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この魔術師ども。   作者: 勝研
2/6

この魔術師ども。 二話。

これは多分六話だな。


誤字脱字は気が付いたら直します。

強いものに惹かれるのは、自分が弱いのなら別段不思議なことではないと土屋龍二は思った。


魔術が使えない自分が虐められるのは同然の流れだった。だが分からないことがある、年の近い睦咲姫が自分を庇うことが理解できなかった。


その頃からかもしれない、自分が《睦咲姫》を好きになったのは。


強大な魔術を使う天才の後ろ姿は何より眩しく、無価値な自分は助けるに値する人物ではない。周りもそう思っただろう、だから虐めは加速した。


嫉妬や嫌悪や侮蔑は我慢できた。


しかし、せめて睦咲姫に助けられる資格が欲しかった。


人並みに《魔術》を使えれば、そして《強くなれば》、もしかしたらー。


そして魔術回路の治療のため訪れた小さな施設で、俺は《大道万里》とあった。


《文字魔術師》大道万里。


自分の知るなかで《最強の魔術師》である。





魔術師パルケースは※魔道具《魔の巣》から卵を取り出す。


※魔道具は魔術道具の一種。呪われていたり、現在過去に作られた強力な魔術道具。


魔の巣はその名の通り《魔物を産み出す》事が出来る。


育てた魔物は魔道具によって作られたこともあり、育てた者の命令に従う。地下室にはそうした卵があちらこちらに脈を打ち孵化の時を待っている。


「手駒は揃ったか、、」


重たく振動する低い声が地下室に響く。


狙うのはワルプルギスの魔術師達。彼等の体は重要な材料だった。だが単純な力押しで事は成し遂げられない。


「魔王の復活を━━━器を用意するのだ。」


パルケースは声がする方へと視線を向ける。


周りは暗く姿は見えない、だが誰かは分かる。


魔人貴族ギガントロス。


魔王の片腕であり、6人いる貴族の一人。彼の魔術は動作魔術であり直接的な戦闘能力は他の貴族よりも高い。



魔人の目的は魔界の大穴を通り人間界を支配するというもので所謂侵略者である。しかし、両方の世界を繋ぐ大穴は不安定で、大量の魔人を人間世界に送り込むことが出来ない。防衛側が有利の状態である。


確かに魔人の力は強大であるが、決して最強の存在ではないことを彼自身も知っていた。ギガントロスの戦闘能力も魔法使いと同等の力を持つとされている、しかしこちら側にもそうした魔術師が各系統1人はいるのだ。


「力に力で対向するのは愚策。相手は牙を研いでワルプルギスを狩り場として用意しているのです。魔術協会に仇なす不届きものを炙り出し誅殺する罠を用意している。無策のまま向かえば貴方とて無事ではすみませんよ。」


ゴポリ。


人よりも大きい魔人の姿が現れる。


あえて表現するならば《石像》だった。皮膚は黒く、あちこちに文字魔術を思わせる文字が刻まれ、目は瞑られているが周りは見えているようであった。圧倒的な存在感。


「ならばどうする?奴等の隠れ家には強力な結界が張られている。各個撃破でもするか?だが箱が豪華で中身が石ころでは割には合わないだろう。」


パルケースは首をふる。


「失敗しないコツは、挑戦しない事です。」


ギガントロスは岩のような顔を更に固める。不機嫌な顔だ。どちらかといえば武人気質の彼の思考は、それでも罠を食い破り力を示したいのだろう。


「ワルプルギスの日に我々も相手と戦うことになります。相手の作戦を逆手に取れば、用意周到な作戦ほど脆いものですよ。それまではこちらに━━」


「フンー」


最後まで聞くことなくギガントロスはイライラしながら闇に溶ける。


「、、、貴方の活躍の日は近い。」


パルケースは頭に手を当てる、こめかみの血管が浮き出て脳が疼く。寄生させた魔物が特殊の魔力を自分に供給し、人間の器が壊れようとしていた。


「あの実験は上手くいきました。」


魔物を使い強制的に魔物にする実験。問題は制御が難しい事である事と器には魔術師の生きた体が必要な点だった。人間からの魔人化は魔力・領域・回路を強力にするメリットがあるが同時に、人格崩壊というデメリットもまた存在する。


これを改良し自分を人格を得たまま魔人へと進化させるそれが《パルケース》の実験の最終目的、魔王が誕生した時の地位などは所詮はオマケだった。


「後十体は種蒔きが必要でしょう。さて上手く行きますか、、」


パルケースはそういって作業を続けるのだった。






治安維持課の魔獣対策係は暇であった。暇といっても他の課の手伝いや、書類整理などに回されるのが常である。


今回は黒川と龍二はそうしたの作業に追われていた。


「龍二、これを50枚ずつ打ち込んでくれ、字を間違えるなよ。」


「わかりました。」


常に魔物退治があるわけではない、こうした作業も下端である魔物対策係の仕事であるし、メンバーもこうした作業が嫌いではなかった。


英語圏とは違い使用する文字数が多い漢字圏では、現在も昔ながらの活版印刷機という、沢山の判子のようなものを打ち込んで原紙の文字を書き写していた。慣れれば一枚二、三分で龍二も四分程で1枚を完成させられた。


「平和だな、、まぁ、それが一番なんだろうが。」


一番打ち込みが早いのは黒川だった。職人のように打ち込み、龍二の倍の速さで打ち込んでいく。ちなみに二番目に速いのは大場、一番遅いのは羽田係長である。


「そうですね。」


「、、、」


二人の他に部外者が一人。大道万里である長椅子に仰向けに足を組んだまま寝転がって微動だにしない。変な空気もそのためだ。読んでいるのか、新聞紙を頭に乗せているため眠っているのかも分からない。


「ーそうだ、龍二。」


「えっあ、はい?」


突然の大道の発言にドギマギしながら答える龍二。


「金剛泉、、会いたがっていたぞ、、」


「金剛、、」


金剛泉とは同門であり互いに大道万里に師事していた時に、一緒に修行していた少年のような少女である。少年のように見えたのは髪が短かった事と半ズボンと簡素なシャツを着ていたからであるが最後に別れたのは6年ほど前になり、記憶も朧気であった。


「そうですね。確かに同門ですし、会って昔話を肴に話ししたい気持ちもありますね。あの時は非常に仲が良かったですが彼女が物質魔術の自分の里に戻ってからは一度も会っていないので。」


無理矢理の話題に、大道の真意を探ろうとする龍二だった。


「家に招待されたんだろ?」


「えぇ、しかし里には結界が敷かれていて部外者は立ち入れないので、子供ながら社交辞令だなぁと。」


「、、、」


黒川は大道との話しを聞いていたが途中で作業を止める。


「、、物質魔術師の家の奴だよな?里に来てくれって?」


「ええ、、それが?」


「それ告白だぞ、、」


訳が分からないことをいう黒川を訝しげに見る。


「はぁ何故?!」


「物質魔術師の家系は一族意識が高いんだよ。奴等が作る魔術道具・魔道具は生涯一個か二個、基本的に奴等の魔術は親族や血縁者を鍵にして、自分達の力を高めているからな。一族の数とと信頼できる親族の数で強さが決まるといって良い。結界がある里、その家に招くってことは、、そういうことだろ。」


「まさか、、普通に困るんですが、、」


「あれだ。女心と秋の空というしな、あっちもただ会いたいだけかも知れない。それでもし、まだ気持ちが変わってなかったら?どうすんだ?」


龍二はその言葉を聞いて首をふる。自分は《睦咲姫》が好きなのだから、意味の無い問いだと改めて思ったからだ。咲姫への想いは千太郎と付き合っても変わることはなかった。好きな人が別にいるのに他の女性と付き合うことは出来ない。


「断ります。」


ハッキリとした言葉が部屋に響く。


「勿体ねぇな、物質魔術師の女って愛情深くて尽くしてくれるらしいぞ。まぁ別れる時は面倒臭いらしいけどな。〈睦咲姫〉だっけ、確かに女性は動作魔術師に限るよな。」


黒川の話を聞き流し大道は言い放つ。


「もうひとつお前達にはワルプルギスに参加してもらう。多分パルケースが行動を起こす筈だからな。」


大道万里が名前を出せば、ある程度は仕事の調整が可能であるが、龍二が変に思ったのはそこではなかった。つまり何故、《パルケース》がワルプルギスを狙うかを知っているのかである。


「パルケースの目的は魔王の復活だ、、いやそれは貴族の目的か、、魔王の復活には器が必要なんだ。6つの器である貴族がこの世界に顕現することが復活の条件だ。右足はすでに復活した、、その他の部位である頭の復活は阻止したが何時また復活するか分からない。」


「まさか、、」


「器である貴族をこの世界に顕現させるには《強力な魔術師》を生け贄に儀式なければならない。普段は里や村に結界を張りそこを離れない《優れた魔術師》がワルプルギスには大量に集まる。放っておくかな?」


魔物や魔人を操るとされるパルケース。


魔人は強い。この世界にいる、《魔法使い》ならば簡単に魔人を倒せることができる、しかし魔法使いは最早伝説の人物で都市伝説の様な存在だった。魔人に対抗する方法としては以下。


上級魔術師に戦ってもらうこと。彼等なら一対一であれば比較的余裕をもって倒せる。しかし人数が全国で百人に満たないため、一般的には彼等を除外しなければならない。


魔術師を大量に投入して対抗すること。魔術師の士気や人数が整えば対抗できなくはない相手、更にいえば里に住む魔術師達は能力が高いため、一般的な魔術師より数は少なくて済むだろう。例外として龍二が魔人を単身で倒したが、それは相性が良かった事と自分が少し特殊な魔術師であっただけだ。


「優れた魔術師、、俺を含め睦宗一や及第点の睦咲姫は魔人達の目的であり、いい器になるだろう。」


大道なりの鼓舞なのか、龍二は少し身を震わせた。それは恐怖からか強くなるチャンスという興奮か、それとも好きな人間を守るという目的が発生したからか。


「さてと俺も準備に入るから、ワルプルギスの前日まではいなくなる。それまで牙を磨いでおけよ。黒川お前は、、死ぬなよ。」


大道はよいしょと立ち上がると、ドアを開けて室外へといなくなった。するとー


数十秒後。


「大道!大道万里は何処ですのー!!」


急に騒がしくなった廊下に響く女性の声。


バタン!


木製のドアが開かれ金髪の女性が必死の形相で部屋に現れた。


金髪碧眼の美女。キラキラのプラチナブロンドは綺麗に後ろで纏め結われている花の留め具は魔道具だろうか。身長は175前後、スタイルは細身でありながら、胸のサイズが違和感を覚えるほど大きい。服装は肩口の開いた赤いドレス、揺ったりとしたスカートは膝まで伸びている。


目が眩む程の美人は部屋の中を見渡すと見知った顔を見つけて声を掛ける。


「クロカワじゃない。万里は何処に行ったか分かる?」


「アデルディア嬢、、いやはは、、先程そのドアから外に、、会いませんでしたか?」


アデルディアという女性は考えているのか眉間に手を当てると、溜め息と共に成る程と納得した様子だった。


「逃げーたわね、、」


「逃げる?あの人が、まさか。あの人は俺の知るなかで一番強い魔術師ですよ。」


アデルディアは龍二を睨むと何処からか取り出したか羊皮紙を突き出して、白く美しい細い指で文字をなぞる。


「私は万里との決闘を希望していまーす。音声魔術協会と文字魔術協会の許可もここにある、正式な決闘。これが証明書。」


その内容はこうだ。




【アデルディア・ラン・コーウェルと大道万里との決闘を認める。


決闘内容は二人の話し合いで決め、双方合意の上決闘を開始する。


勝者は敗者の所有物となり、その契約は生涯継続される。


それぞれが血判し、これに合意したものとする。】




アデルディアの血判はなされているが大道の血判はされていなかった。


「えっと、、まだ師匠の血判はされていませんが、、それにこの内容は、、?」


「条件としては不服ですが、しかーたがない。あの男との再戦の為です。この身を餌にすれば奴も内容をのむでしょー。」


しかし大道の反応を見る限り、再戦するとは思えない。


龍二の考えをいえば、内容としてはアデルディアが《どちらに転んでも》勝利する形とならないだろうか。


あくまでも直感だが。


「ここにいないのならば仕方がない。何処に行ったのか探ってー万里は何か言っていませんでしたか?」


「ワルプルギス前日に戻ってくると言っていました。」


「クロカワ、good!ではここで待たせてもらいましょー。」


凍りつく二人を他所にアデルディアはニコニコと一番大きなソファーに腰を下ろした。





アデルディア・ラン・コーウェル。


音声魔術の六音の1つコーウェル家の娘。コーウェル家は一言でいえばイギリス貴族でお金持ち、魔術関連の会社や現在では機械等の魔術以外の産業も手掛けている。年商は800億ドルを下らないという。


彼女自身の音声魔術の才能は皆が認めていて、現在上級魔術師であり魔法使いに近い力を持っているとされる人物。補足としてコーウェル家は魔術学校を開校していて一族の他、多数の生徒に魔術を教えている、そこの生徒の一人が黒川先輩であった。





ワルプルギス前日。


《ワルプルギス》会場となるエンペラーホテルに、警察庁はテロ対策のため5500人もの警官と関係魔術師を500人を導入して警備に当たると発表した。仮宿泊施設は首都圏の一般のビジネスホテルが利用され、魔獣対策係も警察庁の招集により参加することとなった。


特別訓練室は魔術師達が互いに実践形式の戦いを行う事で戦闘経験を培う為の部屋である。大きなドーム方をした直径200メートルほどの建物に数十人もの魔術師がペアを組んでそれぞれ戦っていた。


「ハ!!」


衝撃波が黒川を直撃し数メートル後方に転倒する。ジャージ姿のアデルディアはつまらなそうに、口を尖らす。


「クロカワー、本気出しなさい。」


「、、ほんき、、でずぅ。」


アデルディアは本日30人目の魔術師を戦闘不能にした。しかし、まだ物足りないようで近くに控える魔術師の龍二に視線を向ける。


「どう?万里の弟子、やってみる?もしかしたら勝てるかもよ。」


「手を抜いて頂けるのなら。」


胡座をかいて座っていた龍二は立ち上がり、尻の砂を払う。


龍二とアデルディアは近付き互いの距離を詰める。距離が五メートルほどでアデルディアはニコリとし、両手を軽く上下に構えた。音声魔術師であるアデルディアとしては近距離より遠距離が得意であるが、ここは龍二に譲った形だ。


上級魔術師との戦いはそうそうできない。


龍二としては強くなるために彼女の胸を借りるつもりだった。


ドゥ!!


事前に《保存》しておいた力を足の裏に加え、通常ではあり得ない速度でアデルディアに突撃する龍二。


「mya!!」


魔術で出来た壁が両者の間に発生する。


カキン!


龍二はそれを左の拳で《保存》、右手より飛来した火炎を《それ》で防ぐ。アデルディアがフゥと息を吐くと数十もの斬撃が龍二を襲った。


「はあ!!」


カンカンカンカンカンカン!!


火花が散る程の攻防が続く。その場に釘付けにされた龍二の足元が隆起する。音声魔術は同時に魔術を行使することが難しい、アデルディアは発動を遅らせることで同時に魔術を龍二に放ったのだ。


「踏!」


足裏の《保存》でそれを受け止める。隆起が止むが、それを皮切りに嵐のように龍二に魔術が襲う。


「かぁああああ!!」


カンカンカンキンキンキン!!


火弾、石礫、雹や氷柱それらを魔術で紙一重で保存する。


流れる汗。


アデルディアはもしかしたら自分を殺すつもりでは?と思いながら紙一重で《保存》を発動させていく。ギリギリの攻防。


時間を掛ければ掛けるほどに遅らせて発動させた魔術が狂いもなく同じタイミングで発動する最悪の状況を逃れるために龍二は《保存》されている魔術を解放する。


足元に地面を盛り上げる魔術を《解放》。


グガガガ。


地面の隆起と共にジャンプして、アデルディアに向けて斬撃の魔術を《解放》。まだ足りないと貯めていた全てをアデルディアに解放する。


ドゴガ、ドゴン、ザザザ。


爆音や衝撃波が龍二を襲う。


一般的な音声魔術師ならば肉片すら残らないであろう、魔術の解放。龍二はアデルディアを信頼して解放を行った、彼女の力量なら間違いなく《こんな攻撃では死なない》と。


モクモクー


予感は的中する。


距離を取った龍二が見たものは微笑んだままのアデルディアであった。しかし、服の先端は破れ流石に完璧には防ぎ切れなかった様だった。


「流石、、万里の弟子、直接的な魔術の攻防なら上級魔術師と同等とみまーした。なら志向を変えてみまーす。」


音声魔術師の本領は多彩な魔術の種類、その手数の多さである。


「cwtr、、」


辺りが闇に包まれる。


ババッ!


それは霧なのか龍二の保存を利用してもまた他の霧が次々とその穴を埋める。


「4c5cx、、」


「くっ!」


とにかく距離を取るためにその場を離れようと、走り回るが何処に行っても回りは暗闇一色である。焦りが判断力を鈍らせ、敗色が濃厚となる。


「暗闇で相手の位置も分からない、俺の能力を知る以上、近づいても来ない。そして、、」


打開策━━━無し。


もし他の動作魔術《神眼》を使えれば、状況を打開できただろう。《姿隠し》を使えれば、時間を稼げ接近し攻撃できるかも知れない。だが、自分には《保存》しかない。


手札が一枚の自分では結局限界がある。


しかしー


「道は前にしかない!」


消音されたであろう暗闇に潜むアデルディアに向けて、己の勘だけを頼りに突撃する。


戦略もない獣と同じ思考停止の状態、立ち止まりやられるぐらいならば突撃し続ける。その先相手がいれば全力を叩き込むまで。

確率としては1%もない。


そしてー


敗北したという自覚すらないまま龍二は闇に落ちた。





「大丈夫か?」


気が付けば俯せに倒れていた龍二は大道万里の声によって覚醒した。大道万里は足元の龍二を庇うようにアデルディアに対峙しピリピリとした空気が辺りに漂っている。


万里の隣には白銀の髪を持つ美しい女性が控えていて、龍二が気が付いたことを知ると、しゃがみ怪我の状態を確認する。優しい香りが鼻孔をくすぐる、男勝りな咲姫は香水は使わないが彼女はそうしたものを使うらしい。勿論香水=女性ではないが。


「大丈夫。まだ痛いところはありますか?」


本当に心配している事を感じる仕草、会ったばかりの自分にこうまでしてくれるとはきっと優しい女性なのだろう。


「いつつ、、貴方は、、」


「えっ?!、、っと、、。あの、、ブリリアント、、です。」


驚いたのはいきなり名前を聞かれたからだろう。辿々しい返答から名前は偽名かアダ名で有る可能性を如実に表していた、警戒されているなと感じつつヨロヨロと立ち上がる龍二。


ムスリとした万里の視線にアデルディアは少し言い訳気味に説明する。


「ちょっ万里、違うのよ私は!!アレはまさかあんな簡単な毒で倒れるなんて!治療をしたのは私だし、手加減もしたーよ!!」


「、、、。」


万里は龍二に視線を向けて無事なのを確認すると場の空気はもとに戻りいつものヒョウヒョウとした大道万里になる。


「、、ったく手加減しろよアデ公、、」


「、、アデ公」


アデルディアをそんな呼び方出来るのは大道位であろう。だが大道の様子が戻った事でアデルディアは再度勢いを取り戻す。手に持った羊用紙を大道に突きつける。


「万里!決闘よ、サインしてくださーい!!」


「毎回言っているだろ、、いやだと。互いにメリットなど無いだろ。いや、、勝ったときに俺に金輪際、一生涯近付くなとでも命令すればそれはそれでー」


アデルディアの顔色がみるみる真っ青になる。逆に羊用紙を隠す様に背を向ける。


「何を!ー何でも言うことを聞いてくれる人間を邪険に扱うような人間にはサインさせられませーン!」


「はっはっはっ!ますますいいね、後ろががら空きだぞ。そのおっぱい揉んじまうぞ、んん?」


「万里が胸を揉む最悪です。しかしこれは例え、揉まれても渡せませーン。、、、、んん、、、??」


顔を真っ赤にして何故か揉みやすいよう体を伸ばすアデルディアだが、万里は興が殺がれたのか何もしない、固まり耳をほじる。


「何故止める、万里!!欲しくないのか契約書が?!」


「いや、、お前、嫌だってさっき、、」


「万里は私が嫌だと言ったら止めるのですか?!やれと言ったらやるのでーすか?!なら契約書にサインして、変な命令をしないと約束しなさーい!」


もはや何が訳が分からないまま。


「それは嫌だ。」


「訳がわから、なーい!!万里。訳が分から、なーいよ!!」


多分大道万里は非常に鈍感であり、アデルディアは非常にプライドが高く欲しいものは何があっても欲しがるそんな人なのだ。龍二とブリリアントは互いの顔を見ると困ったように互いに苦笑いをした。




大食堂には多数の警備関係者が集まっていた、明日のワルプルギスに差し支えない程度の酒を飲み士気を高める。ブリリアントと名乗った女性は少し酔ったそんな魔術師に詰め寄られている最中であった。


「うぃ~いいじゃん、これから部屋でぇ二人きりのパーティーしない?うししし。変なことしないよ、、うひ、、」


「いえ、、私は大丈夫です。」


40代ほどの頭の禿げ上がった男が、むせかえるほどの酒気を漂わせながらブリリアントの腕を掴かむ。ブリリアントは断ったのに何故掴まれたのか、そんな状況に狼狽え綺麗な顔を歪ませた。


「大丈夫ぅ。OKってことだよねぇ、、じゃ部屋にいって《やること》やっちゃおう、、ひひひぃ。」


「そういう意味ではなく。離して下さい。私には愛している方がいるのです!その方と結婚をする予定なのです!」


「大丈夫ぅ、大丈夫ぅ。最後のアバンチュールってやつだぁ。それに病み付きになって、求められても俺ぁ気にしないよぉ、人妻寝取り最高ぅ。」


ブリリアントは逃げ出そうとする。しかし男をいなす技術や筋力のない彼女では、男性の筋力にはかなわなかった。


「ちょっと失礼。」


タン。


「ほにゃら、、」


魔術の行使だと、ブリリアントは直感する。同時に酔った男が魔術を使った男━━土屋龍二にもたれ掛かり気絶する。


「龍二さん!あっありがとうございます。今のはアルコールを血液に流したのですか?」


「はははっ。なかなか酷いですね。アルコールを血液にそのまま流せば下手をすれば死んでしまいますよ。今のは只エネルギーを頭部にぶつけただけです。」


龍二は酔っぱらいを近くの椅子に座らせながら説明する。


「ブリリアントさんでしたか。明日はワルプルギスです、早めに部屋に行って休んだ方がいいかもしれない。運というのは案外継続します、特に不運は、、一度寝てリセットした方がいい。」


「そうですか、しかし不運でも無いように感じます。こうして助けてもらいましたし、、」


確かに助けたのは龍二だが、大道の知り合いだから助けただけで普通の一般人なら助けたかは微妙である。


「お礼といっては何ですが、助言、、いえ強くなるヒントを、、」


「?」


何故その様なことを彼女が言ったのかは分からないが、耳を傾ける。どの系統の術者かは分からないが、大道の知り合いである、もしかしたら一流の魔術師かも知れないからだ。


「龍二さんの魔術は不完全です。しかもそれを補うだけの魔術回路が無い。アデルディアさんに負けたのはそれが原因です。」


「、、、」


そんな結論は言われなくても分かっていた。


「、、、それで?俺はもう強くなれないと?」


少し棘のある龍二の言葉にブリリアントは少し慌て、首を横に振る。拳を胸に当て彼女は言葉を絞り出した。


「何故一人で強くなろうとするのですか?自分に足りないものを補えばもっと強くなれますよ。」


ーーそれは。


龍二にとって意地だからかー、自分自身だけで強くならなければ咲姫に強くなったと証明出来ないからか?


多分、根底にあるのは同じものだ《強さを周りに証明したい》という子供じみた考えでしかない。しかし龍二にとってみればそれが今まで生きてきた証であった。


「戦うときは常に一人だ、そう思わなければならない。仲間を信頼することは出来る、共に戦える。だが常に一緒にいるとは限らない。重要な戦いで《一人じゃ何も出来ない》そんな事態になったら困る。」


ブリリアントは少し悲しそうな顔をする。


「、、、」


「龍二さん、これを。」


ブリリアントは恐る恐る懐から指輪を取り出すと隆二に差し出した。手が震えている、緊張しているのだろう。


「受け取れません。そんな義理もない。」


「先程の礼でも?」


頷く龍二。それを見て仕方がないと、ブリリアントは口を開く。


「私はーブリリアントではなく、、」


「分かっています。〈金剛泉〉さん。」


「もし、それを手にしたのならそれ無しではいられなくなる。それならばいっそ、、初めから無い方が良い。」


それを聞いたブリリアント〈金剛泉〉は涙を溜めー


「?!」



瞬間。




ゴゴゴゴッ、ドゴーン。ドゴンゴゴン。


「きゃっ!」


「何だ!!」


ビル全体の振動で転びそうな泉を支えつつ、隆二は何が起きようとしているのか考えて、ある結論に達した。


「これはー」


「エンペラーホテルではない?いや、、」


「陽動か?!」


停電し、予備電源に切り替わったホテル。薄明かりの中、隆二はもうひとつの大事なモノのために走り出した。


消え行く背中を眺め金剛泉は泣き崩れる、その指から落ちた指輪は拾われることはなかった。


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