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閑話 皇による感想 

 リセットボタンか?欲しければくれてやる。

 ………何故私は唐突にそんな事を考えたのだ?まあいい。


「ふむ、これが異世界か」


 私は今、大量の書物がおいてある書庫にいた。

 どうやらここには国の重要資料も多数置いてあり、この国の現状も概ね把握出来た。

 

「不用心なものだ。鍵が杜撰ずさんでセキュリティも甘い。セ〇ムの方が幾分か優秀か」


 ウォード錠程度の鍵など有って無いに等しいものだ。手持ちの資材で何とかなるなど魔法とやらにこの世界は些か頼り過ぎている様だ。嘆かわしい。

 さて、この世界に関して概ね理解出来た。

 悲しいかな。この世界では科学の発展など夢のまた夢。先程開けたウォード錠が最先端の科学の塊と考えても良いくらいだ。

 その分、魔法と呼ばれるこの世界独自の分野が発展してるのが救いか。私が見ても面白そうなのはその辺りだろう。


「しかしせっかく異世界とやらに来たが世界を渡ってもこの程度か」


 読んでいた本を捨てると座っていた椅子の背もたれに全体重を預けて上を眺める。

 私は科学者だ。それも『天災』と呼ばれた科学者である。

 そんな『天災』であるが故に、誰もが私に師事を乞うが誰も私の理論を理解し得なかった愚物ばかりで色々言われたものだ。


『お前のは科学じゃない』『悪魔め』『異常だ』『有り得ない』『魔女だ』『化物』『科学を舐めるな』


 はっ、舐めているのはお前たちだろう?だから何年も下らん事に頭を抱えて悩み、答えを出せずに迷走する。だから私は奴らに決まってこの言葉を投げつける。


『世界でただ一人しか理解できない科学もまた科学だ』


 最終的に私は悟った。この世界に私を理解できる者などいないと。

 

「だからこの世界に来た時は少しばかり期待したのだがな」


 科学の発展は闘争か利便の追求によって成されるが故に魔法と呼ばれる障害物が科学の発展を遅らせている。この世界もまた私の望む人材はいないと断言出来た。


「先に思った事ではないがこの世界のリセットボタンとなる物でも作ってしまおうか」

 

 一人ボヤく私の視界に影が一つ覗き込んだ。


「随分荒れてるね」

「天華か。入口には人避けがしてあった筈だが?」


 入口に設置した機械は人の深層心理に入るのは危険だと刷り込み、入るのを強制的に拒絶させるように出来ていたんだが。やはりこれも人間ではないな。


「ああ、あれ?だからここかなって」


 所詮は急造品の玩具か。獣を相手にするのは無理があった。

 

「何か酷い事考えてない?」

「私の考えなど読める者はいない。そんな相手がいるならこんなに歪んでいない」


 さて、天華にも聞いておくか。

 私は背もたれから起き上がって天華の方へと向き直る。


「お前の方の収穫はどうだった?」


 私よりはさぞかし良い結果だろう。何せここはステータスとやらが自力を底上げしてくれる世界。さぞお前向きの世界になっている筈だ。

 しかし私の思惑とは裏腹に天華はあっさりとした面持ちで答える。


「んー、期待外れかな」

「ほう」

「どれもこれもダメだね。ステータスで底上げされてるのかも知れないけどさ。目の前を歩く私に気付かない時点で底が知れてるもん」


 やはりこいつも『天災』か。

 天華は人類最強。私とは違う意味で国を相手に個人で相対出来る化物だ。

 思えば天華と出会ったのは奇跡だった。私が荒れに荒れて大暴れしてやろうと最初の犠牲者になったのが天華だのだから。

 私はその時初めて孤独を埋められた。

 私の出す科学に拳のみで次々と対応していく天華は私と同じ突出した者。ベクトルは違えど『天災』同士が邂逅する事があんなにも喜ばしいものだとは思わなかった。

 こいつと出会えた事で私の考え方も少し変わった。どうせ私の理解者はいない。なら、せめて同じ境遇となる者に会ってみようと考えた。

 そして天華の次に会ったのがアレであったが…。


「ん?お腹でも減ったの?リンゴ食べる?」

「………貰おうか」


 アレの事を考えると腹が減る。いかんな。


「で、皇ちゃんの方はどうなの?」

「分かっていて聞くな。この世界に求める者はいない」

「だよね。はい」


 天華はリンゴを放りながら床に散らばった本を拾い上げる。


「で、これ何て書いてあるか読めるの?」

「言語など規則正しい配列だ。ならば科学的に思考して文章を推察すれば自ずと読める」

「うん無理だから」


 少なくとも私の科学を理解するよりは簡単であろうに。先に国の有り方となる物から読んで行けば禁書と書かれた魔法の本も読めるようになる。

 貰ったリンゴを齧る。甘い汁が口の中を汚すが摂取と割り切れば気にならない。

 

「じゃあ説明求む。この国の実態は?」

「真っ黒だ。勇者召喚とやらもデマも甚だしい。学生連中はすっかり騙されているがね」

「あー、やっぱり?国王さんが宰相さんと黒い話で盛り上がってたし。横で聞いてたけど」


 勇者よ『人形王』を倒して欲しい?こいつはただの為政者だろうに。それも有能な君主が国民に配慮した結果、この国よりも素晴らしい国になっただけの話だ。

 能力と言えば人心掌握術になるが魔法ではなく人として出来る当たり前の事で傀儡でも何でもない。

 調べれば調べるだけバカバカしくなる。

 奴隷制度もこの国が主体。獣人や異形の者を働かせて国益としているのはこの国くらいだ。どちらかと言えばお前の方が『人形王』だろうと言いたいものだ。

 兵士さえ奴隷の如く使うお前らに着いて行けずに『人形王』の元に下ったのを魔法だ傀儡術だと騒ぐのは度し難い。

 勇者ならば傀儡を防げる?それはそうだ。召喚の際に組み込んだ術式に洗脳・・まで追加していればな。これは勇者召喚とは名ばかりの家畜召喚だ。国に対する好感度が上がれば上がるだけ死んでも国に尽くそうと考える魔法。恐ろしいものだ。もっとも私たちはそれを拒んだから関係ないがな。


「召喚された奴らは今頃家畜の如く餌を与えられてブクブクと肥え太っているのだろうな」

「宴に奴隷を与えたって言ってたし。まあ別にいいんじゃないかな」


 天華はもう一つのリンゴに口を付ける。

 しゃりっと音がすると思わず右腕を押さえたくなった。何せ私の腕はこいつに一度食われたのだからな。


「どうせ有象無象だし。陸斗くんは別だけどねー。同類だから」

「まあアレも洗脳を拒んでいたな」


 ただステータスが反映されない理由は別にあると見ている。

 あの気持ち悪い何かの侵入を拒絶した際に感じたのは悪意だけだ。あれが洗脳の為の魔法だとするならステータスは何か?

 少なくともあの悪意ではない。それとは別に世界を渡った際に必ず貰える通行手形に近いと見た。でなければステータスと言って青白い画面が出せる様にはならないだろう。まだ憶測だがある程度の確信はある。

 

「料理が食べたい」

「なら宴に出れば良いだろう?」

「そっちじゃなくて陸斗くんの方。分かってて言ってるよね。お弁当貪り食ってたくせに」

「うるさい」

「言ったら作ってくれるかなー」


 そこは相談して置け。私の分も頼む。

 

「そうだ皇ちゃん。とりあえず当初の予定通りこの国を出るって事でいいんだよね?」

「いつまでいても何ら価値を見出せそうにないのでな」


 腹が黒い国に居続けた所で不愉快なだけだ。

 元々どんな国であれ出て行くのは決定事項だった。

 私たちからすれば前の世界に対してでさえ関心は薄かった。帰りたいかと問われれば是も否もない。まあ向こうに置いて来た研究中の資材だけは必要と思う程度か。

 だから帰るにしてもここでしか手に入らない素材を手にしてからだ。魔法と呼ばれるファンタジーがあるのならきっと愉快な素材も手に入るだろう。期待してもいないが面白い人材に会える可能性がない訳ではない。この世界にも『天災』がいるのなら会うのも一興だ。

 しかし帰る。帰ってもあの世界は既に…。


「でも、皇ちゃんは反対なんだよね。陸斗くんを連れて行くの」

「ああ。私はまだアレの真意を見ていない」


 加賀陸斗。どうすればあれだけ歪な『天災』が生まれるのか。

 会った瞬間に浮かんだ感想なぞ宴を楽しんでいる連中と同じ十把一絡げな存在にしか思わなかった。

 言い換えれば奴は『天災』としての自覚、孤独、理屈を持ち合わせていない。

 まだサンプルとなるのが私と天華であるが、私たちはそれぞれがその分野における頂点を超えた存在。凡人では私たちの理屈を理解し得ないのだ。

 にも関わらずアレは自覚もなければ孤独もない。理屈に関しては何とも言えないが限りなく他の個体と同調している。『天災』にしては『人』の原型からゆがんでいないいびつさ。


 ある意味興味深く、ある意味失望させられた。


 だからこそ私はアレを見定めなければ気が済まない。丁度良い試金石がそこらにウロウロしているしな。

 見定めてダメであればその時は、………その時考えるとしよう。

 

「さて、加賀陸斗。少しは私の期待に沿ってくれよ」

「うわー、鬼畜だね」

「なら止めればいいだろ天華。そう言うお前も私と同じだ」

「あ、バレた?」

「バレないと思っているのに驚きだ」

「まあボクとしても丁度良かったしねー。陸斗くんにはちょーっと怒ってるから」

 

 ほう?温厚なお前が何に対して怒っているのか是非とも聞きたいな。その時はアレも交えて聞くとしよう。


「ふふふ、楽しくなって来たな」

「まったくだね」


 動くとすれば数日後か。退屈させてくれるなよ?加賀陸斗。

閑話入れるの早いですかね?とか言いつつ書いちゃいましたので投稿

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