50話目 お子様ランチと悩み
Q 何故更新が少し遅いのか
「おい、陸斗」
「何だ?今日は皇さんが頑張ったから好きなので構成したぞ?」
最近皇さんが頑張っているので夕飯に俺は皇さんが好む物を作った。
まあ、見た目はお子様ランチみたいになってしまったが仕方ない。何せナポリタンとハンバーグとエビフライにオムライスが皇さんのより好む料理だ。
それら全てを出そうとすれば自然と量は少なくなり、ならばいっそ一つのプレートのまとめてしまうかと固めて見たらそうなったのだ。
「ならば一々旗を立ててそれっぽくしなくても良かっただろうが。何で私はイングランドの国旗なんだ」
「日本の方が良かったか?」
「そう言う問題ではない」
で、せっかくなのでお子様ランチ感をより出したくなって国旗を自作してみた。
「陸斗くんがまさか本当にお子様ランチを出すとは思わなかったよ。相談したのはボクなんだけどさー」
「天華、お前も共犯か」
「ボクは皇ちゃんが最近頑張ってるし労ってあげない?って言っただけだよ?」
「それで私が好む物で固めたと」
「そうだな」
本当はプレートの方もこだわって見たかったが丁度良いプレートが無く、そっけない平たい丸型の銀のプレートに盛り付ける形になった。
それでも見る人が見ればまさにお子様ランチ。
品数が多いのでそれなりに苦労はしたが、そこはノドカがフォローに回ってくれた。レンだと偶に錬金術が無意識で発動してしまうのか予想外な仕上がりになってしまうので手伝いは向いてなから味見係に納まった。
「何故皇様は文句を言われているのです?主が好物をまとめて下さったのでは?」
「…頑張った」
「味見も立派な役割ですからね」
レンを撫でるマイランさんにまるで姉妹のようだ。ノドカも合わせて三姉妹か。
そんな彼女たちにお子様ランチが子供用の概念はない。
それ故に形状が小さな子供が色々食べられるように考案されたお子様ランチに忌避感は湧いて来ないから気にもなっていなかった。
作った俺や武内さんはさして気にするものでもないが、体型的に小学生でも通じてしまう皇さんには悪意を感じても仕方ないのかも知れない。
「感謝はしよう。だが私はもう十七だぞ?大人一歩手前、この世界でなら飲酒さえ許される年でお子様ランチを目の前に出されて思う所が無いと思っているのかね?」
「ああ、言いたい事はよく分かった。けどな…」
確かの女の子扱いしていなかった気がする。
しかしそれは皇さんも同じだろう。男としてまるで見られた覚えがない。どちらかと言えば実験動物のオスみたいな括りで認識されてたんじゃないかと思える節がある。
大人や子供の括りでも曖昧になっていたのは認めるぞ?年齢だって今初めて聞いた気がするし。
それでも俺は敢えて言いたい。
「それ全部食ってから言うか?」
完食してから文句を言うのはどうよ?
皇さんの目の前にあるのは汚れた銀のプレートと外されたイングランドの国旗が一つあるだけだ。
「美味い物は仕方ないだろう。私が特に好きな物を用意されたとあってはな」
「なら良いだろ。満足したか?」
「ああ、形はどうあれ私の為に作ってくれたのだからな」
皇さんは笑みを浮かべる。
そこに武内さんが言っていた暗い目はない。
少しばかりふざけてしまったが、お子様ランチで喜んでくれるならまた作っても良いかもしれない。今度はちゃんとした装いにしてな。
ただ、品数多いから作るの大変なんだよな。
夕食を済ませた俺は外の空気を吸う為に玄関を出た。
「少し肌寒かったか」
吹きつける夜風は心地良くあるが、少しだけ肌寒さを覚える冷たいものだった。
だけど今の俺には丁度良い。
俺はただ夜空をぼんやりと眺める。
見える星空や浮かぶ月がまるで元の世界に帰って来たように錯覚させるも、逆にあれだけ綺麗にはっきりと星を見れてしまうのは異世界ならではか。
そんな幻想的夜空を眺めながら独り言ちる
「俺は、どうしたいんだろうな」
答えは帰って来ない。
何せ今ここにはノドカもレンもマイランさんも武内さんも、そして皇さんもいない。
どうせ答えが欲しい訳でもないから良いんだけどな。
相談をすれば真っ先に答えを返してくれそうなのは皇さんではあるのだけれども、今は一人で考えたかった。
「やろうと思えば色々出来る」
それこそ極論、世界さえも壊せる。
だが俺はそんな事をしたくもない。
パルサに何か欲しい物は無いかと問われた時、俺は何も思いつかなかった。
それは今の現状で満足しているからか。
マイランさんと料理をして、レンと遊んで可愛がって、ノドカや武内さんと気が付けば朝を一緒に迎え、皇さんと食事をする。
そんな今の生活こそが俺の求めていた事なのか。
人によっては、ささやかだと罵るのかも知れないが、俺にとっては家族のいない生活の方が長かったからこんな生活に幸せを感じてしまう。
「皆はどう思ってるんだろうな」
異世界に来たものの、生活に切羽詰まったものはない。それどころか元の世界で生活していた時よりも有意義だ。
しかしそれは俺に限った事で他の、特に武内さんや皇さんの思いを知らない。
武内さんなんかは割と満喫しているのは分かるんだが、皇さんの方が何を思って動いているのか分からない。
見方によっては生き急いでいる。
ずっと一緒に居るからそう感じるのか皇さんの行動はマグロのそれに近い。
泳ぎ続けなければ死んでしまう生き方だ。
あれが俺には何かから目を背ける為の行動のようにも思えてならなかった。
「だけど、そんな訳ないよな」
「何がそんな訳がないんだ陸斗」
「ん?皇さんか」
噂をすれば影か。
本来なら研究なり、レンの勉強だったりしている皇さんが珍しく外に出て来た。
「珍しいな。こんな時間に外に出て来るなんて」
「お前が出て行く姿を見たからな。それでどうした。悩み事か?」
近寄って来る皇さんに振り向きもせず俺は夜空を眺め続ける。
「悩みが無いのが悩みかね」
「なんだそれは」
「この世界で俺は何がしたいかなー、って考えてただけだ。思いの外俺は無欲だったもんでな」
「男なんだ。ハーレムでも作りたいと思えば良いだろ?この世界に倫理も何もあったものではないからな」
それに、と皇さんは続ける。
「少なくともノドカと天華は乗り気だ。応えてやるのが男の甲斐性だろ?」
「応えてやるって言われてもな」
二人が特にスキンシップが激しく求めて来ているのは確かだ。
武内さんは好きだと宣言しているし、ノドカも永遠の忠誠をと武士か騎士紛いの行動をした。
あの二人に偽りは無く、そんな彼女たちに応えたいと思う反面、その踏ん切りが付かなかった。
それが何故かと問われれば俺が臆病なんだろう。
「お前は童貞だから仕方ないか」
「まあ童貞だしな」
「そこは慌てる所だろう?天華のよくやるパクリの様式美では無かったのかね?」
「どどど童貞ちゃうわ、ってやつか?別に隠す事でもないしな」
「これが悟り世代と言うのか。解脱でもする気か」
「それを言うなら皇さんもだろ」
「確かにな。まあ私は神仏の類は調べ飽きたので今では興味もないがね」
「科学なのかそれは?」
宗教は科学から離れると思うんだが。
「この世界に神がいるかいないか。私はその答えを知っているとだけ言って置こう」
「それは凄いな」
称賛する俺に皇さんが首を横に振る。
「いや、これに関しては天華のお陰だな。『武』とは時に神への奉納、儀式的概念があるらしい。それらを観測させて貰った結果だ」
「それ答え言ってるよな」
「お前の童貞と一緒だ。隠す事でもない」
「一緒にしたらダメだろ!」
童貞かどうか。神様がいるかいないか。それらを一括りの疑問にしてしまう皇さんの感性に脱帽だわ。
ポスン、とその時、背中に僅かな重みを感じた。
「皇さん?」
寄りかかると言うよりも押し付ける様な仕草に俺は戸惑った。
レンの様な抱き着き方はしてないものの、服の後ろを多少引っ張られている感覚がある。まるで皇さんの小さな手で握り締められている様な?
気になって首だけ振り向くと顔を伏せた状態で確かに俺の服を掴んでいた。
何故だ?こんな弱った状態を初めて見た気がする。
「陸斗」
「何だ?」
心なしか声まで弱って聞こえてしまう。
「お前は、変な奴だ」
「いきなり罵倒かよ」
泣くぞ。これでも気分は一般人なんだからな。
「いや、そうじゃない。そうじゃないんだ」
しかし皇さんが言いたい事は違うらしい。
皇さんは俺の服から手を離すと距離を少し取った。
「………少し飛ばないか」
【六翼の欲望】を展開させる皇さんは有無言わせずに空へと浮いて行ってしまう。
まだ俺は飛ぶとは一言も言っていないんだけどな。
仕方ないので【両足の領域】で皇さんの背中を追った。
「っく、まだ慣れないな」
階段を上るのと同じ要領で足を動かそうとするとバランスを崩し掛ける。
歩くと言うよりも滑るって感じだな。
俺はスケートさながらに足を動かして皇さんに追いついた。
「皇さんどうしたんだ。こんな所まで来て」
結構な上空に来たが思ったよりも疲れはない。
これは【両足の領域】が歩行をアシストしてくれる結果なのか。呼吸も楽だし寒くもない。本当に凄いな。
「なあ陸斗」
「ん?」
【両足の領域】に感心していると空を漂っていた皇さんがやって来る。
「お前は私をどう思う?」
皇さんをどう思っているか?
自身の胸に手を当てる彼女の目は不安や恐れが見え隠れして、いつもの傲慢さを貼り付けてはいなかった。
白衣が風に揺れる。
「あ…」
ふわりと浮かぶ白衣がどこまでも飛んで行ってしまいそうで思わず手を伸ばしてしまい、皇さんの腰を抱いてしまう。
その華奢で今にも壊れてしまいそうな人形はいきなり抱かれた事に戸惑いを見せるも振りほどきはしなかった。
「何のつもりだ?」
「急にいなくなりそうだったから?」
自分でもびっくりする大胆な行動に戸惑ってるくらいだ。
でも、そうしたくなるくらい皇さんが弱って見えた。
「私はいなくならんよ。少なくとも私はお前の料理が無ければ生きて行けない」
「なら良いけどな」
「それで私の質問に答えてもらってないのだが?」
「ああ、それな」
俺の中で結論は出ていない。
「逆に聞くが何でそれを聞くんだ?もし第三者としての見解を聞きたいなら傍若無人、天上天下唯我独尊、歩く理不尽とかになるが」
「お前が私をどう思っているのかよく分かったよ」
「でも聞きたいのはそうじゃないんだろ?」
ただこれが皇さんにとって今聞かなければならない程の重要なものであると言うのなら、俺は一つだけ答えられるものがある。
「そうだ。私はな、陸斗。世界を一つ無茶苦茶にした女だ。今ここではエルフたち手助けをしているが、いつ手のひらを返してまた世界を壊すかも分からんような化物だ」
もし聞きたい事がこれでなくても構わない。
「そんな私がお前は怖くないのか?」
ただ俺は純粋にそう思ってるからな。
「怖いと思ってこんな事出来るかよ。バカだろ皇さんは」
「バカだと?」
怒ると思ったがキョトンとしている。
貴重な皇さんの姿に思わず笑ってしまった。
「な、何故笑う」
「いや、変な顔するからだぞ?」
皇さんは化物。だったらそれは俺も同じだろうに。今更な事を言うもんだからより笑えてしまう。
「別に良いんじゃないか?世界を壊しても。壊れる方が悪いんだしな」
「暴論だな」
「真理と言ってくれ。いつもの皇さんが言う事だぞ?」
「む、ちゃんと私は理論に基づいているに過ぎん」
その理論が大抵とんでもないけどな。
「俺は怖かったら逃げるし、助けが欲しかったら助けてくれって言う。皇さんが何を求めているか知らないけど逃げたいなら逃げればいいだろ。無理をしても楽しくないしな」
「陸斗…」
そんな顔するなよ。また子供扱いしちまいそうだ。
「お前はやっぱり変な奴だ。…だが、今はそれが心地良いな」
「そらどうも」
寄りかかって来る皇さんの頭を撫でる。
これが子供扱いだと分かっていてもやっぱり止められなかった。
「明日にはこの里を出るか。もう十分働いただろ?」
カチ、カチ、カチ……
「そうだな。後一つだけ要件を済ませたら出るとしよう」
「それは何だ?」
「医療機器の改良だ。これさえ終われば後の依頼は受けんよ」
カウントダウンの音が鳴る。
この時の俺はまだ知らなかった。ここが分水嶺であり、そして一日里に留まるこの決断が招く最悪を。
全ては予定調和だと言わんばかりに時は動く。その最悪に導く為に。
A 友人の家で餅を作ってました。ついでに掃除もしてたりなんだリ。
年末は忙しいですよね。