エピローグ 枝豆の塩は涙の味
こうして全ての幕は閉じた。
一番の被害は城のみであり、多少負傷者を出したものの、死者は出なかった。
騎士団たちによる制圧も基本的に傷つけないやり方で、負傷者は武内さんによって騎士団長の二人が最も重傷であるが、命に別状は無い。
反乱に関してはこれまた意外な終息を見せた。
「私は今回の出来事を全て開示する」
王女の狙い、企み、そしてアビガラス王国への脅威に備えた計略だった事を包み隠さず情報公開に踏み切った。
元の世界では不透明さが仇となるケースがあるが今回の騒動はまさしくそれ。不当に潰されたと誤認した貴族の暴動が今回の事件を招いたのだ。
一部の者が悪政を布いていたと知っていても全ての人間が理解しているわけではない。
大半の騎士は王女側の貴族の量産としてジード伯爵を含めた反王女陣営の貴族たちを潰していると言う見解になっていた。
これに関しては王女に悪い所が無かったわけではない。
今回は妄想癖の方ではなく、暴走じみた思想に問題があった。
俺たち『天災』の力を知ったが故に今まで温めていた理想を実現出来ると踏んでしまった。
まあ、これも妄想癖が悪い方に走ったと言っても良いが結果として国は良い方に傾いた。
反乱を起こした騎士たちも王女として問題もあったとして不問とし、反乱の前の状態に戻った。
つまり万々歳である。
最もこの騒動で一番奔走したのは大臣だ。また毛根をすり減らして各貴族が下手に動かない様に頑張ったそうな。
ちょっと気の毒だったのでマイランさんと作ったケーキを渡して置いた。一筋の涙を見たのは気のせいだと思いたい。苦労してるな本当に。
「あー、面白かったよねモルド帝国」
「天華にとってこれ以上ない収穫だったからな」
「…ノドカも出来る?大蛇」
「レンも無茶を言う。私ではまだまだ先の話だ」
「えー、いけるよー。あ、じゃあ陸斗くんみたいに大蛇食べてみる?」
「………そもそもあれは食べられるのですか?」
「陸斗くんだからなー」
俺たちはまた国を出て旅をしている。
次は魔法を知りたいと皇さんの案によりエルフの里に向かっていた。
「そう言えばあのメイドの方は今どうされているのでしょうか」
マイランさんが毒味のメイドの安否を気に掛ける。
「さあな。ただ言えるのはあれは一生焼き菓子の類は食えんな。まあ王女を殺そうとしたのだから恩情でも無い限り死刑だろ。知った事では無いがな」
ああ、そう言えば皇さんの玩具となっていたメイドは焼き菓子をちらつかせるだけで面白いくらいに喋ったそうな。
苦痛に対する耐性や【毒無効】のスキルでメイドは何も喋らない自信があったそうだが、アビガラス王国の関与と小国のフレグランス王国の首謀をあっさり認めた。
なんでもフレグランス王国の貴族はアビガラス王国と取引をしてモルド帝国の王女を暗殺後、国そのものを譲渡してアビガラス王国の貴族になる事を企んでいるらしい。
暗殺が失敗した手前、契約は白紙になるだろうしモルド帝国の守護下にあったフレグランス王国なだけに制裁は厳しいものになるとの事。
悪い事はするべきではないって事なんだろうな。
ちなみに最初に毒を盛って死んだ男もフレグランス王国の出身だった。毒の出所もメイドの血液そのものが毒になっていたとか。そんな人もいるんだな。異世界特有のファンタジーだ。
「陸斗くーん。今日のオヤツは何ー?」
そんな些末な事は置いておいて、今俺は台所でイチゴパフェを用意していた。
久々に作りたくなったのと少しばかり意趣返しだ。
移動休みの青空の下でテーブルを囲って皆が行儀よく座っていた。
「イチゴパフェだぞ」
皆の前に俺はそれぞれイチゴパフェを置いて行く。
「はい、武内さんの分」
「わーい、って、え?」
最後に武内さんの目の前に置いた物を見て、武内さんは目をパチクリさせるも俺はニッコリと笑顔で返す。
「陸斗くん?これ枝豆なんだけど?」
「ああ、塩加減もバッチリだ」
「えええええええっ!?あれ本気だったのーーーーーーッ!!?」
もちろんだ。俺は暴れたらオヤツは枝豆になるって言ったしな。
有言実行。あれから罰らしい罰は与えてないから、これでちょっとは反省しないとな。
「嘘だよね?」
「嘘だと思うか?」
『武の天災』なら分かるよな?俺が嘘をついてないって事が。
そしてそれは見事に伝わったのか武内さんは涙目に変わる。
「陸斗くん怒らないでよー。ボクだって反省してるんだから」
「そもそもあの死技を騎士団だけじゃなくて俺たちにもぶっ放したよな?何の罰もないと思ってる方が心外だぞ」
「ううー、いいじゃん陸斗くんも死技を一つ出来る様になったんだしさ」
「そうかそうか反省してないな。言動によってはもう一つ出そうかと思ったが止めるか」
「そんな!?」
俺は武内さんの隣りに座る。
「その枝豆も美味しいぞ。手は抜いてないからな」
「今はイチゴパフェが食べたいよー。お願いなんでも言う事聞くからさー」
「ダーメ。反省しなさい」
甘やかしは良くない。
俺は心を鬼にして自分の分のパフェにスプーンを入れる。うん、美味い。
「ねぇ、ノドカちゃん」
「主から反省を促す協力をして欲しいと言われてますので」
根回しは当然しているぞ。
武内さんが他に頼るのは分かっている。
「マイランさん」
「申し訳ありませんが」
マイランさんは静かに視界から外れる様にパフェを隠す。
「レンちゃん」
「…ダメ」
いや、レンに頼るのはどうかと思うぞ?
「皇ちゃん」
「悪いが全部私の物だ。絶対にやらん」
皇さんは背中の【六翼の欲望】を展開して逃げられる準備をしている。本気過ぎるぞ、おい。
「うわーん、ボクが何したって言うのさーーーっ!!」
「「「「暴れた」」」」
「その通りだけど皆酷いよーーーーーーーーーっ!!」
それでも枝豆を食べる武内さん。結局食べるんかい。
「枝豆美味しい、けどパフェ食べたいよー」
もぐもぐと枝豆を食べる武内さんだが、その目は虎視眈々とパフェに狙いを定めていた。
このままだと武内さんは本当に盗み食いしそうだ。
多少は自分のした事に反省したかね。
「食べたい?」
「食べたい!」
ジッ、と俺のスプーンを見つめるのでクリームを掬って目の前まで持って行く。
「今度暴れたら枝豆も無いからな」
「分かってるよ。あーーん」
「はいはい」
武内さんの口にスプーンを運ぶと嬉々としてクリームを食べる。そんなに食いたかったのか。
もういっか。反省しているようだし。
俺は『界の裏側』に入れておいたイチゴパフェを武内さんの前に出す。
「わーい」
「なんだかんだで陸斗も甘いな」
口の周りにクリームを付ける皇さんに俺は布巾で丁寧に拭き取る。
「一人だけ除け者にするのも心が痛むんだよ」
「んっぷ、…また天華が暴れても知らんぞ」
「そこは助けてくれ。また止めるのは辛い」
あの死技は身体を鍛えていない俺では耐えられない。
ぶっちゃけ使った後は死ぬかと思ったくらい身体が痛かった。
筋肉痛を三倍増しにしてギブスで締め付けられている痛みは二度と味わいたくない。
「大丈夫だよ。次は無いもんね」
本当か?
疑いの目を向けてしまうのは仕方ない。何せ武内さんだしな。
「ボクには陸斗くんがいるんだから」
俺か?俺はもう一度あれがしたいとは思わないんだけどな。
獣闘法【大蛇】はとてもじゃないが俺の器に収まるものでは無かった。
コップで言えば十分に溢れる量の水を注がれた様なものだ。
だが、これを料理として大蛇を処理すれば話が変わる。
極端に言えばメガ盛りだ。平らな皿にタワーになる様盛り付ければ皿には収まる。
収まるが正直皿としてのキャパを超えての盛り付けなのでその盛り付けられた物の重さに器が参ってしまった。
それが現在の俺であり、動けはするものの未だに筋肉痛が治っていない。
もう三日は経つのに動くだけで涙が出る。
これをもう一回やれと言われれば逃げるけどな。
「大好きだよ陸斗くん」
「はいはい。俺も好きだよ」
少なくとも一緒にいて不快にならない。
毎日何だかんだと振り回されている気もするが一人でいるより心地良かった。
しかし俺のおざなりな返事が気に入らないのか武内さんは頬を膨らませる。
「むー、ボクの一世一代の告白を適当に受け止めないで欲しいなー」
「それなら手紙で校舎裏に呼び出してから告白してくれ。今の武内さんのだと俺に言ってるのかイチゴパフェに言ってるのか分からん」
片手に持ったイチゴパフェの容器とスプーンを離さない武内さんでは本気かどうかも怪しかった。
まったく、皇さんみたいにクリーム付けてさ。
クリームを布巾で拭うとまたも不機嫌になってしまった。
「そこは舌で取るか指で拭って舐めるかの二択じゃないの?」
「なら、それをしたいと思わせてくれ」
俺には皆が手の掛かる子供の様なものなんだからな。
子育てが忙しいのに受け止めるも何もない。
まあ、家族と一緒にいる安心感はあるから俺はずっとこの関係でいたいと思うけどな。
「じゃあ、そうする。ボクの色気で悩殺して上げるんだから」
「そうかい。楽しみにしてるよ」
「言ったなー。ボクは本気なんだからね!」
俺たち『天災』の猛威は唐突に産み落とされる。
次の被害は人か建物か、はたまた両方か。旅の行く末は神様にしか分からないのかね。
ポイントを入れて貰えて嬉しいです( ノ^ω^)ノ
まだまだ書くつもりですので生暖かい目で見守って下さい(´▽`;)ゞ