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3話目 居場所がない

初のブックマークとポイント感謝の極み!励みになります

 あの後結局、城内をウロチョロしていると衛兵に見つかって適当な部屋に案内された。

 部屋の中は少しホコリっぽかったが行き場が無かっただけに少しだけほっとした。


「でもこれからどうするか」


 何も無い。あるのは教科書や調味料が少しと空の弁当箱が二つ。

 

「………ステータス」


 やる事もないので再度確認の為にステータスを表示させる。

 

 ―――――――――――――――――――――――

 

 名前:加賀陸斗

 職業:

 体力:0

 魔力:0

 攻撃力:0

 防御力:0

 回避:0

 

 スキル

 【】

 称号

 【】


 ―――――――――――――――――――――――



 この青白い半透明な画面をじっくり眺めて見るもその表記は変わらない。

 ゲームであれば隠しコマンドの一つもあるものだが、このステータスの画面には何も映っていない上に触っても変化の一つも起きはしなかった。

 

「泣ける」


 思わずホロリと来た。

 だって俺は皇さんや武内さんの様な『天災』と呼べるだけの才能はない。

 皇さんに関してはよく分からないが武内さんならば持ち前の身体能力と武で大抵の事はしてしまえそうだ。

 反面俺は整然料理をする程度か学生として培った微妙な知識しか持っていない。

 料理ならば多少は自信があるがそれでも素人に毛が生えた程度だ。他の人と比べた事はないけど。独学だしな。


「まあ、いいか」


 諦める。あれこれ考えた所で何もない事実は変えられない。

 なら、せめて俺に出来る事でも探して生き方を考えた方が現実的だ。

 あーくそ、マンガなら「ち、力が湧いてくる」的な覚醒パターンでもあるんだろうな。………現実逃避してもステータスゼロは変わらないけど。

 

「着いて行けば良かったか」


 皇さんや武内さんは情報集めに姿を消した。

 こうしてダラダラ過ごすくらいなら同じ様に動けば良かった気もする。

 ただ、皇さんは一匹狼気質があり着いて行こうとすれば煙に巻かれた気がする。武内さんに至っては物理的に着いて行けない。窓から飛び降りるとか死にます。


「あー、本当にどうすっかな」


 身の振り方で破滅は必至。

 王様や騎士たちの態度から見ても下手をすれば死ぬ可能性だって考えられる。

 国を想って『勇者召喚』をしたのだから国益にならない俺をそのまま置いておくのは愚策。何らかのアピールをしなければ気付いたら処刑されましたってパターンも考えられる。

 俺の今までの人生はゲームで例えるとハードモードと言って差し支えなかった。なのに今度は異世界に来てデスモードに移行するとか神様はそうとう俺が嫌いらしい。

 ヤバい。本当にヤバいのに何も思い付かない。

 コンコン、と焦る俺とは裏腹に規則的なノックが扉から鳴り響く。


「は、はい」


 失礼します、と扉を開けられ入って来たのは一人のメイドであった。


「宴の準備が整いました。こちらへ」

「分かりました」


 正直なところ逃げ出したい。逃げた所で危険度は変わらないか今以上にマズイ状況になるかも知れないけど皇さんも武内さんも探索でいないのだ。

 それはつまり最弱が俺一人しかいなくなる。せめて武内さんがいればステータスさえ覆して状況を打破できるだろうが無いものねだりは策とは呼べない。

 結局俺は何の打開策も講じれぬままに流される形で会場へと赴くのだった。



 ・・・



 会場はとても煌びやかで、映画でしか見た事ないシャンデリアや見た事もないご馳走の数々が並べられており、自分が場違いな所に立っているのを実感した。

 俺以外のクラスメートは既に会場に到着しており、彼らの傍らには美男美女がいた。

 不遇感が半端ないが仕方ない。何せ俺はステータスがゼロ。彼らは国に利益をもたらす勇者。勇者を懐柔するのにああしたたぐいを用意しているのは当然で、国に利益を成さない俺には誰もいないのは当たり前なのだ。

 

「これより宴を執り行う。存分に楽しんでくれ」


 どうやら堅苦しい前口上はないらしい。

 元は学生で気軽にしてもらう為か王様はここにはおらず、一人の騎士が始まりの合図を出すと、その騎士さえも会場から出て行った。

 一体どうしたつもりなのか。懐柔するなら王様も姿を出し、会話をして親密になるのが良いと思うが。

 

「まあ、いいか」


 俺としては助かった。

 不敬を買っての処刑ルートが一時でも消えたのはありがたい。普通にこの世界の料理でも味わうとするか。それ以外やる事がないのもあるけど。

 見た事ない料理はどんな味がするのか期待してしまう。


「おーい、加賀君」


 小皿に鳥の餡かけっぽいものを取ると後ろから声を掛けられた。

 振り向くと脂汗を滴らせながらメイド姿のネコミミを付けた美少女といる田中君がいた。やっぱり異世界だから獣人っているんだな。


「何か?」

「いやー君には誰もお付きがいないのですな」

「ステータスがゼロだしな」

 

 自分でもそんな事は分かっているが人から改めて言われるとあまり良い気分ではない。

 そもそも田中君とは親しくなかった筈だが、何のつもりだ?


「田中氏よ可哀想でござるよ。どう見ても逆転ルートの目さえないのでござる。追い打ちは止めた方がよいでござるよ。ぷぷっ」

「なら笑うなよ青山君」

 

 犯罪感のある幼女を連れて現れたロリコンに思わず引いてしまう。

 おそらくこの隣にいるネコミミ美女や幼女は二人の趣味だ。おそらくどんな付き人が欲しいかを聞かれて躊躇いもなく答えたに違いない。

 そう思えばこの宴は自分の趣味の暴露大会と似たようなものか。お付きの人がマッチョにショタ、巨乳にスレンダー、ケモ耳からエルフ。変わり種で………………触手だな。

 よくもここまでの人材を確保してるな。この国の恐ろしさを改めて感じた。…………触手は見なかった事にする。山口さんの名誉の為に。


「ちなみに青山君のステータスはどうなってるんだ?」

「ふっふっふ、知りたいでござるか?では見せて差し上げるでござる。ステータス」


 俺は青山君の横からステータスの画面を覗き込む。

 

 ―――――――――――――――――――――――


 名前:青山あおやま じゅん

 Lv:1

 職業:暗殺者

 体力:51

 魔力:114

 攻撃力:78

 防御力:44

 回避:127

 

 スキル

 【暗君暗殺】

 称号

 【ロリ道】【影に籠る者】【つるペタこそ正義】


 ―――――――――――――――――――――――

 

 うん、業が深いな。

 凄いには凄いんだろうが別の方向に突出しているせいか上の数字がまるで頭に入って来ない。なんだこの称号は。

 

「でひゅひゅ、流石ですな同士。負けませんぞ。ステータス」


 ―――――――――――――――――――――――


 名前:田中たなか 雄太ゆうた

 Lv:1

 職業:道化師

 体力:62

 魔力:88

 攻撃力:63

 防御力:110

 回避:35

 

 スキル

 【笑タイム】

 称号

 【ネコミミ万歳】【嘲笑う者】【炎上者】


 ―――――――――――――――――――――――


 ………称号って何だろうか。

 ステータスさんはどうしても人の性癖を暴露したいらしい。

 自分のステータスさんが正常に作動していないのに少しだけ良かったと思えてしまう。


「どうですかな。本来のLv:1ですと二桁届いているのが一項目でもあると良いらしいですが拙者は低くいものでも35。チーターにならない筈がないですぞ!」


 チーター?足の速い動物、じゃないわな。普通にチート持ちだって言いたいんだろう。

 でも確かにチートだ。俺がこれから身体を鍛えたとしても彼らには何年経っても追い付けない。

 それに彼らはこれが初期値だ。今後の成長の期待出来る彼らを国が手放す事は有り得ないだろう。

 おそらく帰還の為の十年の魔力が溜まるまでに懐柔し切って、ここを第二の故郷とさせて帰りたい気分など微塵も起こさせないのだ。


 恐ろしい。二重の意味で。


 だって俺は努力しても無駄だと叩きつけられた気分だからだ。

 そして同時に生きれたとして十年間も惨めに過ごさねば帰れないのだから今から心が折れそうだった。


「はっ、お前ら雑魚は粋がっても雑魚なんだよ」

「なんですと!」

「なんでござる!」


 鈴木君がおっぱいを連れて来た。だってそうとしか形容出来ないから。ステータスさんも正常に働いていれば称号に【おっぱい好き】とでも表示されているに決まっている。

 爆乳も爆乳の美女メイドを連れて現れた鈴木君が何の肉か分からない焼肉を口にしながら田中君や青山君をけなすと皿をテーブルに置いた。


「雑魚が見てろよ。ステータス」


 ―――――――――――――――――――――――


 名前:鈴木すずき 啓介けいすけ

 Lv:1

 職業:格闘家

 体力:111

 魔力:52

 攻撃力:131

 防御力:106

 回避:72

 

 スキル

 【ファイティング・ボーナス】

 称号

 【おっぱいには勝てなかったよ】【我が道を行く】【挑戦者】


 ―――――――――――――――――――――――


 予想と少し違った。ってか誰が予想するよこんな称号。

 ただ青山君と田中君は戦慄した表情で鈴木君を見ていた。

 

「三桁に乗っているのが三つもあるでござる」

「っく、所詮最初だけですな。拙者の力であっという間に抜いてやりますぞ」

「はっ、出来るもんならな」


 これだけ盛り上がっていると本当に居場所がない。

 本来なら俺もこうやって自分たちの力を見せつけて談義して笑ったり悔しがったり出来たのに。

 全てがゼロ。称号もスキルもない。成長もする可能性が皆無では悔しいを通り越してこの世界に俺が居ない様な錯覚に陥る。

 皆は楽しそうにステータスの画面を開いたり閉じたりして笑い合っている。そんな姿をゲームの画面越しに見ている気分になった。

 

「そんで加賀。お前無能なんだって?哀れだよなー。そんなお前には付き人もいねえからこんな巨乳だって触れねえ」

「あっ…」


 鈴木はいきなり俺に話しかけたと思ったら爆乳美女の胸を揉みしだいた。

 

「「ごくっ…」」


 田中君と青山君は少し腰が曲がって生唾を飲んだ。

 でも俺にはもう画面越しの風景にしか感じていない。だからそれが羨ましいと思う反面、自分には生涯手に入らないものと割り切っているので鈴木君の行為が挑発にも思えなかった。


「クラスでもこれだけの爆乳はいねえ。いるとするなら、た、武内だが…」


 ん?何で武内さんの所で言いよどむんだ?


「いや、この力を手に入れたんだ。この力があれば負けない。負ける筈がない…」


 ぶつぶつとした呟きに変わったせいでよく聞き取れない。でも鈴木君は武内さんと何らかの因縁の様なものでもあるらしい。

 それも今となってはどうでも良いが。


「はむ、………美味い、のか?」


 空想に浸る鈴木君に興味を無くし、食べる方に切り替えたがどうやら今の俺では美味いもマズイも分からない様だ。

 はぁ、こんな所で十年も大丈夫か。

 今後の不安しか見えない現実にここが本当にゲームの世界であればと切に願う。誰かリセットボタンを下さい。

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