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ステータスを持たない天災たちは異世界を蹂躙するようですよ?  作者: 雪野マサロン
第三章 狙われたエルフたちは藁にも縋る
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41話目 ぷるぷる、ぼくらわるいエルフじゃないよ

 突如襲った津波は川が決壊したとしても有り得ない水量だった。

 何よりも今は晴天。とても川が氾濫する可能性が低かった。

 ならばこの目の前の津波は何だ。


「聖樹の友として命ず、水泡と化せ【アクアリウム】」


 訳の分からない津波。それを感知してかマイランさんが魔法を使って津波を消した。

 正に水が泡となって消えて行く。

 降り注いだのは水滴のみであり、マイランさんの凄さを改めて実感した。


「ふむ、これは随分と歓迎されているじゃないか」


 楽しそうに微笑む皇さんに俺は前を見ると、臨戦態勢で並んだエルフたちの姿があった。

 俺たち何も悪い事してないんだがな。

 しかし向こうは苛立ちを露わにして牙を向いて来る。


「慌てるな!もう一度魔法を放て!!」

「はっ!行くぞ皆!!」

「「「おうっ!!」」」


 長老っぽい人の命令を聞いて男女混合で同じ魔法を使い始める。


「「「我ら聖樹の友として命ず、業風と化せ【バーストクロウ】」」」


 それは一匹の巨大なカラス。

 風でありながらも輪郭がハッキリと見える程巨大な空気の塊はとんでもない質量を持っていた。


「略式で合体魔法をこの練度で出すとは、流石魔法バカの集まりですね。集団としては、ですが」


 対応しようと前に出るマイランさんだが、そこに待ったが入る。


「いやいや、ここはボクの出番でしょ?これとボクの獣闘法のどっちが優れてるか試さないとね」

「あれは死技なんだろ?」


 お蔵入りで滅多に人前じゃ使えない技。

 

「だからだよ。人じゃないから思う存分ぶつけられるし」

「ならとっとと用意しろ。もう来てるぞ?」


 くい、と皇さんが親指で指せば、すぐそこまで巨大なカラスは差し迫っていた。


「獣闘法【灰鷹ホルス】!いっけぇぇええっ!!」


 武内さんの背後から赤い一匹に大鷹(おおたか)が姿を現す。

 現れた鷹はカラスを捕食する様に首から食い千切り、カラスの原型を瞬く間に消してしまった。


「あ、これボクのぐーぱんでも消えたと思う」

「一種の台風なのですけど。あれでも」


 そんなあれでもを消されたエルフたちは唖然とする。


「ええぃ!もう一度だ!もう一度放てぇええ!!」


 しかしそれでも奮起して再度魔法を放とうとする。

 もはや俺にはこの結末が読めてしまう。

 あれだけ大人数で作った魔法をマイランさんが消し、武内さんが食い潰した。

 その程度の威力しか出せない彼らに勝機などある筈も無い。


「いい加減鬱陶しい。【有現の右腕マールス・ノウン】アクティブモードに移行」


 皇さんの右腕が黒く染まる。


「少し寝ていろ」


 右手をエルフたちに向けると指先から幾つもの黒い光線が放たれ、次々とエルフの頭部に命中して行く。

 寝ろって永眠って意味で使ってないよな?


「非殺傷モードだ。ちゃんと出力は抑えているよ。ただし起きた後は動悸、息切れ、眩暈、嘔吐、頭痛を伴うオマケ付きだがね」

「出力抑えてそれかい」


 呪いだ何だと勘違いしないだろうか。

 次々とやられて行く同胞たちに指示を出している長老っぽいのは困惑と恐れを顔に張り付けながら俺たちに怯えた目を向ける。

 

「っく、()()我らを狩る気か…」

「また、だと?」


 それには俺たちも顔を見合わせる。


「しらばっくれるな!貴様ら黒い悪魔どもが我らエルフだけに飽き足らず、数々の種族を奴隷にしているのは既に承知の上だ!こうなっては…」

「お、おいっ、あれマイランじゃないか?!」


 長老が妙に物騒な事を言っている所に、一人の青年がマイランを目視して叫ぶ。

 

「あ、ホントだ」

「マイランだ」

「あのおてんば娘も奴隷にされちまって」

「っくそ、マイランも変態の餌食になったのか」

「あの娘の方が変態だった気もするけどね」

「つまりどっちも変態だと」

「嫌だ、あんな変態たちの餌食になりたくねぇ」


 エルフたちの不躾な視線がマイランさんと、ついでに俺にも注がれる。


「大人しい顔しているが見ろ。幅広いラインナップを制してやがる」

「ロリから巨乳まで奴のストライクゾーンはかなり広いぞ」

「マイランみたいなのを奴隷にしているだけに相当の好き者だな、あれは」

「あんなドSの何処が良いんだ」

「しかもエルフの中でも変わり種だったからな」


 言いたい事を粛々と受け止めたマイランさん。

 俺は別に彼女たちを好き勝手した事も無いから別に何を言われても気にはならないが、マイランさんは妙に色々言われて額に青筋が浮かんでいた。


「よし、殺しましょう。一人残さず」

「止めなさい」


 何で虐殺しないといけないのか。

 

「ですが師匠。謂れの無い誹謗中傷を受けたのですよ。これはもう死をもって償って頂くしか」

「好きな物作ってあげるから抑えてくれ」

「………分かりました」


 渋々とマイランさんは怒りを治める。

 相当腹が立ったのか、少し顔が赤い。マイランさんが本気でやったら大変な事になるだろうに。

 とにかくこちらに戦意が無いのをアピールする為前に出る。


「えっと、俺たちはただ観光に来ただけなんですが矛を収めてくれませんか?」

「そう言って油断した我らを奴隷にするつもりじゃな。その手口には乗らんよ」


 あ、これ話し合いが無理なパターンだ。

 どう見ても臨戦態勢を解かない彼らに頭を掻く。


「無理だよ陸斗くん。取り合えず全員倒してからじゃないと」

「蛮族の発想だよな」

「どの道あれでは里には入れん。占拠してしまうのが一番だろう」

「良いのかよ」


 でもあの状態だと確かに入れないし仕方ないか。

 エルフたちが次の魔法を使おうと準備している姿が見える。

 もうどちらかが倒れるまで戦うしか無いのか。


「なるべく無傷でな」

「それじゃあエルフ昏倒大会開始だね。一位には陸斗くんから熱いキスが頂けると」

「え?」

「スタート!」


 俺の了承は?!

 彼女たちは揃ってエルフたちへと向かって行った。




 終了。

 本気になった彼女たちではエルフたちでは相手にならない。

 

「うわー、新種のスライムみたいになってる」

「ぼくらわるいエルフじゃないよ、ってか?単にやり過ぎなだけだろ」


 気が付けばエルフたちは身を寄せ合って震えていた。

 どんな魔法を使おうと無効化されるか躱されるかで、エルフも必死になって応戦していたが無意味に終わった。

 

「それで一番倒したのは?」

「もちろんボクだよー。ほら、ん~」


 迫る武内さんに俺はそっと料理を一つ差し出す。


「キスの西京焼き。熱々だぞ」

「そっち?!」


 それ以外に何があると?慌てて用意したさ。

 しかし納得のいかない武内さんが皿を受け取ってモグモグ食べ始める。結局食うのかよ。


「普通キスって言えば唇だと思うけどなー」

「それはこの状況下でやる事じゃないだろ」


 それに俺は武内さんと恋仲になっている訳じゃない。なら応じるのも変な話だろう。 

 俺たちがじゃれていると皇さんが前に出た。

 里の代表として指令でありながらも気絶させずに残した長老に皇さんが近寄って行く。


「さて、運動をして互いの仲も深まった所だ。次は話し合いでもしようじゃないか」


 皇さんのその台詞はほのぼのとした場面で使われるのであって、こんな辺りに人が倒れた状態で言う台詞では無い。

 事実、彼らは酷く怯えてしまっている。

 中には奴隷になるのか、と悲観した事を言っている者もいてどうしてそんな発想になったのか不思議で仕方がなかった。

 そもそも俺としては気になる点がある。


「マイランさん、エルフってこんなに好戦的なのか?」

「いいえ。基本的に他者と関わりを持とうとしませんが、こうして積極的によそ者を排除しようとはしませんね」


 そうなのだ。

 彼らは俺たちの姿を見る前から攻撃して来た。

 それに最初に言っていた黒い悪魔。これが彼らの異常な行動と関係がありそうだ。


「村の中に案内してもらおうか」


 でもある意味正解か。

 俺たちがやってる事は悪魔そのもの。

 死なせてはいないが、恐怖で支配し、村を本当に占拠してしまったのだから。


「ふん、我らを倒しても必ず第二、第三のエルフが必ず貴様らを倒すぞ」

「うはー、ボクの言いたかった台詞取られちゃった」

「天華では言う機会が無いだろ。代わりに言ってくれたと感謝しておけ」

「それもそうだね」


 長老の捨て台詞も気にしない。

 本当に黒い悪魔が何か知らないが厄介な種を撒いてくれたもんだ。

 俺たちが村に入ると、そこは普通の村だった。

 木の幹をそのまま家城にしてる事もなく、木材としてしっかり組まれた家々。

 その家屋の周りには作物が植えられ、家畜が放し飼いにされているのが確認出来る。

 多少木々が多く、伐採してしまった方が良い様な生い茂り方をしているが、それでも普通。

 全てのエルフが村を守る為に出ていたのか中は伽藍堂(がらんどう)で何も無い状態だった。


「思ってたよりも違うな」

「確かにねー。自然そのまま使ってるかと思ったよ」

「それですと生活するのに不便ですから」

「異世界エルフの理想が崩れちゃった」


 自然を破壊するなんて、みたいなのを考えていただけに田舎みたいな風景には想像と違うと言ってしまうのは仕方ない。

 しかしそれはそうとして俺たちは何処に向かっているのか。

 長老を脅して入る一同が向かったのは他よりも大きめの住宅だった。


「それで貴様らの目的は一体何だ?我らを捕えようともせん。奴らとは関係がありそうじゃがな」


 チラッと頭を見られた。

 ………なーんか嫌な予感がするのは気のせいだろうか。

 (おも)に一緒にこの世界に来た数十名が今どうしているのか、なんて事を考えてしまうだけにこの予感が当たりそうな気がしてならなかった。

 

「私たちは単に魔法を知りたいだけだよ。エルフなど後ろにいるハウスキーパー一人で十分だ」

「……(どや)」

「そこはドヤ顔する所なのか?」


 屋敷に入る俺たちは適当に椅子に座る。

 長老が上座に座り、ようやく話し合いの場が設けられた。

 正直敵意ある視線を向けられ続けるのであまり良い気分にはならないが。

 

「さて、私たちの目的は本当に魔法そのもだが、お前たちは何故そこまで怯えている?人の姿を碌に確認もしないで攻撃とは些か穏やかではあるまい?」


 そんな敵意ある視線を受けながらも淡々と話しを進める皇さんに感心を覚える。

 どうやったらそれだけ傲慢でいられるのか。是非とも見習いたいものだ。


「そうじゃな。どの道我らは負けた。敗者として話くらいはしてやる」


 それよりも少し誤解を解くか。


「ちなみにじいさん。マイランさんは奴隷じゃない。ほら首に奴隷証がありませんし」


 視野狭窄になっていた彼らでは気付けなかった。

 少し視野を広めれば分かった事なのにな。まあノドカやレンの奴隷証は付いたままだから勘違いを助長させるのも仕方ないのかね。


「何?」


 そこでようやくマイランさんが奴隷でないと気付いたのか長老は不思議な顔をする。


「ならば何故お主は同胞である我らを攻撃した?」

「師匠の身に危険が迫れば当然でしょう?老いて大事な知性まで自然に還しましたか?」


 毒が半端なかった。

 

「先に手を出したのがそちらなのを忘れで?痴呆に入った老人はこれだから困りますね」

「………」

「まあまあ落ち着いて」


 怒り気味なマイランさんを宥める。

 何故こうも同族に厳しいのか。それとも実はこれが彼女の素なのか。思えばギルマスにもこんな感じだった気がするな。

 とにかくこれで黒い悪魔とは無縁で奴隷にする気はないと理解してくれた筈。


「はぁ、全ては誤解か。ならば教えるとしよう。我らエルフを襲っている危機をな」


 ようやく本題に入れるようだ。

 モルド帝国でも思ったが一戦交えないといけない宿命でも持ってるのかね、俺たちは。


「まずは黒い悪魔どもと勘違いし襲った事を謝罪する」


 長老は深々と頭を下げる。

 しかしその謝罪に満足しないマイランさんが虫を見下ろす目をしていた。


「なら椅子から降りて地べたで謝罪するのが正しいやり方では?そのままだと本当に同胞たちが奴隷になりますよ?」

「っく、貴様は本当に我らと同じエルフなのか…」

「この耳が見えないとは視力までダメでしたか。老いぼれは早く引退した方が身の為ですね」


 長老がぷるぷると身体を震わせるのは恐怖じゃなくて怒りだよな。

 マイランさんが話の腰をメリメリ折って進まないのでマイランさんは俺が抑える事にする。


「取り敢えずマイランさんは静かにしていてくれ。襲われた事に関しては何も思っていないからな」

「師匠がそう言うのであれば」


 前もこんなやり取りをした気がするが気のせいか。

 取り敢えず話が聞ける状態になったので長老に話を振った。


「それで黒い悪魔とは?」


 やや強引な気もするが、そうしないとまた腰が折られてしまいそうなので襲われた事に関しては何も言う気はなかった。

 長老は顔を上げると静かに語り出す。

 

「黒い悪魔とはお主らの様に髪が黒い少年少女たちじゃそうだ」

「そうだ、とは?」


 未確定なのか?それで間違いとか止めて欲しかった。


「何せ他の里で襲われて避難して来たエルフたちが泣きながら言っておった事でな。『エルフだけでなく、他の種族も次々と奴隷にしている。黒髪の少年少女に気を付けろ』とな」 

ちょっと煮詰まって来てます…

でも頑張りますよー(。-∀-)♪

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