65話目 それぞれの動き
読みにくくて申し訳ありません(>_<)
評価して下さりありがとうございます!
「は…ぁ……は………」
呼吸が乱れる。心の整理も追い付かない。走り過ぎて辛くて頭も痛い。
レンはとんでもない事をしてた。
記憶も全然戻っていないし、やった自覚も無いけどレンをあのおじさんは知っていた。
始めは違う人の事を言っているのかと思ってた。
――― 人が砂になった ―――
レンはその意味をよく知っている。
所詮人も原子の集まり。だからレンの力で何でもその結合力を無くせてしまう。
それにレンは原子そのものに干渉して成分から弄れる。皇様曰く『科学の常識から逸脱した魔法の領域』と言われた。
だから人が砂になった。それはレン以外に出来るとは思わない。
だからノドカのお父さんもお母さんも砂に変えてしまったのもレン。
レンがやってしまった。レンが、レンが…。
「は……はぁ、は…………?」
気付けばよく分からない所にいた。辺りを薔薇で覆われた不可思議な森の中。
レンは迷子になった。
後ろを振り返れば本当にこんな所を通って来たのか疑う景色。
「…ご主人、様……」
レンは無意識にご主人様を呼んでいた。
あの温もりの中に戻りたい。でもノドカがいる。
ノドカはレンをどう思ってるの?
それを聞くのがどうしても怖かった。
ノドカのお父さんもお母さんもレンが殺した。レンは悪い子だ。
そんなレンが一体どんな顔をすれば良いのか分からない。
とても怖くて。怖くて怖くて、気付けばレンは泣いていた。
思えばレンはずっとノドカと一緒にいた。
記憶が無くて、ステータスも無いレンをずっとノドカが守ってくれた。
だけど守ってくれたのとは裏腹にレンは何もして上げれてない。
それどころかレンはとんでもない事をしてた。
戻りたい。けど戻れない。
頭の中がぐちゃぐちゃする。助けて。レンはどうすれば………。
「レン、何処にいるんだレン!!」
レンを呼ぶ声に、はっ、となる。この声はノドカの声だ。
思わず喜び振り返るもレンがやった事を知った今、とてもノドカと顔を合わせられない。
「…っ」
レンは走る。ノドカの声が聞こえた方とは逆の方へと。
・・・
俺はレンを探すと同時にこの【薔薇の迷宮】を突破するのに難儀していた。
「ハガクレさんはこの薔薇を消す事って出来ませんよね?」
「魔法は使えませぬからな。痛みを我慢して殴っても効果は薄いでしょう」
「ですよね」
竜人種のハガクレさんでも無理なら俺でも無理だ。
一応獣闘法【大蛇】って奥の手はあるが、あれは使えば倒れるリスキーな技。しかも不完全で俺のは大蛇と言うよりアオダイショウ、いや赤いからアカダイショウか。とにかくまだまだ小さいのだ。
使えない技を技とは言えない。
ここで『氣』を包丁の形にしても良いが、効果が無ければ走るのもキツくなるから乱用出来ない。
それにこれは植物。絶対に切った端から生えて来るのは目に見えていた。
「はははっ!どうだ俺の迷宮は抜け出せまい!!これが『山崎光黄被害者の会』会長の実力だ!!」
それどんな名前だ。
「流石会長。一番被害を受けているだけはあるぜ」
「それを言うならお前もだろ直哉」
「くっそ、僕なんてトイレに行くのも辛くなったんだ」
「ああ、でもこの辛い日々も終わりだ。あいつを捕まえてこの悪夢を終わらせる!」
やばい。向こうは謎の盛り上がりを見せてるし。
まだ姿を見せないのは他の元クラスメートたちから俺達の情報でも貰っているからか?
この【薔薇の迷宮】を出しただけで動きを見せず、やけに慎重なのが気味が悪い。
それに武内さんや皇さんの動きが全然無いのが気になる。あの二人ならすぐに脱出出来そうなものなのに。
「こっちに進んでみますかな」
「そうですね」
俺はハガクレさんの先導で進んで行く。
迷宮の名に相応しいくらい分岐が多く、何処に自分がいるかも分からない。
奴らの声ばかりが聞こえて来るのは俺に対する嫌がらせだろう。
「加賀がいなくなってから俺たちは惨めな想いをし続けたさ。山崎に襲われる日々。奴隷の膝で何度も泣いた」
「俺の奴隷なんて少し喜んでたんだぜ?山崎が襲って来たのが俺の部屋でよ。奴隷も一緒にいたからか襲われてるのを見てそっち方面に目覚めたんだぞ」
「僕なんて庭園だぞ。盗み見してたのがメイドたちで助けてくれなかった」
「俺なんて…」
「僕なんて…」
探索中に集中力を欠けさせる恨み節を永遠と綴り続けるのだから質が悪い。
こいつら卒業式に思い出を言い続ける集団か。
薔薇が咲き誇る迷宮で響き続ける男たちの嘆きにウンザリしながら進む。
ここはどうなってるんだ?これだけ歩いても皇さんにも武内さんにも合流しない。
場所が同じに見えるだけで異空間にでも迷い込んだのかとも思えた。
厄介なスキルだ。分断するのにこれだけ最適なスキルはないな。
・・・
うへー、何この薔薇?殴っても吹き飛ばないなんて普通の植物じゃないよね。
早くレンちゃんに追い付かないといけないのに迷路がボクを邪魔してくる。
「皇ちゃん、何か良い案ない?」
「普通に迷宮を出るしかあるまいな。空から出ようとすれば薔薇が邪魔だ。焼き払っても消えん。切り裂いても消えん。最悪な嫌がらせだ」
「皇ちゃんでもダメなんだ。マイランさんはどう?」
まあ言っても無理なのは百も承知なんだけどね。だって真っ先にこの薔薇斬ってたのマイランさんだし。
「これは無理ですね。植物全てをまとめて消すか、術者を倒すかしなければ。もしくは単純に出口を目指すかしかありませんね」
「やっぱり?」
まいったなー。こう言うの地道にクリアーするの苦手なんだけどな。
ボクらはとにかく歩いて迷宮を脱出しようと足掻いた。
「ふむ、レンが心配だな」
「レンさんがあの様子ですし放っておけませんね」
「そうだよね。陸斗くんなら無事だと思うし、レンちゃんを先に探そっか」
全員の意見は一致していた。まずはレンちゃんを探してから捕まえる。
ノドカちゃんも近くにいないけど恐らくレンちゃんを追ってると思うし大丈夫だよね。
「あ、あの先生の方は問題ないのでしょうか?ハガクレ様もおりませんし」
と、ここで竜人種のお姉さんが声を掛けて来る。
お姉さんたちと子供たちも巻き込まれちゃってるけどボクたちがいるから問題ないよね。
ただ不思議な事を言うなー。陸斗くんなら大丈夫だよ。だって陸斗くんだよ?特に根拠はないけど陸斗くんなら大丈夫だよ。
「まあアイツの事だ。上手くやるだろう。それよりレンを優先する。お前たちもついて来い」
「は、はい…」
竜人種のお姉さんたちは何で躊躇してるのかな?
まあいいや。それよりもレンちゃんを探さないとね。
・・・
計画は完璧だ。
俺達の思い通りに事が進んでいる。
「順調だな会長」
「ああ、こんなにも上手く行くなんてな。田中たちが逃げ帰ったって聞いてたからもっと苦労すると思ってたがあっけないもんだ」
田中たちは正面から加賀たちに挑んだ。自分たちの強さに過信してステータスを持たないのを弱い奴だと疑わずに戦った。
結果負けた。山崎も鈴木も土屋も加藤も全員がうぬぼれた結果負けたんだ。
だが、俺たちは違う。直接的な戦闘を避けて加賀と仲間たちを分断する方法を選んだ。
俺の【薔薇の迷宮】は全ての道が繋がっていないといけないデメリットはあるが、仲間を分断するのには最適なスキルだ。
しかも力づくでは脱出不可能。それこそ一瞬で全てを燃やす火力があれば別だが、そんな事をすれば自分も死ぬし仲間も死ぬ。
それにこの【薔薇の迷宮】は俺の中も同然。ここで起きる全ての出来事を把握出来る。
つまり完璧に分断出来た状態になれば加賀を拉致するのも容易い。
加賀自身がどれだけの戦闘能力を持っているのかまでは知らないが、こっちは五人もいる。ステータスだって田中たちにも劣らない力だ。
それに厄介そうな竜人種や武内さんを離せれたのは大きい。
俺や武田は戦闘に直接使えるスキルを持っていない。
その分俺はこうして大規模で自分に都合の良いステージを用意出来るから問題はないし、武田はあるスキルをあいつらに付与してやった。
「武田の【精神誘導】のスキルのお陰だぜ」
「ああ、勝手にバラバラに動いてくれるから楽勝だ」
「そう言っても単に逃げた獣人種の幼女を気に掛ける様に操作しただけだけどな。本人が強く否定する類には使えないが、今回は運が良かった」
この武田の【精神誘導】は集団戦においては囮にした奴隷にヘイトが向く様にしたり、また通常でも皆
の意見を望みの終着点に誘導するのに向いている。
もっとも混乱している者や山崎の様に精神が変に狂ってる者には使えない。だから武田も山崎の魔の手から逃げる事が叶わず「アッーーーー!」となった。
そのお陰で俺たちの髪は今やカラフルだ。俺が赤、武田が青、今井が緑、金田が黄色で菊池がピンクになった。少しでも加賀と被らない様に努力したのにそれでも山崎は偶に襲って来る。
俺達は持てる全ての力を持って山崎に対抗した。
しかし奴の戦闘能力は高く、職業がダンジョンマスターの俺や戦闘職じゃない皆が餌食になったのだ。
だが、そんな辛い、本当に辛い日々も終わる。
長かった。もう奴隷の膝を涙で濡らす生活は終わりなんだ。受けた被害の記憶に俺は涙を流す。
「会長!」
「ああ、俺達は勝利を手にするんだ!!」
「「「「おおっ!!」」」」
円陣を組んで俺達は気合いを入れる。俺達の心は今一つだ。
「何遊んでるんだお前ら?」
来たな加賀。お前にたっぷりと復讐してから山崎の元に引きずり出してやる!!