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ステータスを持たない天災たちは異世界を蹂躙するようですよ?  作者: 雪野マサロン
第三章 狙われたエルフたちは藁にも縋る
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47話目 二人きりで話をしよう

 俺たちがエルフの里に滞在して幾日が経つ。

 マイランさんの友達は武内さんの手によりしごかれ、時には脱走を試みたルデルフが顔面に青あざを作りながら訓練に叩き戻される日々。

 皇さんの方は長老から何か頼みを受けたらしく、俺は珍しく皇さんと二人で里の周辺を出歩いていた。


「ついでに食べられる物でも採取しておくか」

「そうしておけ。お前を無意味に歩かせても時間を浪費させるだけに過ぎんからな」

「なら何で俺を一緒に森の奥まで来させたんだ?」


 俺たちは里の外、生い茂った里よりも更に生い茂った森の中にいる。

 里に来る途中から空での移動に切り替わったから実感していなかったが、森は想像以上に歩きにくかった。

 小さな枝木が肌に接触するだけで赤く擦れ上がり、露出を控えた長袖でも手先が思いの外負傷してしまう。

 

「それにいつもならノドカかマイランさんが一緒だよな。何で俺だけなんだ?」


 そう、今回は本当に珍しく二人きりなのだ。

 マイランさんは確かに友達のエルフたちを見守ると共に武内さんと一緒にしごく側に回っている。

 だが、それならノドカが空くのだが、皇さんがレンと一緒にいてやれと命令をしたのだ。

 何らかの意図がなければしない行為に俺はどうしても勘繰ってしまう。


「いや、単にお前と話がしたかっただけだ」

「話?」


 それなら何時でも出来る気がするが。俺の疑問を答える様に皇さんが語る。


「二人になる機会などそうないからな。天華には丁度良いおもちゃが与えられたので都合が良かったのだよ」


 エルフたち(おもちゃ)ねぇ。まあ、確かに俺も何だかんだ皇さんと二人きりになる事が無かった気がする。

 皇さんは自身の研究を主とするからか部屋に篭る事が多く、俺自身も科学が分かる訳では無い。特に皇さんの『科学』になると分野からして理解出来ない事ばかりなので近付く事は無かった。

 そう言った意味では確かに丁度良い機会だ。

 向こうから話がしたいと言うのなら喜んで付き合おう。


「何か聞きたい事があったか?」

「ふむ、陸斗は私たちと出会う前まで何をしてたんだ?この世界に来るまで自分が『天災』だと自覚もしていなかっただろ?」

「ああ、そう言う事か」


 その手の類は自分から話した事が無い。

 昔の思い出などそれこそ誇れるものではなく、本当に生き足掻いたとしか言えないものだったからな。


「基本的にバイトをしてたかな。でも苦学生を地で行く様な感じじゃなかったな」

「ほう?親戚の類は一同揃ってお前を貶めたのだろ?」

「まあな」


 俺は一度全てを奪われた。金も、住処も、両親との思い出も、その全てを俺は奪われた。

 路頭に迷い、山の恵みを頂く毎日はもはや笑うしかない。

 この時の経験で俺は蛇の食べ方を完全にマスターした。だから武内さんの『氣』の大蛇も食えたって考えると人生何が生きるか分からないもんだ。

 そんな俺に転機が訪れたのがとある爺さんとの出会いだった。


「偶然出会った爺さんが趣味で畑をやってたんだよ。そこの畑に忍び込んで野菜を漁ってたら見つかってな。事情を説明したら助けてくれた」

「随分奇特な爺さんがいたものだな」

「俺もそう思う」


 ぶっちゃけ何で助けてくれたのか分からない。それだけお人好しなのかも知れないし、それ以上に俺の状態が酷かったのもあるのかも知れない。

 何せあの時の俺は野生児のそれだった。もはや服は機能を殆ど果たしていない程に酷く、それを爺さんが憐れんでくれたからかも。

 今はもう他界してしまった上に俺がこの世界に来ているので真相は分からないが、とにかく俺は爺さんに感謝している。

 俺の為に残してくれた遺産もそれなりにあって、普通に生きる分には苦労しなかった。


「もしまた会えるならと思った時もあった。俺の両親は小さい頃に無くなったからか顔も覚えてないし爺さんだけが家族だったからな」


 あのマンションにずっといたのも爺さんと一緒に住んでいたから。

 学校の近い所に移り住めばもっと楽で良かったのに俺はそれが出来なかった。

 田舎だから電車を使わないと行けなかったし、独り身なら引越しすれば良かったんだろうけど爺さんがいた記録まで消したくなかった俺のエゴだ。

 

「随分と良い人に巡り合えたものだ」

「だな。幸運だったよ」


 そんな爺さんを良い人だと言ってくれる。それだけで俺は嬉しかった。


「羨ましい限りだよ。私にはそんな出会いなど無かったのだからな」


 うつむく皇さんは何処か寂しげで、そしてこのまま消えるのではないかと思わされる危うさがあった。

 思えば俺は皇さんについて何も知らなかった。

 何故彼女は科学者になったのか。その起源も知らなければ元の世界で何をしていたのかも知らない。

 その科学力が生み出した義手である【有現の右腕マールス・ノウン】や無音で空を自由に駆け回る【六翼の欲望シックス・アウル】にあらゆる物を収納する『界の裏側』の存在。

 これらにばかり目が行き、肝心の彼女については不遜で傲慢、王としての風格に近い性格をしている背の低い少女と表面的な事しか分かっていない。


「………おい、今私の身長について考察しただろ」

「なんで分かるんだよ」

「そんな孫を見る目で見られれば分かる。聞きたい事があるなら聞くと良い」


 自分の事など話したがらないと思っていた皇さんが珍しい。

 俺は近くに生えていた山菜を取りながら、せっかくなので皇さんに質問してみる。


「ずっと一人で生きてたのか?」


 一匹狼な彼女が誰かと寄り添って生きていたとは思えない。

 しかしそんな俺の予想とは裏腹に彼女は首を横に振る。


「いや、何だかんだで私の側には誰かいたな。それが年老いた金持ちでもあれば若い女の研究者と様々な人種がいた」

「意外だな」

「これでも科学者なのでな。私に師事を乞う者や私の科学力を欲しがる者は山といたよ」


 それもそうか。

 皇さんに教えを乞えば確かにその分野は発展を遂げる。ただしそれを理解出来ればの話だが。


「だが理解出来た者は皆無だ。唯一理解したと言えば天華だが、あれは自身の『武』に落とし込んでしまっているので理解出来たと言うには微妙な所ではあるがな」

「武内さんだしな。両親はどうしてたんだ?」

「さあ?死んだかもしれんし生きているかもしれん。最も私の科学力を内包した物を持った状態で長生きなど夢のまた夢だろうがな」


 欲しがる者は沢山いると言う訳か。

 それこそ殺して奪い取ってでも皇さんの『科学』を欲しがる者は五万といる。

 何せそれだけ魅力的なのだから。

 俺が使っている『界の裏側』も荷物を一切気にせず運べるし、この『界の裏側』にアクセス出来るのは俺か作った皇さんしかいない。これ以上にセキュリティは何処を探しても無いだろう。

 一回使えば手放せなくなる。狙う者がいれば確かに長生きは無理だ。


「そんな私だから存在もそれなりに秘匿されて来た。ニュース等で私を知らないのはそう言った事情からだ」

「知られたら皇さんの『科学』を手に入れたがられるもんな」

「そう言う事だ。秘匿していてもそれなりに狙われたがね」

「苦労して、っ…」


 何か踏んだ。

 それが太い枝であり、怪我はしていないものの靴の側面に穴が空いてしまった。

 元々ボロかったし仕方ないか。しかしこうなると歩くのも辛いな。


「もう駄目だな。予備を出すか」

「ならこれを使うと良い」


 俺は『界の裏側』から予備の靴を出そうとして皇さんから少し底の厚めの靴を先に手渡される。


「これは?」

「【両足の領域(インベーダー・レッグ)】。ただの靴だ」

「その名前からして普通の靴じゃないだろうが」


 完全に皇さんの発明品である。

 前から思っていたけど命名方法が基本的に語呂の良さで決めてないか?

 

「別に良いさ。俺は普通の靴があれば良いし」

「む、私がくれてやると言っているのに要らないのか」

「歩ければ良いからな」

「それなら尚更この靴を使え。空から海まで歩ける万能さだ」

「どうなってんだそれ!?」


 地面を歩ければ良いのに天地海の全てを支配してしまうとか有り得んだろ。

 

「空を歩きたければ靴底に力場が生まれ、海に入れば全身を空気の膜が覆って歩ける。感情制御チップによってお前の思った通りに力場の強弱に上下左右のコントロールも可能だ。便利だろ」

「靴ってそんな物だっけか?」

「いいからこれを履け」

「いや普通の靴履くわ」


 俺は『界の裏側』から予備の靴を取り出し、…あれ出て来ない?


「ふん、させるか」

「どんだけ履かせたいんだよ!?」


 一々『界の裏側』にロックを掛けてまで【両足の領域(インベーダー・レッグ)】を渡して来た。

 俺は手渡された【両足の領域(インベーダー・レッグ)】を見つめる。

 これを履かないとダメなんだろうが別に空を走ったりしなければ普通の靴だ。そう思えばちょっと贅沢だが良い靴を貰ったとしておけばいいか。


「じゃあ貰うな」


 穴の開いた靴を脱いで【両足の領域(インベーダー・レッグ)】を履く。

 その形状は俺の足にピッタリ合っており、それは俺専用に作ったと言っても過言ではない物であった。

 なるほど。その為だったのか。


「ありがとう」

「気にするな。いつもお前には料理を作って貰っている。それよりもどうだ履き心地は」

「最高だぞ」


 皇さんなりのお礼って所か。

 俺は料理道具以外に皇さんに何かを願った事は無い。

 だから一方的に貰ってばかりだとでも思っていたんだろう。

 けしてそんな事は無いのに皇さんは律儀な人だ。

 何せ俺は皇さんがいなければこうしてのんびり料理をして気楽に旅をしていない。

 下手をすれば死んでいたか、クラスメートにとんでもない目に合わされていたのだから感謝しかないのにな。


「では試運転と行こうか」


 あ、律儀とかじゃなくて人体実験の方ですか?


「別に良いだろ?」

「そんな訳には行くか。私は確かに『天災』だが万が一が無いとも限らん。お前がそれを使って空を何回か歩いて初めて問題ないと言えるのだぞ」

「空を歩く気は無いんだが?」

「バカな。何の為に渡したと思っている。ちゃんと使え」

「暗に落ちるかも知れないと言われて使いたがるバカがいるか!」


 恐ろしい罠が隠されていたものだ。

 空を歩くのを拒否する俺に皇さんは仕方ないと【六翼の欲望シックス・アウル】を展開する。え?ちょっと待って?


「さあ、スカイダイビングの時間だ」

「お、おまっ!?」


 脇を抱えられて静かに浮上していく身体に俺は変な汗がにじみ出た。


「こら!今降ろせば好きな物作るからな、な?」

「大変魅力的ではあるがお前がこれを使う時になって不良品でした。では目にも当てられないのでな。ちゃんと性能チェックには付き合って貰うぞ」

「おろしてぇぇええええええええええっ!!」


 この辺りが妥当か、と皇さんに上空で手を離された俺は爺さんと一瞬だけ再会出来た事に喜んでしまいましたとさ。(泣)

陸斗「ちなみに【両足の領域(インベーダー・レッグ)】が不良品だったらどうなってたんだ?」

皇 「恐らく力場が不安定になり真っ逆さま。その間にも力場を発生させようとするから重力と合わさって加速し、最終的には隕石と同レベルの速度を出して地面にぶつかっていただろうな」

陸斗「そんなもの履かせるなよ…」



皇さんですので万が一はないのです。

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