼女ヒロインを好きになってしまったわけだが。

それにしたって、彼女の行動予測が難解過ぎる。


花嫁候補等がこの城に来てから二週間ともなると、その不可解な行動にもちゃんと目的があることは見えて来た。

どうやらソフィーは花嫁候補たちと仲良くなりたいらしい。

確かに、ライアンに選ばれなかった場合を考えると、パイプ作りは非常に重要で政治的な行為であるが、それにしたって……。


レシルは仕事場に戻りながら、頭を抱える。



「殿下のこと、全く意識してないよね。

いや、いいんだけれど。それはいいんですけれどっ!」



彼女はマスクの上からでもわかる苦悶の表情を浮かべる。


ソフィーがライアンを意識していないことは良い。

だが問題は、ライアンの方だ。

そんな風にして、自分のことを全く意識しないで、他の令嬢と仲良くやってる姫様がいれば、気になるに決まっている。



現に。

ライアンは数日前、ついにソフィーの部屋に赴いた。



レシルには嫌な予感があった。




あ、これ、ライアンが恋に落ちちゃって、無自覚ソフィーと、あーだこーだやる流れではないか? と。




小説では、ライアンと婚約を結んだソフィーは、冷たい彼と仲良くなろうと、あれやこれや頑張ることになっていた。

奇抜なアイデアで、ライアンと仲を深めようとするソフィーであったが、なかなかライアンは振り向かず。

そして、その頑張りを側で見守ってきたリアムと言ったら……。


主人の婚約者に手を出せるはずもなく、恋心を秘めようとするも、どうしても彼女に惹かれてしまうリアムッ——



レシルは、思い出すと切なすぎて胸を抑えた。



(ソフィー姫! お願いだから、彼と結ばれて欲しい!!)





だが。

得てして、そういう嫌な考えほど当たるものである。




そして気がついた時には、もう手遅れなのだ———。




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