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24話目 揉め事と陸斗の悩み

「皇さんは大丈夫かね」

「大丈夫じゃない?科学なんて色んな物を解剖してなんぼだろうしね」

「それ皇さんが聞いたら怒るんじゃないか?」


 俺たちは皇さんから追い出された後、やる事もなくふら付いていた。

 今から料理をするには早く、魚料理だとじっくりやり過ぎては身が崩れてしまうので何もする事が無い。

 だから俺たちはふら付いて城の中を探索する事しか出来ない訳だが、探索と言ってももはや観光地に来たお客さん気分。ぶっちゃけ暇だった。

 

「なら訓練場見に行かない?」

「それで上手く行けば組み手がしたいと?」

「そうだねー」


 正直者な武内さんに一切の悪気は無い。

 しかしそんな所を部外者が見て良いのか。後ろに着いて来ているルミナスさんに確認を取る。

 ただこの人は王女といなくて良いのだろうか?死体安置室の前には二人の騎士が立っていたが。


「問題無いですか?」

「構いません。王より貴女方への城の全ての開示を言い渡されていますので」

「へー、本気なんだねー」


 まだ会ったばかりの赤の他人。そんなものに全てを任せると誰が言えるのか。

 俺ならばシステムキッチンを知らない者に隅々まで見られるのと同じか。あまり気分の良い物じゃない。

 だと言うのに王女は全て見せると。本気で城に潜む全ての膿を洗い流す気だと分かる。


「それじゃあ案内してもらおうかな。ついでにルミナスちゃんの修行もして上げるよ。『氣』の片鱗くらいはマスターして貰おうかなー」

「んな、無茶な」

「でもノドカちゃんは一発で出来る様になったし大丈夫でしょ」


 やれるのかよ。

 

「でも実践ではまだまだなんだよねー。集中力を切らすと直ぐに解けちゃうし」

「だからさっきは使わなかったのか」

「うんうん。そんでスキルに頼ろうとしたんだから減点だよ。まあここの騎士たちがそれだけの力量を持ってたって事なんだけどねー」


 笑いながら辛口採点とは恐ろしい。俺ならいっそ叱ってくれた方がマシなんだが武内さんの方針は師は見守るばかりと言うやつか。


「では行きましょうか」


 ルミナスさんを先頭に俺たちは訓練場へと向かうのだった。




「だから貴様ら第三騎士団などに王を任せて置けんのだ!!」


 訓練場へ入った瞬間から罵声が聞こえる。ヤバいトラブルの臭いしかしない。


「だったらあんたたちは騎士団失格じゃないの!!」

「何だと!?」


 逃げて良い?

 ダメー♪

 目を見ただけで分かり合える関係にまでなったけども俺の希望にそぐわないのが武内さんクオリティ。腕を組まれた俺に逃げ場はないのだ。

 あの場に行きたくないのに引きずられる俺は傍から見れば女連れのドンの様であるが、心情は身動き出来ないグレイ的なアレ。

 ズルズルと騒ぎの中心へと辿り着いてしまった俺たちに騎士たちの痛い視線が突き刺さる。


「何を揉めている」


 ルミナスさんが居てくれて良かった。

 騒ぎを起こしているのは若い男の騎士と女騎士。その周りにもそれぞれ男と女で別れており、いがみ合っている為か空気が悪かった。


「あ、団長!聞いて下さい。この男が私たち第三騎士団は不要な存在だと言っているのですよ!」

「ほう、それは随分と威勢が良いな」


 ギロッ、と一睨みしただけで男は下がり、周囲にいた男たちもまたルミナスさんから距離を取った。


「て、てめぇらは元々ただの姫直属の部隊だったのを良い事に、姫が王女になってから腰巾着みたく一緒着いただけの部隊だろうが。本来王を守るのは第一騎士団の役目だ」


 ああ、その手の揉め事ね。

 でもそれは仕方のない事だろうに。俺が女なら周りにむさ苦しい男を置きたくない。

 気心知れる同性の方が落ち着くだろうし、そうした配慮は大切だ。

 しかし昔からある風習程変えるもの面倒なものは無いのも事実。

 下手なプライドが先行するだけにこうした揉め事は無くならんのだろうな。


「言いたい事はそれだけか?」


 絶対零度の声で第一騎士団の男を見下すルミナスさん。多分そうしたお店なら一位が狙える目だ。


「お前たちは勘違いをしている。元々第三騎士団は姫直属の部隊とされているが厳密には王女直属の部隊だ。長年王女が現れない為に勘違いしやすいが第一騎士団は王を、第二騎士団は城を、第三騎士団は王女を守る役割だ。今は第一騎士団が亡き王の残された王子をお守りになられている筈だが?」


 形骸化した事で忘れ去られていただけらしい。

 長年王しか出なければ女王の為の部隊だと忘れられるのも仕方ない。

 ただそれがどうして言い争いにまで発展するのか。


「っくそ、女のくせに…」


 第一騎士団の中から悔し紛れの声がボソリと呟かれた。


「ならば私よりも強い事を証明する事だ。私は何時だって相手をしてやろう」

「あ、じゃあ今からボクと」

「はいはい少し大人しくな。ややこしくなるから」


 余計にこじれるわ。ドレス姿で戦って完封したら第三騎士団の立つ瀬がない。 

 第一騎士団の手合いは去って行き、残ったのは第三騎士団の騎士のみとなった。


「団長ありがとうございます」

「構わない。しかしどうしてこうなった?第一騎士団と第三騎士団の修練の時間はちゃんと分かれている筈だが」

「それはあいつらが今は私たちの時間なのに空いていたからと勝手に使ってまして。あんな化物たちと戦ってすぐにやる気になれなくていなかっただけなのに…」

「はーい、化物の一人でーす」

「きゃっ!!」


 言い争いに夢中になっていたからか視界に入っていなかった女騎士の一人が飛び上がらんばかりにビビっていた。

 

「だ、団長どうしてこの人たちがまだいるんですか?!」

「王が雇われた。ただそれだけだ」

「えええっ!?」


 あー、あの場に全員は居なかったもんな。

 雇ったのを知っているのは数人の騎士とメイドにルミナスさんだけだ。

 後の騎士は料理人の確保の後は自由にしている。その為か俺たちが出て行ったと勘違いしたようだ。


「きみー、気配には敏感じゃないとダメだよー?あんな男の戯言を鼻で笑えるくらい今から強くなってみよっか」

「え?あ、ちょっ、やめっ、いやぁぁあああああああああああああああーーーーーーーッ!!!」


 合掌。きっと彼女は強さとは何かを学んだだろう。

 『武』の頂点とやり合えるまたとない機会なのでチャンスと思って武内さんの暇つぶしに付き合ってやってくれ。


「マイランさんもやっておくか?」

「いえ、私は師匠の側にいたいと思います」

「…レンも」

「そうか」


 ドレス姿で千切って投げてるのにドレスが全く乱れない不思議。合気道か何かなのだろうか。

 暴風に晒される様に飛んで行く騎士はコントか何かに見える。


「ほらほら、ステータスにスキルがあるんでしょ?もっと粘って見せてよ」

「無理無理無理無理無理無理無理っーーーーーーッ!!」

「ごめんなさい先ほどの事は謝りますからーーーーッ!!」

「やめてぇえええーーーーーーーーッ!!」

「あっはっはっ、あんな騎士には負けられないよねー」


 空中に沢山の騎士が飛ばされる。

 彼女たちは空を青さを実感し、きっとその思考は現実逃避を開始していることだろう。

 俺だって空中散歩に付き合わされた時など魂が半分抜けた。

 まずは受け身だよー、なんて安全性の考慮もなく空中に放られれば泣き叫ぶものだ。


「何故あの者はあんな動きにくい服装であのような尋常でない動きが可能に?」


 ルミナスさんの指摘もごもっともだ。

 足なんて全力で動けば服が破れてしまうし、身体を締めるドレスの造りでは動きをかなり阻害される。

 しかしそんなもの武内さんには関係ない。


「元の世界で武内さんは『武の天災』として名を馳せてたそうですから」

「………」


 ルミナスさんは言葉を無くした。

 『武の天災』、天才ではなく天災として名を馳せるなど聞く者が聞けば腹を抱えて笑う都市伝説だ。

 話を盛り過ぎだ、現実味が無い、と知らない者が聞けばバカにして、こんな状況を見させられても何かのトリックだと目を疑うだろう。

 しかし現実がそれを許さない。


「ほらほら抵抗しないと死んじゃうよー」

「「「きゃぁああああーーーーーーッ!!!」」」


 人間お手玉など果たしてこの世界でも一体何人やれるか。

 落ちてきた騎士の頭を掴んで空中に返すなんて本当にあれは武なのか。

 かつ、あれで身体に傷は付いていない。力任せにあれをやれば首の骨が逝ってしまうのに不思議なもんだ。


「君は何故あれを平然と見ていられるんだ?」


 ルミナスさんは途方もない現実に目を丸くしたまま聞いて来るが、俺は別に平然としている訳ではない。


「慣れです」

「………慣れるのか?」


 俺は少なくとも慣れた。

 もう一人の科学者だってとんでも無い事をやってくれるのだから慣れもする。


 ただ、そうなると俺はどうなんだろうか。

 『天災』の二人に『天災』の太鼓判を押されたものの、俺自身がそれだけの異常を起こせていると思っていない。

 一度だけノドカの呪いを解いた事はあったが、それも無意識だ。

 偶然手に入れた調味料の二つが絶妙に合わさり偶然呪いが解けたのを俺の功績として良い物なのか。

 そう言えば皇さんが俺はまだ『天災』としての意識が弱いと言っていた。

 どうすれば『天災』であると意識出来るのか。

 作る料理を漫然としないで作るにしても、ノドカの時の様な指向性をどう与えれば良いか分からない。

 あの時は偶然出来た。

 しかし次も同じ事が可能かと問われれば俺は分からないと答えてしまう。

 もしこれが皇さんたちなら自身の理論と理屈に基づいた法則から十回やって十回出来ると言い張るのだろうが俺にはそんな理論も理屈もないから無理だ。

 そう考えると『天災』としては限りなく中途半端な俺はこのままでいて良いのか悩む。と、同時に俺自身、俺は普通・・で『天災』ではないと思ってしまうふしもある。

 

 何せ所詮は料理だ。俺と同じ食材、調味料、器具に動作を真似れば全く同じ物が完成するのは自明の理。

 ならば俺がやっているのはただの料理であるにすぎない。

 マイランさんも覚え続ければ、いつかは俺と同じ領域に立てるだろうし、結果として『天災の料理人』など居なかった事になる。

 

「そうなると俺は本当に『天災』なのか…」


 うーむ、分からん。


「師匠も十分に『天災』ですね」

「…レンもそう思う」


 そうなのだろうか?

 

「………一目で毒が皿に入っていると見切る君も十分異常だ」


 そうか?その程度なら美味そうか不味そうで普通は判断付くよな?

 ルミナスさんからも太鼓判を貰うものの俺はあまり『天災』としての自覚が持てなかった。

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