74話目 適当な二人
『ガッハッハッ、なんじゃこれは弱すぎるわい!』
おじいちゃんが高らかに笑いながらボクの複製を楽しそうに殴り飛ばしてる。
『あー、天華(のコピー)弱いわー。ホント弱いわー!』
楊ちゃんもチャイナ服から見える黒い下着を気にする事なくボクの複製を蹴り飛ばして行く。
そらゃね?ボクが二人を呼び出したよ?でも、ちょっと悪ふざけが過ぎないかな?
しかも二人揃って態々ボクの複製を優先して倒しながら大声で同じ事を繰り返し言うから酷い。
「二人ともボクに恨みでもあるのーーっ!!」
『『え?無いよ』』
「だったらわざとらしく煽らないで欲しいんだけどーーーーっ!!」
ボクの相手が殆ど皇ちゃんなのに対して二人は揃ってボクの複製ばかりだから怒りたくもなるんだよ。
『だって天華がこんなにいて無双出来るんだよ?楽しくなって来るのも仕方ないよね?』
『そうじゃぞ。しかも弱いと言ってもお主の経験さえあれば十分苦戦させられる相手をこうしてボコれるんじゃから高揚してしまうわい』
『そうだねー。いやー天華マジ弱いわー』
『本当に弱いぞお主、ガッハッハッ』
あー、もう二人してボクがどんな気分かも知らないで好き勝手やってくれるなー。
だったらボクもやっちゃうからね?
プルプル震えるボクに気付いた二人が、あれ?やばくない?みたいな顔してるけどもうしったこっちゃない。
『ぬ?』
『あれ、煽りすぎちゃった?』
もう遅いんだから。
「無常法【天懐】」
ボクの目は今、充血を行き過ぎて真っ赤に染まっている。それどころか力み過ぎた結果、毛細血管が激しく切れて赤い涙を流していた。
これやるの久しぶりだなー。ついうっかり二人まとめてやっても仕方ないよね?
大きく右手を上げて最大まで手のひらを広げる。
『うわ、逃げっ!』
「逃がすかぁぁああーーーーーーっ!!!」
どうしようもない、本当に事故でしかないんだよ。だってこれ範囲攻撃だからね、うん。
右手を振り下ろした瞬間に爆発させた『氣』が複製達をを巻き込んで地面に埋め込むように叩きつける。
相撲の手形みたいにくっきりと、それでいて数十センチ凹んだ砂場は巨人が上から押し潰したような有様だった。
こんな事をした結果、複製達は砂の染みに変わり、おじいちゃん達はと言うと…。
『ふぅ、危なかったわい』
『天華もそんな大技いきなり出さないでよね』
地味に避けていた。っち、範囲攻撃だから狙いが甘かったよ。
『わしらの頭の上に落として置いてそんな顔するでないわい』
『私たち味方だよ?天華ったらお茶目なんだから』
「じゃあ次は当てるね」
『当てるでないわ』
『死んじゃうじゃない。死んでるけど』
うっさいやい。ボクの複製ばかり攻撃してるんだからちょっとした罰だよ罰。
一応今の攻撃で一割削ったけどまだまだ複製達はいっぱいいるからまだまだ大技出しても問題ないよね?
「じゃあ次は両手で行こうかなー。避けれるもんなら避けてみろ!」
『ちょっ、それ無理だから!!』
『加減せい、加減を!わしらでも押し潰されるわい!!』
知るかーーー!ボクだって怒る時は怒るんだからね!!
「それじゃあいっくよーーーーーっ!!」
・・・
「空を飛んでみたくはないかね?」
この一言は提案ではなく強制なんだと理解します。
武内様が嬉々として暴れ回られている一方、私たちは途方もない提案を迫られていました。
私は飛びたいなどと一言も発していないにも関わらず、レンが作っていた大砲と似た形状の物に収納されて行きます。
「す、皇様、これは何でしょうか?」
内心逃げ出したい気分に駆られるものの、レンを助ける為に我慢をする。するが怖い。何せ皇様の作品は妙に突拍子もないものばかりで常人には理解が追い付かないのだから。
収められた私は身動きが取れず途方に暮れていると、皇様が今まで見たことのないとても良い笑顔のまま私の肩を叩いて来ます。
「お前は今からパイロットだ」
「……………………………は?」
パイロットとは一体何なのか?しかしその単語に底知れぬ恐怖を覚えたのは事実だ。
「如何せんシャレで作ってみたは良いものの、使う機会もなくお蔵入りになっていた代物だ。パイロットとなる弾が丈夫でなければならない。着弾時に爆散する仕様にしたのも悪かったが、ノドカの竜人種としての才能を発揮させすれば問題は何も無い」
「有ります。問題だらけにしか思えません。中止しましょう。これは生涯お蔵入りにされた方が良いものです」
着弾時に爆散してはダメではないでしょうか。
一瞬だけ爆散した自分自身を想像してしまい必死に抵抗しますが皇様の笑顔が途絶える事がありません。
「皇殿、これは無謀ではないですかな?」
ハガクレ様からもフォローを入れて頂き、これが如何に普通でないかを説いて貰う。
「空をこれで飛べたとしても制御が効かなければアレに叩き落されて終わりでしょう」
アレとは当然ながら巨大な主である。今は何故か巨大なワイングラスを片手に優雅に過ごされているが、本当にレンの中での主のイメージがどうなっているのかわたしには分からない。
そして肝心の皇様は逆に首を傾げておられた。何故でしょう?
「別に叩かれたとしても爆散するんだ。目的はさして変わらんだろ?」
「あれを倒す為に味方を爆散するしかないのですか!?」
しかし皇様の頭にあるのはただ様式美と言う言葉のみ。どうやら昔教えて貰った日本の古き伝統KAMIKAZEをやりたいらしい。
「安心しろ。お前の耐久力があれば爆散しても耐えられる筈だ」
「耐えるを前提にしている以上安心は不可能です」
一般人では死ぬと言っている行為をしなければならない程に切羽詰まった状況ではない。
あくまでも皇様の趣味の一環で行われるのだ。
それなら自力で跳んで行った方が普通に良い。
しかし無情にも皇様は主の複製に標準をキリキリと合わせ始めます。
「なーに、お前なら少し痛い程度で済むさ」
「お止め下さい。普通に行きますのでこの物騒な物を仕舞ってください」
「折角あるのだ。今使わずしていつ使うと言うのだ?」
「「一生使わないで下さい」」
「そうか………」
自身の発明を否定される。
それは皇様にとっては────
「では撃つか」
───いつもの事だった。
否定されるのが元の世界での日常であった皇様にとって私やハガクレ様の否定など木の葉を揺らす風くらいにしか思われていない。
何の問題も無く完璧に合わされた標準。狙いは既に整っていた。
「行って来い」
「────────っ!?」
ギャァァンッ、と特有の機械音と一緒に発射された私は叫び声を上げられず空を飛んだ。
狙いは主の複製の胸元。心臓を狙った砲撃は音を潰して走る。
僅かな飛行時間の末に私は主の複製に衝突し、そして弾けた。
けたたましい爆発に全身を衝撃と燃焼される感覚に包まれながら生きているの奇跡。
この時ばかりは武内様の毎日の扱きに感謝した。それがなければ悶絶する痛みに気絶していただろう。
地面に落ちた私は立ち上がると空を見上げ、主の複製に目をやった。
『ぐぅぁあああっ!!』
主の複製が咆哮とも言える悲鳴を上げる。
苦しそうに胸を押さえる姿が一瞬だベットに横たわる主を想像し、心が軋───
ドッゴォォォオオオオオン!!!
『ぎゃぁあああっ!!』
───む前に更なる追撃が主の複製を穿ちに掛かった。慈悲はっ、貴方に慈悲はないのですか皇様っ!?
苦しむ主の複製に対して遠くで皇様が「威力が少し弱かったか。中身を気にせず威力を上げるべきだったかな?」などと聞こえるのが気のせいだと思いたい。
「たたた……、これはかなりの威力ですな」
「ご無事ですかハガクレ様」
「ノドカ殿もご無事で。しかし老体の身体には来ますな」
老体でなくとも常人では骨の数十か所は折れている。
それを耐えれるのは一重に竜人種でありスキルにも助けられているのもあったが、二度とあれには乗りたくはない。おそらく次は威力が上がり、私たちでも耐えられない仕様となっている筈だ。
遠くで唸る皇様にどうかそれはお蔵入りのままになって下さい、と祈りながら私たちは玉座を前に行動を開始します。
「ではノドカ殿は玉座の破壊を。私はこちらに迫る複製たちを何とかいたしますので」
「よろしくお願いいたします」
待っていろレン。必ずお前をそこから連れ出してやるからな。