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ステータスを持たない天災たちは異世界を蹂躙するようですよ?  作者: 雪野マサロン
第三章 狙われたエルフたちは藁にも縋る
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51話目 カウントはゼロになる

明けましておめでとうございます。

今年も読んで頂けて嬉しく思います(´▽`;)ゞ

 さて、旅に出るのは確定した。

 ならば後はその準備となるのだが、基本的に『界の裏側』にしまえば終わりなので問題は無い。

 問題があるとしたらこの人か。


「ふぇええっ!まだここにいて下さいよぉ~~っ!」


 腰にしがみついて来るマルアさんが離れませんよー、と言わんばかりに引っ付いており、行動を妨害していた。

 もっとも家から何まで全部しまった後なので皇さんとノドカが用事から帰って来たら出発するだけなので問題として成り立ってもいない。


「マルア、気持ちは分かるけど迷惑よ。離れなさいよ」

「嫌ですぅ。あのお菓子が食べられなくなるなんて堪えられ無いですよぉ」

「その気持ちは良く分かるが邪魔してたら今後菓子が貰えなくなるんじゃね?」

「それも嫌ですが出ていかれるのも嫌ですぅ」


 仲間達の説得も聞かずに腰に張り付いているマルアさんをどうしようか。

 いざと言う時は外してくれる先生方がいるので問題でないが、何時までも張り付かれていると正直邪魔だ。

 エルフもオッパイも間に合っているので連れて行く理由もない。

 その為にお菓子の味や質を落としていたが、そんな料理であってもまだ彼女を夢中にさせてしまったらしい。

 いや、夢中になったのはマルアさんだけじゃない。

 ミネリアさんも止めには入るものの、最終的には食べてるし、パルサとルデルフも止めにさえ入らず食べていた。

 それが毎日とあっては夢中になっていないと言うには無理がある。


「レシピは色々貰ったから俺が再現してやる」

「そう言ってパルサ君が前作ったの微妙だったじゃないですかぁ!」

「ガハッ」

「パルサがやられたな」

「レシピ貰って作ったのが微妙って言われたらこうなるわよ」


 一応パルサがガッツを見せてレシピを教えて欲しいと頼み込んで来たので渡したが思った品にはならなかったようだ。

 ちゃんと細かく書いたんだがな。


「火加減とか気にしたか?」

「気にしたが持ってる機材だとあそこまでの温度調節は無理だ」

「なら諦めてくれ」

「だったら着いて行きますよぉ!」


 困った事になった。

 必死にしがみ付いて離さないマルアさんは泣き落としまで使いそうな雰囲気で迫って来る。

 それに合わせてエルフ二人も便乗し始める。


「だったら私も行くわよ」

「俺もだぜ。あんな美味いの食えなくなるのは残念だからな」


 一人を許せば必ずセットで着いて来てしまうので面倒この上ない。

 マイランさんも顔だけでいい加減にしろお前らと語っているが、食の魅力に囚われた彼らにその説得は通じなかった。

 マイランさんの出せる味でこれだと本気で作れば地を這ってでも着いて来そうだ。

 さて、どうするか。

 いっそのことジャンケンでもしてもらうか。そうなると必ず誰かが付いて来る。

 こっちは一人も要らないから良い手はないものか………。あ、そうだ。


「ならここにいるエルフの中で勝った人が一人だけ着いて来ていいぞ」

「ホントか!?」


 バッ、と俺が妥協したと思い込んだパルサたちが一斉に距離を取り始める。

 彼らがそれぞれ牽制を始め、その目は限りなく本気だった。


「パルサ手加減しなさいよ。男でしょ?」

「それを言うならミネリアが近距離の魔法を一番得意にしてるだろうが」

「パルサ君だって近接戦が得意でしょうぉ。今回は私に譲ってくださいよぉ」

「とか言ってマルアも自分の得意な距離まで逃げる気だろ。させねぇよ」


 面白いくらい仲間割れをした彼ら。

 だが、肝心な事に彼らは気付けていない。

 俺はこう言った。『ここにいるエルフの中で』と。

 それはつまり…


「さて、勘違いたちを鎮圧しますか」

「「「「え?」」」」


 マイランさんも含まれると言う事。


「ちょちょちょっっっっっっと待て!!何でマイランも参加してるんだ!?」

「そうだぞお前はもう行く組じゃねぇかよ!」

「マイラン酷いですぅ!!」

「貴方が出たら勝ち目がないじゃない!!」


 ようやく気付いたパルサたちが慌ててマイランさんを制そうとするが、片手にいつもの黒い大剣を担いで鎮圧の準備を整えていた。


「それがどうしたと言うのですか?師匠が迷惑にしているのに騒ぎ続ける愚かな者たちは鎮圧するに限ります」


 思い付いたあの時俺はマイランさんとアイコンタクトを交わしていた。

 そこでマイランさんも俺が何を言うかを分かってて頷いたのだ。

 

「降参するなら今の内ですよ?慈悲を五秒だけ上げます」

「「「「ちょっと待ってぇぇええっ!!」」」」

「はい、待ちました。では沈みなさい」

「頑張ってー。鍛えて上げた成果を見せる時だよー」


 実質五秒も待たずにイランさんは聞き分けの無い者たちを殲滅した。

 戦力差は歴然であり、武内さんの修行があってもパルサたちは勝つ事が出来なかった。


「ひ、酷いですよぉ…」

「まったく、だわ…」

「分かっててやりやがって…」

「マイラン強過ぎるぞ、ガクッ」


 愚痴も言いたくなるか。

 四人掛かりで挑んでかすり傷も負わせられずに気絶させられたのでは理不尽だろう。

 しかし理不尽の上には更なる理不尽がいるのでこの結果を甘んじて受け入れて欲しい。


「さて、師匠。これらはどうしますか?」

「放って置けば元気になるだろ」


 女の子もいるが優しくすると着いて来そうなので放置が妥当だ。


「じゃあ、後は皇さんたちが戻っ、っ!?」


 突如足下を揺らす地震に足を取られる。

 咄嗟にマイランさんが支えてくれたが無ければ膝を着いてしまいそうな規模の地震に曝された。

 これは一体………。


「敵性探知による迎撃魔法が発動した?」


 俺の疑問にマイランさんはその答えを持っていた。


「それって悪魔が来たのか?」

「そのようですね。仮にあの魔法で仕留められないのであればこの里に悪魔を倒せる者はいないでしょう」

「…ご主人様どうするの?」


 レンは不安気に見つめて来る。

 悪魔が何をしたかを聞いている為に怯えていた。


「取り敢えず皇さんたちと合流するか。それで何とかなるだろ」


 ポンッ、と頭を撫でてレンを落ち着かせる。

 余程の事が無い限りは大丈夫だ。

 武内さんも皇さんもいる。ノドカもマイランさんもいるんだ。これで何か起きるのならそれは世界が滅ぶ時。

 だから問題ないと言い聞かせる。


「それじゃあ行くか」

「陸斗くん。これどうするの?」

「あっ…」


 四人の気絶したエルフたち。

 マイランさんの手によりボコられたパルサたちはこのままにしておけば運が悪ければ奴隷になっているかも知れない。

 そう考えるとそのまま放置して行くのも良くなかった。


「取り敢えず運ぶか?」

「叩けば起きるでしょう」

「気絶させた本人が言うなよ」

「ならボクが気付けさせるから先に行っててよ。直ぐに追い付くからさ」

「分かった」


 武内さんならあっという間に起こすだろう。


「確か最後の依頼ってまた長老だったよな?」

「医療設備をどうにかすると朝言っておりましたね」

「医者のいる所に行くか」

「…うん」


 俺たちは武内さんに四人を任せて皇さんのいるであろう場所に向かった。

 



 俺たちが皇さんのいるであろう場所に向かった先には既に人だかりで溢れていた。

 壁を背にノドカが前に出て、皇さんが守られているのがかろうじて見える程度だ。


「なんだこれ?」

「どうやら皇さんに助けを求めているようですね」

「まだ来てないのにか?」

「探知魔法がありますのでこちらに近付いているのは分かりますから」

「だからか」


 群衆に近付けば誰も彼もが声を荒げて皇さんに詰め寄っている。


「黒い悪魔が来たみたいだぞ!」

「貴方なら何とか出来るんじゃないの!?」

「頼む!俺たちを助けてくれ!」

「あれだけの魔法でも生きているんじゃ僕たちじゃ勝てないよ!」

「出来るんだろ!?やってくれ!!」


 そこに溢れていたのは天から垂らされた蜘蛛の糸に群がる亡者たちだった。

 誰も彼もが自分たちで何とかしようとする気がなく、助かる術を皇さんに頼っていた。

 そうしたい気持ちは分かる。しかしこれは他力本願過ぎだろ。

 初日に俺たちを攻撃した気概は何処にもなく、一番確実で安全な方法に里のエルフたちはすがっていた。


「ならば対価を寄越せ」


 ノドカの背中に守られている皇さんが群衆の声に掻き消されそうなか細い声で報酬を要求した。

 その報酬が何かとは言っていない。だが、その要求は高い筈だ。

 何せ相手が噂の悪魔だ。現に迎撃の魔法が地を揺らす程のものだったのに気にも留めずに向かって来ているのだから強いのは間違いなかった。

 しかしこの里には悪魔を負い払うだけの相応しいものは残っていない。

 あるのは彼らの身柄だが、そこに俺たちは一銭の価値も見出してはいないのだから対価となるものは何もなかった。


「そんな都合の良い物なんてないよ!」

「私たちがどうなっても良いの!?」

「助けてくれ!」

「ワシらが殺されてしまう!」


 だから彼らに出来るのは懇願だけだった。

 必死の形相で詰め寄る彼らにノドカは皇さんに近付かせまいと眼光だけで一定の距離を取り続けていた。


「対価を寄越せ。…………私の、秤が傾く前に、私に、対等を、提示しろ」

「皇様?」


 ノドカが皇さんの異変に気付く。

 俺たちも早く皇さんの近くに行きたいのに群衆が邪魔をする。

 蹴り飛ばしたいが彼らは敵じゃない。

 どうしても俺たちの行く手を遮ってしまう。

 このままじゃダメだと不安に駆られるもエルフたちを退かせなかった。


「助けてよ!」「そうだ助けろ!」「あんたなら出来るだろ!」「里を良くしたみたいに何とかして!」「やってくれ!」「そうだやれ!」「助けて!」「やってよ!」「助けろ!」「出来る筈だ!」「頼むよ!」「してくれ!」「死にたくない!」


 整った顔とは裏腹に醜い姿を見せつける彼らはとても酷いものだった。


「あ、ああ…。止めろ。私の前でそれ以上囀るな…。私の秤をこれ以上傾けるな…」

「す、皇様?」


 あまりの様子にノドカが皇さんの方を振り向く。

 ノドカがズレた為に皇さんの姿が群衆に晒される。


「え?」


 俺は驚きを禁じ得なかった。

 いつも尊大で不遜、横柄な態度を地で行く彼女。

 そんな彼女が見せたのは侮蔑でも、失笑でも、落胆でもなければ失望でもない。

 皇さんが見せたその姿。

 

 それは胸を突くまでの歪んだ泣き顔だった。


 悲壮感に満ち溢れ、今にも大粒の涙を溢しそうな彼女の胸中は一体何なのか。

 何が彼女をここまで押し潰してしまったのか。


「ああああああああああああああああああああああーーーーーーっっ!!!」


 絶叫と共に【六翼の欲望シックス・アウル】で空へと消える皇さんは悪魔と邂逅するまでもなく姿を消してしまった。


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