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66話目 相討つくらいはして見せるぞ

「何遊んでるんだお前ら?」


 ようやく開けた所に出れたと思ったら何故か安藤たちが涙を流しながら円陣を組んで気合いを入れていた。もうこいつらと別に意味で関わりたくない。

 それに今ここにはハガクレさんだけしかいない。この状態でチート持ちのこいつらと会うのは状況としてかなり悪かった。


 俺が訪れた事で涙を拭って笑みを浮かべる安藤たちはある意味狂っている。

 こうそれぞれが夜中にはけして見たくない笑みを浮かべて立っているので背筋に悪寒が走って仕方なかった。


「加賀、お前は重罪人だ」

「何のだよ」


 何となく言いたい事は分かるが罪なんて言えば俺を見殺しに、それどころか共犯として殺そうとしたお前たちも立派な罪人だ。

 しかしこんな事を言った所であいつらは耳を傾けはしないだろう。傾ける耳があれば与えられた力を使って俺を殺そうとしなかった筈だ。

 実際自分たちのやった事に目を背け、安藤は俺に指を差して弁を垂れる。


「城を勝手に抜け出していなくなった。お前さえいなくならなければ俺達は辛い目に合わずに済んだ」

「それがどうした?それこそ自己責任だろ」


 俺は城を抜け出した。もしかしたらそれで魔物にでも襲われて死んでいたかも知れない。

 城を抜けるか抜けないかの選択の自由を咎められる謂れは無い。それに俺が城から抜ける助長をさせたのはお前たちの執拗なまでの実験(あそび)にあったのだから自業自得だ。


「アビガラス王国の為に奮起しなければならない俺達がその役目を果たしていないだけで罪人であるにも関わらず、国を抜け出す蛮行。許せるものか」

「とって付けた様な言い訳だな」


 アビガラス王国はあくまでも俺達を呼び出した装置に過ぎない。

 国に帰属しているでもないのに、その国に尽くそうとする方がよっぽど蛮行だろ。それにアビガラス王国は俺達を拉致したと言って良い。罪があるとすればアビガラス王国であって俺じゃない。

 お前たちが単に色々と与えられ過ぎてて、そこに気付けなくなっているのだから救えなかった。


「うるさい!とにかくお前は重罪だ!今から痛めつけて山崎の前に叩き出してやる!!」


 安藤と他四人が剣を構える。

 悲しいくらいやる気に満ちており、逃げるのも難しかった。


「やるしかないか」


 包丁を一本取り出して安藤たちの動きに警戒する。


「陸人殿は下がっておりなされ。ここは私にお任せを」


 【竜人解放】と呟いたハガクレさんの髪は金色に染まる。

 

「この身、既に死に体なれど相討つくらいはして見せるぞ若僧ども」


 こっちの方がハガクレさんの素なのか?

 ゴキッ、と首を鳴らして意気揚々と前に出る姿は勇ましく、とても老人とは思えない覇気を出して笑っていた。

 血が躍ると言わんばかりの獰猛な野生じみた姿はいつものハガクレさんとは似ても似つかない。


「っち、おい武田。何であいつは幼女の方に意識が向いてないんだよ」

「知るか。ひょっとしてこの老人はあの幼女と関わりが薄いんじゃないか?【精神誘導】のスキルは持ってる意識を増大させたり減少させるスキルだから関わりが薄いと意識が向きにくいし」

「ああ、そんな弱点あったな。運が悪いな」


 誰も来ないのはそんな理由があったのか。

 自分が何をやってしまったのかを知ったレンが逃げた事で俺達はレンを心配した。そんな時に【精神誘導】でレンに強く意識が向く様にされてしまえば確かに誰も俺を気にしなくなる。

 ハガクレさんはまだレンを意識するだけ関わりを持っていない。だから武田の【精神誘導】にも掛からなかったのか。


「まあいい。どのみち竜人種と言っても老人だ。俺達が力を合わせればどうってことはないぜ」

「ならば来るが良い。決死の意味をその身に教えてくれるわ」

「ハガクレさん無茶はしないで下さいよ」


 俺にはどうしてもハガクレさんが生きようとしている様には見えなかった。

 ここで死んでも構わない。そんな覚悟が透けて見える背中は死に装束でも纏っているかと錯覚させられる。


「陸斗殿。私は貴方たちに出会わなければ死んでいた身。ただ無意味に死ぬ、いや、同胞を危機に曝してマヌケに死ぬだけだった哀れな老人に貴方様は機会を与えて下さった」


 はらりと上着を脱いだハガクレさんの身体からギチッ、と老いたとは言えない強靭な筋肉が溢れ出る。



「ならばこの命、恩人の為に使わずして何が竜人種か。一族の意地と誇りにかけて陸斗殿は私がお守りいたしましょう」



 それはとても止められるものではなかった。

 ハガクレさんの見せる決意。そしてその胸の内に秘めていた思いを聞かされて止められる筈もなかった。

 ハガクレさんは後悔していた。

 自分の判断を誤り竜人種のお姉さんたちや子供たちを危機に曝した事を未だに悔やんでいたのだ。


 あれはどうしようもなかった事だ。

 何が正解なんて分からない状況下で最善を尽くそうと努力し、他の竜人種たちに頼る選択を取った。

 もしその判断をハガクレさんが間違っていると思ったのならそれこそ間違いだ。

 

 ハガクレさんの意見に誰も反対しなかった。

 年長者を立てる風習もあったのかも知れないが、彼女たちもまた子供を守る親として最善を尽くそうと足掻いてハガクレさんに着いて行ったのだからハガクレさんが負い目を感じる必要は何処にも無い。

 

 なのにこの老人は悔やんでいる。

 俺達に助けられたと言っても偶然に過ぎない以上、あの時の判断は間違っていたとこの背中が語っている。

 不器用な老人だ。どうしようもなく不器用で、その不器用さがとある科学者の泣き顔と重なってしまう。

 だから俺にこれを見守り続ける選択なんてものはなかった。

 

「だったら二人でやりましょう。俺も戦えます」


 半分は本当で半分は嘘。

 身体に『氣』を張り巡らせればチート持ちの元クラスメートたちにも対抗出来る。しかしそれも数十秒の話だ。

 まだ俺に『氣』をコントロールする術はない。

 

 青い『氣』なら数分は持つだろうが、俺のスペックだと焼け石に水にしかならない。

 それに獣闘法【大蛇オロチ】も一回使えば終わりの自爆技。使った瞬間には倒れて動けなくなってしまう。

 更に持っている皇さんの発明も【両足の領域(インベーダー・レッグ)】だけで戦闘向きのものではない。

 

 だが、それを言い訳に全てをハガクレさんに背負わせるのは間違っている。

 俺は自分が重荷になって誰かが泣かせるのは止めたんだ。

 ただ見守るだけで良い筈がない。俺は自分の『天災』としての力を全て使って目の前の理不尽を越えて見せる。


「無理はせぬようにお願いいたします」

「そっちもですよ」


 俺はハガクレさんの隣に立つ。

 もう背負われているのは止めた。抗うぞ、この理不尽を。

 安藤たちはあくまでも力で押し潰す気なのか。俺たちがこうして覚悟を決めるのを待っていた。強者としての余裕か、単純に他の罠が存在するのか。とにかく警戒心が増す。


「準備は出来たか?行くぞ【ファイアボール】!!」


 安藤は剣を前に構えると俺に対して不愉快に懐かしい魔法を放って来る。

 威力はそこまで強くない。あれを受けた本人として一番よく分かっていた。

 

「カッ!」


 ハガクレさんが拳圧だけで【ファイアボール】を消した。

 それを開幕の合図としたのか安藤たちは散り散りに動き、俺たちを半円状に包囲する。

 この場での最適な行動は何か。俺がこの場で一番弱い。だからこそ動き続けなければ捕まり、ハガクレさんの動きを阻害する。それにここには戦力が不足している。

 なら、やる事は一つだ。

 

「陸斗殿!」

「はい!」


 ハガクレさんの狙いも同じだ。俺たちは顔を見合わせると狙いを安藤に絞って二人揃って突進する。

 一番厄介なこの【薔薇の迷宮】のスキルを潰す。そうすれば皇さんたちと合流出来る。そうなればバランスは一気にこちらに傾く。

 ただこちらの狙いを見通してか、真ん中にいる安藤を庇うように髪を緑に染めた今井と黄色に染めた金田が横から出るとそれぞれが知らないスキルを使って来る。


「【水車輪】!」

「【粘糸呪縛】!」


 今井は足元に小さな水で出来た輪っかを四つ作ると両足に挟み込むように装着、更に大きな馬車に使う類の車輪を作るとそれを盾にしてハガクレさんの攻撃に備えた。


「この程度…、っ!?」


 ハガクレさんは車輪を殴るも車輪は回転して強制的に殴った先をずらされる。そこに金田が待ち構えており、多重の糸の塊が剣の先から溢れ、ハガクレさんに覆い被さろうと蠢くも、地を蹴って天高く跳躍して触れるのを免れた。


「くそっ、外れた」


 ここで俺とハガクレさんの連携が乱れる。

 無暗に俺だけ突っ込んでも獣の前にエサを置くだけにしかならないので突進を止めてハガクレさんの所に下がった。

 

「なんだそのスキルは?」


 今井の水の車輪と金田の剣から溢れる糸の束。先の動きからしてこいつらの必勝パターンだったんだろうな。明らかにやり慣れていた。

 

「この【水車輪】は物体の移動に便利なスキルだ。車輪が回転すればどんな力も逸らす事が出来る」

「そしてその逸れた先で僕の【粘糸呪縛】で拘束すれば身動き一つ取れなくなるんだよ」

「なんつー厄介な…」


 人数が少ないのに更に減らされればどうにもならない。

 ハガクレさんが想像以上の俊敏さで回避してくれたから問題ないがこの人数差が辛い。先に安藤から潰したいのに見事な防衛が成り立っている。


「そんなスキル持ってて襲われるのかよ」

「うるせーっ!音もなく背後から回り込まれてみろ!スキルも魔法も使う間もなくやられるんだよ!!」

「ああそ、―――ッ!?」


 と、ここで黒板を強く引っ掻いた様な耳障りな高音に咄嗟に耳を塞ぐ。頭が痛くなる高音にハガクレさんも耳を塞ぎ、顔をしかめる。

 あまりの高音に吐き気が催して来る。この力は一体何だ?

 苦しんでいる俺たちの隙を見逃すバカはいない。

 菊池と武田が同時に剣で斬り掛かって来るのを青い『氣』で身体能力を上げて回避する。

 

「おいおい、何で俺の【不協和音】受けながら回避出来るんだよ。ステータスゼロだろ?その青いのなんだよ」


 菊池が剣で自分の肩を叩いて文句を言うが、文句を言いたいのはこっちだ。こんな不快な音を鳴らして斬り掛かるなんて面倒この上ない。

 言葉通りなら【不協和音】がこの高音の原因か。これで動きを鈍らせて金田の【粘糸呪縛】で捕まえられればひとたまりもないな。

 

「陸斗殿、ご無事ですかな」

「はい、ただこれは厄介ですね」

「私も全盛期通り身体が動けば良いのですが、中々難しいですな」


 本来なら目にも止まらぬ速さで動ける【竜人解放】のスキルだがハガクレさんも寄る年波には勝てないのか、普通の人間よりも素早いだけだった。

 これではステータスの能力値がチートなあいつらを倒せない。

 俺がここで赤い『氣』を使ったとして何処まであいつらに追い縋れるか。


 今はまだ様子見。そもそもあいつらの目的は俺の拉致にあるのだから殺さない様に全力は出していない。

 そこに勝機はあるか?………いや、かなり厳しいな。

 安藤は自分が万が一やられない様に後ろに配置して、その前を今井と金田が守っている。特に今井の【水車輪】のスキルが攻撃を逸らす守りに長けた力だ。

 これを突破するのは至難の業だ。一体どうすれば良いんだ。


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