プロローグ 記憶を無くした少女
いつも通り短くてスミマセンがよろしくお願いいたします( -∀-)
ヒュッ!!
強烈な風切り音と共に落ちて来た木葉が揺れ、武内様と同じ様に千切れはしないものの破れかけた葉が地面に落ちる。
「………これではダメだ」
私は落ちた木葉が四歩歩かなければ届かない距離にあったとしても満足は出来なかった。
これではとても武内様の領域に至れはしない。
武内様は遠くにいる相手を倒された事があります。
あの時よりも距離は短く十分に溜めた正拳突きであっても、私の突きでは倒すまでは至れていない。精々がビビらせる程度で終わってしまう。
今は【竜人解放】のスキルを使ってません。
使えば木葉を塵に出来るでしょう。
ですがそれでは何の意味もない。
人の身で遥か先の領域に辿り着いた武内様に追い付くのにスキルに頼り続けていては辿り着くのは一生を賭しても無理だと。
「…ノドカ?」
修行する私にレンが声を掛けて来た。
「すまない。五月蠅くしてしまった」
「……(ふるふる)」
夜中だと言うのにレンが起きているのは珍しかった。
私たちの中でも一番年下であり、まだまだ幼い少女であるレンがこうして家から離れて様子を見に来るなど今まで無かった。何か気になる事でも?
「こんな夜更けにどうした?」
冷たい夜風が身を穿つ。
「…レンは何者?」
質問の意味を私は理解してしまった。
「レン、お前は…」
エルフの里での騒動。
あれが発端とも言えます。
武内様の使った閻魔法【裁】の力は死んだ者の霊体を実現させる力。
その力によって主の旧友たちは裁かれました。
死人である為に殺せず、スキルも意味をなさずに一方的に襲って来る存在は恐怖以外何物でもありません。
必死の攻防の末に彼らは逃げ帰りましたが、私はそれ以上に驚愕させるものを見ていました。
「…レンの前に現れた人たち。レンは知らない」
そう。死んだ恨みが形となっていた閻魔法【裁】。
だからこそレンの前に誰かが立つなど異常でしかない。
ただ彼らはレンの前に立っただけだった。主の旧友の様に襲われたりはせず、ジッとレンを見つめていた。
レンは記憶を失う前に一体何をしていたと言うのだ?
「…ノドカは知らない?レンの過去」
レンは私と一緒に居続けた。
付き合いで言えば長いが残念ながら私はレンとは牢屋で出会った。
だからレンの過去に何があったかを私は知らない。
「すまない。私ではレンの力になれない。覚えているか分からないが私はレンよりも先にあの牢屋にいたからな」
「…覚えてる」
それでも知りたかった。
聞こえて来るレンの本音に私はどうにも出来ず歯痒かった。
「…戻る。ノドカも無理しないで」
「あ、ああ」
立ち去るレンの背中は寂し気で、その背中をただ見守る事しか出来ない私では力になれない。
皇様に相談を、いや、あの方の手を煩わせるのは間違いか。
エルフの里での暴走は私にも責任があった。
皇様ならあの程度の者たちの戯言など流せると高を括り、言わせるだけ言わせてしまった。
あの件で本当に責められるべきは護衛として側にいた私だったのだ。
何が主に尽くすだ。
肝心の主に負担をかけてしまい、結果として良かったとしても誰一人私を責めなかったのだ。
皇様に相談など私には出来る筈も無かった。
しかし主の耳には入れて置きましょう。
独り善がりでまた主を危険に晒しては二度と主に顔をお見せ出来ませんので。
「ふっ!」
落ちた木葉を突く。
しかし葉は砕けずに風に流され消えてしまう。
残った邪念を振り払う様に私は再度落ちて来た木葉を突くのだった。