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20話目 騎士は城へと導く片道切符

「おや?主、人が来ます」


 ノドカがカップを置いて馬に乗った人影を目視する。

 

「ならノドカさんとレンさんには首を隠して頂いた方が良いかもしれませんよ」

「何故ですか?」

「モルド帝国はいち早く奴隷を禁止した国ですので奴隷証を見せて歩くのは犯罪者ですと言っている様なものなので。まあ、首を隠していれば問題はないのですが」


 他国の奴隷でもあまり良い顔はされませんから、と言うマイランさんに従い、適当な布をスカーフにしてレンとノドカの首に巻いた。

 二人は嬉しそうにしていたので苦しくはないのだろう。


「失礼、よろしいだろうか?」

「何ですか?」


 午後のティータイムをしている俺たちの前に現れた数名の騎士たち。

 アビガラス王国は男の騎士ばかりだったが、モルド帝国は女の騎士ばかりだった。

 馬上から降りたのは白い甲冑の輝く女騎士。

 鎧越しでも分かる締まった肉体は相当の鍛錬を積んでいると見て間違いない。だが、それでも女らしさを忘れない為か髪を結って纏め、全身から気品の様なものが溢れ出ていた。


「私はモルド帝国第三騎士団団長のルミナス・ディ・ロード。此度は魔物の襲来の為に出たのだか…」


 チラッ、とスパイダー・モンキーの死体の山を一瞥してから俺たちに半信半疑で確認する。


「このスパイダー・モンキーは貴女方が討伐されたのか?」


 半信半疑になるのも無理はない。

 殆ど子ども。皇さんやレンなどはその背の小ささは国の外を出歩くには幼く見え、俺や武内さん、ノドカはどう見ても未成年。唯一年上なのはマイランさんだが、彼女一人でこれを作れるとは思えないようだ。


「もちろんだ。今はこの猿の相手をして疲れていたので休んでいた。何か問題でも?」

「いや、国の窮地を救って頂き感謝する」


 暗にお前たちが出て来るのが遅いから倒してお茶をしていたよ(笑)、と皇さんは挑発していたがルミナすさんは純粋に感謝の念を示す。

 その表情からはただただ安堵。国が救われた事に対して喜びを噛み締めている様であった。


「あのままではスパイダー・モンキーが国に入り多くの死傷者を出していた。しかしどのようにしてあれだけの大群を?」

「企業秘密だ。強いて言えば皆で頑張ったに尽きるがね」

「そうか。それはとても大変だっただろう」


 一人でも十分だったろうに。

 皇さんの放ったあの黒い光線が壁に付いたスパイダー・モンキーを全て落とした。これだけでも落ちた衝撃で他の個体も押し潰していたから相当な被害を与えていた。後はそのまま照射を続けてればそれだけで全滅したはずだ。

 そんな事実を知らないルミナスさんは笑みを浮かべ労をねぎらう。


「この国にはしばらく滞在するのか?もしそうであるならば相応の礼をしたい。構わないか?」

「うん、別に良いよー」

「急ぎの用もないので構わんよ」


 あっさり決める武内さんと皇さんだが、功労者である四人の内二人がそれで良いと言うなら俺は構わなかった。

 残りの二人も頷いていたので問題は特に無かった。

 

「ならば後日、礼の品を渡しに参る。まだ宿を取っていないのなら『忠誠の灯り』と言う名の宿に私の名を出せば無料で泊まれる様にするが」

「じゃあ、そこに泊まります」

「分かった。手配しよう。それでは私はこれで。国を救ってくれて感謝する」


 ルミナスは颯爽と馬に跨ると仲間と共に壁の中へと去って行く。

 絵になる後ろ姿に惚けていると横から武内さんに突かれる。


「ねえねえ陸斗くんは女騎士が好きなの?」

「む、でしたら今すぐにでも真似をしますが」

「しなくていいから。単に絵になるなと思っただけだ」

「その割には熱心に見てたな」

「なるほど。だから色仕掛けをしても落ちなかったのですね。メイドよりも女騎士が好きだったとは」

「だから違う」

「……レンも着る」

「着なくていいから」


 俺はこの後も何が好きか聞かれたがスルーを続けて入国を果たした。

 ミニスカメイドが好みって言ったら本当にしそうで怖い。別に嫌いじゃないけどな。

 ルミナスさんの言った『忠誠の灯り』は聞けばすぐに見つかった。

 国の中でも大きな宿で本当にここで良いのか不安になったが、ルミナスさんの名を出せばVIP待遇扱いされてしまった。

 

「ふむ、中々良い所じゃないか」

「悪くないねー」


 アビガラス王国の宿に泊まった時は木の温もりを全身に感じる設計だった。

 しかしこちらは対照的に大理石で出来た高級ホテルの様な造りで、部屋は床が沈み込む程柔らかい絨毯が敷かれ、ベランダに出れば街を見渡せる絶景。広々とした風呂も完備されていた。


「ここなら何人で入っても問題ありませんね師匠」

「入るなら俺を除いてな」


 皇さんの作った家は基本的に一人用。二人で入るには狭い。だからと言って広くても俺に一緒に入る気は無かった。

 残念そうにするマイランさんだが前からずっと思っていた疑問を口にする。


「ギルマスにもこんな感じでやってたのか?」

「いえ、あの変態はむしろやれっと言って来るので萎えます。私は私に尽くされて照れる姿を見るのがたまらなく好きなのです」

「嫌なカミングアウト!」

「そして師匠は最高のリアクションです」

「ありがとう。凄く嬉しくないわ」


 人はそれを玩具にするって言うんだぞ。

 あまり聞きたくなかった暴露をされながらソファに座る。


「うおっ!」


 床にも驚いたが、それ以上に沈み込むソファに思わず声が出た。

 

「どれだけ高級な宿なんだよ」


 棚からぼた餅。塞翁が馬。

 予期せぬ出来事の連続に我を忘れてしまいそうになるが、今まで起きた出来事、異世界からの召喚、皇さんや武内さんの力、そして自分自身の力は夢物語の一つと思っても何ら可笑しくはない。

 しかし全ては現実。竜の角を生やしたノドカ、ネコミミに尻尾を携えたレン、エルフ特有の長い耳を持つマイランさんとの出合いも全ては起こるべくして起こった事。

 異世界に来てやっている事が餌付けなのが若干気になるが彼女らとの旅は波乱万丈でありながら楽しいもの。

 ああしてルミナスさんに会ったのも何かの前触れか。

 俺はソファに座りながら国の景色を眺めるのであった。


「じゃあ、どうする?ボクはこれから出掛けるけどね」


 武内さんはあれだけ暴れたのに疲れを知らないのか。この国を探検したいと疼いていた。

 俺は旅の疲れもあって暫く部屋に居たかった。


「俺はのんびりしてるよ」

「そう?じゃあ行ってきまーす」


 窓から飛び降りる武内さんの奇行は見慣れてしまった。

 慣れとは恐ろしい。最早窓こそ武内さんの出入り口だと認識してしまっている。


「私はいつも通り研究をしている。レンも借りて行くぞ」

「好きにしてくれ」


 レンと皇さんはセットでよく動く。

 何をしているのかは知らないが、皇さんなら変な事はしないだろう。


「ふわぁ………」


 眠い。

 彼女たちといると危険を何も感じないので他国であっても緊張感が弛んでしまう。

 俺はソファに身体を預け、意識は緩やかに沈んで行った。


「………………で………」

「………わた……………ます」


 ん?何か騒がしい。

 沈み掛けた意識が急速に戻って来る。

 薄めを開けば両脇にノドカとマイランが座っており、二人は俺を起こさない様に小声で話し合っていた。

 しかしそれなら俺を挟まなくても良いだろうに、と会話に耳を傾ければ、その内容は酷く起きるのが億劫になる内容であった。


「ですからノドカさん。ここはメイドである私が師匠に膝枕をして」

「いいえ。主に癒しを与えるのは私の役目。武内様はこの巨乳こそ膝枕のインパクトを上げる武器であるとおっしゃいました」

「ならばメイドこそ最強にございます。全身から発せられる癒しは巨乳では不可能。それに胸が頭に当たってはその重みで起きてしまいます」

「それは有り得ません。巨乳に埋もれる事こそ至福だと」

「ですが…」

「しかし…」


 寝よう。

 この尽くしたがりコンビに付き合っていては身が持たない。

 二人の囁き合う言い争いを子守歌に俺は安らかな眠りに着くのだった。




 それから数日。俺たちは特に忙しくもなければ慌ただしくもなく、平穏無事な毎日を過ごしていた。

 はっきり言ってしまえばルミナスからの礼の品についても忘れており、この宿そのものが礼だと思っていた程だ。


「え?城に出頭ですか?」


 それは唐突な話であった。

 

「はい。我が王が国を守った貴女方に自ら礼がしたいと」


 今朝方、ルミナスさんが宿に訪れると書面を一つ渡して来たと思えば、それは城への招待状であった。

 この数日間で礼の事など頭の片隅にも残っていなかったのに気が付けばスケールが大きくなっていた。

 

「あのボス単体でもA級の冒険者が数人必要な事態でしたから当然と言えば当然ですね」

「マイランさんは分かっていたのか」

「多少は。『人形王』が情に厚い方なのは皆が周知の事実ですし。ただ、もしかしたら程度の事なので言う必要はないと思っていました」

「実際になっちゃったけどねー。どうするの?ボクたち正装なんてこの制服しか持ってないけど」


 武内さんは銀の腕輪を指差して『界の裏側』に収納した制服を示す。

 現在は異世界に合わせた冒険者ルックな私服をマイランさんを除いた皆が着ており、皇さんも白衣を脱いでしまえば自然と街並みに溶け込める服装だった。

 しかし果たして学校の制服で謁見しても良いものかどうか。

 アビガラス王国では召喚されて目の前に王様がいたので服云々はどうでも良かったが、今回は王との謁見に猶予がある。

 ドレスコードは大事だろうが制服はその合格点に達せられるのか。そもそもノドカやレンの分が無いので買って来るしかない。


「なら任せて貰おう。服ならば適当に見繕うとしようじゃないか」

「そうですか。では明日また迎えに来ます」


 ルミナスさんは部屋から退出して行く。


「皇さん大丈夫なのか?」

「私を誰だと思っている?服とは科学だ。良い物を用意してやる」

「なら任せる」


 これだけ自信を持って言うのだから問題ないだろう。

 そんな事を思った自分を昔に戻れるのなら殴って止めたい。

 


「なんじゃこりゃぁぁぁぁあああああっーーー!!?」



 驚きのあまり声を張り上げるのは仕方なかった。

 何故なら俺は今とんでもない服を着させられていたのだから。


「主、よく似合っています」


 ノドカは黒を基調とした喪服もふくに近い着物チックな装いに袖を通しており。


「……ご主人様、カッコいい」


 レンはゴシック感のある黒に赤いリボンとレースでコーディネート。


「大変良いのですが、師匠は何を不満に思われているのでしょうか?」


 マイランさんは俺たちに合わせた黒っぽいメイド服をチョイス。


「あっははははーーっ!ボクもそれが良かったかもねー」


 大爆笑する武内さんは七分丈の身体のラインがはっきり見える黒のドレスを着用。


「私の見立ては完璧だろう?」


 皇さんは黒いスーツに白衣は外さない。


「何でよりにもよってコンセプトがマフィアなんだよ!?」


 スーツまでは良いが、ゆったりとしたネズミ色のロングコートに引きずってしまいそうな白いマフラー。それにボルサリーノの中折れハットとか完全にアウトだと思う。どこのゴッドファーザーだ。


「面白いだろう。国を襲撃する正装はこれにしようじゃないか」

「だからって俺にこれは無いだろ。せめてレストランに働く店員くらいに抑えて欲しかった」

「黒いエプロンかね?それはそれでお前とマッチするが今回の美学には反する。諦めたまえ」

「皇様、これから行く城は襲撃いたしませんが」

「ふむ、様式美は大事だと思うんだがね」


 つまりモルド帝国も潰す気ですか。

 そう捉えて不思議ではない皇さんに少し引いてしまう。

 モルド帝国にはアビガラス王国の様な悪政を行っているのかを知らないだけに安易に潰すのは良くないだろう。

 ガチャ、と扉が開かれると集まる俺たちの前にルミナスさんが姿を現す。


「皆様、準備は整いましたか?」

「ああ、完璧だ」


 俺は異議を申したかった。しかし着替える時間も服も無く、これで行くしかないらしい。

 マフィアのボスの様な出で立ちで周囲に若い女を囲うとか見た目悪過ぎだろうに。

 別の意味で不安を抱える俺は皆と一緒に城へと向かうのだった。 

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