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75話目 拒絶

 ハガクレ様に複製たちを任せ、私は玉座を殴打した。

 その感触は石や岩ではなく鉄に似た感触で、破壊する前にこちらの拳が先に悲鳴を上げそうな強固なものだった。

 しかし私は止める訳には行かなかった。 


 この拳を止めてしまえばレンを助けられない。いや、正確に言おう。私が助けたいのだ。

 皇様でも武内様でもない、自身の手でレンを救う。

 そうでなければ私は何の為にレンを守ると誓ったのか分からなくなる。


 打ち付ける拳は一回一回が必殺だ。なのにびくともしない鉄の玉座に歯噛みする。

 なんて硬い。しかも硬さの中に衝撃を逃がす絶妙な柔らかさも残っているのがまたやり辛かった。

 それでも構わず打った。この衝撃の音がレンにも伝わるよう思いを込めてただひたすらに。


「はぁああっ!!」


 ――――――っ……、やはり先に悲鳴を上げ始めたのは私の腕だった。

 竜人種であり、更に【竜人解放スキル】による上乗せがあってもこの堅牢な玉座はひび割れもしない。

 そんなレンに誇らしくもあった。

 

 レンは皇様や武内様から『天災』だとお墨付きを貰っていた。

 本人にその意識は無かったが、今回の件で開花したと言って良いだろう。

 まったくお前は凄いぞ、レン。


 私では未だ武内様の足元にも及べていない。

 必死に努力は続けているが、レンと比べれば自身の成長の鈍足さに思わず笑えてしまうくらいだ。

 常人には勝るだろう。しかし天才には及ばない。ましてや『天災』に追い付こうなど生半可な力では成し得ないと理解している。


 だから私にはレンの作ったこの玉座を打ち破るのは不可能だ。

 ………そう、諦められればどんなに楽か。


「がぁぁあああああああっ!!!」


 ブチチッ、嫌な音が内部で響く。

 当然だ。全力を超えて私はこの玉座を叩いたのだから。

 『氣』だって既に使っている。武内様や主の様に形を成せはしなくても片腕に収集させる事くらいは私でも出来るようになった。

 

 そんな全力を超えた一撃にもこの玉座は耐えてしまう。

 だが、それがどうした。私は何度だって………。


「ノドカ殿!!」


 はっ、と空を見上げれば、先に胸を穿たれ倒したと思った主の複製が私を見下ろしていた。


『この不届きものがぁっ!!』


 巨岩にも劣らない主の複製による殴打が私に迫る。

 これは、―――避けられない。

 何せ無我夢中で玉座を攻撃していた私は注意力が欠けていた。

 

 この一撃は受けざるを得ない。

 しかし私にこれを耐えられるかと問われれば、否だ。足場が砂であり、衝撃を吸収したとしても限度はある。

 恐らく私は身動きを取れなくなり砂の中に埋没されるだろう。


 つまりは詰み。

 ただ振り下ろされた剛腕を眺めるしか……。


「焦るな。お前はそのまま殴っていろ」


 振り下ろされた剛腕。しかしそれが私の頭上に落ちる事は無かった。

 

「皇様は普通に飛んで来られましたね」

「当たり前だ。私があんな物騒な物に耐えられると思っているのか?」


 そんな物に私たちを乗せた自覚はあるのですね。

 反省の色を特に見せない皇様は巨大な拳を【有現の右腕マールス・ノウン】の黒い光で押し返し続け、私から主の拳を遠ざけました。

 

「中々丈夫で結構だ。あれを二発も喰らい動けるなど人間としての基本骨子から逸脱する。実に解体のし甲斐があるじゃないか」


 ニマ~、と悪魔も怯む邪念に満ちた笑みを浮かべると、そのまま主の複製に突っ込んで行きます。


『舐めるな!!』


 ガチャッ、と主の複製は口から三連に連なる大砲を出現させると皇様へと発射します。

 その爆音は耳を潰されたと錯覚するけたたましさで、威力は相当だと見なくても判断出来ました。

 しかしそんな原始的武器が皇様に通じる筈もありません。


「ふむ、こんなものか」

『なっ!?』


 っ?! 皇様までレンと同じ砂に変える力を持たれていたのですか??!!

 大砲から発射された砲弾。それらは全て砂へと変わった。

 レンと同じ事をしたのだと理解し驚くも、やはり皇様であるからと何処か納得もしてしまう。皇様は目の前でレンの行いを見れたのだから再現しない筈も無い。

 

 錬成も言わば科学的なもの。木が燃えれば炭になる、水も冷やせば氷になる。状態の変化を瞬時に行っているだけであり、それら全ては科学に通ずる。

 つまりレンがやっている事は皇様にも行えて当然なのだ。

 しかしそれを認めない者がここにはいた。


『ふざけるなぁぁああーーーーーーっ!!!』


 主の複製である。憤りを露わにしながら両腕、肩、口、胸と手当たり次第に生やした口径の様々な銃火器が発砲される。

 

「ふはははっ、温いなっ!!本当の兵器とはこう言うものだよっ!!!」


 炸裂した砲弾を浴び、防ぎながら笑う皇様は天に【有現の右腕マールス・ノウン】を掲げると黒い光を一閃させる。

 ただ空へと伸びて行くだけの黒い光。主の複製に当たる事なく空へと消えたそれに一瞬だけ訝しむと、それは起こった。


『Gyaaaaaaaッ!!!』

「ふははははははっ、叫び方まで怪獣のようだなっ!!」


 黒い光は空に消えた。しかしそれは皇様が空にセットした四角いキューブへの送信でありました。

 

「【光源の好機アプテュル・レイ】は星の光を食い集める。頭から熱線を浴びた感想はどうかね?」


 ドロドロと頭から溶けるように熱される主の複製は皮膚だったものが剥がれ落ち、中からは鉄骨と思わしき部品が見え隠れし始めます。

 

「まあそんな所か。人の形に拘らなければもう少し歯ごたえのある相手であったが、ん?何をボーっとしてるノドカ。さっさとそこにいる眠り姫を叩き起こせ。私はまだこれの相手で忙しい」

「は、はいっ!」


 あんなものさえ皇様にはただの玩具扱いだ。この硬い玉座も皇様ならば打ち壊すのは容易だろう。

 それでも私の任せて貰える。その意味を理解すれば、すぐさま行動に移した。

 ガンッ、と強く打ち付ける拳に『氣』を集める。いや、集めるだけではダメだ。もっと鋭く、もっと強固に。武内様や主のように形として成す意識するんだ。


「いいよノドカちゃん。そのままイメージを形にするんだ。必要なら作れば良い。()()()()()()()()()()ノドカちゃんが殻を破るのにこれは丁度良かったね」


 武内様に竜人種と同じだけの強靭な肉体はない。

 なのに、その身一つで空を飛び、地を割る。時には死者さえも呼び出す奇跡を起こせる理由は足りないからだった。

 足りないから補う方法を考え、実現に至るイメージを作り上げた。


 私は逆に足りていた。足り過ぎていた。

 強靭な肉体もあり、『氣』を出せる才もあった。

 だからこそ私はそれ以上先に進めなかった。


 全力以上の力を出す私を私は知らない。いや、一回だけ主を守る為に武内様と対峙した際、私は赤い『氣』を習得した。

 ただそこから私は進めなくなっていたのだ。

 荒唐無稽な技を使う武内様を見て、()()()()()()()と自らに蓋をしていた。

 

 そして可能性を無意識に潰し、修練をしながら己の丈に合った事しかやっていなかった。

 追い付けないのも無理はなかった。停滞していたと言っても良い。

 だが、私は今、それを止める。


「おおおおおおおおっーーーー!!!」


 両手に『氣』を掌握し、細く鋭く尖らせたまま鉄の玉座を殴る。

 ミィシッ、―――入った!これなら通ると感触が告げている。


「レンっ!お前はいつまでそこにいる!」


 私は殴り続けたまま中にいるレンに語り掛ける。


「お前はいつまでそうしていると聞いているんだ!!」


 ガッガッ、と規則的に入れる拳が確実に鉄の玉座にヒビを入れて行く。

 深く入れられる私の拳に悲鳴を上げ始める玉座は防衛からか私の周囲から新しい武内様の複製が呼び出される。


「させませぬ!!」

「ハガクレ様!」


 周囲の複製を蹴り飛ばすハガクレ様は背を向けたまま次々と武内様の複製を相手にして行かれる。


「そのまま押し通されよ!」

「分かりました!」


 同族に対し良い印象を持たない私だったが、ハガクレ様はとても好感を持てた。

 弱者を見捨てない。それどころか自身の身さえ顧みずに同胞を救おうとしたあの生き様は共感出来るものがあった。

 弱いからと私を見捨てた者たちとは違う。

 

 強いがけして驕りはしない姿勢は見習い続けたいと望む。だからこそここで挫けるわけにはいかない。

 腕は真っ赤に染まっていた。骨は軋みを上げ、もう打つなと叫び声を轟かせる。まだだ。まだ持ってくれ。

 武内様なら一撃だろう。皇様でも同様だ。ならば私がやる必要は何処にも無い。―――そう諦められればどれだけ楽か。

 これはもう私自身の問題なのだ。私が私の手でレンを救いたいのだ。

 

 ピシッ―――、深い亀裂が玉座に走る。

 

 レンは主を傷付けてしまった。それがどうしたと言うのだ。私が救わない理由にはならない。

 お前は主を助けようとしただけなのだろ?

 

 ビキキッ―――、崩壊は近かった。


 だったらそこにいる必要はないだろうが。一緒に謝ろう。主なら許してくれる。

 帰るぞレン。お前は苦しむ必要は無い。


「ああああああああああああーーーーーーーーーーーーーっ!!!」


 バキッ、右腕の骨が逝った。と同時に玉座は崩壊する。

 何とか、間に合った…。

 私は右腕を押さえながら玉座の中に出来ている空洞内へと入って行く。


 そこにはレンがいた。膝を丸め、顔を伏せたままで身体を抱き締める様に座っている。

 レンは顔を上げずに呟いた。


「………………帰って」


 拒絶の言葉を。

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