表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
袖振り合うも他生の縁  作者: 雨天然
袖振り合うも他生の縁
13/61

◆古代の足跡

 青い。

 レシィは初めて入る遺跡にそういう印象を抱いた。

 その青さの原因は、自分たちが立っている切り立った大地の下にびっしりと敷き詰められている青い鉱石のような物のせいだとわかった。

 気をつけなさい、とサイから声がかかる。レシィは頷いて大地から下をのぞき込み、それを見た。


(……気分が悪い)


 下の鉱石からむわっと上がってくる濃いマナにレシィは顔を顰めた。すぐさま身を離した。


「シーリル人には、ひどく濃く感じるでしょう?」


 レシィの様子を見ていたサイが声をかけた。レシィは黙って頷いた。口を開きたくない。口から入った空気で喉をやられてしまいそうだ。出来れば早くこの場から出たい。レシィはそう感じた。


(本当に、地上とは全然違う)


 かつて、リーンによって大陸に緑が蘇る前の地上はマナの濃度が濃く、それ故に古代人は地下に住んでいたと聞いたことがあった。ここよりもマナの濃い場所を想像するだけでレシィはぞっとした。


(ここが――古代遺跡、なのね)


 レシィの息が緊張で震えた。


「さて、地下に潜ったことだし。出しますかな」


 やけに芝居がかったキットの声に、レシィはそっちを向いて首を傾げた。

 キットがジャケットの懐から筒状の何かを出した。それをレシィの方へ向ける。彼の遠くを見るような目が、すっと細められた。


(なに?)


 レシィの疑問が飛び出す前に、その筒の先端から勢い良く凝縮されたマナが飛び出した。


「きゃあっ!」


 レシィは反射的に目をつぶった。マナの塊は失速せずにレシィを通り過ぎ、その後ろの――先ほどレシィが下をのぞき込んでいた場所からよじ登ってきた魔物に当たり、吹き飛ばした。

 レシィは下に落ちていく魔物を、目を丸くして眺めた。地上にいる小鬼よりも大きめで、更に凶暴そうな顔をしていた魔物だったが、爆発で力無く崩れ落ちていった。


「やっぱり濃いといいな」


 キットがそう言って、その筒をくるくる回した。よく見ると筒には引き金のようなものがついていて、彼はそこに指をかけて回していた。

 レシィはそれをまじまじ見て、口元を押さえた。その様子にキットがニヤリと笑った。


「ちょっと……キット、それ!」

「ほっほー。その反応を見ると、お前はこれが何なのかわかるようだな、レシィ」


 キットの笑みが徐々に妖しい物へと変わっていく。レシィは首を振った。

「嘘でしょ。だって、それは……女神リーンによって禁忌とされた古代の武具――銃器じゃない。なんでそんなもの……! 使ったらリュープになってしまうはずなのに!」

(禁忌を犯したのに……絶対の裁き、『リュープの門』が発動しないなんて!)


 この大陸には犯してはならない禁忌が二つある。

 一つは人が人を殺すこと。もう一つは、禁忌とされた武器を使用すること。そのどちらかを破れば、リーンによって絶対の裁きが下る。それが『リュープの門』。輪廻転成の輪からも外され、リュープという肉体も思念もない、物体に変えられるのだ。

 キットがたった今、その禁忌を犯した。

 だというのに、リーンの裁きは起きない。

 レシィは震えた。目の前で笑うキットはいつもと別人のようだった。


「だから、聞いただろう? 本当に遺跡に入るのか、と……里のおうちに帰りたくなったかい?」


 キットの声を聞き入っていると、くすくすという笑い声が聞こえた。サイの声だった。レシィはびっくりして、サイを見る。そして、困惑してジェラルドを見た。ジェラルドも珍しく深い笑みを浮かべていた。


(やだ。怖い……)


 キットの声は続いた。


「僕……いや、我々が怖いかい? 女神の神罰が効かない我々が。――だが、もう遅い。レシィ。お前はこの道を選んでしまった。我々と共に行く道を……くっくっくっく」


 キットが背を向けて、嗤い続けた。

 レシィは底知れぬ恐怖にワンピースの袖をきゅっと掴んだ。何かを言わなければならないと思いつつも、言葉が出なかった。


(こんなのキットじゃない!)


 ――すると、笑っていたサイが腹を押さえて、唐突にもう駄目と言い出した。ジェラルドも僅かな笑みを残し、肩をすくめた。レシィは目を瞬かせた。


(え?)


 キットを見る。彼も妖しい笑いをやめ、腹を抱えて身体を震わせていた。


「くっくっく! 予想以上の反応で、たまらん……っ」

「え」


 聞こえてきた言葉はいつものキットだった。レシィはよくわからなくて、サイとジェラルドに助けを求めるように顔を向けた。サイが笑いを堪えながら、手で落ち着くようにレシィを制した。


「あれは、銃器じゃないわ。銃器の形を模しただけの、マナブースターよ」

「え?」


 マナブースター。魔法使いが自分の魔力を高めるために使うもので、通常ならばレシィがキットから貰ったようなアクセサリであったり、霊力の高い樹木から作った杖に宝石をはめ込んだりしたものを言うのだが……――。

 キットは銃――の形をしたマナブースターを見せびらかしながら片目を瞑った。


「正真正銘のマナブースターだよ。少し特殊でね、マナを魔法に変えるだけじゃなくて、マナを凝縮した状態で放つことも出来るんだ。まぁ、僕にしか使えない特注品だけどな。知り合いのエンポスに作ってもらったんだ」

「え、え。ど、どういう――?」

「からかったんだよ。見事に騙されちゃって」


 けたけた笑うキットに、次第にレシィの顔は真っ赤に染まっていった。


「気にすることないわよ。今のアレで何が一番恥ずかしいって、キットの言葉だから」

「もういいだろう。さっさと奥へ行くぞ」


 サイとジェラルドの言葉はレシィの耳に入らなかった。

 レシィはずんずんとキットに向かっていくと――。


「馬鹿! 馬鹿キット!」

 見事な右ストレートをキットのわき腹に叩き込み、彼を沈めたのだった。



 ……と、からかわれたものの――。


(うそ。これがキット? すごい……)


 レシィはキットの戦う様を見て、感嘆の声を漏らした。

 人間の魔法使いだったキット。その魔力はレシィを遙かに上回り、強力だった。

 戦い方も、地上での格好の悪い姿が嘘のようだった。一歩も動かずに魔物を的確に撃ち、時には魔物の動きを読み、結界を張って罠にかかるのを狙ったりもしていた。

 レシィが憧れていたシーリル人の姿だった。

 サイも、やはり強かった。彼女は鈍器――メイスを持って、魔物を容赦なく叩きのめしていた。いつもと変わらない淡々とした表情で戦う姿は、美しく、凛々しかった。

 遺跡の中は地上よりも怖いと散々言われたが、遺跡の中の魔物と戦う三人は連携も取れて、何も怖いものなどないようだった。


(むしろ、怖いのはキットたち……)


 失礼なことを考えながら、レシィは柱の影から戦っている三人の荷物を抱えながら、戦いを見ていた。

 遺跡の中、がらんと広い作りで、以前学都で見た博物館に似ていた。レシィはぐるりと周りを見渡しながら思った。

 入ったときは真っ暗だったが、キットの出した魔灯によって、室内は大分明るく照らされている。レシィはいつもの癖で明かりを起こそうとしたが、自分の出す小さな光源とは比較にならない明かりを撃ち出すキットを見てやめた。

 内部は少し崩れており、柱が倒れて通路を塞いでいる場所もあった。しかし、四方を囲む壁は一切の傷がなく、キットたちがどんな強力な力を叩きつけても、一つも傷が出来なかった。

 サイ曰く、遺跡の壁はかつての地上のマナを遮断し、地下の空間を守るために相当頑丈な作りになっているそうだ。柱はあくまで様式を保つ為だけの装飾品で、この空間は壁によって守られているそうなのだった。

 壁にふれると、冷たい石のようなそれにマナが通っているのがわかる。


(動いているのね。流れている)


 まるで生きているかのような壁にレシィはそっと身体をつけた。

 アーチを抜けて一層目に父親の姿はなかった。初めてみる遺跡の装置に乗って、その更に下の階層来たらしいのだが、人の気配はしない。


「レシィ」


 声がかかる。ジェラルドの声だ。レシィはハッとして立ち上がった。辺りの魔物はすべて死骸に変わっていた。それをキットが丁寧に焼いていく。

 こつん。こつん。ころん。

 焼かれた魔物の体内から宝石が転がり出てきた。サイがそれを拾っている。どれも見たことのないものばかりだった。


「この辺りにはいないようだな」


 魔物を処理し終えたキットがレシィの元にやってきた。レシィは頷いた。黙って荷物を渡す。


(パパは異世界の迷い込んだんだ)


 そんなことを考えながら。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ