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38話目 中毒は毒の内に含まれますか?

「良い感じとなっている所申し訳ありませんが、もう暴れる気は無いと言う事でよろしいですね」


 ああ、忘れていた。

 私としてもシナリオが崩れてしまってどうでも良くなっていたのでな。王女の存在など気にも留めていなかったよ。

 王女自ら私たちの方へと歩みを進める。

 止めようとする者はおらず、逆に騎士たちは怯えてしまっている始末だ。まあ団長たちは動こうともがいてるがスキルの効果でまともに動けもせず、唯一着いて来ているのは毒味のメイドだけか。ふむ…。


「そうだな。天華も満足した様なので国が潰れる事は無くなった。良かったな」

「想定外は幾つもありますが『天災』を利用すればこうなると教訓を貰いました」

「ここまでの貸し借りは無しで構わんぞ。最初に言っているしな」

「その方がわたくしも安心していられます。また国を潰されかけては厳しいですからね」


 私たちを犯罪者として捕まえる気は無いと。

 捕まえようとすれば私が動くだけなので問題は全くないが王女としてそれで良いものか。

 まあ、捕まえる為の戦力があの様ではどうにもならんか。


「さて、王女。私としては答え合わせをするべきかと思っているがどうだろうか」

「答え合わせ?」


 ふむ、少し難解であったか?

 

「答え合わせは答え合わせだ。今回の騒動、天華が暴れたのを除き、王子を筆頭とした第一騎士団と第二騎士団による反乱。悪政貴族の粛清までのお前の描いたシナリオと私の描いたシナリオの差異をここで確認してみようじゃないか」

「そう言う事ですか。ではお話しましょう」


 王女は今回のシナリオをこう描く予定であったそうだ。

 私たちランドマフィアの襲撃を国民の不満の溜まった者が結集した義賊の手による仕業として処理する予定であったと。

 もちろんそうする為に私たちに借りを作って一芝居を打ってもらう気でいたと。

 そうすれば貴族はランドマフィアの陰に怯え、悪政をくにしても慎重になり王女としては国外の対処に力を入れられて万々歳。国としては表面上騎士を動かすにしても私たちを捕まえるのは不可能。


「これなら私としても都合の良い国を作れると言うもの。貴女方を本気で捕まえようと動いても無理ですし束縛も不可能。であるならば…」

「国の抑止力の陰として私たちもお前の()()()()に加える気だったと?」

「それが何か?もう返せない程膨らんでいた借金が少し増えるだけですし」

「王としては正しいか」


 力で圧倒的に勝てない相手をこうも利用しようとした奴は元の世界でもいなかったな。

 胆力が凄まじいが今回の様な事があってはその計画も酷く杜撰であろうに。


「では、私の思惑とは違う考えを持つ貴女の考えを聞かせて頂けますか?」

「お前も分かっていて聞いているな?」

「まさか。私などでは『天災』の考えを読み切れませんし」


 タヌキと狐の化かし合いの様で王女と喋るのは実に面白い。

 しかし今後も付き合って行くかは天華次第か。


「反乱までは貴女のシナリオ通りの筈。でしたらその先は?」


 私は折っていた膝を伸ばして立ち上がる。

 立ち上がっても顔がこの王女の胸までしかないのは腹立たしい。

 天華の胸よりは無いが地味に胸元を強調するドレスは下品だと思うがどうかね?

 

「そうだな。裏で勝ち誇った顔をしている奴の勝利に横からドロップキックしてやればさぞ面白いだろうとは考えていたぞ?」

「? それは一体…」


 ああ、お前の中であの件は反乱とイコールだったな。

 そう思ってしまうのも仕方ないか。王女であれば、特にこの信長級の改革王女にとって日常になるほど麻痺してしまう出来事なのだからな。


「そうだろ?毒味メイド。いや、アビガラス王国の悪意とでも言うべきかね」

「「っ!?」」


 さーてフィナーレだ。シナリオに軌道修正感があるのは面白くないが人生こんなものか。




 ・・・




「おい、起きろ」


 あと五分…。

 この枕気持ち良く寝られるんだよな。柔らかいし良い香りがする。


「ふん」

「げはっ!」


 くわっ、と目を覚ませば俺の腹の上には皇さんが乗っていた。


「おはよう?」

「ああ、おはよう。お前も天華の乳枕からさっさと目覚めたまえ」


 え?

 首を動かそうにもピクリとも動かない。

 ………ああ、しまった。俺は武内さんと戦って気絶してたんだっけか。

 今更思い出して、ってか、え?これ武内なの?


「おはよー。ボクのおっぱい気持ち良かった?」


 俺を上から覗き込んで来る武内さんに、この後頭部の感触が間違いなく武内さんの胸であると理解した。


「あ、すまっ、うえ…」


 また動けない。

 この動けなくなるのはキツイな本当に。


「無理したらダメだよー。陸斗くんの『氣』が全部無いんだからさ」

「あんな大蛇出したしな」

「だよねー。えへへ」


 もう二度と無理だ。

 この死ぬ一歩手前まで来た感覚は説明するのも難しい。

 こう背中にロケットエンジン搭載して全力疾走した気分か?どうも頭の中で整理がつかない。

 その辺りは時間を掛けるとしてこの状況は一体何だ?

 

「どうして皇さんが俺の腹の上に乗ってるんだ?」

「お前が起きないからだ」

「普通に起こしてくれ」

「天華の乳枕に幸せそうな顔をしたのでイラっとした。他意は無い」

「そうか」


 なら仕方ないのか?

 でも珍しいな。これをするのはノドカかマイランさんだと思ってたけど。

 自分で言っててなんだがこの状況にも慣れて来たのはどうなんだろうか。

 俺に負担が無い様にゆっくりと立ち上がらせてくれる武内さんに感謝しながら視界に収まってるナニカを見て固まる。


「何それ」

「毒味メイド~猿ぐつわを添えて~だが?」

「なんでだよ」


 いつも王女の側にいた毒味を担当していたメイドが何故か目の前で縛られており、ご丁寧にギャグボールを口に咥えさせている状況。縄は流石に普通に縛っているが、これで趣味趣向の溢れる縛り方をされていたら感性を疑っていた所だ。


「亀甲縛りの方が良かったか?しかし生憎と私はそれを知らん。もう一回気絶させるので是非ともやってくれたまえ」

「俺も知らんがな。ってか、どうしてこうなってるんだ?」


 むーむー、と必死に抵抗している毒味のメイドだが、がっつり縛られており逃げ出すのは困難。

 城をあちこち破壊しているので今更メイドを一人どうこうしようと構わないが俺が気絶している間に一体何が起きたんだ?


「まあ簡単に説明するとだな…」


 俺が気絶して少し経っての出来事だそうな。

 

『そうだろ?毒味メイド。いや、アビガラス王国の悪意とでも言うべきかね』

『『っ!?』』


 皇さんには全てが分かっていた。

 あの毒で死んだ男を解剖した時にこの縛られたメイドの関与を知ったらしい。

 しかし普通に捕まえても面白くなさそうだからこの時まで待っていたと。


『何故私が?私はただのメイドですよ?』

『ああ、言い訳はどうでも良いさ。お前がシェフに毒を渡しているのは知っている。脳の表面にお前に関する記憶がこびりついていて助かったよ。お陰で毒の出所を探す手間が省けたからな』

『っ!』


 咄嗟に針を出して背中から王女を刺そうとしたメイド。

 針に塗ってある毒は食事に盛られた毒と同じバトラコトキシンが使われていたそうな。

 そんな危険物が王女に迫る。


『これでまた貸しだな』


 もはや狙っていたと言えるタイミングで皇さんが【六翼の欲望シックス・アウル】の六枚翼を展開して音もなく接近してメイドの腕を掴む。

 アウルは確かフクロウだったか。なるほど。皇さんはこれを待っていたのか。毒味のメイドがボロを出す瞬間をそれこそフクロウの如く狙いすまして。


『さて、毒味のメイド。今どんな気分だ?成功するかも知れない暗殺が結局上手く行かなかったのだからな』


 皇さんの筋書きでは団長同士が疲弊して動けなくなり、騎士たちの混戦時に毒味のメイドが動いた時に捕らえようとする意地の悪いものであった。

 そんな事をするくらいならさっさと捕えれば良いのにな。

 縄で縛られて見事に捕縛された毒味のメイドは自殺も出来ずに今に至ると。


「悪趣味だな」

「様式美だよ。物事にはいつでも起承転結が大事であろう?」

「まあ良いけどな」


 それでこの毒味のメイドをどうする気だ?俺まで態々(わざわざ)起こして。

 (おもむろ)に毒味のメイドに近付くとギャグボールを外す。


「さーて、気分はどうかね?」

「………最悪よ」

「うんうん、反抗的な目だ。大変結構」


 自殺は図らないのか、それとも皇さんが自殺出来ない様に細工を施しているのか。どっちにしろ毒味のメイドはこちらを睨むだけだった。

 そんな睨み付ける視線を愉悦と受け止める皇さんが怖い。何をする気だ?

 皇さんが『界の裏側』から一枚のクッキーを取り出す。

 あれは俺が今日作ったクッキーだ。俺の方の『界の裏側』に入れていたが皇さんがリンクさせたのか。よく分からんシステムだ。


「さて、陸斗。お前には『天災』としての自覚が薄いと教えたな」


 これをやらかした後だと嫌でも自覚するけどな。俺は普通じゃないって。

 しかし皇さんにはまだ足りていないらしい。


「な、何をする気?言って置くけど私の真骨頂は【毒無効】のスキルよ。そんなクッキー一枚に仕込める程度の毒なら余裕で対処出来るわ」


 あれ?【毒耐性(小)】じゃなかったっけ?まあ偽装していたんだろうな。

 しかしそれを聞いても皇さんは止めない。それよりもあのクッキーに毒は無いから食わせても意味無いだろ。

 毒味のメイドに近付く皇さんはクッキーを鼻先へと近付ける。

 

「そんなクッキー一枚で、一枚で…、あ、ああ…」


 クッキーの匂いを嗅いだ毒味のメイドは無意識に舌を伸ばす。

 ドS感満載な笑みを浮かべる皇さんは卑しい豚にエサを与えない。

 クッキーを引っ込めると毒味のメイドは酷く悔しそうな顔になる。


「おや、随分と欲しがりじゃないか?」

「っく、なによそれ。私には【毒無効】があるのに…」

「これは()()()()()()()()のでな」


 おいこら。それは普通のクッキーだぞ。毒なんて入ってない。

 しかし何故か俺を除くレン、ノドカ、マイランさん、武内さんの四人がうんうん、と納得したように頷いていた。


「ただとても美味いクッキーだ。これはこの世で一番美味いクッキーなだけだよ」

「むぐっ!」


 皇さんは毒味のメイドの口にクッキーを放り込むとゆっくりと咀嚼を始め、美味さの快楽に浸った顔になり始める。

 美味い物は美味いからな。

 ただ俺には皇さんの意図が読めない。

 お菓子を食わせて懐柔でもする気なのか?

 

「さてここで取り出したるはこの城で焼かれた菓子だ。王女のオヤツだろうな」


 あれはここに来る前に寄った所で手に入れた菓子か。この為に持って来たんだな。


「そ、それが何だって言うのよ…」


 額から汗を流す毒味のメイドはもう皇さんの思惑に気付いているのか。

 尋常でない汗の流し方にどうしてそうなるのか疑問に思う。


「いつも毒味をしているのだろ?毒味役がいなくては王女もこれを食えんからな」

「や、やめ…」


 遂には涙を流して懇願し始める毒味のメイドは何を恐れているのか。

 ちょっとワクワクする展開に俺も内心面白くなって来た。


「あーーん」

「んぐっ!」


 強引に口の中に入れると毒味のメイドは咀嚼も出来ずに吐き出した。


「おぇっ、マズッ……」

「いかんなー、それは王女が食う菓子だぞ?毒味にならんなー」

「あれ?よく見ればそれ私でも滅多に食べられない高級品ですよ?」


 皇さんはわざとらしく言うともう一度焼き菓子を袋から取り出す。


「ひぃっ!や…、いやっ!!お願いします何でもします何でも話しますから靴も舐めます慰みものにされても良い!!それだけは食べたくない!!食べられない!!食べさせられたくないーーーーーーッ!!」


 首がもげるんじゃないかと思えるくらいに首を振る毒味のメイドに王女はドン引きしていた。

 俺もこんな状態になるとは思わなかった。


「いやいや毒味をするのがお前の仕事だろ?職務放棄はいかんな」

「ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダーーーーーーーーッッ!!!」


 半狂乱になって叫ぶ毒味のメイドは縄で縛られながらも打ち上げられた魚の様に必死になって身を捩る。

 皇さんがとてつもなく笑顔だ。

 後三枚は食べさせる気だろうな。


「ノドカ手伝え」

「は、はぁ…」


 あまり気乗りのしないノドカは這いずり回る毒味のメイドを起こして口を開けさせる。

 皇さんは焼き菓子を目の前でチラつかせるとポイッ、とゴミ箱に放る様に投げ入れる。


「~~~~~~~ッ!!?」


 入れられた焼き菓子を強制的に口を閉じられ咀嚼させられる毒味のメイドは生ゴミでも食べているかの様に悶絶しながら飲み込んだ。 

 

「おぇっ、おぇぇええええっ!!」


 あれを(わたくし)は大切に食べてるのですけど、と聞こえた気がするが気にしない。

 見ただけでも良い品じゃないのは知っていたが過剰な反応に俺は苦笑いをする。

 必死に食べた焼き菓子を吐こうとする毒味のメイドにまたも皇さんの魔の手が襲う。


「ほれ、あーーん」

「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいっーーーーーーーーーー!!!」


 ただクッキーを食べただけでこうなるんだから改めて自分の作る料理の凄さを自覚する。

 この後も皇さんが満足するまで毒味のメイドは焼き菓子を食わされ続けたのだった。

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