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73話目 複製

「え?ちょっと待ってよ…。何なのコレ?」


 私たちは一夜明けて準備を整えるとレンのいる砂漠地帯にまで来ていました。

 不毛な荒野であったがこれ程までに生命の無い砂漠ではなかったが、一夜明けただけで生命の二文字は潰えていた。

 しかし武内様が驚かれたのはそこでは無いのです。


「レンは一体何を考えて、いや、普段から私たちをどう思っているのだ?」


 皇様も普段の半眼が見開かれ、呆れているとしか思えない表情で目を白黒させていました。

 何せレンは潰えた生命を別の形に組み替え砂漠の上に顕現させている。この目の前の謎の現象を皇様に聞けば「おそらく人を造るのに必要な元素を教えていたせいか」と言われました。

 

「お二人はまだマシかと。どちらかと言えば主の方がとんでもない事になっておりますが」

「これは驚きとしか言い表せませぬな」


 ハガクレ様は結局、自身の不甲斐なさから汚名を払拭したいと共に着いて来られた。他の竜人種に関しては私が倒したイスルギに『不遇な扱いをすればどうなるか分かるな?』と一言添えて残している。

 こんな状況下でなければ、それこそイスルギなどに同族を託したりはしないのだが、流石に子供たちを連れて来る訳にも家に置いて来る訳にも行かない。

 どの道あそこは最終的にハガクレ殿が治める事で決着は付けてある。

 だからそれに関しては問題はない。問題があるとすればこの目の前に広がる悪夢の様な光景だった。

 

「めしー」「ごはーん」「陸斗くーん」「お腹減ったー」「にくー」「さかなー」「ケーキー」「おやつまだー」「食べたーい」「ぐはーん」「こめー」


 何人もいる武内様。その殆どが涎を垂らし、口にしているのが食べ物関係でウロウロと規則性のない行動を繰り返しています。

 こちらはまだ良い。武内様の原型があるだけマシと言えます。


「解体だ」「よもや死ぬ程度で逃げられると思っているのか?」「屑が、チリに変えても使えまい」「劣等種である事を悲観する必要はない。いくらでも改造してやろう」


 皇様はもう酷いです。角が生えていたり、背中からコウモリの羽に似た物を付けて飛行していたり、しまいには黒々とした尻尾を装着した、見た目は悪魔と思わしき姿で体現されておられた。

 レン、お前は普段から皇様をどう思っているのだ?

 しかしまだ人としての標準サイズなだけマシかもしれません。


『そう、俺こそ至高にして絶対なる料理人。全ての者は俺の前に跪くがいいわ』

「「「主ー」」」「「「師匠ー」」」


 主は絶対にそんな事言わないぞ?

 主がこれを見れば間違いなく「レンの中での俺って一体……」っと驚愕を露わにしておられたでしょう。しかも問題となるのは言動だけではない。

 見上げなければならない体躯はまさに巨人。口を開けば私たちどころか家ごと飲めてしまいそうな大きさに目が点になってしまう。


 しかもその体躯に見合うだけの大きな玉座にワイングラスを片手に座っており、頭には王冠、肩にはマントを羽織り完全に主が別人にしか見えません。更に足元には私とマイランさんが無数に存在し、その全てがとても恍惚としており、他人様に見せられない顔としか言いようが無かった。


 レンに改めて問いたい。お前は私たちを普段からどんな目で見ているのだ?

 そんな私の思いと同じであろう武内様からも愚痴が零れる。


「ちょっとあれ酷くない?ボクあんなに食べ物の事ばかり言ってないよね!?」


 そして皇様からも呆れ果てた声が漏れる。


「いや、それを言うなら私はどうなる?人を止めてるぞ、あれは」


 確かにお二人への偏見は凄まじいものと言える。ですがそれは主の方が酷いのではないでしょうか?

 

「お二方、陸斗殿はあれでよろしいのですか?」

「「別にいいんじゃない(か)?」」


 どうやらお二人とも自分の事で手一杯なようです。

 私自身もあんな巨大な主の足元で他人様には見せられない顔で擦り付いているので気分としてはあまり良いものではない。

 どうすればあんなイメージが湧き上がるのか。普段の接し方を誤っていたのかと疑問しか出ない。

 

「まあいいや。自分自身と戦うのは初めてだけど、どうせ適当な複製だし。さくっとやっちゃおっか」

「そうだな。自分の劣化コピーなど見るに堪えん」


 お二人は揃って複製たちの前に出ます。

 私もさっさとやってしまおうと【竜人解放】をして向かおうとすると、突如として複製たちが行動を開始する。

 そしてそれはとても予想外な動きだった。


「「えっ?!」」


 お二人が驚かれたのも無理はない。

 全ての武内様の複製は赤い『氣』を放つと、それぞれが尋常ではない速度で武内様へと襲い掛かる。


「「「ごはーんっ!!」」」

「なんで!?」


 そして皇様の複製は右腕が黒く染まると一斉に皇様に向かって黒色の光を放って来た。


「「「ふはははっ!!」」」

「なんだと!?」


 想定外の攻撃に対してもお二人は何とか対処して見せますが、その驚きによる虚を突かれて皇様は頬に僅かな裂傷を受け、武内様は複製たちに殴られ後方に飛ばされるも複製たちの攻撃を利用し逆に弾いて押し戻した。

 

「お二人とも大丈夫ですか!?」

「むぅ、なんたる強さっ!」


 予想外の出来事に目を丸くする私は唖然とありながらもお二人の無事を確認した。その間にもハガクレ様は皇様の複製による黒い光に対処される。

 絶え間なく打たれる黒い光の威力は見ている限り、いつも皇様が使われる【有現の右腕マールス・ノウン】と同等にも思えた。

 

「問題ない。しかし何だあれは」

「全く劣化してる気がしないんだけどな」


 悠々とされつつも皇様も武内様もレンの出した自分たちの複製の強さに驚きを禁じ得ていませんでした。

 しかし次の瞬間にはお二人揃って獰猛な笑みを浮かべる。得物はお前たちの方だと表情が語っていました。


「面白いじゃないかレン。こいつらは細胞の一つ一つまで研究するとしよう。喜べ私たち(劣化コピー)。貴様らはこの私が余すところなく利用してやるからな」


 【有現の右腕マールス・ノウン】と【六翼の欲望シックス・アウル】を展開させる皇様はその右腕を強く握り締めて喜びを表しました。


「なんだろうねこの高揚感。ボクわくわくして来ちゃったよ。自分自身とやる機会なんてまたとないし、これはお裾分けしてあげないとね」


 武内様は柏手を叩くや演武を披露し、後ろから鳥居を生み出すと閻魔法【さばき】で前に出て来られたご老人と楊様が現れます。

 

『なんじゃこの悪夢は?』

『えーと天華って何つ子?』

「一人っ子だから。あれただのコピーだし」


 流石のお二人も武内様で視界を埋め尽くされる光景に目を点にされていました。

 私ももし同じ様に呼び出されて武内様や皇様で埋め尽くされた光景を見せられたら逃げ出したくなります。いや、もう逃げてます。勝てる気がしません。

 なのに呼び出されたお二人は武内様と同じ笑みを浮かべ初め、やる気十分としています。


『うっかりお主ごとやってしまいそうじゃわい』

「やれるもんならねー」

『じゃあ、今やって上げよっか』

「やるって言うなら相手するけど今はあっちを全部処理してからね」

『かっかっか、ならやって来るとするわい!』

『やっぱり天華といると楽しいね!』

「今回の件はボクじゃないんだけどなー」


 三人が意気揚々と飛び出して行き、武内様の複製から私の複製まで手当たり次第に近付く者を千切っては投げと、砂遊びをする感覚で複製たちを倒し始めました。

 山伏の老人は拳を主体とした一発一発に気合いを込める打ち方で、一回殴るだけで複製たちがまとめて空を舞う。

 楊様は蹴り技を主体とし、その足技は一体の複製に一瞬で何発も当てる早業で、次々と倒して行きます。

 

 どちらも今の私が相手をすれば苦戦するだろう強者だと分かります。しかしそんな二人であっても武内様の方がやはり上だと言わざる得ません。

 一体の複製の足を掴むと豪快に投げ飛ばし、主がレンと一緒にやっていたドミノ倒しを彷彿とさせる勢いで次々と蹴散らして行きます。


「ふむ、最初は驚かされたがやはり中身が伴っていないな」

「そうですね」

「能力は高いですが()()の方は無いようですな」


 私たちは複製たちの暴れ方とやられ方からそう判断しました。

 複製たちは攻撃の全てが直線的であり、大砲から放たれた弾と似て応用力がまるでない。あるのは同じ力を発揮出来る一点のみ。

 

 レンの力では性能を真似出来ても記憶までは真似仕切れなかったようだ。

 だからあれだけちぐはぐな複製が出来上がるのか。ただ、それにしては皇様の複製や主の複製は同じものを造り上げる意図を感じなかった。

 やはりこれはレンにとっての………。


「ではあの三人が時間を作っている間に作戦といこうか」


 私の思考を遮る皇様の一声に意識を戻す。とにかく今はレンを連れ戻さなければならないと気を引き締め直した。


「肝心のレンの居場所だが、おそらくあの中だろうな」

「私もそう思いますな」


 皇様の指した先にあるのは主の複製が座る玉座。ハガクレ様も同意され、私もあの中にいる可能性が高いと感じた。

 レンが主の複製とは言え、その傍から離れるとは思えない。そうなるといっそのこと主の体内に隠れている可能性もあるが、主の複製は生きている。とても中に入っていられるものではない。

 だからいるとするならば玉座の中。そこにレンはいるだろう。


「しかしそうなると主の複製が厄介ですね」


 それと私とマイランさんの複製も。何せ今も前線で戦う三人に群がる複製たちは皇様と武内様の複製だけですし。

 私やマイランさんの複製だけは主の側を離れようとはしない。つまり近付け自身やマイランさんの複製たちに加え、巨大な主の複製までも相手をしなければならなくなってしまう。

 だからこそ目の前にいる複製から順番に処理をして行きたい。

 

「これは手前からやっていくしか有りませぬな」


 奇しくもハガクレ様も私と同じ結論に達しました。


「いや、無理だな」


 しかしそんな私たちの結論をバッサリと皇様は切り捨てます。

 何故受け入れられないのでしょうか?不思議に思うと、皇様は玉座の奥を指差します。


「あれを見ろ」

「なっ!」

「あれは…」


 玉座の奥から現れる皇様と武内様の複製。しかも倒される都度、補充されて行く為にどれだけ倒しても一向に減る気配を見せはしなかった。

 これでは皇様が無理と言い切るのも頷けます。

 あくまでも複製は劣化コピー。しかしその実力は経験を伴わないだけでポテンシャルに変わりはない。


「レンめ中々やるな。私の造形がおかしいのも、天華がいつも以上にアホになっているのも普通に作っては足りない分を補った結果だろう」

「いつも以上にアホって何だよーーーーーっ!!」


 皇様は武内様の複製には思考能力を減衰させて運動能力に注視する事で元のスペック並みの出力を強引に出し、皇様の複製には人では足りないパーツを追加する事で【有現の右腕マールス・ノウン】や【六翼の欲望シックス・アウル】の代用品としていると推察されました。

 あの、悠長に説明されましたが武内様が怒っておられますよ?


「くっくっく、しかもこのスペックたちを量産出来るのだ。レンも『天災』の名に相応しいものを見せてくれる」


 ですが武内様の叫びが耳に入っていないのか特に気にせずレンを絶賛しています。このまま拍手しそうな程口角が嬉しそうに上がっていました。


「では諸君。こうして無限増殖を繰り返す相手を倒す方法を取るとしようじゃないか」


 振り返る皇様はとても良い笑顔をされておられました。何故でしょう。とても嫌な予感がいたします。 

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