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70話目 五分五分

「いやぁあああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!!!!!!」


 初めて聞いたレンの絶叫に私は驚かされた。

 何せ私はレンがあれだけ大声を聞いた事がない。


「皇ちゃん急ぐよ!」

「分かっている!」


 天華に急かされて私は【六翼の欲望シックス・アウル】を最大出力にしてこの荒野を駆け抜けた。

 あの【薔薇の迷宮】が崩れ落ちてから私たちは途端に陸斗の事で不安になった。

 マイランや他の竜人種たちは慌てて動いてみれば尋常ではない速度で走る骸骨の巨人の姿を視界に捉えたのだ。


 一体何が起こっているのだ、まったく。

 頭は霞が晴れた気分になる上に、あの巨人にはレンが乗っていた。今はあの巨人の腕しか無いが、その中央には確かにレンがいるのだけは理解出来た。


「陸斗くん!?」

「これはっ……」


 ようやく追いついたと思えば何だこれは。何故陸斗が血塗れで倒れているっ!?

 『界の裏側』から応急処置を施す為に機材を取り出すが、これはかなりマズイ…。

 右上腕から肩峰に掛けてまで綺麗に損傷。胸郭や腹部も中央から半分以上無くなっており、かろうじで右足首が残っているが右大腿から下腿まで無くなっている。

 

 空間ごと抉り取られたと思えるパックリとした傷口は最早芸術の域にさえあると言えた。

 現代では匙を投げる。手の施しようのない損傷であり、『天災』である私でさえも厳しいと唇を噛む思いだ。

 しかしここにはもう一人の『天災』がいる。


「天華!陸斗の魂を持って行かれないように捕まえておけ!!」

「分かったよ!!」


 身体を治すのは私の領域だが、魂魄の類は天華の領域だ。

 天華はすぐさま陸斗の額と胸に手をやり、魂の定着を図る。

 私はその間にとにかく傷口をチューブで埋めた。生きてさえいれば治してやれるが死んでしまえばどうにもならない。


 一秒でも早く傷を埋める。急げ、急がなければ陸斗が死ぬ。

 死なせんぞ、死なせてなるものか。お前は二人目の『天災』であり私たちの大切なのだ。


「くそっ、傷が大きい!」

「皇ちゃん泣き言言わないで早くやって!ボクもこれはキツいよ!!」

「全力でやっている!」


 だが、これはあまりに酷い。『天災』である私でさえも、これがただの一般人ならゴミ箱に突っ込んでいる程だ。

 

「今だ!化物が止まっている内に逃げるぞ!」

「おい、加賀はどうするんだよ!?」

「そんなもん無理だ!どう見ても死んでる!!」

「早く【水車輪】に乗れ!!」


 ………貴様らか。貴様らが陸斗をこうしたのだな?

 覚えたぞ。有象無象を覚える気など無かったが、今回だけは別だ。必ずこの恨みを晴らしてくれよう。

 逃げる五人の顔を瞬時に覚えながらも陸斗への処置は止まらない。

 

 汗が額から落ちる。

 これだけ損傷した者を治した経験を私は持たない。治るかどうか五分五分の勝負だ。

 臓器の欠損は擬似的に役割を果たす球体【急造の臓器アージェント・ビスカス】に繋いだチューブさえ全て埋め込めれば助かる見込みはある。

 しかしその前に死なれては元も子もない。


「うぅ、く……」

「耐えろ天華。後少しだ…」


 天華がどうやって魂と言う見えないものを繋ぎ止めているかは分からない。が、少なくともこれがなければ陸斗はもう死んでいる。

 血液は既に致死量を超えて流れ出ている。呼吸だって止まっていた。それでも私たちは希望を捨てない。

 二人も『天災』が揃って救えない命があってたまるか!


「よし、終わったぞ!!」

「皇ちゃんナイス!」


 応急処置は完了した。これで死ぬ可能性は極めて低くなった。もっとも本格的な治療に入らなければ陸斗の身体は半分失ったままだがな。

 二人揃って汗だくになりながら荒れた息を整える。

 私は【六翼の欲望シックス・アウル】を応用展開して陸斗の身体を機材ごと浮かせる。

 

「残りの処置は家でやる」

「これで陸斗くんは問題ないんだね?」

「………いや、完全に元通りになるか目覚めないと何も言えん。脳への障害が出ていないとも限らんしな」

「そんな…」


 不安そうな顔をするな。私も全霊を尽くす。


「早く来い。レンもさっさと、……レン?」

「レンちゃんどうしたの?」


 裾を握って俯くレンは首を横に振るばかりで近付こうともして来なかった。

 レンの不可解な様子に天華が近付く。


「…来ないで」


 レンはポタポタと涙を流す。

 いや、待て。まさかこの陸斗の傷は、お前なのかレン?

 その事実に行き着いたのは私だけでなく、天華もまたレンがやったと気付いたのか大きく目を見開いていた。


「レンちゃ…」

「来ないで!!」


 悲鳴にも似たレンの叫びに私たちは驚きを覚える。

 

「…レンがやった。全部レンが。ご主人様も、ノドカのお父さんもお母さんも、全部レンがやった」

「まさか思い出したのか?」


 その答えをレンはくれなかった。

 しかしその返答の代わりにレンの周りの砂が蠢く。

 

「ちょっ、レンちゃん!?」


 地震にも似た大規模な揺れに私たちは立っているのも困難と膝を着いた。

 そして現れるのは先程の骸骨の巨人。それがレンに覆いかぶさるように動き固まって行く。

 

「…帰れない。レンは帰れない」


 その言葉を最後にレンは巨人の中へと姿を消した。

 



 ・・・




 私たちはレンがあの辺り一帯を砂漠へと変えたので竜人種の住処まで戻って来た。

 途中で合流したノドカとマイランを連れ、今は家で休んでいた。


「ある程度処置はした。残りは自動で行われる」

「主はもう無事なんですか!?」

「心配するな。後は後遺症だが、見た限り脳細胞の死滅も僅かだ。しばらくすれば目も覚ます」

「そうですか」


 ほっとした表情を浮かべるノドカだが私も正直今回の件は肝を冷やした。私だけでは陸斗は死んでいたと断言できる大怪我だった。

 天華がいてくれて本当に助かった。

 今はマイランの付き添いでバイオ液に身体ごと入れて再生を促している。


「んじゃあ、確認だけどレンちゃんどうしよっか?」


 報復と言う意味ではない。

 ただ単に骸骨の中に引きこもったレンをどうやって叩き出すか、である。

 陸人の事で手一杯だった私には現状のレンを知らん。

 

「今さっき確認して来たけど骸骨の巨人の周りがゆっくり砂になってんだよねー。しかも謎の人影も増えてる不思議さだったし」

「近付かなかったのか?」

「遠くで確認しただけだよ。近寄っても良かったけど下手に刺激しそうでよくなかったしね」

「そうか」


 私はどうするべきか試案する。

 あの状態のレンは危険だ。あのまま野放しには出来ない。放置を続ければ世界の全てが砂になっている珍事が起きてしまいそうだ。

 しかし、だからと言って止めに行くにもな。また誰かが第二の陸人になってしまう可能性を否定出来なかった。


 また治せば良いかも知れないが、頭をやられれば再生は困難だ。何よりも天華と私が揃って初めて陸人を助けられたのだ。

 私たちのどちらかがあの状態になれば今度こそ死は免れない。


「レンは、助けられるのでしょうか……」

「………」


 ノドカの絞り出すような声には焦燥感と悲壮感が込められている。

 この中で一番レンを気にしているのがノドカだ。レンと付き合いが長く、もっとも心配をしているだろう。

 そんなノドカに私は沈黙で答える。


 救えるか否か。現状では否としか言えない。

 レンはまだ幼く、それでいて賢い。あれは純粋と言ってもいい。だからこそ陸斗を自らの手で殺し掛けた事はとてつもない重荷になった筈だ。

 そんなレンが戻って来いと言って素直に戻って来るとは考えにくい。


「強引にあの巨人から引きずり出す事は可能だろうね」


 天華は沈黙を貫く私の代わりに意見を述べる。


「けど、そうした所でまたレンちゃんは巨人に引き篭もると思うよ?それにあんまり時間を掛け過ぎると負い目から自分自身も砂に変えちゃいそうだし」

「それはっ!」

「有り得ん訳でもあるまい。特にノドカ。お前に対するレンの負い目は相当大きいぞ?」


 レンが何をしたのか竜人種の奴が言っていた。

 記憶を思い出してようが出していなかろうが、起きた現実として受け止めてしまったのであれば相当だ。 何せレンが砂に変えたのはノドカの父親であり、母親であり、そして主である陸斗だ。


「お前の事だ。両親に関しては特に何も思ってもいないだろう」

「私は縁を切られた身ですから。煩わしく思われていたので殺された所でレンの方が大事です」

「しかしレンはそう思っていないな」


 でなければノドカの前から逃げはしない。

 その上で陸斗を傷付けたのだ。それも指を切ったなどと言う生易しいものではなく、死ぬ一歩手前まで追い詰めてしまったのだ。

 たとえあのバカどものせいであったとしても直接的な要因となったのは自身の攻撃だ。心を塞ぐには十分なショックだっただろう。


 私も半狂乱していた時に陸斗と敵対し、落ち着いた時には凹んだものだ。大怪我はさせていなかったが一歩間違えれば私もレンと同じ道を歩んでいた筈だ。

 陸斗は私たちにとって守るべき対象だ。『天災』とは言っても直接的戦闘力を有さない陸斗を傷付けるのは相当心に来るものがある。

 

「申し訳ありませぬ。私が不甲斐ないばかりに陸斗殿をお守りし切れず」

「爺が気にする事でもあるまい。それにあの人数差もある。私たちにも非はあったのだ」


 潔い土下座をする爺に慰めではない事実を述べる。

 後で知ったが私たちの行動はバカどものスキルによって操作されていた。まったく腹立たしい事この上ない。

 そんな中でも爺は騙されず陸人を守っていたのだ。そこに恩はあっても恨みはない。爺がいなければ陸人は持ち帰られていただろうしな。


「しかしどうするべきか」


 良い案など浮かばない。

 あるとすれば陸人の再生待ちだが、悠長に待っていればレンは自分自身をどうするか分からない。

 直に会って話を着ける。それにしても、ああして引きこもったレンが大人しく話を聞くかどうか。


「私に」


 案など出ない中でノドカが一歩前に出る。


「私に任せて頂けないでしょうか」

かなりの難産に入ってしまいました(/´△`\)

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