◆まよい少女
彼女の言うとおり、新しい遺跡が発見できていない日々が続いていたので、それを探索できることはサイにとっては非常に喜ばしいことだった。
しかし、顔も知らない人を探してくれというのは、どうしたものか……サイは思考を止め、手を組みなおした。
「ねぇ。遺跡探査と侵入式の解析だけでいいの?」
「はい。私にはそれが出来ないから。でも父を探すことは出来る」
レシィは真剣な眼差しでサイを見た。
サイは険しい表情を浮かべた。探すことは出来るのは、探査が出来るというのではなく、単純に探す行動なら出来るということだろう。
つまり、彼女は遺跡の中に入るつもりなのだ。たった一人でも。
両者はしばらく見詰め合っていたが、サイは小さなため息を漏らし、言葉を紡いだ。
「とりあえず、一つ言えることは、あなたみたいな子どもを、一人で遺跡の中には入れられない。だから探査と解析だけで終わらせるわけには行かないの。それだけで構わないなんて、大人と遺跡を甘くみないでね」
サイは出来うる限り優しい声で――しかし、そう思っているのは本人だけで、村の子どもたちが聞けばすぐに「サイ先生怒ったぁー」と泣きべそで言われる声で――レシィに忠告をした。
レシィはぴきっと動きが止めた。当事者二人は気付かないが、キットがそれをにやにやっと笑ったのをジェラルドは見た。
「探査と侵入式の解析までをやってみるわ。入って個人での探索がきつそうだったら、他の信頼出来る人たちに委託する場合がある。まずは探査してみなければなんとも言えないの。……それでもいいかしら?」
それがサイの最大の譲歩なのだろう。
レシィは、理解し、十分だとまた頭を下げた。
「……はい、よろしくおねがいします」
話はとりあえずといった形であるがまとまったようだ。キットは手を一回叩いた。
「んじゃ、そういうことでいいか? レシィ」
「うん。ありがとうございます」
キットの優しげな声にレシィは顔を上げた。ずっと強張った顔が柔らぐ。これでようやく父を探せるのだと、レシィは安堵さえした。
しかし、彼女はキットの次の言葉に再び顔を強張らせることになるのであった。
「……それじゃあ、君は一旦自分の家に帰るんだ」
「え?」
一旦自分の家に帰るんだ。
レシィの頭の中でその言葉がぐるぐるぐるぐる回り続けた。動揺を前面に出し、レシィはうろたえた。
「え、え?」
「え? じゃないだろ」
キットの呆れたような声に、レシィはようやく混乱から我に返った。椅子を倒しそうな勢いで立ち上がり、剣幕で詰め寄った。
「ちょ、ちょっと待ってよ! そういうわけにはいかないわ! い、遺物だけ取られてなんて嫌なんだから! 私も探すの手伝うから!」
「はぁ? 何言ってんだよ。君は出来ないんだろ、探査」
キットの指摘にレシィは言葉を詰めた。
「それに、今更信用問題を持ち出すなら、こっちは信用してくれとしか言えない。それが嫌なら、他のやつに頼むんだ」
先ほど、自己紹介のやり取りのような迫力がキットにはあった。レシィは助けを求めるように同席の他の大人たちを見た。しかし、彼らもキットと同意見だったようでレシィを助けるような素振りは見せなかった。
レシィは再びキットと向き直った。
「そんな! ここまで来て戻れっていうの?」
「当たり前だろ。見つかったら、シーリルの里まで迎えに行くさ」
「そんなの本当かどうか、私にはわかんないわよ! お願い! なんでもするから、父を見つかるまで私をここにおいて! 探査の手伝いだってする!」
レシィは必死だった。キットは盛大なため息を吐いた。
「だから、僕達が信用できないなら他の当たれ。父親探して、他の家族に迷惑かけたら元も子もないだろう。だから帰れと――」
「他の家族なんていないわよ!」
レシィは叫んだ。その唐突な激昂は、キット達の口を閉ざすには十分だった。
「いないわよ! いないったらいない! パパだけなの! 里なんかに帰らない! もういい! 私が探す!」
それだけ言うと、レシィはテーブルの上の遺物を掴んだ。サイは小さく声を上げた。
レシィはそれに見向きもしなかった。遺物をぎゅっと胸に抱えて、キットの静止の声も耳に入れず、素早い身のこなしで部屋から出て行った。
レシィの癇癪に唖然とした大人たちは、しばらく彼女が出て行った扉を見詰めていた。
「何なのよあの子」
サイの口から呆れ返った呟きが漏れた。