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閑話 アビガラス王国ギルド戦争準備

「この依頼は自己責任でお願いいたします。当ギルドでは一切の責任を受けませんが構いませんか?」


 最近よく聞く様になった受付嬢のお決まりの台詞。

 本来であればこの様な台詞を聞く事になるのは一年に一片あるかないか。

 俺、冒険者ギルドの長であるジョウナス・ランデルはこの嘆かわしい状況に頭を痛めながら、同時に何も出来ない自分に心底嫌気が指していた。


「構わねぇよ。受けるだけで金貨一枚の保証と戦争に出向いてターゲットを殺しただけで遊んで暮らせる金貨が手に入る。やらねぇ腰抜けはいねぇよ」


 自信過剰に傲慢な態度。

 冒険者は大抵の奴が傲慢だったりするが、それは築いてきた実績がそうさせる。

 が、今回は止めて欲しかった。


 何故ならこの戦争において冒険者は使い潰しの為に雇われた駒だからだ。

 それが分かってしまうだけ明け透けな依頼であるにも関わらず続々と依頼を受ける者で後を絶たない。今なお依頼を受けようとする者たちで冒険者ギルドの中は冒険者たちで溢れかえっていた。

 

 冒険者は一攫千金を狙う者が多い。

 一回起こした奇跡で文字通り遊んで暮らしている者もいるのだから当然と言えば当然だ。

 そして今回の遊んで暮らせる金貨となり得る標的は。



 モルド帝国女王ラミネ・ノディステイル・モルド。



 再度確認した依頼書には有名な王の名前。

 依頼書を発行している時点で大問題も良い所だが、俺たちはアビガラス王国から受ける圧力をどうにも出来ず、受付の際にああして注意喚起をするのが精々だ。

 

 冒険者ギルドも所詮はこの国に住む住人。

 どうにかしてこのバカげた依頼を取り消したかったが、取り消せばアビガラス王国では生きて行けない。

 俺だけならともかく、受付の者やギルドの裏方で働く者たちまで被害が及ぶとあってはどうしようもない。

 八方塞がりな現状ではアビガラス王国の言う通りにし続ける必要があった。


「くそっ、どう考えても囮にされるだろうが」


 一見冒険者に対して好条件な依頼に見えるが、実際はこれほど危険な空手形はない。

 金貨一枚の保証も生きていればだ。それに食料や寝床の保証はされていても何処で保証されているとは書いていない。

 それはつまり、戦の最前線であっても何ら不思議ではない依頼だ。


 現に勘の働いている者や学のある者はこの依頼を避けている。

 しかし冒険者の多くは学問など学んだことの無い者ばかり。文字を読み書き出来る者でもこんなふざけた依頼に乗っかってしまっているのが現状だ。

 

 そして俺たち冒険者ギルドは死地に向かう者たちを引き止めてはならない。

 引き止めれば王国に反旗を翻す者として処断される。

 だからこその注意喚起だ。


 冒険者ギルドは責任を持たない全ては自己責任だと、マイナス要因を少しでも見せる事で牽制の効果を見せられればと言う苦肉の策だ。

 しかしそんなもので止まる冒険者はほとんどいない。中には多少躊躇した者もいたが、やはり依頼を受けてしまう始末。

 

 それだけ金貨一枚の保証と王女殺害による莫大な報酬は魅力的なのだ。

 悔しいがこれが金の力なのだろう。金は人の狂わせる。その結果が今の冒険者ギルドの受付に表れていた。


「ギルマスは頑張られました。この流れに逆らえば死ぬのは目に見えています」

「分かってるよちくしょう」


 マイランの代わりに雇った秘書に慰められる。

 ふっと思ったがマイランが秘書を辞めてくれて良かったと思っている。

 何せあれは生粋のサディストだ。徹底的に人を凹まさないと気が済まない面倒な奴だった。

 マイランが急遽止めた為に仕事は大変だったがお陰で良い秘書が雇えた。

 

「ギルマスは悪くありませんから」


 マイランなら絶対に言わない。言うとすれば。


『身体を張って止めようとしないからこうなるのですよ?そのアフロは飾りですか?飾りですので斬り落としましょう』


 などと言って来るに違いない。

 それにマイランと違ってキツイ目付きで俺を見ないし、おっとり系の巨乳なんて最高の人材だ。

 前までが薔薇のトゲばかり生い茂っていて肝心の花がまるで見えない薔薇だったのが、白くそよ風に揺れる一輪の百合のように嫋やかなんだよ。


 もうギルマスやってて良かったと思えるな。巨乳だし。

 マイランは見事なまでになだらかだった。エルフらしい草原を思わせる見事な平野。

 それに対して今の秘書であるキャスリンは登山家が一度は登りたいと憧れる雄大な山脈。

 これでテンションが上がらない男はいない。こんな良い秘書がいてくれて良かった。でなければ昼間から酒に逃げていたに違いない。


 っと、大分話が逸れちまったが俺は出来る範囲であいつらを守りたいと思う。バカなあいつらでも死なれると依頼が滞って困るしな。

 その為の準備としてまず回復薬の作成が急ピッチで行われていた。


 王国からの依頼分もあるが、冒険者たちにも普段より多めの薬の支給をしてやり少しでも生存率を上げさせたい。

 だから今は薬草の採取も普段の二倍の買い取りを行っている。


 当然赤字だ。王国が通常の回復薬の価格よりも二割り増しで買って貰えても材料費が高くつけば意味は無い。

 それでもこの買い取り額二倍の効果でいつもより多くの薬草が集まっているから冒険者たちに渡せる分も確保が出来ている。


 これで何とか死人を減らせられればと思っているが難しいだろう。

 

 だからこそもう一つの手としてこれも散財させられたが『転移結晶』を数多く作らせた。

 多くと言っても有望な冒険者にしか行き渡らせられない。俺が直々にこのクソな依頼を受けて欲しいと頼み、他の冒険者たちを死なせないように支えて欲しいと強要した者たちにしか渡せていないがな。


 だがこれで多少なりとも冒険者の死亡率は変わる。

 この冒険者たちはSランクには届かなくともAランクの上位に位置する者たちであり、同時にこの依頼に不信感を持てた強者たちだ。

 

 彼らが戦場にいる事で低ランクの冒険者たちの多くはそいつらに従う。

 中には抑えられない冒険者もいるだろうが、彼らは万能じゃない。そんな奴らは遅かれ早かれ何処かの依頼で死んでしまうだろう。

 ならそいつらは仕方ないと割り切って救える奴だけでも救うのが今後の冒険者ギルドの為だ。


 俺にはここまでしか出来ない。

 俺自身も戦場に赴きたいが、ギルドマスターとしてここを守り続けなければ彼らが冒険を出来なくなってしまう。

 

「これ以上の事は他の奴に頼るしかないか」

「そうですよ。ギルマスにはやるべき事があるのですから」


 これは諦めじゃない。託すのも一つの手段だ。

 それはそうと腹を擦る。


「腹が減ったな。ギルドの食堂に行くか」


 飯の時間だ。そう脂汗の出る飯の時間だ。

 あいつらには悪いがこっちも戦いなんだよ。飯はギルドの食堂に行かなければ俺の味覚は崩壊を続ける。


「あら、もう用意してありますよ?」


 キャスリンは何処から取り出したのか机に禍々しい紫色のスープを置いて来る。

 …………Ou、今日も一味違った物を出したじゃねぇか。ってか色!?紫って何を煮込んだらこんな物が出来るんだよ!?


 キャスリンの弱点として料理が壊滅的に下手であるのと、その料理を食わせたがる悪癖がある。

 この食事の時ばかりはマイランの方が何万倍も良かったと言わざるを得ない。

 

「あー、すまん。今日は肉が食べたいんだが」

「入ってますよお肉」

「どれだ!?」


 材料の殆どが溶解していて原型を留めていない。

 肉らしい肉の破片を目視出来ない上に、そもそもが液体オンリー。これで空腹を癒せと言うのは無理がある。寧ろ腹が爛れる。

 額から滲み出る汗は止まらず、奇跡でも起きない限り味に関しては絶望的だ。


「ほら今日は暑いからな。このぐつぐつ煮え立ったスープを飲むのはキツイ」

「これ冷めてますよ。煮えてはおりません」


 なら何故こんなにもブクブク泡立っているんだこれは。


「サッパリした物が食べたいんだが」

「先程お肉が食べたいと言われませんでしたか?それにこれもサッパリしていますよ」


 何でことごとく退路が潰されるんだ!?

 しかもサッパリって味見してるんだよな?大丈夫なんだよな?


「予定が差し迫っています。時間もありませんし早く食べて下さい」


 にっこりとした微笑みが、この時ばかりは憎くて仕方ない。

 飲め、と目が訴えている。何で食事をする度に生命の危機に陥らねばならんのだ。

 スプーンを手に取りスープに浸す。


『kyさあさうおdbjfjbksdfhsj』


 その瞬間聞いた事のない言葉がスープから発せられた。

 

「これ飲んでも大丈夫なんだよな?」

「私は毎日飲んでいますので」


 なるほど。だから味覚が壊滅的なのか。

 そして俺もいつか味覚が崩壊するのだろう。

 そもそも味覚が崩壊する前に人として終わってしまいそうな気もするが誰か助けてくれ。主にマイランよ。レシピを、料理のレシピをくれーーーーーーーーーっ!!

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