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最終話 言霊にした願い(胡中美亜(仮)さんの場合)

この話を最後にこのシリーズは終了となりました。皆様、最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。

まぁ、終了となった理由といいますと早い話ネタがなくなってしまったといいますか、こちらとしてもこれ以上は別にどうでもいいといいますか……。

目的達成できたのならあとは口説く時間のほうがほしいんだよ、僕は! と台詞を友から聞かされたといいますか……。


一話完結型にはしましたが夏の特別編も込みで一応繋がっています。

といいますか、繋がっていると、言い切れば、ですけどね。

そう、この、『言霊にしてはいけない怪談』は、すべて私のある友が……私の『見た』ある残酷な未来を聞きに来たときから、始まっていましたね……。




「……つい、やっちゃった、な……うん」

ある郊外の巨大ショッピングセンターの駐車場でランドセルを背負った髪の長い子どもが遠い目で呟いていた。

車もなく、つい先日閉店セールをした、人気のないところで。

たった一人。

いや、数分前は自分をあわせて二人いた。

ただ――消した。影も残さず、完全に消滅させた。



苦痛も快楽も、与えずに。

ある意味では幸せな死。

ある意味ではもっとも残酷な死。

だって、僕の力の本領から、したらね……。


「ま、むかついたんだから、仕方がないか♪」

静寂だった空間に雲雀のように美しい声が響く。

小学生は髪を風になびかせ、月夜を見つめる。

長かった髪が見る見る短くなっていく――月の光りの魔力に偽りの姿が掻き消され、子どもは先ほどの可愛らしいがいたって凡庸な借り物の小学生ではなく、本来の、邪悪かつ強大な力をもつ者へと――変貌させていく。

銀色の仮面に漆黒の鎧を身に纏い、人間の鮮血のように美しくも残虐な緋色のマントが白い月に導かれ、顕在。



「これからが、本番……でいいよね、いたぶるの」

気分が高揚する。

銀色の仮面の奥には頬を桜色に輝かせ、サディステックな悦びに浸ろうとしている顔があった。

もし、この場に子のこの友や眷属がいたならば……あ~、また悪い癖が始まったと、嘆くように言うが、内心はドキドキと楽しいショーが始まるのを待つ観客か執行者へと大半は変るだろう。




そう――。

「先輩、今回の獲物はこれですか?」

「お前にしては、ちんけな小物に見えるが……あ、まさか最近騒がれている、アレか?」

道化師と鬼。


「マスター、マスター、どんな道具を使います」

「肉体を滅してしまったので、蝿の王の幼虫が仕えないのが残念です。個人的には許せないやつなのに!」

銀色のマスクをした炎のようなケープを纏う幼子と釣竿を握る少女。


こんな風に――。

宣伝しなくても、魔神から発せられる血の匂いをかぎつけたのか。

闇の異形者たちがこの廃墟にぞろぞろと集まっていく。



「フフフ……待ってよ、みんな。先ずはこいつの思念を凝縮させて……」


いつだったか僕を呼び寄せた人間の成れの果てに使った術を使用する。

よくもまぁ僕を呼ぶ術が残っているものだと感心しつつも、こちらとしてはせっかくの二人っきりの甘い時間……というか、同じ生き物委員会で鶏小屋掃除を一緒にするだけなんだけど……、日常の僕の一コマ的には……例えるなら苺のスペシャルジャンボパフェ並みの有意義な時間を過ごせる数少ない楽しみ、を邪魔されたものだからちょっと、カチンと来て粗悪な呪術をかけてやった。


少し霊能力がある奴なら発見しだい成仏させてくれるだろ、アレなら。

優しく、は知らないけど。


まぁ、そんな雑魚にしちゃったものはこのさいどうでもいいか。


呪文を唱え終え、感覚だけを与えたヒト型がゆるりとたつ。

ただ、ぼんやりと。

自分が死んだことさえ自覚もないだろうし……いいや、自覚がないならそれはそれで楽しめるってことだし。


「せいぜい……後悔するがいい」

僕の大切な人を狙ってしまったことに。














――数時間前。

「ね~、美亜、お願い、鶏小屋掃除サボらせて!」

「堂々とサボさせって、て……何!」


何気ない学校で会話。

「ど~~し~~て~~~~も、はずせない用事があるから、ね、ね、お願い、美亜~~~!」

「う……」

地面にこすり付けるのではないかと思うぐらいの低姿勢をとりながら、級友は必死になって頼み込む。

どんな事情があるか知らないが、サボるというのは元来潔癖性がある美亜にとっては許せないものではあるが……さすがにここまで頼み込まれたらきいてあげなくもない。

なんだかんだといって幼稚園からの縁もあるし……前、病気の姉のため置いてきぼりになった幼い従姉妹を預かることになり、授業が終わったら速攻で家に帰らなければならなくなったため、小屋掃除を一人で任せたこともあるし……。


「わかったわよ……」

随分自分甘いな、とか思うけど。

快く承諾。

「わぁ~い、美亜、大、大、大好き~~~!」

「わぁ、ちょっと抱きつかないでよ!」

趣味の悪いことばかりいって脅かしたりするけど、赤面するぐらい恥ずかしい台詞もさらりと言ってのける級友。

最近スキンシップも増えてきたような……。

もし、今この級友に犬の尻尾が生えていたらブンブンと勢いよく振り回しているだろうな……。


「あ、それと、美亜~。今日は絶対、ぜ~~~~たぁああ~い、掃除が終わったら、一人では帰らないでよ~~」

今度は美亜のサラサラの長い髪を数本指で軽くとってくるくると巻く。

だが、彼女の光沢のあるカラスの濡羽のごとき黒髪の弾力性がすぐにピンと元の形に戻る。

シャンプーのいい香りが漂う。


「言われなくても、さすがに一人じゃ帰らないわよ。ちゃんと集団下校のグループに入るわよ、心配しなくても」

「うん、それならいいよ~♪」

そう言って返すと級友は雲雀のような美しい声でにこやかに微笑んだ。




なぜ、一人で帰ってはいけないのか。

それはこの後じっくりと説明しよう。















後戻り、がもう出来ないから。

「きゃ」

綺麗な長い髪の少女を連れ出したのは中学生。

どんなに逃げても小学生の足では中学生に敵うわけもなく、手をつかまれたら、後は引っ張られるようにこの廃屋の駐車場に連れ去られた。

「お、お兄ちゃん、どうして……」

小動物のように震える瞳。

華奢な身体もガクガクと振るえ、これから起こる狂気に感づいてか、哀れな捕食者は生物的な本能で怯えるしかない。

「それは、君が可愛いからだよ……」

だから、悪戯したくなったんだ……。

「へ~……やっぱり、反吐が出るな、その言葉……」

そんな言い訳。

よく耳にしたよ。

魔神の力によって跡形もなく消したのは、すぐ――。













そこら辺の霊的に雑草を強化し、痛みを常人の数十倍感じる身体に巻きつかせ、縛り、貫く。

「ふん、まったく、小物は嫌だな。悲鳴も面白くない」

鬼は不機嫌に顔を顰める。

「まぁまぁ、これでも食べてくださいよ。つい先日街中ニュースで取り上げられた限定品のチョコ。なんでも焼酎入りだそうですよ」

道化師にとってはそれなりに楽しめるのか残酷に笑いながら、さらにテンションを高められるようにと、手渡す。

「気が利くな」

一口サイズのチョコレートを掴み、包装紙を取って口に投げ込む。

鬼といえども見た目は幼児。

そんな、鬼にいたぶられるというのはどんな気分だろうか……。


絶対優位だからこそ、小学生を狙って……悪戯してきたモノに。


「悪戯って言うレベルに知るのは聞き捨てならないな」

「だから、マスターは消した、よね」

制約により主とその友人たちとは違い快感を得られないショーではあるものの、自分たちをこの世に留める力の持ち主が憎悪を持って消し去ったモノだ。

一応は前もってそれなりの知識を持っている。

そう、今日駅前のゴミ箱に無造作に捨てられた新聞にも載っている、モノに。


連続少女暴行事件の犯人に。


「たしかに、殺しては、いないけどさぁ、気持ち悪い」

そう、気持ち悪い。

吐き気がする。

唾を吐き飛ばしていいなら何回だって飛ばしてやりたいし、いたぶっていいなら、いたぶってしまいたい。

だが、こいつ自身は可愛いから悪戯したと、いいのける。

どうしてかはしらないが、性対象にされた被害者のほうを、お前が誘ったのだろうとより心の傷をよりえぐる言動のほうが多く、容疑者の下手をすれば執行猶予ですぐに社会に出してしまうシステムがある。


しかも、中学生。

どんなに軽い刑罰が下されるのか。

被害者がまったく浮かばれない形になるのが眼に見えている。

「なに、変なほうに目覚めるかな、こいつ」

腹を蹴り飛ばし、嗚咽するモノを冷ややかに見る鬼。


「あ、ちゃんと計算済みみたいだったよ、部屋覗いてみたら」

得意のピッキングでこのモノの身辺もすでに洗いざらいらしい、道化師。


「ふ~ん、なら、地獄に送る前に痛めつけておくか。ちょっと、気乗りしねぇが」

あの世に引き渡しても大差ない拷問が待っていそうだが、あっちは任期で決まっている。

このまま素直に明け渡したらそのままの任期だけでこの世に戻ってくるから。


だから、首を絞めろ、切り刻め、小間切りにしろ、喉をつぶせ、血を啜れ、内臓を抉り取れ、業火で焼き尽くせ!


この世で出来る苦行をすべて与えてから、地獄に放り込めろ!

闇の住人たちは酷薄に唇を歪める。

「頼むね。僕は僕で忙しくなるから」

魔神はにこやかに笑っていた。

これで、僕は――。















次の日。


「美亜~、おはよう、おはよう、そして小屋掃除お疲れ様ぁ~~~」

「ちょっと、また抱きしめないでよ、しかもランドセルごと!」

美亜、君は知らなくていい。

君を狙っていた暴漢を僕が消えたことを。

そして、その暴漢が君の運命にどんな厄をもたらすことになっていたことを。

僕の友達のね、蘆花っていうやつはね、悪い未来を「見る」力があるんだ。

何もしなかったらその悲劇が現実になってしまう、ていうの。

不完全な予知だけど、僕たちにしてはありがたい能力にはちがいない。

だって、君を助けることにも繋がったから。


魔神は美亜に化けて、あのモノをおびき寄せ、消した。

だって、僕が殺さなかったら……美亜に悪戯するんだよ。

そして、そのときのショックで美亜の心が閉ざされる。そして、耐えられなくなって……何年かして、ずっと、ずっとその間苦しみ続けて自殺する、最悪なシナリオもあった。


だから、消した。

それによって運命がねじれてしまったりしたけど、まぁ、僕たちには関係ない範囲だろうし、別にいいや。

「僕は、美亜のことのほうがずっと、ずっと大事だから……」

「? なに?」

「ううん。今は……まだ、僕たち、仲のいい友達だよね☆」

そうだよ、こんな早い時期に……。だいたいあんな中学生に、僕の美亜に教えることなんか一つもないんだ。

下衆の分際でつけ狙ったほうが悪い……美亜に苦悩を与えるだけな我侭なクソガキがぁああぁあああ!

美亜には僕こそが相応しいんだ。愛だって、これから起こりえる苦痛も快楽も、僕が教えてあげるんだから!

これ、決定事項。


「? ま、あそうだけど……胡中」

「む~、まだ、苗字……」

「だって、胡中の名前ってクラスに三人同じ子いるから区別できないからって、言っているじゃない」

「そりゃ、そうだけど……」

すっかりへそを曲げる胡中。

そりゃ、間違えられるのは嫌だけど、二人しかいないときぐらい……あ、今学校か。

でも、くせになって僕の名前をなかなか呼んでくれなくなったじゃないか!

「それに、胡中っていい響きじゃない。私は、好きよ」




美亜に好きといわれてその後舞い上がったそうです。

『すき』って言われればもう何でもいいのでしょうか、友よ……。


まぁ、好きではなかったら、籍入れないでしょうけどね~。あと何年か、まではわかりませんが。

私は《幸せ》な未来を予見することは少ないですから。

言い換えれば、幸せって結構難しいのかもしれませんね。でも、勝ち取れないわけではないようです。


この友は美亜に対しては魔神の力を解放したことは……一度もなかったですし。

人の心を得るのは力だけでは、ないからと。

まぁ、たしかに守るために魔神の力を使いますが、それはあくまでも最後の手段であり、大切にしたい何かのためにしか使いませんよ、我々は。

それが、私達の制約ですから。


では、これにてこの《言霊にしてはいけない怪談》は終了とさせていただきます。

短い間でしたが、ありがとうございました。

そして、最後に……すべてここで起きた悲劇は、行動一つで変えることが出来ます。至極あっさりと。な~んだ、これと思う方も多いと思います。でも、それが私、蘆花の……力でもあり、願いです。


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