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69話目 何もかも失って

「何なんだよ、あいつは!?」

「はぁ…はぁ……、もう、避けれねぇぞ、あんなの……」


 【水車輪】が奇跡的にもレンの放った大剣を避けられたものの、今井は顔面蒼白で肩で息をする程疲弊していた。

 

「魔法でとにかく牽制するぞ!じゃなきゃ俺たちは死ぬ!!」

「お、おう!」

「分かった!!」


 安藤より発破を掛けられ、それぞれが魔法の準備をする。

 こいつらはチートだと思っていたがそうでもないのか?そう考えたが否定する。

 安藤たちは強い。ハガクレさんが老いたとしても竜人種の本気の一撃を受けて気絶もしない防御力を持っている。スキルにしても独特で使い勝手や利便性を考えればステータスが低くかったとしてもお釣りが来る性能だ。

 なのにステータスも高く、スキルも強力。文句なしに安藤たちはチートなのだ。


 ただそれは対人戦に限っての事。安藤たちは知らなかった。個人でありながら災害にまで発展する力がある事実を。

 武内さんは『武』でモルド帝国を破壊しかけた。

 皇さんは『科学』でエルフの里の地形を崖へと変えた。

 しかしそれらは全て余波であり、まともに受けたものではない。

 

 彼女たちが本気で攻撃したとなれば城は跡形もなく消えていたし、エルフの里も全ての命が失われていた。

 だが、そうならなかったのも一重に意識的であると同時に、無意識的に躊躇いがあったからこそだ。自身が『天災』であると認識して、被害が大きくなるのを拒んだ結果だ。


 しかし今のレンにそれはない。

 骸骨の巨人が進めば進むだけ全てが砂になり、攻撃性を持って組み替えられる。

 そしてその攻撃性の全ては安藤たちに向けられた。

 

「「「【アクアジャベリン】っ!!」」」


 強烈な水圧の槍がレンを襲うも再度巨人の顎は開かれ、その喉奥からは本物の大槍が射出された。

 ガガガッ、と拮抗し、両者の槍が掻き消される。

 しかしレンは止まらない。


「マジ、かよ…」


 誰が呟いたのかは分からない。

 何せ俺も息を飲んでこの光景に絶句していた。


「ミサイルじゃねぇか!!!」


 シャーペンにも似た細長いフォルムに安定性を求め付けられた操舵翼、丸みを帯びた先端が誘導の役割を果たす。巨人の顎より大型のミサイルは何本も放たれた。

 もうどうにか出来るレベルではない。

 ジグザグに走りどうにかしてミサイルを躱そうとするも、ミサイルは得物を狩る鷹の様について回る。


「【ファイアボール】っ!」

「やめっ」


 迎撃しようとした菊池が魔法を使ったが、それを制止するにも遅く、魔法を使うタイミングとしても遅過ぎた。


「「「っーーーー!!?」」」


 一個のファイアボールがミサイルに当たると誘爆を引き起こして、大きな爆風が俺たちの身体に叩きつけられる。

 僅かな抵抗さえする暇なく荷車から弾き飛ばされた俺たちは何度もバウンドを繰り返しながら地面を転がった。


 っ~~~、やばい骨がイッたかも。

 『氣』を使い果たした後で身動きの取れなかった俺は受け身を取るのもままならず、肩に猛烈な痛みを覚えながら悶絶した。


「…返せ」

「ひっ…」


 巨人が砂に潜り、降りて来たレンは同じ言葉を繰り返す。

 ホラー映画さながらの状況に恐怖した武田が短い悲鳴を上げて後退る。

 

「ふ、【不協和音】っ!」

「っ…」

「効いてないのか!?」


 菊池の咄嗟のスキルにレンは顔をしかめるも、前進を止めない。それどころか砂に戻した巨人の腕だけを取り出して頭上に掲げる。

 

「…返せ」

「「「ぎゃあぁっ!!」」」


 降ろされた鉄槌を安藤たちは避けるも、足場は砕かれ石が飛び散り、破片による裂傷を多く付けられる。

 爆撃機さながらの一撃は一個人で到底太刀打ち出来るものでは無かった。

 戦争に匹敵するレンの暴力。


 触れれば砂になり、巨人から錬成される近代兵器は個人で有する力を遥かに凌駕する。

 災害とさえ呼べるこの力は皇さんたちと同じく『天災』と呼んで相応しい。

 ここに今、開花してはならない才能が開花した。

 

「くそっ、何なんだよあれは!?どうするんだよ安藤!!」

「知るか!俺に聞くな!!」

「加賀を諦めて返した方が…」

「バカっ、それだと俺たちの苦労が無駄になるだろ!!」


 たった五人で災害に立ち向かうのが無理な話だ。

 ましてや人よりも多少優れている程度の力でこの窮地を乗り越えようとしても、それは自身の命を守るので手一杯になって当たり前だ。

 なのに安藤たちはまだ俺を捨てないで乗り切ろうと考えているのか。

 

 それはもう無理だと実感しただろうに。

 迫り来る近代兵器と神話さながらの巨人の暴力による理不尽な結晶は、スキルのことごとくを打ち破り、魔法の全てを防ぎきった。

 それどころか移動手段さえも崩壊させられ、建設的な話し合いもないままにレンと相対してしまった時点勝敗は既に決したのだ。


 俺はそんな追い詰められた安藤ネズミたちを映画を眺めるようにぼんやりと見ていた。

 一歩も動けない俺に安藤たちを助ける力はない。

 もしかしたら安藤たちもノドカの両親のように砂になって消えるのかもしれないと知りながら声も出さずにいた。


 ここで安藤たちが死んだ所で俺は悲しまない。

 あいつらの自業自得だし、山崎への生贄にしようとしたのを忘れたわけではない。

 だから悲しまないしどうでもいい。だけどそれをするのがレンである必要は何処にも無かった。


「ぐっ……っ………」

 

 腕に力を込める。

 もう動かせないと分かっていながら起き上がろうともがいても神経が死んだようにピクリとも動いてはくれなかった。

 ――俺は止めたかった。


「「うわぁぁっ!!」」


 轟音が戦場を支配する。またしても生み出された大砲が着弾した余波で菊池と武田が宙を舞った。

 ――ただレンの為に。俺はレンにこれ以上の重荷を持たせたくなかった。

 

「ちくしょぉおおっ!!」


 やけくそに魔法が放たれるものの、巨人の腕が我が子を抱き締めるようにレンを守り傷一つ付ける事は叶わない。

 ――レンは記憶を失う程ショックだったんだろ?


「「ぎゃぁあああっ!!」」


 無造作に振るわれた巨人の裏拳は風圧だけで安藤と金田を殴り転がした。

 ――レンはやらなくていい。


「あ、ああ…」


 一対一。されどその差は歴然であり、蛇に睨まれた蛙となった今井が一歩も動けず嗚咽を漏らす。

 ――だから止めろ、レン!


「…返せ、ご主人様を」


 振り上げられた巨人の腕が今井に落ちる。

 俺は気付けば動いていた。何で動けたのかも分からない。もしかしたら『氣』を少しでもコントロール出来て、僅かな力が残っていたのかも知れない。でも今はそんな些細な事はどうでも良い。

 レンを抑えるべく立ち上がった俺はゆっくりと駆け出していた。



 しかしそれは間違いだった。



「ああああああああーーーー、【水車輪】んんんっっ!!!!」


 事故。

 これは事故だ。

 今井の【水車輪】は触れた対象の動きを曲げる。

 レンの巨人の腕は触れた対象を砂に出来る。

 両者の力が偶然にも噛み合った結果、【水車輪】は砂になったが巨人の腕はあらぬ方向へと導かれる。そう、それは俺の方へと。


「あ……」


 巨人の腕は目の前まで迫っていた。

 こんな時なのに色々思い出してしまう。

 武内さんには弁当を勝手に食われたとか、皇さんにはこの世界に来てからよく振り回されたとか、ノドカは常に俺を守ろうとしてくれるが行き過ぎな時があるとか、マイランさんには急に押し掛けられて驚いたとか、レンはいつも美味しそうに俺の作った料理を食べてくれるなとか。

 ………ああ、これが走馬灯なのか。


 巨人の腕に俺の身体の右側は抉られ、半分以上が砂に変わった。


 身体の半分が消えた事で口から漏れる大量の血。片足では立っているのも不可能だと身体は斜めに傾いて行く。


「いやぁあああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!!!!!!」


 意識が落ちる。地面の冷たさを身に沁み込ませながら、最後に俺はダンボールに捨てられた子猫を幻視した。

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