第六話 とにかく、許せなかった!(蒲田蓮(仮)さんの場合)
はう……年度末ということで多くのイベントに遭遇して大変だった蘆花です。友達がもう……ね。全くトイレにペイントするならするで油性で描かないで下さいよ。怪奇現象に見せかけるために、とはいえ掃除するのが大変なんですよ。せめて水性か酵素で分解できるものにしてくださいよ、ぷんぷん。
今回は……寄生型の霊の方ですね……匿名希望に、あれ、この方、何歳ですか?
はがきにちゃんと享年は書いて下さいと伝えていましたのに……まだ、お亡くなりではない? 部屋の奥にいられたままで困っています。あぁ、そりゃ大変ですね〜♪
どうしてこの方がそんなことになったのかこれからお話しします、ね。
久しぶりに話すのでちょっと緊張しますが、ではどうぞ〜♪
祇園精舎の鐘の音、諸行無常の響きあり……。
そいつは平家物語を片手にこのお気に入りのフレーズを繰り返し読んでいた。
何度も何度も好きなものを食するがごとく口ずさむ。
そいつ曰く、この時が至福と。
この味もない学校で色をつけるのはこの愛読している本。これがあればごはん三杯は生けるとまでいっていたような気がした……。
「まったく、これだから何も考えのない人は嫌いなんだよね」
カラスが巣に帰るような夕暮れ時。
校庭の人があまり来ないところで残酷に笑っているのはそいつ……蒲田蓮だ。
そいつが常備している本を破り捨ててしまおうとしたとき、急に現れて俺たちを皆殺しにしたのは……。
「やだな〜、殺しって言う言葉使わないでくれないかな。まるで僕が本当に殺めてしまったみたいじゃないか♪」
だって、君たちの体は、生かしているじゃないか。
体……だけだけどね。
魂の入っていない体を押し退けて、蓮は取り戻した本を持って上機嫌に帰路へと立つ。
蓮は典型的なマニアである。
好きなものは古文と歴史。
休み時間はほとんど本を読むことに没頭して、クラスではつねに浮いた存在。だから、いじめっ子グループに目をつけられた――だが、蓮は頭が良かった。
のらりくねりと逆に返り討ちにしては好きなことに時間を割く。
クラスに浮いているとは言ったが、協力はしないわけでもなく、与えられた仕事は完ぺきにこなし、成績もクラスの中ではトップクラスであった。早い話、要領のいい生徒だったのだ。
まぁ、どこぞの大学で歴史を専攻するんだぁ、という人生の目標を掲げていた。
だからこそ、よけいいじめっ子グループは蓮を嫉んだ。
蓮の大事にしている平家物語のつづった本を盗んでしまったのだ。
それが、自分たちの一生を終わらせることになるとも知らずに。
「まったく。僕がまだ優しく、無視するだけですませておいたのに」
刈り取った魂を手玉にしてくるくるとかき乱す。
悲鳴、泣き叫ぶ声が暗い一室に響く。
それをうっとりと蓮はお気に入りの玩具を手にした赤ん坊のようにほほを緩ます。
ああ。もうすぐ体が死に逝く魂ってどうしてこんなに面白いのだろう……。
魂と体が分かれてしまったら、数時間立たずに体の機能は凍結、見た目自然死したかのようにこいつらは一生を終えるのだ。
「まぁ、覚醒剤を体に取り込んでいたそうだから、そっち系で処理されるかもね〜」
書類上で。
くすくすと思わず笑ってしまう。
今、ひとつの魂が、消失した。
『死んだ』のだ。完全に。
この世に帰る場所がないものはあの世に行くのが定め。
あの世がどこだかよくわからないけど、もう、あいつの頭に響く声を聞かなくて済むと思うとほっとした。
うるさかったな……もう、読書の邪魔だったよ。
何度言い聞かせたか、わからないけどさ。
これで永遠に聞かなくて済むようになった。
「なんで……」
あ、思考が残っているの……しぶといね、君。
「こんな力があるなら最初っから使えば良かったじゃないか! 俺たちをおまえは結局小馬鹿にするのか!」
結果論的にしてみればそうかもしれないね〜。でも、君たちがいけないんだよ。だって、人が嫌がることをし続けたら、どうなるか予想がつかない……愚民だったのだから。
僕がいつまでも我慢できると思ったのか?
この世から君達を消させる能力を持ちながら。
もっとも、こんな不気味な能力があるだなんていっていなかったけど。
でも、僕のせいより、自分の愚かさを恨むがいい。
“ギャー”
あ、また1つの魂が消失した。
ギャーだって、稚拙な表現だよね。
そして蓮は取り戻した平家物語を愛でるように一句一句口ずさむ。
こういう力を持っていたからこそ、風の前の塵に同じという語句に感慨が持てた。
すべてはそう……大きな力の前には儚く散るのが運命。
だが、ここで生きている今塵を積もらせてもいい。
英知を望んでも。
好きなものを追求するのも。
好きなものに姿を変えることも。
でも、そんな一途な思いを邪魔する輩が出たら……払いのけたいと思うのもまた真理。
君達はどうしてそれを分からなかったのだろうね……ただ享楽に、惰眠を貪るならばまだ僕は何もしなかっただろう。ただ、僕が壊れていく様を見たい、だとか、泣き顔、夢破れた姿……負の感情しかないものにしたてようとした……しかもたかが【遊び】と称して。
許される範囲だと思うかい?
「だから、消えてしまえ」
蓮の学校で覚醒剤を使用し、急死した生徒が続出したというニュースが飛び込んだのは。
だが……。
「……」
まさか、君がゴキブリ並みに生命力があるとは思わなかったよ。
一名、意識不明のまま病院に運ばれ、植物人間となって治療を受け続けているとは……。
「ん〜、まぁ、いいや」
部屋に閉じ込めた魂のことを忘れ、平家物語を手に、蓮は今日も学校に登校した。
ん〜、そういうことだったわけですか。まぁ、この話のコンセプトといいますか救済処置としてまだ起きていない事件ですので、何とかそれに当てはまらないように清く正しく行動してください。
そりゃ、蓮さんの力を無効化する方法なら私は知っていますが……あなたはまたこの世に戻っても何をするのですか? こんな目にあって当然な人にいちいち付き合っていたら私の身がもちませんよ。
だいたい、常識的に考えて腐ったミカンは丸ごと捨てるでしょ?
ただなにも目的もなく、人が嫌がる姿を見るしか能がないのでしたら私だったら、救う気になれませんね。むしろ蓮さんの方を応援しますね。
博愛な友達だったら……もしかしたら……。
でも、やはりこういうことが起こさないように努めるのが一番ですよ! つうか、人のものを盗んで捨てようとしたくせに何を被害者面しているのかが理解しがたいです。
あなたの家庭に、心にたとえ問題があったとしても、ですよ。
あたる相手と行動を間違えたあなたに救いの手を差し伸べる奇特な方は少ないのですから……。
では、アディオス、アディオス。