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第三話 それしかないと思っていた、闇から逃れるには(中野啓(仮)さんの場合)

チョコレートがおいしい季節になって個人的には嬉しい蘆花です。

仲間と共にお茶会を開きまして、甘くておいしいものを持参して……今流行の友チョコ交換会で盛り上がってきました♪

その中に、リキュールの入ったチョコがありまして……お酒の弱い私はそのあと暴走&二日酔いとなり……これが、更新が遅れた理由です。


で、今回の話は私の仲間の中でも残酷な魂を持つ友が提供してくれたお話です。


その友は非力です。箸より重いものを持たない主義だというのですが……。



太陽は西に沈みかけていた、のがよく見えた。

窓の格子もない、はっきりと、クリアに……こんなにもはっきりと夕焼けが見えたのは……生まれて此の方なかったのかもしれない。

そしてこれからも、ない。

最後、……だから。

息……苦しいな……。

やだな……。

せっかく、暗い闇、から逃れたと……思ったのに……。

いしき、が、また、やみに、のまれ、て……い、くぅ……。

いIi、やYaぁあああああああぁああAaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!








後は乱雑とした意味のない言葉が、渦となったぐらいか……。

まったくもって愚かな、考えの浅い人形よ。

言われたままに、自我を失い傀儡となった君は僕の声に反応し、縄を首に飾り、高い空へと飛び出していく。

勢いをつけたためか、ぐきっと、僕にとっては心地のいい音を鳴らし……飛び出した瞳からは下界を見下ろし……無様に口から泡を立てる……。

簡単に息を止めさせないし、目は閉じさせないよ。だって、この姿こそ、僕が求める究極の……。


「まったく、こんなまやかしですむなんてかなりお買い得ってカンジ〜♪」

逢魔が時――けたけたとその日高層マンションの屋上で笑うのはどこかの制服(地元ならばすぐにわかるG中学校のものだ)を着込んだ中学生が笑っていた。くるくると携帯電話を回すところはいかにも今時といった感じだ。

そんな中学生が見下げた先には縄があった。

そして縄の結ぶ先には……。


「いくら文明が発達したって、古の昔から変わらないよな〜、人間って。こんな便利な携帯電話が流行ろうと、それで正しい答えが見つかると思っているのかな? ま、言っても無駄か〜☆」

僕にしてみれば、君の恐怖に満ちた顔、あきちゃったからさっさとメインディッシュを頂くだけで、ハイさよなら。

「だって、もう死んじゃうからね、君……」

最後に中学生が舌なめずりをし、微笑む。

道化師のように、最後だけは笑顔でさよならしてあげる♪ だって、これが《川瀬千裕》という偽りの名で道化を演じた、僕のこだわり。












G中学校。

その学校の悪名が轟かすにはこの後、五年間の長い年月が必要となる。

全生徒の半数を登校拒否にした、学校崩壊を起こした学校。

なぜ五年という長い年月を必要としたのか、それは……学校側にも、PTA側にも問題があったといわざる終えない。そして……インターネットというツールにも。

法的拘束力のない、場所で起きてしまった……いや、そんなものただの体のいい言い訳にしか聞こえないだろう……遺族にしてみれば。


それに、あんな書き込み自体防ごうとすれば防げたのだ。

啓さんの首吊り自殺だって……。

でも、ソレを面白そうに眺め、裏から手を回していた、道化師がいるとは普通考えないだろうから。






五年前――。

これは今思えば一人の闇の道化師がひょいっと現われたことから始まっていた。

道化師に言わせて見れば、ここはすでに基盤が出来ていて仕事がしやすかったという――校則だけにしか頭が廻らなかった教育委員会に、いじめを見て見ぬフリをする教師陣……そして愚かにも一本の道しか見ていないおとなしいよい子……大人の都合だけにいい『よい子』がたまっていたから、と。

だから、すぐに行動に移せたと道化師は言ってのけた。



そんな道化師が言う基盤ができているというG中学校に一人の転校生がニ学年に入ってきた。

「川瀬千裕です。よろしくお願いします」

ぼさぼさした黒髪に、牛乳瓶めがね、舌足らずな発音。

それだけで、十分だった。

かちがちの校則、勉強時間によって生まれたストレスを発散する、生贄に。


千裕が傷付けていく様は道端に投げ捨ててある汚らしい人形を連想させる。

どんなに懇願しても、どんなに泣きじゃくっても……止むことのない陰湿ないじめ。

G中学校の裏サイトで千裕の名が祭り上げられるのも時間の問題だった。



「で、むかつくよね、千裕って」

中野啓と呼ばれる中学生はいたって見た目も、成績も光るものはない、変哲のない中学生だった。

ただ、啓も裏サイトに書き込むような下衆だったことは変わらない。

千裕に対する罵詈雑言を書き足し、読みとっていくことで満足していた。


自分より惨めな中学生がいる……リアルだからこそ、見下げる対象がいることで心の均衡を取り持っていたのだ……中学生という多感な年頃を。







だから、闇の道化師は……啓を選んだのだ。

「まぁ、別に誰だってよかったけどさ☆」

千裕と名乗っていた道化師は吊るされた同校の生徒の首を優しく、触れた。

縄が食い込んでいるソレはざらざらと道化師にとっては最高の肌触りだった。どんどん熱がなくなるけど、ぬるい、今の状態を気に入っていた。

「君が一番、友達が多かったからかな……だからこそ、次も楽しめるんだよ……」

鬱という甘美な汁を。










いじめが原因で、千裕が来なくなったのは……間もなくだった。

『あ、やっぱし』

『あ〜、いなくなってせいせいした』

『弱い人間はだめよねぇ』

学校に来なくなった千裕に対する評価はまさに冷酷なものだった。

それが、道化師の狙いだったと……誰も気がつかなかったのも悲惨な運命に向かうことになる……《千裕》が、いたことで発散されていたストレスが、どこに向かうか誰も考えていなかったことに!






「それからすぐだったよね♪ 君の学校の裏サイトが……疑心暗鬼の渦に飲み込まれたのは☆」

次は誰に《千裕》と同じ役割をさせるかって、揉めていたもの。

《千裕》が来る前の学校で、いじめられていた子はみんな既に不登校になっていたよね……。

すべて《千裕》がきっかけだったんだよ。

君たちの心の闇を、野晴らしにしたの。

「途中で気がつけば、よかったのに、ね☆」

そして、十日前……裏サイトに《中野啓》という名前が書き込まれた。

もちろん本人もちゃんと参加していたチャットで……ま、あ、そういうの仕組んだの、僕だけど。

「酷く狼狽していたよね……実に滑稽だったよ。そもそもネットで叩かれたイコール現実世界にもって発想飛びすぎ〜♪ で〜も、たしかにあの学校だったら《千裕》が受けていたことすべてを受けるはめになると考えちゃうよね☆」

この数日間の出来事に思わず、噴出す。


裏サイトの掲示板の自分に対する書き込みを見て、啓は顔を青ざめていた。

暗い言葉に、陰湿な書き込み。

死を連想するものは当たり前……罵倒だって、どんどん苛烈していく……。

絶えず、絶えず。

不吉な言語だけが画面に広がった。

「嫌、そんなの、嫌……」

啓は、思わず、パソコンの電源を切った。知っていると思うが、終了オプションにしないと快適なパソコン生活を起こる上では必要なことなのに……啓はソレをすることさえも忘れていた。

動揺していた。

道化師の目が、らんらんと光ったのもこの時だった。

道化師には古くからは隠れ蓑、透明人間、光化学迷彩スーツ……ステルスといった人間の目では見えない姿で獲物を追跡できる力がある。

すかさずパソコンの電源を入れ、自身の携帯電話でさらに《中野啓》についての悪口を書き込む。


不可解さと、恐怖が啓に襲い掛かる。


にんまりと笑うと、今度は啓の耳元で道化師は呟く……暴言を。



ねぇねぇ、あんたの学校ってすでに登校拒否何人いるの〜、教育環境悪すぎ〜そんな所にいて、いい高校に入れると思っているの?

それにさ、そんな屑学校でも……あ〜あ〜、こんなにいっぱいの人に君は嫌なやつだと認識させられているんだ〜、これで、ろくな大人になれるの?

馬鹿じゃない!

そんな甘い世の中なわけないジャン……落伍者。


「止めて……止めてよ……」

まだ、数日前までは啓は泣いていた。

苦しさを紛らわすため。

でも、道化師の言葉はとまらない。




啓が泣かなくなるのもすぐだった。

けして強くなったわけではない。

疲れたのだ……泣いても仕方が無いから。

だが、それは……啓の嫌っている《闇》とやらを溜め込むことになる。


誰にも相談できずに――言ったら絶対変なやつだといわれ、詰られるから――誰にも言えなかった。

つらい、つらい……。

苦しい、苦しい……。

でも、吐き出せない。



ニタニタを笑う道化師。

でも、飽きてきた。

新しいショーに持ち込もうとする。




そもそもこんなところで書き込みをしていたことじたい……愚の骨頂。ほら、みんなも笑っているよ、あなたのこと……。

ぐすぐす……。

泣いて何とかなるとか甘いこと考えていないよね? だって、知っているでしょ……《千裕》で。

君自身加わってたじゃない、実物見てきたじゃない。

言ってあげる……お終いだよ。

ほら、暗い、暗いものがあふれ出てるよ〜♪


ほらこの縄を持って……。

ありゃ、まだ来ている。

じゃ、ここから逃れる為に……飛び降りないと、ネ……。


以上が、啓がこの世で最後に聞いた言葉であった。
















「あ〜、楽しかった♪ これからもまだどろどろするのが楽しみだよ」

道化師は手帳を取り出す。記載しているのは目の前の死体の親しい友人達。

「さってと、次はこの子あたりを狙ってみるかな……この子がこの裏サイトに誘った張本人だし、きっとすごく嘆いてくれるし、慌てそうだ。それとも、まだこの家に居座ろうか……親御さんの昼メロ並みのどす黒いショーを見せてもらえそうだし……どっちにしようかな、迷うな〜♪」

鼻歌交じりに道化師は次の計画を進めようとしていた。


道化師が去るまで――五年間の長く、つらい戦いが始まった、ばかりだった……。




その前に、私たちの『バレンタインデーだ、チョコ食ってインフルエンザを撲滅ダー! 会』に参加しましたよ、友は。

この友の意地の悪い所は次、狙うのは犠牲者と縁の強いものに取り付くところです。

そっちのほうが芋づる式で楽しめる、というのが主な理由だそうです。

どうしてこうまどろっこしい手を友が好むのかというと罠にかかっているのも気がつかず、なおかつ最後血相変えて慌てているのがぞくぞくする。直接やらないのは自分の手を汚したくない。つうか、汚す価値のないのしか狙ってないから当然だとか……趣味、良くないですね。


まぁ、友が一番先に狙うのは同じくらい趣味の悪い方々ですけど。似たもの同士と言うか……似ているからこそターゲットにするのかも。


では、アディオス、アディオス。



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