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6話目 我ら天災児、荒野を造る(駆ける気も目指す気もない)② 

 この二人なら出会い方まで壮絶だろう。是非とも聞いて見たい。

 しかし皇さんは俺の思惑を無視して椅子から立ち上がるとシステムキッチンに右手を添えたと思ったら消えた。

 

「では、そろそろ行くか」

「そうだね。陸斗くんにはまた今度出会った時の事を教えて上げるよ」

「それもだがシステムキッチンが消えたのは何でだ?」

「義手の中に入れたからだ。天華頼むぞ」

「オッケー。持ってく物ある?」

「カバンくらいか。調味料が入ってるしな」


 義手よりもシステムキッチンの方が大きいんですが。そもそもその腕義手だったのかよ。普通の腕に見えたわ。

 指示を出した皇さんに従い、いそいそと窓を開ける武内さんは右腕で皇さんを左腕に俺とカバンを抱え込む。え?ちょっと待って。


「カバンよーし、皇ちゃんよーし、陸斗くんよーし、んじゃ、いっきまーーーーす!」

「嘘だろ?」

「今この場で常識を捨てろ。私たちはお前も含めてそう言った存在だ」


 軽々と俺たちを抱え込むと窓に向かって武内さんは走り出す。

 とても人を二人も抱えているとは思えない速度で走ると武内さんは窓枠へと足を掛けて勢い良く空へ飛んだ。


「ウィ、キャン、フッラーーーーーーーイ!!」

「マジかぁああああああああああああっ!!!」


 俺の悲鳴を城に置き捨てながらロケットさながらに打ち出された俺たちは速度を緩める事なく、むしろその速度を増す勢いで城からどんどん遠ざかって行く。

 下を見れば家屋を軒並み、いや、家屋であると認識するのが難しい程に速く後方へと消えて行く。

 物理さんは寝ているらしい。重力さんもバカンスだ。このまま宇宙の果てまで飛んで行くのかと疑ったが城門を越えた辺りで急に速度は落ちて行き、着地も衝撃の一切を感じる事なく生い茂った森林内に降り立った。


「はーい、国外へ到ー着っと」

「城下町を出ただけでまだ国内だ」

「あれ?そうなの」

「………」


 それよりもここは大国。まだ国内であるにしても城から街の外に出るにも本来なら馬車なりの移動手段が必要なもの。なのに人を二人も抱えて空飛んで街の外に着きました。可笑しいでしょ。

 放心気味の俺は先までの体験が夢でも見てるのかと愕然となった。


「ちょうど良い。ここで素材でも拾って行くか」


 皇さんは辺りを見渡し、中々大きな巨木に右手で触れると瞬く間に巨木は消え去った。


「は?」


 システムキッチンを消した時も分からなかったが今はもっと分からない。背丈を優に超えるどころか見上げても天辺の見えない巨木が視界から消えたのだ。これは本当に科学なのか。

 

「ふむ、素材がいいな」


 何故かゾッとした。妙な悪寒に支配されながらも皇さんの動向を気にすれば、何故か前方に右手を掲げて立っていた。

 

 ガシュッ!!


 森林全体に伝わる機械音が響いたと思えば、視界から森林は消えた。

 飛び立つタイミングを見失った小鳥がバタバタと地面に落ちて行き、根から抉った為かそこかしらにボコボコと穴が生まれ落とし穴に嵌まるかの如く小動物がその穴へと沈む。

 辺り一面、見渡せる限りを見ても森林どころか木の一本も消えて無くなっていた。


「皇さんや」

「何だ?」

 

 やらかした本人は知らぬ存ぜぬ。

 右腕に入った素材をチェックするために皇さんは皮膚の上を流れる数字の羅列に目を通しながら顔を上げもせずに応える。


「やり過ぎだろ」

「無駄に生えているんだ。全部消した所で問題ない」

「これ若木や雑草まで無くなってんじゃん」

「種まで取ったから次生えてくるとしたら動物の糞に紛れている分しかないな」

「すぐ逃げるだろ。こんな何も無い場所」


 殺風景も甚だしい。今は土性が豊かであるが早急になにかしら植えなければ砂漠になるのは目に見えた。

 ちらほらと動物たちが穴から出て逃げて行き、落ちた鳥は勢い良く飛び立った。

 人の手でどうにかしなければここは終わりだった。

 

「ん?何だ?」

 

 と、ここで奇妙な振動を感じたと思えば目の前から黒色の人の背丈を超える猪が突進して来た。

 

「おいおい…」


 あれが森の主なのだろう。森を汚した、ってか無くした愚か者を制裁する為に出庭ったのだ。

 しかし俺はあれを見ても恐怖心が全く湧いて来ない。


「よーーし、今日の夜食は猪だね!」


 何せ食べる気満々の人が横にいるから。だが、これだけは言って置こう。


「熟成させないと美味くないから今日は無理だぞ」

「ええええーーーっ!?」


 魚ならともかく肉を新鮮なまま食ってもな。あの猪は熟成させないと美味しく食べられそうにないし。 

 

「まあいいや。皇ちゃん熟成よろしく」

「はいはい。とっととやれ」

 

 武内さんは弾丸の如く駆け出すと猪と接触する瞬間に強烈な踏み込みで地を砕き割る。

 バランスの崩した猪が前傾姿勢で倒れようとした所をアッパーカットさながらに武内さんの右手が猪の顎を捉える。


「ここだぁああーーーーっ!!」


 ドパンッ、と生物から発せられたとは到底思えない音が猪の首から鳴り響くと猪の頭を消え去った。

 

「うわ脆っ」

「武内さんやり過ぎだぞ。頭も珍味なのに」

「お前も慣れて来たな」


 頭部の消え去った猪は武内さんの造った亀裂に首から突っ込み逆さまになる。

 ちょうど良く血抜きとなったのはやはり武内さんが狙ってやったのだろう。その証拠に猪の首のサイズぴったりに地面が別れており、底に血が溜まっても両脇から流れ出るようになっていた。

 

「しかし食い応えがありそうだな」


 見上げる程の巨体は三人で食べ切るには腐らせてしまいそうな量だ。


「燻製、塩漬け、ソーセージを作るにしても羊の腸がない。楽なのは冷凍保存だけど」


 ちらっ、と皇さんを見れば何らかの操作をしているのか右腕を連続でタップしていた。


「ん?なら丸ごと冷凍庫に入れれば良い。しばらくは持つ」

「やっぱり皇ちゃんでも時を止めるのは無理かー」

「科学に基づく以上自然的でないのは不可能だ」

「その腕の質量保存の法則と重量の関係は不自然じゃないのか」

「これは納めておく空間が違う。私は便宜上この収納空間を『界の裏側』と呼んでいるがね」


 充分に科学から逸脱している。

 だが皇さんからすれば理解して扱える科学の範囲なのだろう。

 武内さんにしても空を自由に飛んで、巨大な猪の頭を跡形もなく消してしまっている。

 やっぱり俺は二人の肩を並べる程の異常な『天災』だとは思えなかった。

 俺が作るのはただの料理だ。人よりも多少美味く飯を作れる程度の料理人もどきが今の光景と同じ力があると考えられる筈がない。

 そんな俺の悩みに気付いたのか皇さんは腕から顔を上げて覗き込んで来た。


「焦る必要はない。お前はまだ『天災』としての力の指向性を認識していないだけだ」

「力の指向性?」


 飯にそんなものあるのだろうか。

 

「その内分かる」


 そう言って皇さんはお茶を濁した。




 そんな訳で俺たちは今ウッドハウスの中にいる。何故だろう。ここは森林のあった荒野だったのに。

 経緯としては至極単純。もう夜の遅い時間であり野営となったのだが、皇さんが今度は荒野の真っ只中に家を置いた。本人曰く、


「さっき伐採したからな」


 との事。乾燥やら加工の工程を『界の裏側』で処理したそうな。さっきから腕を弄っていたのはその為か。なら猪の加工も任せてしまおうか。


「構わないがお前が指示しなければよく分からん硬い肉になるが?」


 ってな訳だ。こんな見晴らしの良い場所にポツンと一軒建てたのだから大丈夫なのかと思えるが対策済みだと。

 中は広々とした空間になっており、木の温もりを全面に感じられながらも置かれた機材はハイテク感満載。システムキッチンしかり、家電しかり。

 

「あ” あ” あ”~~~、このマッサージチェアー効くね~~~」

「そもそも電気は、ってもういいか」


 皇さんの科学だ。核なり何なり使ってるのだろう。

 

「風呂も用意してある。順番に入れ」

「じゃあ皇さんか武内さんからな」

「陸斗くんからで」

「さっさと入れ」 


 男が先には入れん。なのに二人はこっちを見て先に入れと促して来る。そんなに臭いだろうか。

 

「さくっと入って夜食作ってよ」

「うむ、小腹を満たしたい」

「女の子だろ?いいのかよ」


 そんな気もしたけど飯の為か。断る理由がないが良いのか乙女的に。


「そんなものチリ紙と一緒に捨てたよ」

「オスとメスの解釈なら間に合ってる」

 

 だろうな。まあいいか。風呂に入りながらなるべく太らない夜食を考えるとしよう。


「じゃあ先に頂くな」

「ごゆっくりー」



 

 ・・・


 


 さて邪魔は消えた。

 私と同じ考えなのか天華も風呂に入るのを促していたしな。


「さてお前の悪だくみを聞こうか天華」

「やだなー。人聞き悪いよ皇ちゃん」

「どのみちここには私たちしかいない」


 気にするだけ無駄だ。この家屋も防音機構も当然完備してある。

 私はマッサージチェアーに座る天華の横のソファに座った。


「んじゃ、端的に言うけどさ」


 天華は私の耳元でひっそりと呟く。


「奴隷欲しくない?」


 奴隷だと?この国ならば何処でも売買している当たり前の品だが何故天華がそんなものを欲しがるのか。

 

「ほう、どう言った心算だ?」


 しかし奇遇だな。私も欲しかった所だ。無論ステータスを解析する実験材料としてな。犯罪奴隷ならば比較的安く買い取れて死なせてしまっても罪にはならない。まあ罪なんぞ気にもしないがね。

 

「うっわ、出たよ黒い笑み。とりあえずボクは面白いのが欲しいかなって」

「面白い?」


 ふむ、強ち私の理由と似たようなものか。私も知的好奇心から手を出そうとしているのだしな。それにこの世界には亜人と呼ばれる獣人種からエルフ、ドワーフ、元の世界であれば幻想とされる種族もわんさかいる。奴らの体構造を解剖するのも面白そうだ。

 

「いやー、こっちの頑丈そうなのなら鍛えてみるのも一興かなーって」

「どうせお前には届くまい?」


 天華の場合は違うようだ。まだ『武の天災』を作るのを諦めていないのか。

 

「まあそうなんだけどね。でも調べてた中で一番強いとされてる竜人種だっけ?それなら届く可能性も出て来るのかなーって。面白そうでしょ?」

「ふむ、確かにこの世界なら確かに一興か」


 私を作るよりは価値がありそうだ。

 

「ならば明日はこの国最大の奴隷市場にでも行くとしようか。金貨ならば持っているしな」

「やたらとあった部屋から持って来てたんだ。全部?」

「流石にそこまで持って来ていない。しかし竜人種の奴隷を三体は買える金額ではあるな」


 竜人種は高い。一番の最強種と言うのもあり奴隷として市場に出る可能性が低い。だから価値は跳ね上がり、相場は獣人種の百倍近かった。

 私の求める犯罪奴隷は一山いくら程度の価値しかないので天華の玩具に竜人種を買ってやるのも悪くない。


「全部持ってくれば良かったのに」

「それはそれで不都合が起きる。何事も程々だ」


 あの国の宝物庫の中を慰謝料代わりに全部奪ってやっても良かったが金の無くなった国は無い所から搾取する。締め付けが平民に行くのは目に見えており、私たちが自由に動く妨げになってしまう可能性が出るのは良くない。

 

「竜人種いるといいなー」

「それはお前の運次第だ」


 明日になるのが楽しみだ。おっとそれよりもまだ夜食があったな。

 私は随分と毒されているな、と腹を撫でながら陸斗が風呂から上がって来るのを待つのだった。


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