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64話目 真相と再会

遅れて申し訳ありません。どうするか考えがまとまらなかったもんで

 もはや戦っていられる状況ではなかった。

 ガチガチと震え、歯の音が合わない中年に一同困惑し、当事者であるレンもまたキョトンと立ち尽くしていた。


「どうするよ?」

「どうするって言われても聞くしかないんじゃないかな?レンちゃんの昔の事知ってるみたいだしさ」


 まあそれが良いか。ただ、そうするにしても中年のあの怯え方からして普通に話してくれるかどうか。

 

「おい、レンについて何を知っている?さっさと話さなければどうなるか分かっているな?」


 レンを引き寄せ、中年に近付ける鬼の所業。皇さんは人の脅し方を熟知していた。


「わ、分かった!話す!話すからその『砂漠の魔女』を近付けないでくれ!!」

「『砂漠の魔女』?」

「………?」


 レンにはまるで似合わない大仰な名前。それだけ恐ろしい何かが過去にあったのか。

 記憶がないレンには中年が何故自分に対して怯えているのか。少なくとも中年はレンの過去を知っている。それだけにこの中年から聞ける情報は大きかった。

 少しして落ち着いた中年はあぶら汗を払って地べたに胡坐をかくと青ざめた顔のまま話し始める。


「あれはお前を売ってから幾月が過ぎた時だ。狩りに出ていたお前の父親がそいつを拾って来た」


 事の発端はノドカの両親にあった。

 一体何処から来たのか。どうしてこんな竜人種の住む住処の近くまで来ていたのか。それは誰にも分からなかったが、その時からレンは衰弱しておりノドカのお父さんが拾って来なければ一日も経たずに死んでいた程だと。


「あいつもお前を売った事を後悔していたのか、とにかくそいつに情が移って助けちまった」


 レンは結果として死ななかった。

 ノドカの両親の介抱もあって日に日に元気を取り戻したレンだったが、完全に回復した時、レンの処遇について話し合いが行われた。


「俺たちは弱い者を住処に置かない。九割の者がそいつを売る事に賛成だった。しかし」


 ノドカの両親は反対した、と。

 両親はノドカを売った事を酷く後悔していたのだ。

 だから同じ様に弱いレンがどうしてもノドカの事をダブらせてしまい、売る事が出来なかった。

 

 俺からすれば何故その優しさをノドカに向ける事が出来なかったのか不思議でしょうがない。

 ノドカが努力をしていたのは知っている。

 呪いに負けないと技を鍛えた。呪いに屈しないと心を鍛えた。それでも体の弱さを補えるものではなく、折れそうになった日もあるだろう。

 それこそ俺に呪いを解かれた事で生涯に渡って忠誠を誓ってしまうだけの苦しみだったのだ。

 

 一人嘆いたノドカに何故その手を伸ばせなかったのか。


 俺は静かに憤りを覚えていた。

 仮にも親だろう?そこに愛しさは無かったのか?何処にいるとも知らないノドカの両親に会ったら殴ってやりたい。そして俺のモノだとはっきり言ってやりたかった。


 そんなノドカの両親と中年たちの話し合いは平行線を辿り続けたそうだ。

 一向に受け入れてくれないノドカの両親にしびれを切らしたのは中年たちだった。


「そこで俺たちは密かにそいつを売ってしまおうと画策した」


 レンを強襲し売り払う。力に物を言わせた行為で話し合いと言う無駄な行為に終止符を打とうとしたのだ。

 しかしノドカの両親は抵抗した。レンにノドカの面影でも重ねていたのか、それこそ我が子を想う親の如く激しく抵抗したそうだ。

 

「俺たちは困惑させられたもんだ。下手すらゃ死人も出そうな勢いで抵抗するもんだから諦めちまおうかと思ったもんだ。血だらけになったノドカの両親と庇われるそいつ。そこで予想外の事態が起きた」


 庇われていたレンに戦闘の余波で石礫が頭部に当たった。

 

「正直こんな事してりゃ被害を受けない方がおかしいんだが、頭を打ったショックからか、そいつの様子が変わってな。心配してそいつに駆け寄ったお前の両親が次の瞬間には―――」


 ――― 砂になった。


 沈黙が支配する。

 右手で片目を覆い頭を振る中年はその時の事を鮮明に覚えているのか、青い顔が白いと言って良い程悪くなる。

 

「その後は最悪だった。足元から砂になり同胞が次々と砂に変わって行く恐怖。攻撃を加えようとした者から砂になる悪夢に俺たちは止む無く住処と一緒にそいつを捨てた。それが真相だ」


 レンは記憶を失う前から錬金術としての力を持っていたのか。

 いや、不本意な力の使用だ。正確には目覚めたと言うべきか?どちらにしろあまり良い目覚め方ではない。

 

「本当にどっからそいつがやって来たのか。さっぱり分からないが俺たちはそいつを『砂漠の魔女』と呼んでいる」

「なるほど。それでノドカの知り合いがここにいるのか」


 被害に関して勘定せず、ただ起きた出来事から事実を飲み込んだ皇さんは一人納得していた。

 自分を救ってくれた恩人を砂に変えた。この事実はあまりにも重い。

 もしかしたらレンの記憶は石礫が当たったショックもあるだろうがノドカの両親を砂に変えた精神的なショックもあったのかも。

 そんなレンに俺は上手く言葉を掛けられず、名前だけを呼んで手を伸ばした。


「レ…」


 ダッ、とその瞬間、レンは居ても立っても居られなくなり駆け出した。


「レン!?」


 俺は去り行く背中を追う。いや、追おうとした。




「見つけたぞ!加賀陸斗ぉぉおおおっ!!」



 

 それはとてつもなくどうでも良い出会いだった。

 レンの背中が小さくなって行く中で現れた男たち。

 赤、青、緑、黄色にピンクと、とてもカラフルな髪色が特徴的な男たちは何故か俺の名前をフルネームで呼んだ奴ら。少なくとも俺にこんな戦隊ものの知り合いはいない。


「退いてくれ。俺にお前たちみたいな奴と付き合ってる暇はないんだ」


 早くレンの元に行かなければ。

 そんな焦りが募る中で、嫌がらせの如く立ち塞がるこいつらに苛立ちを覚える。


「お前になくてもこっちにはあるんだよ。加賀がいなくなったせいで俺たちがどんな目に遭って来たか」

「は?俺はお前たちを知らないんだが」


 人の名前を呼んだりしてモルド帝国の誰かか?だが向こうにこんな男たちと出会った記憶はない。

 そもそも俺に男の知人がいたか怪しい。精々関わったのがエルフのパルサとルデルフだ。

 俺の返答に拳をプルプルと震わせる赤い髪の男はビッシっ、と自分に親指を突き付けて叫ぶ。


「俺は安藤だ!安藤久人(あんどうひさと)!!」

武田直哉(たけだなおや)だ!」

「僕は今井俊也(いまいしゅんや)だぞ!」

金田亨(かねだとおる)!」

「俺は菊池孝則(きくちたかのり)!」

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ああ、いたな」

「「「「「いたな、じゃねぇぇええええええええーーーーーーっ!!!」」」」」

 

 俺の記憶とまるで一致しなかった。


「異世界デビューし過ぎだろ」


 そう、俺の記憶から探り出すのも苦労する程にこいつらとは縁がなく、背景の一部、モブ、ガヤの範囲に入るエキストラ的役割としか認識がなかった。

 黒髪に地味な印象しかなく、随分と前まで俺もこの一部だった自覚がある。

 仲も良かった訳では無い。話し掛けられれば普通に返すだけ。気長に喋られるだけの面識も薄く、いきなり遊びに行こうぜと誘われたなら「え?あ、遠慮しとくわ」と戸惑ってから断るくらいの仲だ。


「こうなったのも全部お前のせいだろうが!!」

「そうだ!」

「俺達がどんな目に遭ったか!」


 安藤の叫びに頷く四人にはそれぞれ顔だけ見れば何となく名前が思い出せそうで思い出せない感じの薄ーい関わりがあった気がする。

 こいつらも元クラスメートたちか。

 ただこいつらとの再会に嘆いている場合ではない。


「邪魔だ。俺にはお前たちに用はない」


 無駄に派手になった理由が俺にあったとしても今はどうでも、いや今後一切どうでも良い。今すぐレンの後を追いたいんだ。

 しかし行く手を阻むこいつらは聞いてもいないのに解説を始める。


「そう、これはお前が城から消えてから数日が過ぎた時だ」




 ・・・




「やらないか?」

「「「「「アッーーーーーーーーーーー!!!」」」」」




 ・・・




「なんて事が起きたんだよ!!」

「あ、すまん。どうでも良くて色々聞き逃した」

「加賀ぁぁあああーーーーっ!!」


 気持ちがレンの方に向いているのに一々耳なんて傾けてられるか。

 山崎にお前たちが掘られたなんて話を懇切丁寧に聞きたくはない。

 

「しかも終わった後に『これは陸斗きゅんじゃないよ』なんて呟きを残して去って行かれた俺たちの気持ちが分かるか!?」

「分からんし分かりたくもない」


 思わずケツに力が入る。

 

「狙われた理由が黒髪、細身、平均的身長の男子ってだけだぞ!!こんなカラフルな髪も全部お前のせいなんだよ!!」

「知らんがな」


 安藤や他の面子が何を言っても興味はない。

 ここはもう強行突破で行かせてもらう。


「武内さん、あいつらを」

「させるかよ!」


 やってくれ、と頼もうとした瞬間にそれは起こった。


「なっ!」


 ぐらつく大地に次々と生まれる植物が幾重にも重なりあって俺たちは見事に分断された。

 あちこちから赤い薔薇の花が咲き誇り、迷路の様な出で立ちを模して壁になる。ここはまるで薔薇の迷宮。


「この迷宮をよく見ろよ加賀。お前が消えたせいで俺のスキルはとんでもない事になったんだ。ただの【森の迷宮】が【薔薇の迷宮】になったのも全部お前のせいだ!」

「だから知らんがな」


 勝手に森の育成に貢献でもしてろ。

 声は近くで聞こえるものの何処にいるかがさっぱり分からない。しかも近くには誰もいないから助けも求められない。

 が、このスキルには致命的な欠点がある。


「頭上ががら空きだ」


 俺は【両足の領域(インベーダー・レッグ)】を使って空を駆けた。………筈だった。


「何!?」


 飛んだ瞬間、空を薔薇で塞がれてしまい逃げ出す事が出来なかった。

 薔薇にぶつかった瞬間、薔薇が生き物の様にうねりながら俺を地面に叩き落す。


「残念だったな加賀!どうやって空を飛んだか知らないが、この【薔薇の迷宮】はそんな不正を許さないぞ!」


 なんて面倒なスキルを使って来たんだ。これじゃあレンに追い付けない。

 しかも俺は今一人だ。

 この程度の障害なら武内さんか皇さんが何とかしそうだが、俺には強引な突破は無理だ。


 相手は薔薇。見ただけで何となくこいつらは調理し切れないと訴えて来る。

 植物としては異常な成長力で最速で調理したととても間に合わない。そんなイメージが浮かぶのだ。

 こんなのどうすれば…。


「ご無事ですかな陸斗殿」


 途方に暮れる俺の後ろから現れたのはハガクレさんだった。


「そちらも無事のようですね」

「この薔薇で覆われただけですからな。しかし相手も厄介なスキルを持っているようで」


 薔薇に触れるハガクレさんだが、その人差し指からは出血が起きる。

 

「ハガクレさん!?」

「この通り触れるだけでもトゲが鋭く刺さる危険な代物。無暗に近づいてはなりませぬぞ」


 血の溢れた指を拭うハガクレさん。

 さっき俺は薔薇の花びらの多い箇所に当たったからか地面に叩きつけられた衝撃だけで済んだ。でも実際この薔薇を素手で触るのは危険だ。

 殴りでもすれば腕がズタズタに切り裂かれる。それこそ拷問道具の様な効果を発揮するであろう。

 だから俺達に残された選択はこの迷宮内を歩いて脱出する事。

 でもこれだけじゃ絶対に終わらない。俺への理不尽な復讐心からあいつらはより酷い仕打ちを用意している筈だ。


 焦る気持ちで心臓が鳴り止まない。

 せめて俺以外の誰でも構わないから逃げたレンを捕まえて欲しかった。

 あんな話を聞かされた後に逃げたレンがどんな気持ちでいるのか想像も付かない上に、一人ぼっちになんてさせては絶対にダメだ。

 待っていろよレン。必ず追い付くからな。

考えに考えて最終的こうなるってどうなんでしょうか?

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