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59話目 ラーメンは差し出される

評価とブックマークありがとうございます。気が付くと増えているって嬉しいですね。(*^^)v

 ようやく完成。

 合計して何時間だ?とにかく作るのに大分時間を要したラーメンが完成した。


「陸斗くん。メンバリカタニンニクマシマシで」

「それ何の呪文だ?」

「通が注文する方法みたいだよ?」

「なんだそれ」


 店やってる訳じゃないので普通に盛って出して行く。

 豚骨スープに細麺を入れて厚切りチャーシューを三枚載せ、煮卵にネギを多めに盛った一品。これでも十分だと思うがな。


「おーい、運んでくれ」

「わーい」

「随分と本格的じゃないか」

「…うん」


 レンも朝とは顔色が全然違っており、ラーメンを貰って嬉々としているので食欲はあるだろう。

 

「もう大丈夫か?」

「…平気。ご主人様ありがとう」

「そうか」


 気を付けてやらないと皇さんみたいにある日突然、とかなってそうで怖いからな。

 皇さんのような事態は起こさない。

 それにレンは妹みたいなものだ。兄がしっかり見守ってやらないとな。………やってる事は主夫だけど。


「母性が出てるよー、滲み出てるよー」

「誰が母性だ」

「料理作って子供を見守る目をしてたらダメだろ」

「皇さんもか」

「お母さんと呼んでも?」

「マイランさん呼んだら怒るからな」

「主は父であり同時に母であるのです。つまり完璧な神に等しい存在です」

「変な宗教の前触れを感じたわ」

「…パパ?」

「すまないレン、俺はお父さんにはなれないんだよ」


 口では否定しても心が認めてしまう。

 このマイランさんを除いた四人娘を育ててる気分になるのは絶対普段の家事が尾を引いてる。

 マイランさんを除いたのは料理も洗濯も掃除もやってくれるので、こっちもある意味お母さんだ。

 

「とにかく麺が伸びる前に食べるぞ」

「「「「いただきまーす」」」」


 子育ての苦労をまだ感じる年でもないのにな。

 皆で啜るラーメンの味は中々だった。

 初めて作ったにしては良い出来だが、やっぱり拙い部分もあって完全とは言い辛い。


 これは麺も細麺じゃなくて幅広い太麺にしてスープを絡ませた方が良かったか。

 それにスープも猪の骨を使ったからか臭みがある。野菜等で抜けたと思ったがまだ甘かった。

 そう言った意味でもこれは人にも出せるレベルだ。

 

「うまーー」

「………」

「とても美味しいです」

「師匠に不得手は有りませんね」

「…おいし」


 それでも皆には好評だった。

 まあ初めて作ったから比べる対象が無いのもあるか。

 俺がここでお茶を濁すのもアレだし、素直に喜ぶか。


「ありがとう。今度は醤油ラーメンでも挑戦しようかね」

「いいねそれ!」


 次はもっと改良した物を作ろう。

 醤油だとまた勝手が違うが、そこも勘でやってみるか。


「「「「ご馳走さまでした」」」」


 あれから替え玉もしてスープの一滴まで綺麗に飲み干して大満足の様子だった。


「いやー、この世界に来てラーメンがまた食べられるなんて思わなかったよ」

「作るの大変だしな」


 ついでに言えば後片付けも大変だ。

 スープを作った大鍋も洗うのは一苦労だし、残った骨の処理もどうするか。

 じっくりと出汁を取ったから骨は脆くなってるし、次も使うには良い出汁が取れるイメージがしない。

 外にでも埋めるか。

 

 骨は取り敢えずそれで良い。

 しかし調子に乗って作って余ったスープは冷凍するにしても何に使うか。また同じようにラーメンにするのも味気ないような。

 

 と悩んでいる俺を余所にコンコン、と玄関の扉が叩かれる音が響く。

 何だ?ってか誰だ?

 ここはわりと辺境に位置している。

 山賊にしても住みにくい岩場の多い山岳地帯であり、近付く物好きも俺たちみたいな竜人種と会いたいと言った目的でも無ければ来る事はないような場所なのだ。


 そんな場所に人が訪ねて来た?

 俺は武内さんを見ると任せてって顔で親指を立てた。


「はーい、今開けますよー」


 扉に近付く武内さんに皇さんがその背中で【有現の右腕マールス・ノウン】を展開したのか右腕は黒く染まっていた。

 ノドカもいざという時の為に青い髪を金色に染め【竜人解放】の状態で行方を見守る。

 マイランさんも、あの事件以降で皇さんに貰った腕輪を使い『界の裏側』からいつもの大剣を取り出していた。

 そしてレンと俺は後ろで待機だ。



 こんな時に余談だが、皇さんは自身の発明を俺と武内さん以外にも渡すようになった。

 どうやらトラウマは吹っ切れたらしく、もう皇さんに忌避感は無いと。だから今では『界の裏側』を全員が使用出来ていた。



 ドアノブに手を掛ける武内さんに固唾を飲んで見守る。

 もし害をなす者なら既に攻撃してるだろうか?だが、開けるまで油断は出来ない。

 

「………」


 ガチャッ、と開けた先にいたのは


「夜分遅くに申し訳ありませぬ。私はハガグレ・ヨザキと申します」


 年老いた竜人種であった。

 これはどう見れば良いんだ?

 敵なのか判断の難しい相手に俺はどう警戒して良いか分からなかった。


「こんな辺境ですから警戒されるのも無理はありませぬが、その警戒を解いて頂ければと」

「おじいちゃんは夜遅くに何の用なの?」


 武内さんが扉の前に仁王立ちで立って老人の侵入を防ぎながら聞いた。

 

 ―― ぐぎゅるるるぅぅ~~……


 っと、そこで突如複数の空腹から発せられる様な空気が潰れた音が聞こえた。


「武内さんさっき替え玉三つもお代わりしたよな?」

「そこでボクなの?!普通どう考えても外にいるおじいちゃんたちだと思うよね!?」


 あ、すまん。いつも夜食食べるし普通に足りないのかと。

 腹を擦る老人は苦笑いを浮かべて頭を下げた。


「これは申し訳ありませぬ。されど我らも限界でしてな」

「なら入ってくれ。敵じゃないなら客として持て成して構わないよな?」


 ラーメンはまだ残っている。

 残りは保存しておくばかりだったから食べられた所で問題は無かった。


「私は構わん。陸斗がそうしたいなら好きにすればいい」

「ボクも良いよー」


 二人から賛同は得られた。


「主が成される事であれば」

「…空腹辛い」


 奴隷であったノドカたちは空腹の辛さを知っている。だから拒絶はしなかった。


「しかし師匠。師匠が作られた物を食べるとモルド帝国のメイドの様になりませんか?」

「問題ないだろ。特に今日のは初めて作ったから粗が沢山あったしな」


 マイランさんの疑問ももっともだが、あれはそこまでの完成度には至ってないんだよな。

 だから彼らに食べさせた所で問題はない。あるとしたら彼らの醸し出す臭いだった。

 数日ではない。一月はまともに風呂に入れて無いだろう異臭がここまで漂って来ていた。


「貴様らは外でまず身体を洗え。湯は用意してやる」


 皇さんが臭いに耐えかねて鼻をつまみながら武内さんを押し退けて外に出る。

 流石にあのまま入られたら家にもこの臭いが染み付きそうだった。

 不思議なものだ。どうして竜人種がこんな酷い状態でこんな何も無い辺境にいるのか。

 

 それも複数人。彼らの実力なら飢える程の状況にならなくても狩りくらい出来るだろうに。

 周辺は確かに何も無いが、俺たちが来た道から数十キロ前には森林もあって獣もそれなりにいた。

 ある程度準備をすればその程度何とかなりそうな気もするんだけどな。


「何から何まで申し訳ありませぬ」


 俺の思案を余所に老人は頭を下げる。それにならって後ろの人たちも頭を下げた。

 よく見ればそこには子供もいて、その頬は痩せこけていた。

 ………ラーメンを出しても大丈夫か?スープが少し濃いし無理そうなら他の物でも出すか。

 俺は彼らが身体を洗っている内に食事を準備するのだった。




「大変ありがとうございました。この御恩は必ずお返しいたしますので」


 彼らは結局俺が作った全てを平らげた。

 スープからラーメンまで空になった皿を下げるのはマイランさんに任せて竜人種たちの対面に俺は座る。

 本来ここでの役目は皇さんになるが、俺は今まで皇さんを矢面に出し過ぎた。

 今度からは俺がその役目を負う番だ。


「それで貴方たちは何故こんな僻地に立つ家を訪ねたんですか?」


 第一の疑問だ。

 ここから始まらなければ分からない。

 はっきり言ってこんな所に居を構えている人間を訪ねたんだ。

 普通ならば不気味に思い近付かない筈。それでも訊ねたのだから相応の訳が無ければいけない。

 

「恥ずかしながら申しますが実は私たちは逃げて来たのです。竜人種を狩る者たちより」

「それは…」


 覚えのあるフレーズだった。

 人権の一切を無視して相手の全てを奪う奴隷と言う名のシステム。

 それに関しては俺も思う所があり、人がやって良い行為ではない。

 しかしそれを嬉々としてやっているのが元クラスメートたちで止めさせるべきだとは思う。


「奴らは様々な種族を奴隷にして回ります。それを踏まえた上で不躾ながら聞させて願いたい」


 この世界では珍しい黒髪黒目。老人は皇さんや武内さん、俺に目を向ける。

 もしも俺が逆の立場なら疑って当然だろう。何よりこっちには()()()ノドカやレンがいる。


「貴方は竜人種を狩る者たちと関わりがあるのではないですか?」


 彼らからすれば俺たちと元クラスメートは同族だと連想して不思議ではなかった。

 だから俺は正直に答える。


「関わりはあると思います」

「「っ…」」


 子供を抱える女たちの顔が強張る。

 それも無理のない事だ。逃げて、逃げ続けてその先には既にその関係者がいたとあっては怯えてしまうものだろう。


「しかし、もし貴方たちを奴隷にしたければ弱っている内に拘束した方が得策では?それに食事に毒も盛れた。それをしなかった事で疑いを晴らして貰いたいのですが」


 ただ彼らは俺が関わりがあると言っても逃げ出そうとはしなかった。

 逃げ出すのが疲れてしまったのもあるのだろうが、人を信じたいと、与えられた慈悲を真摯に受け止めたいと考えたのかも知れない。

 そこは彼らが何を思っているかだが、緊張感の取れた泣き崩れそう笑みは嘘じゃないだろう。


「確かに、そうですな」

「俺たちは一応彼らとは敵対関係にあるので」

「それに同じ竜人種として補足させて貰うなら主は慈悲深いお方だ。けして貴方たちに危害を加える事はしない」


 ノドカの、同じ竜人種の言葉には強い説得力があった。

 もう彼らは俺たちを疑っていない。

 老人はノドカを見る。正確にはノドカの首に付けられた奴隷証を見た。

 

「なるほど。奴隷でいるのは己の意志ですかな?」

「もちろんだ。私を奴隷から解放しようとする主に無理を言って残して頂いた」


 そっと首筋の奴隷証に触れるノドカはこれは忠義の証だと微笑む。

 俺としては消しておきたいんだが、こんな笑みを見せられたら出来ないよな。


「なれば腹を割ってお話いたしましょう」

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