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58話目 竜人種とラーメン

 今日はそっとしておくとしてノドカが来たので交代して貰い、俺は部屋を出た。

 こんな時は皇さんに、と言いたいがあんな事があった手前少し言い辛い。


「って顔をしているな陸斗」

「人の心読まないでくれるか?」

「だって陸斗くん分かりやすい顔してたよ?」


 部屋を出た側には皇さんと武内さんが壁にもたれて立っていた。

 

「レンさんの様子はどうでしたか?」

「一応今は寝てるよ」


 マイランさんも来て、結局全員がレンの様子を見に来ていた。

 誰もがレンの為に動いているのが嬉しかった。


「それでレンの事について相談したいんだが」

「分かっている。一番の問題は記憶だろうな」


 何も言わなくても皇さんは察していた。

 エルフの里での騒動にはマイランさんもその場にいた。

 皇さんと武内さんもマイランさんから事情を聞いたのだろう。


「この場合、記憶って戻った方が良いのかな?」

「記憶が無いのは不自然だしな」


 武内さんの案に俺も頷いた。

 今までのレンの状態が不安定だったのだ。

 家族も知らない、友人も知らない、そんな状態で信頼出来るのは俺たちだけ。

 言い換えれば、レンは産まれたばかりの赤子と変わらない。

 そんなレンの前に現れたレンの過去を知る人物たちとくれば思い出したいと願っても不思議じゃなかった。


「私は反対だ」


 俺たちはレンの記憶を取り戻した方が良い。そこに待ったを掛けたのは皇さんだった。


「レンは記憶を失う程のショックを受けたのだ。天華の死技が見せた亡霊からして良いイメージは湧かん」


 それは至極妥当であった。

 記憶が無くなるなんて余程の事。

 俺なんかは何処ぞの武術家さんに死技をぶつけられて気絶したり、何処ぞの科学者さんに発明品でボロボロにされても記憶を失わなかった。

 俺を例に上げたのは少し違うかも知れないが、人はそれなりに頑丈だ。

 

 そう思えばレンの失った記憶は無くしてしまいたくなる記憶だったのかも知れない。

 それをわざわざ思い出させるのも酷な話か。故に俺は判断を本人に委ねたいと思う。


「それならレンにどうしたいかを聞くしか無いだろ。レンが要らないと言えばそのままで良いし、思い出したいと言えば協力すれば良いだろ」


 人任せな判断だが、俺たちはあくまでも部外者だ。それなら当事者であるレンの意見を尊重するのが大事だろう。


「そうだね。そうしよっか」

「それが良いでしょうね」


 武内さんとマイランさんからは賛成が得られた。


「ふん、私は記憶など失っているくらいが丁度いいと思うがね」

「失いたいと思った張本人だもんねー」


 皇さんは過去のトラウマで暴れたからな。

 完全に面白がって武内さんは皇さんをからかった。


「天華にも思い出すのも恥ずかしい記憶を作ってやろう。そうだな………トイレに入っている時にいきなり射出されて外に追い出されるのはどうだ?」

「止めてよそんな嫌がらせ!ボク完全に被害者じゃん!!」

「ふはは、私を笑うからだ。日常では常に気を付けろ。何時どこで私の作品が火を噴くか分からんぞ」

「意趣返しが酷すぎるよ」


 それシャレにならんから。

 しかもそのトラップに俺まで引っ掛かりそうで怖い。

 嫌だよな便器と一緒に空を飛ばされるの。皇さんが暴れた一件以来空を飛ぶのは懲り懲りしてるのに。

 俺たちはレンに関してはしばらく様子見として保留とした。

 

 レンについてはそっとしておくとして、取り合えず俺たちは竜人種のいそうな場所に向かっている。

 竜人種は他の種族と違って特定の場所に居を構え続けない。

 元の世界で言えば遊牧民の如くあらゆる所に動きながら生活しているらしい。

 ただ大陸を横断する様な極端な動きはしないとノドカは言っており、大体の居場所くらいは示す事が出来るとの事だった。


 しかし俺は竜人種に会うのは反対だった。


 何せノドカは同族に捨てられた。

 そんな奴らに会いたいかと言われれば、俺だったら会いたくない。

 親戚に奪われるだけ奪われた過去を持つ俺からすれば顔を見るのも嫌じゃないかと思ったからだ。


『私は別に構いませんが』


 そう思っていたんだが、肝心のノドカは竜人種に会いに行くのを気にもしていなかった。

 強がりかと思って確認を取れば気にする所の話では無かった。


『あれらに捨てられなければ私は主と出会えませんでしたし、呪いを解いて頂く事も出来ませんでした。それだけは感謝していますし、今は主の側に居られればそれで特に思う所がありませんので』


 何ともあっけからんとした理由に俺の方が思わず動揺した程だ。

 確かにノドカは捨てられなければ竜人種の里で未だに解けない呪いと戦いながら自分を磨き続けていただろう。

 それでも長年の鬱憤うっぷんとか恨みとかが無い訳では無い。

 正直な所竜人種と会って、変な騒動に巻き込まれるんじゃないかと言う心配の方が大きくなっていた。

 主にノドカを奴隷にしてる時点で竜人種の面々から文句が来そう。同族を解放しろとか言ってきそうだし。

 つまり竜人種に会わないのは自分の安全の為だったりする。


「早く竜人種と会ってケンカ売りたいね」

「止めなさい」


 こっちは完全にバトルジャンキーだし。


「死体などは貰えないか」

「止めなさい」


 こっちはマッドサイエンティストだし。


「ケンカを売って故意でやってしまえば良いのでは?」

「「それだ」」

「だから止めなさい」


 頼むから穏便に行こうぜ。

 言いたい放題な三人に俺は溜め息ばかりが口から零れた。




 今日は何を作ろうか。

 こうしてレンを気遣い、一日ここで滞在するとなるとその分時間も空く。

 いつも移動は車なのでさほど移動に時間を費やしている訳でも無いが、こうのんびりしていられる時間増えると言うのも滅多に無い。

 そうなると手間の掛かる物が作りたいな。


「ラーメンでもいってみるか」


 レンはあくまでも寝不足なだけだ。

 それは皇さんが診察しているので信頼している。

 そうなると病人食を作ってしまうのも味気ない。

 目が開いている時に何が食べたいか聞いたら「…まだ食べた事ないの」だったので作る事にした。


「ここに取り出したるは何時ぞやに武内さんがワンパンで倒した巨大な猪の骨」

「ギルマスが討伐されたと知って気絶した森の主の骨ですね。流石師匠。普通は武器や防具に使う素材で出汁を取るとは脱帽です」

「どうせ使わないしな」


 アビガラス王国で「止めろぉぉぉぉおおおっ!!」と叫ぶ声が聞こえそうだが気にしない。

 もっとも猪の骨だけだと臭みが強くなるから他の骨やハーブに野菜を入れる。

 この猪の癖は肉を食べたのでだいたい分かる。野菜の旨味と交じり合えば濃厚なスープが出来るだろう。


「ぶっちゃけお菓子みたいに分量を整える必要が無いから今のマイランさんでも同じ味が出せると思うぞ」

「いえ、師匠の場合は一見適当に入れていても黄金比になっている事が多いので勉強になります」


 マイランさんは相変わらずの勉強熱心。

 今回のはそこまで慎重に見るものではないんだがな。ただ時間をかなり使うだけで。


「それでこれはどのくらい煮込むのですか?」

「ざっと七時間」

「なっ、七時間ですか?」


 普通はそんなに煮込む事が無いからな。

 でも最初の数十分はアク取りに尽力しなければならないが、後は沸騰しない程度の火でじっくりと旨味を抽出すれば良い。


「今作っているのはてっきり昼用なのかと」

「まだ朝だもんな」


 老舗ならそれ以上煮込むだろう。知らないけど。

 麺も今の内に作って寝かして置かないと美味しいラーメンが出来ないから作るの大変なんだよな。

 幸い材料はある。そして時間もあるから作れるだけだ。


「後は放置で良いからな。今度は麺だ」


 強力粉に薄力粉、水、塩、重曹、卵をボールに入れて混ぜ合わせる。

 ドロドロとした中身がしっかり丸く形が整うまでコネ合わせたら、水分が飛ばない様に布巾を被せて放置。

 そしてしばらく放置したらまたコネる。これを何度か繰り返す。


「大分手間暇掛かりますね」

「その分、量を沢山作って置けば他の料理に使えるしメリットはあるぞ」


 武内さんがかなり食べそうだが、一人で二十人分も食えるわけじゃない。

 この豚骨(?)ラーメンが好評なら麺は別に使わず、醤油ラーメンや塩ラーメンを作っても良い。

 どうするかは反応次第だな。

 正直ラーメンは麺まで作ったりスープを作ったりはするのが大変だから元の世界でも作った事はない。作り方は気になっていたので知っていたが。

 

 ただ一人暮らしでこんな風にスープの為にガンガン燃料使ったり、麺を作っても腐らせるし勿体ないからやらなかった。

 つまりこれが初挑戦だけど今までの感覚で多分出来る筈だ。

 もしも美味く無いなら研究すれば良い。それはそれで面白いしな。


「じゃあ次はチャーシューだな」


 取り出したるは熟成がしっかり進んだ猪の肉。

 皇さんの科学によって腐敗を止められてあったので助かっている。量が多くて全部処理するのは難しかったしな。

 タコ糸で肉を丸めて均等に縛って行く。


「まずはスープの中で二時間煮る」

「え?これもですか?」

「時間かかるよな」


 だけどスープで最初に煮て味を染み込ませた方が柔らかくなって美味しい………気がする。勘だけどな。

 そんで二時間後、予め用意しておいた醤油や生姜に貴重そうな長老の酒で作ったタレを使う。

 エルフの里で「止めろぉぉぉぉおおおっ!!」と叫んでいそうだが気にしない。


 鍋に肉が浸るだけのタレを入れて中火にかける。

 ここでもアクが出るので丁寧に掬って弱火でまた二時間煮込む。

 そして取り出した肉はタレに付けたまま冷やして置く。そうする事でより味が染み込むからな。


「って事で待ってても出さないぞ?」

「陸斗くんズルいよー。そんないい匂いさせてさー。お昼食べたのにお腹空いて来るよー」

「一切れ寄越せ」

「完成してないからダメだ」


 匂いに対する配慮はしてなかったな。

 まあ昼食べたばかりだし良いだろ。

 これは夜のお楽しみだ。もう少し待っていて欲しい。

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