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ステータスを持たない天災たちは異世界を蹂躙するようですよ?  作者: 雪野マサロン
第三章 狙われたエルフたちは藁にも縋る
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43話目 取り合えず観光としたかったが

 しかし外に出たは良いが何をするか。

 俺たちを迎撃しようとして倒されたエルフを俺たちが介抱しても仕方がないし、見回るにしてもここはエルフの里勝手に動き周るのは…。


「陸斗くーん。ここ凄い田舎だよねー」


 既に遠くにいて声を掛けて来る武内さんに俺は今更かと思った。

 おーい、と手を振る武内さんの側まで早歩きで近付いた。


「良いのかね。暴れた先で自由に動くのって」

「ボクらは勝者だから何をしても良いんだよ」

「武内様、それは蛮族の発想ですが」

「…取り合えず観光?」

「そうなるな」


 と言っても本当に見る物がない。

 見事なまで露天も無く、小さな店が幾つかあるが店主は恐らく門の前で気絶している。

 お陰で店の中には誰もいなかった。一応物音がして人の気配はするが余所者の俺たちに近付こうとする物好きはいなかった。


「観光にもならないね」

「俺たちが寝泊まり出来る様に広い土地を探すか」

「そういたしましょう」


 観光には向いていない土地だった。

 それもそうだ。エルフたちは己に迫る脅威から避ける為にこの地に生活しているのだから。

 周りは全てが森。

 得られる食料はそれなりに有りそうだが、雄大な景色を見て宿でのんびり温泉みたいな気分は味わえそうにない。

 生い茂り過ぎた森が深い影を落として、里を覆っている。

 暗くはないが明るいかと言われれば微妙。

 危険な奴らに見つかる可能性は少ないが、生活する上では田舎として生活するなら悪くないんじゃないか?としか答えられない。

 

「ここが開けてるし家はここに出すか」


 余所の里にいるのに好き勝手に動く俺たちを咎めようとする者はいない。

 『界の裏側』から家をドンッ、と一軒出しても遠くで監視をしていたエルフが口を開けて固まったくらいだ。

 でもこれくらいは何時もの事だ。

 たまに遭遇する冒険者にこれを譲って欲しいと何度頼まれたか。

 当然渡せる物ではなく、しつこく交渉して来た者は身体を半分土の中に埋められていたのも懐かしい思い出だ。


「飯には早いな。皆はどうする?」


 俺は献立でも考えている気だが。


「ボクはそうだね。部屋でも出来るトレーニングでもしてようかな。外でやると騒がしくなりそうだし」

「私も武内様と同じですね」

「…レンはのんびりしてる」


 皆はある意味いつも通り。


「俺ものんびりしてるか」


 皇さんとマイランさんがやる事をやったら終わりだ。その時また俺たちはどうするか考えれば良い。

 出て行くにしろ、しばらく留まるにしろ、ここで何かをする事の無い状態では動く意味もない。


「…オセロ」

「やるか」


 皇さんたちが働く中、俺たちは遊戯を楽しむ事にした。




「強くなったなレン」

「……(ふんすー)」


 俺は黒。レンは白。

 場面は何処ぞの雪国の様に真っ白だった。

 なにこの子?皇さんに鍛えられてどんどん凄くなってないか?


「俺の負けだな」

「…勝った」


 もう俺はレンに勝てる気がしなかった。

 遊びだから付き合えるが、逆転しようと奮起してもことごとく潰されてはどうにもならなかった。


「…頭」

「はいはい」


 レンが勝ったら頭を撫でる。

 いつ頃か出来た習慣だが、俺も気持ち良いから嫌いじゃない。

 俺の膝に頭を乗せて目を細めたレンの頭を優しく撫でる。

 ゆらゆらと動く尻尾が気持ち良いと自己主張していた。


 コンコン、そんな時に玄関からノックが響く。

 ご機嫌にしていたレンはピンっ、と尻尾を伸ばし、遺憾の意を表明していた。


「何だ?」


 皇さんやマイランさんならノックはしない。ならばやるとしたらこの里のエルフになるが一体何の為に?

 出ないのもあれだったのでレンを退かし、ソファから立ち上がって玄関前に行く。


「はいはい。今開けるよ」


 再度コンコン叩かれる玄関に声を出しながら扉を開けると、そこには武装した数人のエルフが。


「………」

「………」


 バタン、見なかった事にしよう。


『おおぃっ!開けてくれよ!そう言う流れだったろ!?』


 ドンドン、と強めに叩かれる扉に俺はげんなりする。

 これトラブル以外何物でもないよな。


「すいません。うち宗教お断りなんで」

『こんな格好で宗教勧誘すると思ってるのか?!』


 確かに武装して勧誘とか単なる脅しだけどな。


「そう言った宗教で?」

『違う!俺たちは話し合いにだな』

「なら武装しているのは変だと思うんだが」

『お前たちの様な恐ろしい奴ら相手に無手で会えるか!』

「つまり話し合う気は無いと」


 それよりも勘違いしてないか?何で俺たちが態々武装した連中の話を聞かんといかんのか。

 それに武装した程度で何とかなるなら『天災』なんて呼ばれなかっただろうな。主に武内さんの事で俺じゃないけど。


「なら十年ぶりに再会した幼馴染みたいな台詞を扉が開けた時に言えたら良いぞ。三、二…」

『え?ちょっ、まっ!』


 理由も無く無茶ぶりしてみた。

 さてこのエルフは一体どんな反応を示すのか。


「一、はい」


 ガチャッ、と開けた扉の先には妙に気持ち悪い顔をした、具体的には頬を少し赤く染めて照れくさそうな顔で待機していた。


「ひ、久しぶりだな」

「お引き取りを」


 バタン、と扉を強く閉める。だって気持ち悪かったから。


『おい、こら!ちゃんとやっただろうが!!』

「いや、あんたの妄想に付き合った気分になって吐き気が。そんな風に幼馴染に言われたい願望があるんだなー、と理解出来たから帰ってくれ」


 ブフッ、と何人かのエルフが噴き出した。


『お前ら笑うなよ!』

『だってパルサが思いの外純情なのがツボに入って……プッ』

『いつも偉そうにしてるのにな……ブハッ』

『ひ、久しぶりだな。だって、…ブフッ』

『くそーーーっ、絶対話を聞いて貰うぞーーーっ!!』


 何で俺は家の前でやってるコントを聞いてるんだろうな。


「だいたい俺が開けた時に押入ろうと思わなかったのか?」

『変な無茶ぶりされて固まったんだよ悪かったな!』


 芸人魂だけは認めよう。

 ただ話を聞いて欲しいなら武装は解除すべきだろ。

 何かの流れで襲われても文句は言えないぞ。

 しかしこの人たちは何の為にここに来たのか。

 まあ、他人の事情なんてどうでも良いが、せめて礼節はわきまえて貰いたい。

 名前も名乗らずぶそうして押し寄せる。立派な犯罪者集団にしか思わないよな。


『貴方たちは扉の前で何を騒いでいるのですか邪魔くさい』

『お、良い所に来たマイラっ、ぐはっ!』

『相変わらず容赦ないね』

『流石マイランだ』


 あ、帰って来た。

 そして邪魔なエルフを一人潰したらしい。

 俺は扉を開けるとそこには踏まれたエルフとマイランさんに皇さんがいた。


「お帰り」

「ただいま戻りました」

「それで何だこいつらは?消して良いのか?」

「一応消さないで頂けると。話を聞いたら消しても構いませんので」

「「「構えよ!!」」」


 マイランさんに容赦なく見捨てられたエルフたちが総じてツッコみを入れる。

 もう俺にはこのエルフたちがコント集団にしか見えなかった。


「とにかく入りなさい。師匠に迷惑です」


 マイランさんが彼らを促し、家へと誘う。

 しかし彼らはマイランさんが言った一言に疑問を感じていた。


「師匠?」


 彼らは疑問を口にしながらも部屋に入って来る。

 さて、どう説明するべきか。

 取り敢えず話し合う為にソファに座って貰い、俺は対面に座って彼らを見た。

 ゲーム等でよく見る典型的なエルフ。それが一人を除いて感じた印象だった。

 三人は男女の違いはあれど、長い耳に金の髪。緑を貴重としたシンプルな服。そこに銀の甲冑と弓を持った彼らはエルフと言えた。

 しかし…。


「? どうされたんですか?」


 ふんわりした雰囲気のある少し癖毛の彼女。

 彼女はエルフと言うよりもエロフだった。

 里の全ての乳を集めても届かないのでは無いかと思われる爆乳は弓をやるには難しいらしく、魔法中心の為か杖を持っていてそれを胸と胸の間に挟んでしまっているので隣りにいた男のエルフもチラチラと胸を見ている有り様。


「なるほど。あれがエロフだな」

「皇さん言いにくい事をはっきり言うね」

「ひゃう…」


 胸を隠そうとするエロフだが、しょせん奴はエロフ。

 腕を使って精一杯隠そうとしても爆乳が形を変えて溢れているだけだった。


「ちっ、また育ちましたか」

「舌打ち!?私だって大きくなりたくてなった訳じゃないよう」


 何故かマイランさんは苦々しくエロフの胸を眺めていた。

 他のエルフはスレンダーな人ばかりだし気にしなくても良い気がするんだが。

 女性の問題に口を出す事じゃないと敢えて口にはしなかった。


「それで何の用ですか?旧交を温めたいのであればご心配なく。私は元気ですのでお帰り下さい」

「友人に対して辛辣だな、おい」

友人(パシリ)ならいましたね」

「悪意半端無いよな。相変わらず」

「マイランらしいね」


 昔からなんだ。マイランさんがああして罵倒する事は俺たちに対してはしない。

 ギルマスや赤の他人に言っている所は見ても、罵倒された事は無かったな。


「俺にはあんな風に言わないよな」

「師匠に対してはそもそも罵倒が浮かびませんので」

「だったら俺には浮くのかよ!」

「貴方はエルフよりも虫に近いので自然と浮かびます」

「泣くぞ、くそぅ」


 あの短髪エルフはギルマスと同じ扱いだよな。

 可哀想とまでは思わないが、爪の先くらいは同情する。

 まあ、可哀想なエルフは置いといて。


「何をしにここに?」


 そこがまず分からない。

 旧交を温めたいのであればマイランさんがいる時に来れば良いものを態々(わざわざ)それを外してやって来るなんてな。

 もしかしたら存外大したこと無いんじゃないかと思えるが、武装してまでやって来たんだから重要なんだろう。


「俺たちはマイランを奴隷から解放しに来たんだ」


 代表としてマイランさんに踏まれた男が話を始める。

 それは良いがマイランさんは奴隷じゃないんだがな。

 まずは誤解を正そうとして皇さんに手で制される。


「ほう、ならば当然対価は持っているのだろうな?そっちのエロフでも代わりに差し出す気か?毎晩可愛がってやるぞ」


 何でこうも皇さんは悪役に走るかね。

 肝心のエロフは身体を捻って必死に爆乳を隠す仕草が可愛らしかった。

 横の少しチャラめのエルフは俺の視線に気付いたのか、同士よ!って感じに親指を立てて来る。お前はいいのかそれで。


「渡せるか!俺たちは同族が奴隷であるのがだな」

「話にならんな。世の中力無い者は家畜に成り下がる。世界常識だ」

「それどんな世紀末だよ」


 嫌な世界常識があったもんだ。


「良いかよく聞け。武力に頼った時点で交渉の余地は消えていたんだ。それなのに私たちは話を聞いてやる度量を見せた。ならば後は貴様らが誠意を見せる番ではないのかね?ん?」

「な、なんてガキだ…」


 交渉と言う台に置かれた相手のチップは無いに等しかった。

 こちらが武力に頼らず、話し合いをする譲歩したにも関わらず、彼らは肝心の交渉の為の品を提示していない。

 仮にマイランさんをこちらが差し出した時に向こうは何を出すか。それを示さずに交渉をしようと考えるとは随分甘い考えだと思う。

 最もマイランさんは奴隷じゃないし、もし熨斗のしつけて差し出した所で必ずマイランさんは戻って来る。だって自分から冒険者ギルドを止めた人だし。


「お前さっきから一人で突っ走ってるけどマイラン奴隷じゃないみたいだぞ。奴隷証がないし」

「は?」


 そこでようやく気付いたのかパルサはマイランさんの首を見てようやく奴隷でないのを理解した。

 遅過ぎだろ。こんだけ近くにいるなら普通気付くよな?


「奴隷じゃなかったのかよ!」

「私がいつ奴隷になったと言いましか?もしや私が奴隷になった妄想でもしていたのですか?」

「うわぁ、パルサ君のエッチ。よくないよそんな妄想するの」

「誰がそんな妄想したって言うんだよ!!」


 顔を赤くして怒鳴るパルサに溜め息を吐く一同。


「っつか、気付いていたんなら言えよ!」

「だってお前が勝手に言ったんだし。話の腰折るのも悪いかなっと」

「面白がってるだけだろ!」


 本当にコントの好きな集団だな。

 

「ああ、くそっ。それなら問題ないじゃねぇか」

「薄情な人ですね。私が奴隷でも良かったと」

「だぁあああああっ!!俺はどうすれば良いんだよぉおおおおおおっ!!」

「妄想しなければ良かっただけです。まったくこれだから変態は」

「俺は変態じゃねぇええええええええっ!!!」


 パルサの叫びが木霊する。 

 この光景がデジャビュに思えるのは、この目の前のエルフがギルマスと同じ性質だからか。

 誤解は取り敢えず解けたので俺としてはパルサが変態でもマイランさんに恋慕していても別にどうでも良かった。

 もう俺たちに用事は無いだろうし、これでお引き取り願うか。


「用は済んだよな。帰って来れ」


 これから夕飯の仕込みをするからな。

 しかし変態の汚名を受けたパルサはそれでも帰ろうとはしなかった。


「いや、まだだ。まだ用はある」

ちょっと矛盾してた気がするので少し修正しました

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