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21話目 城に連れて来ては行けない者たち

「また丈夫そうな城だな」


 堅牢で頑丈そうな石垣に幾つもの先端の尖った屋根が並ぶ。

 自身がこんな格好(マフィア)なのでここがサクラダファミリアに見えて来るのは何故か。


「こちらへ」


 城門を通され中に入ると俺たちは謁見の間へと案内される。

 案内の道中では兵士が俺たちに気付いて目を見開いていた。

 それもそうだろう。格好もあるだろうが幼女(に見える)二人に年若い二人と竜人種にエルフのメイドが一人。どんなパーティーだと俺だって疑う。

 本当に何でこうなったのか。

 王様と会うイベントなど人生で一度有れば良い経験で終わるが、二度もあると面倒臭かった。

 これなら宿で手の掛かる料理の下拵えをした方が有意義だなー、と思っていながらも頭を下げながら入室する。


「面を上げよ」


 女性の声?顔を上げれば、王であるにはまだ若い少女であった。

 しかし玉座に座っているので彼女が王なのだろう。

 彼女が『人形王』。

 それは行いから付いた名と言うよりも、その見た目から付いた渾名の様に思えた。

 桃色の長髪は川の如く艶やかに流れ、太陽の光で照らされた白く透明性のある肌が現実感を消し去り、そこに存在しながらもさながら幻の如く存在感を醸し出していた。


「此度は(わたくし)の国を救って頂き感謝いたします」


 透き通る声に思わず聞き惚れてしまう。

 後ろから誰かに抓られたのは錯覚ではない。王女の前だから気を引き締めろって事だよな、うん。


「しかし私は不思議でならないのです」


 ………変だ。早速だが雲行が怪しくなっている。


「何故魔物が国を襲ったのか。何故騎士が出ざる得ない状況になったのか。そして何故騎士が出たにも関わらず討伐は完了しており、そこに貴女方が何故居られたのか」


 全ては偶然だ。

 俺にはそれしか言い様がない。

 武内さんや皇さんだけならば国の危険にも傍観に徹していただろう。

 レンやノドカだけなら戦力の問題で手は出せなかっただろう。

 マイランさんだけなら手は出したかも知れないが討伐には至らなかっただろう。

 俺だけなら一目散に逃げている。

 全員いたから俺は他人を見捨てられなくて助けに入ってもらった。その一言に尽きてしまう。

 しかし王女はどうやら俺たちに疑いの目を向けている様だった。


「偶然にしてはあまりにも出来過ぎではないかと。私ならスパイダー・モンキーの死体をモルド帝国に持ち込み、襲撃されている所に助けに入る。次に何等かの方法で全滅させると私の騎士たちが出て来るのを待った。そして面識を得て騎士たちと親しくなって国の中枢に潜り込む。計画としてはこんな感じでしょう」


 何もかも間違ってるわ!!

 叫びたいが王女の妄想力の逞しさに顎が外れてしまう。

 

「貴女方はあまりに怪し過ぎます。どの国の所属かは存じませんが一度その身を拘束してゆっくり話を聞かせて貰いましょう」


 周りを囲む騎士たちが抜刀する。

 予めこのシナリオは決定していたのか。


「いやー、楽しい感じになって来たねボス」

「誰がボスだよ。どうすんのこれ?」

「降りかかる火の粉は払うまでだよボス。火の粉程の脅威も感じないがね」


 武内さんのボス発言に乗っかって皇さんも人をリーダー扱いしないで貰えませんかね。

 

「ボスの身は私がお守り致します」

「……レン、ボス守る」

「乗るな。ボス発言禁止な」

「でしたら若旦那でしょうか?」


 マフィアの次は極道かよ。若旦那も禁止だわ。

 遊んでいる俺たちの前にルミナスさんが一歩前に出る。


「そう言う訳だ。すまないが一時拘束させて貰う」

「ふーん、出来るの?」


 武内さんの目には騎士たちの持つ剣が爪楊枝程度にしか見えないのだろう。

 だけど俺からすれば周囲を囲むこの状況は恐怖以外何ものでもない。


「我らモルド帝国第三騎士団は王の近衛。普通の者とは鍛え方が違う」

「なら来なよ。ランドマフィア特攻隊長、武内天華が相手をするよ」


 ランドマフィア?何だそれ、って陸斗の『陸』か?陸を英語読みしてそれなのか?!

 自分の名前を組織名にされたのもそうだが、ごっこ遊びをこの状況下に持ち込むなよ。


「堂々とした名乗り。ならば私も応えよう。私はモルド帝国第三騎士神聖炎卓序列一位ルミナス・ディ・ロードだ」

「あ、それカッコいい。そんな感じにしたかったなー」

「なら今から天華もそうすれば良いだろう?」

「えー?さっき名乗っちゃったから今度やるね」


 返して緊張感。

 二人に問いたい。貴女たちにとって、緊張感とは何ですか?

 

「行くぞ!」

「カモーン」


 ルミナスの剣と武内さんの拳が衝突する。

 二人が激戦となる一方、俺たちの方は静かに騎士たちによって包囲を狭められていた。


「主は私の背中に」


 俺はノドカに庇われながら状況を確認する。

 人数の上では二十対五人の戦い。その中で俺は戦いの役に立てないので二十対四、レンも抜けば三となる。

 それに騎士たちは動きが巧かった。


「【竜人…」

「はっ!」

「くっ…」


 ノドカの【竜人解放】に合わせて動き、スキルの発動を阻害する騎士の連携にノドカは実力を発揮出来ずに苦戦させられていた。


「師匠、大剣を頂けますか?」

「はい、マイランさん」


 マイランさんは王女との謁見前に大剣を俺に預けていた。

 『界の裏側』を使用させて貰えるのは未だに俺と武内さんだけだ。

 皇さんは本当の意味で認めない限り、仲間になっても渡す気は無いと言いたいのか。その真意は分からないが認めて貰えて嬉しい半面、ノドカたちが仲間として見られていないのかと思える寂しさはあった。

 しかし現状、三人に無くて困る事は無い。

 現にこうして俺に預ける事で丸く収まっている。


 「なるほど【アイテムボックス】のスキルがあればスパイダー・モンキーを一匹運搬して城内に捨てるのは容易いでしょう。絶対に逃がしてはなりません」


 だが、俺が何も無い場所から大剣を取り出した事で王女の疑いは益々強まった。


「ふむ、面倒だ。レンあれをやれ」

「…分かった」


 密集した状況下が煩わしくなったのか皇さんはレンに指示を出す。


「…っん」

「「「なっ!?」」」


 レンは地面に手を着くと騎士たちの足元のみを砂に変えた。

 急に足場が不安定になった事で連携が乱れた騎士たちの間をノドカとマイランさんは走り抜けて騎士たちを昏倒させる。

 しかし昏倒出来たのは五人。

 直ぐに体制を立て直してお互いにカバーし合いノドカやマイランさんを牽制した。


「…再錬成」

「っ!?」


 それでも彼女らは甘かった。

 彼女らはレンが足元を砂に変えた事象に対応するまでは良かった。

 だけど彼女らはレンがその事象を起こした要因までは魔法で生み出したと考えただけに留まったのだ。それ故にその砂が元は床の素材である事を認識出来ず、元に戻る可能性を考慮しなかった。

 彼女らはレンの作った罠に引っ掛かり足を床に埋めてしまった。引き抜くのは不可能。中には不安定なバランスとなり尻もちを着いている者もいてとても連携どころではない。


「ついでだ。受け取りたまえ」


 ポイッ、と皇さんは筒状の物体を投げる。

 大きな炸裂音と共に小さな火花が散る。たったそれだけにも関わらず、ルミナスさんを除いた全員が倒れてしまった。


「何をしたんだ?」

「なに、ただの脳科学だよ。ちょっと手足が切断されたと脳を誤認させただけだ」

「ホント何してんだ!?」


 そら気絶もする。

 中には気丈にも気絶せずに唸っている者もいるが手足の感覚が戻らないのか全く身動きが取れていなかった。


「っく、こんなにも容易く我ら騎士を倒すとは…」

「よそ見してる暇はないよー」

「がぁっ!」


 武内さんは剣を素手で掴みながら横軸にルミナスさんごと一回転させて蹴り飛ばす。

 剣を落としながらもルミナスさんは両足でしっかり着地して構えを取った。


「うわぁ、本当にしっかり鍛練積んでるんだね。ノドカちゃんなら倒れる一撃を与えたのになー」


 相手が立っているのが嬉しい武内さんはルミナスさんを素直に称賛する。

 ただ力量差は大きいと悟るルミナスさんの目には絶望の色が映っていた。


「ラミネ様ここはお逃げ下さい。私たちは城には連れて来ては行けない者たちを連れて来てしまったようだ」

「ルミナス……」


 ルミナスさんの目には決死の覚悟が宿る。


「私の命を賭して、この者たちを食い止めます。どうかその間にお逃げ下さい」

「ルミナスっ!!」


 ラミネと呼ばれた王女は叫ぶ。

 しかし俺たちにはルミナスさんを殺める気も王女をどうにかする気もない。

 言ってしまえば完全な勘違いだ。二人の妄想力の逞しさに思わず感心してしまう。


「行くぞ!」

「いいね!捨て身の覚悟は味わった事がないから楽しみだよ」

「直にその口を閉ざしてやろう!!」


 ルミナスさんはここを死地と決め、武内さんへと向かって飛び出す。

 武内さんは真っ直ぐ拳を打ち込むが、ルミナスさんは顔に当てられてもけして怯まずにタックルを食らわした。

 

「おおっ?」


 胸に衝撃を食らいながらも感嘆とした声を上げる武内さんはそのまま地面に押し倒される。


「この中で一番強いお前だけは離しはしない!」


 恐らく後ろから攻撃したとしてもルミナスさんはその手を離さないだろう。

 それだけの覚悟が顔からは滲み出ていた。


「うーん、惜しいね」

「バカなっ!?」


 俺だったら背骨が折れている締め付けを食らいながらも平然と喋る武内さんは、あっさりとルミナスさんと一緒に立ち上がる。

 まるでそこだけ重力が消えた様に起き上がった武内さんのそれは本当に武術なのか。皇さんの科学を活用したと聞いた方がまだ現実味を帯びていた。


「死を覚悟したなら全力で来ないとね。こんな風に!!」

「きゃっ!!」


 ボッ、と武内さんの周りを青い光が生まれる。

 たったそれだけでルミナスさんは弾き飛ばされて壁に身体を打ち付け気絶した。


「死を覚悟したなら『氣』も感じないと。これを体感出来たのなら今度は次のステージに上がって来てよね」


 武内さんは元の武内さんに戻っていた。


「本当はこのオーラ、黄色か赤色が良かったんだよねー。漫画的に?」

「ク〇リンのことかーーーーー、って言う気かよ」

「わくわくするよね」

「どうでも良いが全滅したな」


 死屍累々。

 傷らしい傷を負う事もなく戦闘は終了した。

 

「そんな有り得ない……。そもそも何故抵抗するのです」

(はなは)だ可笑しな事を口にする奴だ」

「全くだよねー。呼ばれたから来てあげたのに。ボクとしては国の力を体感出来て楽しかったかなー」


 王女の問いかけに皇さんたちは鼻で笑う。

 実際お礼がしたいと言われて来てみれば捕らえようとするのだ。抵抗して当たり前である。


「かの有名な『人形王』も無力とは皇さんや武内さんには感服いたしますね」

「私の出番はあまり有りませんでした。主の為に奮闘したかったのですが」

「……レンももっと活躍したかった」


 こちらには捕まる理由が無いのだ。

 アビガラス王国になら国のお金を盗んだり資源を勝手に潰したりと盛大にやっているので文句は言えないが、このモルド帝国にはまだ何もしていない。たった今、不敬罪と暴行罪が追加された気はするが、捕らえよと命じられるまでは何もしていないのだから捕まってやる義理はないのだ。


「もう、この国は、世界は終わりなのですね……」


 膝から崩れ落ちそうな王女であるがそれも仕方ない。

 自身の精鋭の騎士たちがハエの如く叩き潰されたら泣きたくもなるか。


「好きになさって下さい」


 は?なんでこの人は服を脱ごうとしてるんだ?


「どうぞ……」


 わーい、桃が実ってる収穫の時だー、ってなるか!

 やっちゃいなよYOUー、って親指を立てるな武内さんは黙っててくれ。

 バカな行動を起こした王女に身体が震える。恐ろしい、手を出したら世間的に俺が死ぬわ。

 王女に近寄って強引に服を着させる。 


「どうしてこうなったぁぁああああああーーーーーっ!!!??」


 気付けばもう自棄になって叫んでいた。

 城へ来て、暴れた後に、ストリップ。これ本当にどうしてこうなった!?

そろそろストックも切れそうで毎日が厳しくなってきました(汗)

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