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とある小島の物語  作者: うらのうらら
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入り江にて

深夜の勢いで投稿します。適当に書き進められたらいいな。

 6月6日 晴れ 南の風

 今日は良い天気だったので、朝早くからじいちゃんと一緒に浜辺に行きました。

 嵐のあとは色々と流れ着いていることがあるので、じいちゃんはわくわくニコニコしていました。



 そこまで書くと、筆が止まる。

 書くことがない。

 ナギは頭をペンでコリコリ引っ掻いたが、いいことが思い浮かぶ訳もない。

 それもそのはず。

 今はまだ朝ごはんを終えたばかり。

 今日という日はまだ始まったばかりなのだ。

 日記を書くような時間ではないだろう。

 けれど、この面倒な作業を一刻も早く終わらせてしまいたかった。

「おぉい、ナギ!置いていくぞ〜」

 すっかり準備を終えて待ちくたびれた祖父が、家の外からナギを呼ぶ。

「わー!!待ってー!!」

 弾かれたように顔を上げると、

「えーい!もう、これでいーや!」

 ナギは日記帳とペンを机に放り投げ、壁にかけてあったカバンをひったくり、

「行ってきまーすー!!」

 母親の気を付けてね、という声も届かない勢いで、玄関をあとにするのだった。


「なーにか、なーいかなー♪」

 ひょいひょいと瓦礫を避けながら、ナギは浜辺を弾むように歩いていた。

 浜辺の白い砂粒に日があたってキラキラと光っている。

「なーにか、あーるかなー♪」

 ナギが調子っぱずれの歌を口ずさみ、ぴょんとジャンプするたびに、背中で一本にまとめた茶髪がふわりと揺れた。

 その様子はまるで、久しぶりにお散歩に出て大層ご機嫌な犬が尻尾をふるのに似ている。

「じいちゃ〜ん、遅いよ〜!」

 その後ろを、眩しそうに目を細めた初老すぎの男性が、ゆったり歩いて追いかける。ナギの祖父バルドだ。

「おう、ナギ、瓦礫があって危ねぇから、あまり跳ねるな。ほらそこは転ぶと痛えぞ。まったく、しょうがねぇなぁ…」

 少しぶっきらぼうな物言いだが、孫を見るその視線はどこまでも優しい。

「こりゃあ、また、片付けが面倒くさそうだなぁ…しょうがねぇなぁ…」

 足元に落ちている漂着物をざっと眺め、バルドは独りごちた。

 二人は島の南の入り江に来ていた。

 嵐のあとは必ず、南の浜に物が流されてくるのだ。

 それはどこかで難破した船の残骸だったり、積荷だったり、流木だったりと様々で、使えるものがあれば拾って使う。使えるものがなくても、適当に片付けておかないといつの間にか浜辺が瓦礫で埋まってしまうので、嵐のあとにはこうして浜辺を歩くことにしていた。

 浜辺が瓦礫で埋まってしまうと、漁もやりにくい。が、それ以上に、南の入り江を綺麗にしておかねばならない理由があった。

「じーいーちゃーん!はーやーくー!」

 しかし、そんな大事なことも、子供にとっては関係がないらしい。

 ナギははじけるような笑顔で、バルドを呼んだ。


 ふと、何かに気付いたようにナギの足が止まったかと思うと、小走りでその目標物へと近づいた。

 白い木造りのそれは、瓦礫などではなく、美しい笹の葉の形をした小舟だった。

「じいちゃん!船だよ!」

 ナギは大発見にテンションを上げ、叫びながら船に走り寄る。

「あたしが一番乗りー!!」

 大人が二人縦に寝られるほどの大きさ。ところどころに金の装飾が施されており見るからにお高そうだが、砂やワカメがへばりついているし、岩礁にぶつかったのだろう、かなり船体が傷付いてしまっている。

 この船はどこから来たんだろう。という疑問が、ナギの頭に一瞬浮かび、しかし次の瞬間で消え失せた。

 船の中に人を見つけたからだ。

「じいちゃん!誰かいる!」

 ボートの中には、だらりと力なく横たわっている少年の姿。少し離れた場所でゴミを片付けている祖父に向かって、ナギが叫んだ。

「何!?ちょっと待て!!触るなよ!!」

「早くー!!」

 ナギの様子にバルドも慌てて駆け寄ると、船の側に膝をついた。そして慣れた動作で少年の腕を持ち上げ、脈と呼吸を確かめる。

「生きてる!?大丈夫!?」

 涙を浮かべてパニックになるナギを片手で制し、バルドは自分の上着を脱いで少年にかけると、横抱きに抱き上げた。

 体が冷えたせいか少年は血色を失っているが、その血管は規則正しく脈打っているし、弱々しいが呼吸もしている。

「大丈夫、生きている。体が冷えているから、すぐに温めてあげよう。ナギも手伝えるな?」

 努めて優しく、安心させるように、言った。

 ナギはハッとした顔になって頷くと、家に向かって走り出す。

「先に帰って、母さんに伝えてくるから!」


 ナギが走り去った方に、バルドも歩く。

 そして、腕の中の少年に目を落とした。

 年はナギとそう変わらないくらいだろう。美しい金糸のような髪、傷だらけだがきめ細かい白い肌。着ている服には金のボタンや、金糸の装飾。瞳は閉ざされており、長いまつ毛がその目元に影を落としていた。

 バルドは重々しいため息を一つ吐くと、視線を前に戻し

「とんでもないのが流れてきたな…」

 苦い顔で独りごちたのだった。



 6月6日 晴れ 南の風

 今日は良い天気だったので、朝早くからじいちゃんと一緒に浜辺に行きました。

 嵐のあとは色々と流れ着いていることがあるので、じいちゃんはわくわくニコニコしていました。

 波打ち際にはごみと一緒に、きれいな小型艇が流れ着いていて、中には可愛い男の子が一人、寝ていました。

 男の子はじいちゃんが家まで連れて帰りました。

 あたしたちが浜に行くといつもろくでもない物を拾ってくると文句を言っていた母さんも、今回はものすごくびっくりしていました。

 男の子は目を覚ましません。大丈夫かな。早く元気になるといいな。

初老とは40歳程度を指した言葉だったそうですが、現代では60歳くらいを言うことが多いようですね。

ナギのじーちゃんは50歳くらいを想定しています。

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