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この魔術師ども。   作者: 勝研
1/6

この魔術師ども。 1ー1話。

新作。アルドはちょっとお休み、見てくれているかたスイマセン。アイデア不足というより、他のが書きたいんです。同時平行で三作じゃ、ちっとも進まんから。


これはゴールデンウィーク中に完成させたる。


誤字脱字は気付いたら修正します。


2019/0616


協力→強力


魔獣駆除を1日50→5

ある時、神は光あれと言われた。


第一の魔法となる《音声魔法》が誕生した。


そして物質となる大地が誕生する。


第二の魔法となる《物質魔法》の誕生である。


物質は生まれた瞬間に動き出した。


第三の魔法となる《動作魔法》が誕生する。


神は最後に自分の分身たる《人》に魔法を教えた。


最後の魔法となる《文字魔法》が誕生した瞬間だった。



**************************


遥かな昔より魔術師の家系である《むつ家》。世界各所にいる《動作魔術12家》の一つであり、分家を会わせれば《動作魔術師の数は数千人にもなる、巨大な魔術組織である》


睦家は血縁者のみが住む村を作り、魔術の改良や血統を維持した。本家の《睦家》が頂点であり、その下分家《陸奥家》、その下に一般の分家が連なった。


睦家の魔術師としての力は強大で、本家に恥じない魔力を見せたがそれには2つ理由があった。


《交わり》と《廃除》である。


交わりとは《優れた動作魔術師の血統を掛け合わせる》事である。廃除とは《本家以上の力をもった分家の力を削ぐ》事である。それによって睦家はある主の支配者層になっていた。




夜、赤子の鳴き声が聞こえ、睦宗一は廊下から自分のいる広間へ向かう足音で読書を切り上げる。襖が少し開き、廊下の片隅にいた影のような小男が膝をついて報告をしてくる。


「旦那様、産まれました。しかしー」


「、、女か、、」


「はい、、」


睦宗一としては嫡子となる男が良かったが、チャンスはまだあると自分を慰める。それに問題となるのはそれだけではない。


「魔術回路は?領域は?」


「5つ、領域はかなりの広めかと、、」


動作魔術師にとって魔術回路は重要なものである。動作魔術は魔術回路一つにつき1つの魔術を刻み瞬間に使うことができる。魔術回路が多いということは手数や魔術の強化にも繋がるものだからだ。


領域は仮想領域の略称。魔術を使うための白紙の設計図・メモリーの様なもので、魔術の威力・種類・持続や規模に影響する。他には体内魔力貯蔵量であるが空気中に含まれるマナの量は多量であるために結界の中など以外には容量を気にする必要はない。


魔術回路は一般的に2~3つであるから、多少は多いが睦家としては自分と同じ7つは欲しい所であった。


「、、、」


「それよりも些か問題がー」


無表情の睦宗一の顔を見上げながら小男は尚続ける。


「もう一人、分家の末席の赤子がうまれたのですがー」


「分家のそれがー」


なんだと言おうとして、言いたいことを理解する。つまりは自分に報告する程に《優れて》いるのだーと。


「7つ以上ならー壊せ。」


「はっ。」


すっ。


影は後ろに飛ぶと暗闇に交わり消える。先程の言葉から察するに自分よりも優れた資質を持つ赤子だったのだろう。しかし睦家としてはそれを看過できない。


睦家が最高であるからこそ、《睦家》なのである。


それを変える考えは全くなかった。


睦宗一は再び視線を本へと戻し、読書を再開した。





蝉の鳴き声が煩い神社の一角に一人の青年がいた。年は18歳程であろうか、まだ幼さが残るが大人びた雰囲気を纏う青年である。少し長めの黒髪の間から見える目は細長く冷たいが顔全体と合わせてみると、物静かでおとなしい印象が残るだけだった。


土屋龍二それが魔術師でありながら格闘術の鍛練をする青年の名前だ。


「強く、もっと強く。早く、正確に。」


少し色黒の上半身は裸で汗まみれ、しかし空手の型のような動作で拳を足をを正面に打ち出している。


カンカンカン。



手足が伸びきる直前に渇いた音が響く。回りはガランとした何もない場所で、肉体が物にぶつかった音では無いことが分かる。


「龍二また、やってるのか?」


少年の名を呼ぶ声がするが姿は見えない。だが龍二と呼ばれた少年は声の主を知っていた。村唯一の友《陸千太郎》の声である。


「ああ、俺にはこれしかないからな、、」


「まぁ魔術回路が治療した一本と小さな仮想領域じゃあな、、まぁ俺も似たものさ。」


龍二は妊娠中に感染するという病気によって魔術回路と仮想領域が殆どなくボロボロの状態でこの世に生を受けた。勿論受ける視線は哀れみと侮蔑。


対する千太郎の魔術回路は2つ、《姿隠し》と《透過》の魔術を回路に組み込んでいる。確かに魔術回路が2つというのは素質としてはやや低い。


しかし千太郎はそれを緻密な魔術構成図と己の研鑽によってある種、職人の領域にまで己の魔術を昇華した。


あるエピソードがある。


毎日発情期の千太郎は《睦》の姫君の裸を覗こうと心に決めた。周りの女性は年が少し離れているし、丁度良い年齢の娘が彼女だけであるから、対象としては理解できた。


だが問題がある。


仮にも《睦》の本家、その風呂を覗くのは多数の魔術結界を掻い潜らなければならない、動作魔術の特性として持続的な結界は基本的に苦手であるが、本家となれば当然《物質魔術》の結界か《文字魔術》の結界が施されている。


《透過の魔術》は物を通り抜ける魔術であるが、それは物質の通過に関してだけであり、魔術結界を透過する行為はそれとは比べ物にならないほどに難度が高い。例えるならば物質通過は水の壁であり、魔術透過は鉄の壁である。氷の壁でさえない。


それを千太郎は突破した。


オチをいえば千太郎は姫君に結局見つかった。大事になるかと思われたが、そこで千太郎は睦家当主の宗一に《面白い小僧》と気に入られて、週末にバイトのような仕事を依頼されているらしい。


睦の村の若い男達にとって千太郎は男の中の男として、ある種尊敬されている(女には白い目で見られる)


「バイトの方は順調か?」


龍二の問いに千太郎は答える。


「ああ、、だが最近キナ臭いな。都市部で他の魔術師組合の尾行が増えてる。また一戦あるかもな。」


魔術師同士は基本的には無干渉であるが、己の系統こそが最強であるとの自負も又強い。政府から《依頼》の時には共闘などをすることもあるがその摩擦が原因で小競り合いも起こる。またはぐれ魔術師は時に他系統の魔術組織を目の敵にすることもある。


「物質魔術、降魔術のパルケースか、、」


はぐれ魔術師で政府や物質魔術協会から指名手配されているパルケース。最近も国内で降魔術を使ったテロを行っている。都市部に魔術師が集まっているということは何かしらの情報が流れ、警戒しているかもしれない。


「過剰反応する気持ちも分かる。アレが暴れて困るのは身内の《物質魔術》協会だろう。奴のもつ魔道具《魔の巣》はかなり強力な物だからな。単体ならともかく群となると物質魔術の魔術師じゃ、上級じゃないと倒しきれない。」


一番血統を重視する物質魔術師は一族によって実力差能力ににばらつきがある。一部の物質魔術師は魔法使いに匹敵する力をもつとされているが、それ以外はどちらかといえば弱い部類にはいる。


手数・スピードの音声魔術。

特化・持続の物質魔術。

バランスの動作魔術。

特殊・補助の文字魔術。


とはよくいったものである。龍二にしてみても物質魔術協会が動作魔術協会に助けを求める理由としては納得できる。つまり戦闘に向いているのは贔屓目に見ても動作魔術なのだ。


龍二は口を開く。


「それに会合も近い。奴が次に狙うとしたらここだろう。今年は東京だからさ。」


四系統の魔術師達が集まる《会合》は毎年行われている。他系統魔術との接触はほんどない魔術師達、他系統との接点をもてる唯一の場所であり、己の系統こそを最高だと誇るイベント《ワルプルギス》。動作魔術協会の12家の《睦》家も出席する予定である。


「音声魔術の6音と物質魔術の7大、文字魔術の3画も出席するだろう。俺達も駆り出されるぞ。」


千太郎の言葉に疑問を持つ。


「俺達が会合に出席出来るわけがないから、、物質魔術師達の護衛といったところか、、」


「京都に物質魔術の村があるから、振り分け次第ではそちらも有りそうだな。さて、、ん?マジィ。」


ドァンン。


バサバサ。


上空から巨大な物体が飛来した。


それを確認する前に挨拶をする。


「咲姫、おはよう。」


「ええ、おはよう。龍二。」


それは睦家の一人娘《睦咲姫(むつさひめ)》であった。細身であるが痩せ脆いイメージよりは鞭の様なしなやかさと強さをイメージさせる肉体。長く黒い髪を後で簡易に束ね、普段美人に入る類いのその顔は普段のものとは違い怒りに燃えていた。


首を振り辺りの気配を探る咲姫。龍二を確認すると笑顔になるがそれも一瞬の事、険しい顔を作ると龍二に詰め寄る。


「千太郎、いなかった?」


つまり怒りの矛先は千太郎であり、咲姫の逆鱗に触れたのだろう。しかしこの怒り尋常ではないと龍二は思う。もしこのまま千太郎を差し出せばどうなるか、、彼は只では済まないだろう。


千太郎は龍二の唯一の親友である、その友情の固さは鉄よりも固いのである。


「千太郎はー」


殺気を放つ、まるで蛇ににらまれた蛙。


「ついさっきまでここにいた、、」


鉄の強度は脆いつくづく思う龍二。そんなものは天才である彼女の手に掛かれば紙くず同然なのだ。彼女は2つの魔術を発動させる。


《神目》空間を魔術によって解析、本来の姿や弱点などを知るための魔術である。《神目》は調節が難しく、脳に負担を描けるので彼女でも普段はあまり使わない。


《身体強化》全身の筋肉などを強化して、普段の数十倍の力やスピード、耐久力を上昇させる。


瞬間だった。


彼女の姿が消えたと感じた瞬間。


ドゴゴン。


爆音が神社の大木から響く。そこには千太郎の頭だけが木に突き刺さっている光景が見えた。魔術が解けて情けない状態の千太郎を眺めながら龍二は頭を掻く。千太郎を大木に叩き付ければ戦闘向きではない千太郎の頭は、壁に叩きつけた生卵の様に破裂しただろう。


つまり手加減しているのだ。


「、、、はは。」


咲姫は空気を《圧縮》によって纏め方向を換えて放ち大木に穴を空けて、《肉体強化》した体で千太郎を穴に投げ入れたあと、生物の回復力を高める《息吹》によって千太郎を拘束したのだ。


「全く。」


大木の近くの咲姫は上着ポケットから魔道具《九頭竜のしめ縄》を取り出す。大きさとしては少し太めの紐であるが、これによって縛られた者はあらゆる魔術や特殊能力が使えなくなる凶悪な代物であると龍二は知っていた。


手慣れた←(というのは如何なものか)様子で千太郎の両手を背中で縛ると、満足したように笑顔になった。


「千太郎は何をしたんだ?」


「、、知らない!」


不貞腐れた子供の様な事を言って明後日の方を見る。嫉妬の類いが混じった気配、多分千太郎が《咲姫》の目を盗み浮気でもしたのだろう。


言い忘れたが千太郎と咲姫は親に非公認ながら付き合っているのである。二人の関係に対する疎外感を感じつつ、全ての悩みを溜め息と共に吐き出す。


「そうか、、そうだな。」


「今日は仕事?」


「ああ、、もう行く。」


龍二は高校を卒業して、役所で働いている。


階段を咲姫と降りながら職場の事を考えるのだった。





神奈川県警治安維持課の《魔獣対策係》は4人の小数である。魔獣とは時折発生する魔獣化した動物などで、原因としては魔力を取り込みすぎた動物や魔術師による生体実験、召喚、自然発生などで存在が確認されている。頻度としては県で1日5件程度日本全体では200件程であろうか。


重火器等で倒すことも可能であるが、古来から魔術によって倒してきた経緯と経済的に安上がりという理由で現在もこうして魔術師達が魔獣駆除に当たっている。


「そっち行ったよ~っ。」


ドタドタどた。


五体ほどの土人形に追われる犬型の魔獣。土人形を操るのは物質魔術師の大場麗美。物質魔術によって操作可能なコアとなる魔術道具を土に埋めると土人形の出来上がりで、攻撃よりは制圧目的や誘導、盾替わりに使用される。


大場麗美の魔術はこれのみで最大10体程の土人形を操ることができるが、それ以外はいたって平凡な眼鏡を掛けた魔術師である。


「おうおうおう!6525t2z0」


黒川鉄也が放った炎の矢、音声魔術が魔獣に突き刺さる。威力としては銃弾と同じであるはずのそれを受けても怯まない魔獣。正面で魔術を放った鉄也に向かってくる。


「グギャア!!」


「のぁ!」


バリバリ!


魔獣に噛み付かれる寸前魔術が発動して、虹色の障壁が黒川と魔獣の間に現れる。しかし初めの拮抗も徐々に魔獣の勢いに押され始める。


「のぁぁ!龍二!」


呼ばれた龍二は魔獣に接近する。魔獣の横腹に勢いそのまま蹴りを放つ。


そして魔術、動作魔術を解放する。


「!!」


バチュン!!バチャバチャ!!


爆散する魔獣。血塗れになる黒川。


「いや~、終わったね。」


「ちょっと待てよ、龍二どうしてくれる俺の服!新品だったのに!!」


「緊急事態だったのですから、それともあのまま魔獣に噛みつかれていた方が良かったですか?」


苦々しい顔を作る黒川は、ブツブツ文句を言いながら上着に付いた血糊を払う。


「ったく、こんな後輩、、納得いかねぇ。《睦》家の親戚だかなんか知らねえけど、、先輩の知り合いじゃなければ今頃追い出しているぜ。」


「まぁ一番威力のある魔術がアレだからね。炎の矢で倒せなかった黒川君にも落ち度あるでしょ。」


「なんだぁこの眼鏡。」


「ハイハイやめやめ。これで仕事は三割終わり。残りは役所で報告書の作成ね。」


タバコをくわえた初老の男性がワゴン車の扉を開く。係長羽田正人。音声魔術師で言霊を操るが《万象》を操るのではなく、知能のある生物に催眠術を掛ける様な魔術を操る。


「「は~い。」」




ブロロロ。ガタガタ。


石炭で動く所々錆が入ったワゴン車は良く揺れる。車は型落ちでもいまだ馬車が主流なのでこれでも恵まれている方だ。


大きな都市だけに存在する信号の指示に従い車を一時停止する羽田は口を開く。


「大道が署に来るらしい。」


龍二はその名を聞いて懐かしさを覚える。《大道万里》龍二の幼少期は魔術回路が無く全く魔術を使えなかった。それを曲がりなりにも使えるまでに回復させ、高校卒業後には就職先が見付からない自分に役所を紹介してくれた人物でもある。教養がない自分が警察署に勤められるのは《睦家》の名と彼のお陰だろう。


凄腕の文字魔術師であり《魔法使い》といっても過言ではない人物であった。


「放浪癖がある人だけどなんでまた?警察にまた戻るとか?」


「まさか、只の顔出しだよ。昔の職場を見たいんだと。」


「先輩、、元気かなぁ。」


そうしている間に警察署へたどり着き、全員で治安維持課に戻ってくる。部屋の中はカビの臭いがしそうなほど薄暗く、書類棚とテーブル四つが中央に一番奥にもう1つ課長のテーブルがった。


四つのテーブルのうち1つ、少し埃にまみれた席《大道万里》の席に本人が腰を掛けていた。


「皆来たか、俺が来たってことは分かってるだろう。《準備は万端か?》」


口癖と共に現れた彼の予言は午後に的中する。



一般人で魔術の資質を持つものは20人中1人。魔術師の家系でなくとも魔術を使いたいと思う者は少なからずいる。そういった者は魔術アカデミーや魔術教員免許を持つものが運営する私塾等に通うことになる。


ーがやはり中には例外もある、偶然手に入れた魔術教本や素人同然の魔術師が教える場合。大きな確率で事故に至る。本人が死亡するならばまだ運が良い。運が悪ければ魔力が人体に悪影響を与え魔獣に似た症状となる。


《魔人》化である。


一度堕ちたものはもう人間には戻れずに人権を剥奪される。一時は拘束し人と同様の裁判を行おうとする試みもあったのだが、まともな思考すら持たない彼等との対話を諦めざるを得なかった。


魔人化特徴はー


無人の町を三メートルはあろうかという黒い人形の魔人が闊歩する。一歩踏み出す毎に小さな振動と地面にはひび割れが発生する。


「¥)$」""=+」


突如、巨大な弾丸の火球が発生して近くのビルに着弾する。ビルは半壊し、炎上する。そして魔人は何かに反応して吠える。


「ガァァァァ!」


「うてぇ!」


パラパラパラパラ、、


機動隊指揮官の命令による、重火器による一斉射撃。体に当たり肉を抉られても平然と歩みを止めない魔人。町中では流石に長距離からの砲撃は行えないために決定力に欠けていた。


「ライフルなどでは大したダメージは見込めない。魔術による攻撃に切り替える。音声魔術師は後方から援護、接近戦要因の動作と物質魔術師は準備をしろ。」


もはや警察なとではなく、軍隊が必要であったが到着までは治安維持の要である警察が対応しなければならない。火器より威力の高い魔術による足止めをマニュアル通りに選択する司令官。導入できた魔術師の数は100名程、音声魔術師が50名と動作魔術師が35名、物質魔術師は15名。


戦いが始まれば混戦となり、死者が出れば警察の責任問題にも発展する。しかし、これ以上魔人が進めば防衛ラインを突破され民間人に被害が出る。それは身内の死よりもさらに警察や治安組織の地位を揺るがしかねない問題となる。


「よし。」


司令官が覚悟を決め、攻撃が開始される。


ゴオォ!


ドがドガガ。


ドンドン。


音声魔術師が放った巨大な爆炎が魔人を包むがそれでも歩みは止まらない。バリケードも易々と突破される。


カンキンキン。


動作魔術師は魔人の懐へ。魔人の大きさは三メートルほど、遠くから見ると子供が大人と遊んでいるように見える。しかし魔術師達は必死である。単純な魔術の威力は魔人の方が高いために直撃すれば流石に動作魔術師でも無事では済まない。


魔人は流石に無視できないと考えたのか歩みを止めて、7~8人の

動作魔術師達と互角の戦いを続けるが、基礎魔術力の差か徐々に一人また一人と吹き飛ばされる。


物質魔術師は武器を手にしているが、乱戦の中魔人に一撃を加えられる者は存在せず、また防御面の不安からか及び腰であった。


「、、、決死とはよく言ったものだ、」


魔術師達にも分かっていた。実力としては倒せない相手ではない、しかしだからといって《命を賭けて倒す敵でもない》。彼等が悪いわけではない。自分達の役目は時間稼ぎ、軍か到着すれば処理してくれる相手なのだから。


「命令に従うだけマシだということか、、ん?」


魔術師達がいなくなり魔人だけになった大通り、魔人と対面する集団があった。


「あれば魔獣対策係ですね。はて今回は《道路交通整理》や《地域住民の誘導》の指示を出したのですが、、」


対策室進行調整役の男が呟く。


「魔獣対策ということは曲がりなりにも《魔術師》だろう。魔術師は全員魔人との戦闘要員だ、頭数にいれてやれ。それよりも防衛ラインの引き下げと軽傷の魔術師の回復と再編成をしろ。」


司令官が冷たく言いはなった。




「無理、無理です!!止めて!」


「無駄ですよ、黒川さん。《こういう人》です」


黒川鉄也の泣き声とも悲鳴ともとれる声を聞きながら、彼を諭す龍二。後ろに控えるのは大道万里と大場麗美。


「お前たち強くなりたいんだろ?機会を与えてやるっていってんだ、有り難いだろう。先輩からの愛の鞭だ。」


「相手は魔人ですよ、自殺ですよ自殺!!見たでしょさっき他の魔術師達をボコボコにしてたのを!俺と他の魔術師と大した違いはありません!!!」


そうだったな、とボリボリとボサボサの頭を掻くとトレンチコートの内側からチョーカーを取り出した。


「んじゃこれ貸してやるよ。」


「??」


「首にはめると音声魔術の威力が底上げされるチョーカーだ。お前の銀玉鉄砲がエアガンぐらいにはなるだろう。龍二、お前はいるか?」


龍二は首を横にふる。大道の目に少し驚きが混じるのを見逃さなかった龍二、予め何か補助的なアイテムを渡すつもりだったのだろう。


大道万里は《適当》な事をする。この魔人騒動の事を知っていたのならば、黒川や自分が魔人を倒せると判断したに違いない。準備を怠らないのは《文字魔術師》の鉄則だ。


ならば、信じてくれた師を失望させたくはない、彼の期待以上の男になりたかった。


「龍二、《道は何処にある?》」


「道は常に前にあります。」


ニヤリと笑う二人、何故か目をキラキラと輝かせる大場は《良いわぁ~、師弟もの》と訳の分からない言葉を呟く。


「行け!!」


大道が黒川の背中に蹴りを入れたのが合図だった。


大場の操る土人形四体ずつが左右より魔人を正面から龍二と黒川が囲む。黒川が慌ててチョーカーをつけると音声魔術を放つ。


「6525t2z0」


ドブン、ドバン。


5本の炎の矢が魔人に当たる。本来であれば軽く表面を撫でるだけのそれは魔人の体に当たると爆発し体を抉った。


「ガァァァァ!!」


「すげぇ!これなら。」


まるで戦車砲の様な魔術を放つ黒川を敵と認識したのか、素早い速度で黒川に突撃する。黒川が反応したのは魔人が魔術で強化された拳を振り上げた時だった。


「マジか!!」


回避不可能。


濃厚な死の匂い。


ガァキィン。


渇いた金属音が回りに響く。


「ガァ?!」


魔人が戸惑ったのも無理はない。拳が振るわれそれが止まるなどということは魔人自身がそうしようと思わなければ、あり得ない現象なのだからー


しかし


それを行ったのは反対側にいた人間の魔術師の拳だった。


黒川と魔人との間に入った、土屋龍二の拳はいとも簡単に魔人の拳を受け止めていた。


何かの間違いだ。と思ったのか再び拳を振るう魔人。


ガキン、ガキン。


「ガァァァァ!ガァァァァ!!!」


最早それは偶然ではなかった。魔人の魔術で強化された拳の攻撃が、まるで何かに弾かれるように止められ防がれる。


「止めているのではない、防いでいる訳でもない。」


ガキンギキン、ガキン、ガキン。


魔人の攻撃は素早い、だが防がれたことによる焦りと怒り、自分への強さへの自惚れが攻撃を単調なものへとかえる。それを捌くのは《大道との血へドを吐くような修行》をくぐり抜けた龍二には目を瞑っていても行えるほど単純な作業だった。


「ウガアァァァ!!」


「お前は選択を誤ったな。初めの攻撃が防がれたとき諦め距離をとれば勝負は分からなかった。」


キィン。


ピトリ。


龍二は軽く拳を魔人の臍の辺りに密着させる。


魔人は龍二の放つ殺気を感じたのか、後方へ逃れようとするが大場麗美の土人形が邪魔をする。脆い土人形だがその数瞬が生死を分けた。


「解放!」


小さな魔術の波動は魔人の体内に針のように侵入し、四方へ力を解放する。小粒の種が巨大な大木に一瞬のうちに変化したような成長、肉体の強度を易々と突破、魔人の体はパァンという破裂音と共に破裂する。


《保存》


それが土屋龍二の使える唯一の魔術である。


本来ならば大した保存は出来ない筈のものだ。


保存するための器となる魔力貯蔵量や魔術回路がそれこそ相手の攻撃力を上回るほど《巨大》でなければならない。


人には不可能な類いのもの。


ましてや動きのあるものに魔術を合わせるのは《至難》


だがそれを成し遂げた。


一本一本では使い物にならないバラバラの魔術回路をまるで太いしめ縄のように強力に編み上げた《文字魔術師》の力と本人の血の滲むような努力。彼が触れ、保存できないものなど存在しなかった。


別名【保存返し】


大道万里の最高傑作。


歪に特化した力は魔人の力を易々と凌駕した。


バラバラの肉塊になった魔人を気にすることなく師である大道万里へと振り替える龍二の表情に喜びはない。


「強くなれば、、俺は、、」


土屋龍二の呟いたその言葉は呪いなのかも知れなかった。



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