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19話目 クライマックスさんの出番には早いのですが

本日二話目ですので注意をお願いいたします

 本日もお日柄良く晴天の青空。

 周りが森林に生い茂った自然豊かな道で元の世界なら心洗われる環境なのだろう。

 しかしここは残念ながら異世界。

 そこを練り歩くとなれば途端にサバイバルに変わるのが世の常だ。


「陸斗くーん、この鳥食べられるかな?」

「食えるだろうな。後で捌くわ」


 しかしサバイバルとなっても悲壮感を感じない。

 武内さんが空を歩いて手に入れたのは大きめのスズメみたいな鳥。元の世界では見た事のない鳥だが焼けば美味しそうな気がする。


「主、このキノコはどうですか?」

「その二つは毒があるけど、こっちのは食えるな」


 ノドカが取って来たのは三種類のキノコ。

 見ただけでも分かる毒々しさ。真っ白なキノコ特有のNGな感じとまだら模様でカラフルなキノコはアウト。でもこっちの緑色のは多分美味しい。


「……ご主人様、こっちの緑色は毒じゃないって分かるの?」

「美味そうだからな」


 レンは猫の尻尾を振りながら心配そうに見つめて来るが問題はない。

 毒かそうじゃないかは見れば分かる。極端に言えば美味しいか不味そうかだ。

 金が無くてやばかった時があっていつも山に頼らさせてもらった記憶があるからな。

 その経験が生きていて異世界でもそれが通用するとは思わなかったが。


「確かにその緑色のキノコはグリーンマッシュルームと呼ばれる食用のキノコです。しかし師匠、類似した毒キノコもあるので危険だとされていますよ」


 そうなのか。

 マイランさんに言われると少し不安になる。流石エルフで伊達に長く生きていない。

 けど心配する必要はないと思うが。


「心配する必要はない。そのキノコは調べた結果、毒性は見当たらなかった」

「仕事が早いな」


 (すめらぎ)さんの科学で問題ないなら保証されたも同然か。

 俺はグリーンマッシュルームを切ってフライパンに投入して行く。


「森の主、ぶっちゃけ猪のステーキを森で食べる。贅沢だな」


 俺、加賀陸斗は森の中でシステムキッチンを出しながら料理をしていた。

 異世界に呼ばれて一月が経つが特に身体に影響もなく、サバイバルと言うよりもキャンプやピクニックと表現を変えた方がしっくり来る生活を満喫していた。

 ただこの世界に来てたら、正確にはマイランさんが入ってからしばしば困った事が起きている。


「昨日もまた奉仕出来ませんでした。今日こそは奉仕をさせて頂きます」

「しなくて良いからな」

「しかし師匠の背中も流せずに何が弟子かと」

「そうであるなら主の背中は私が洗います」

「……レンも」

「前から聞きたいと思ってたけど陸斗くんって巨乳好き?貧乳も悪くないって言う方なのかなー?」

「どうでも良いから飯を作れ」


 誰かこの疑似ハーレムから救ってくれ。俺は平穏が好きなんだ。

 男一人に女が五人はバランスが悪い。

 偶然風呂でばったりとかは無いが一月前の誘拐事件から一人になれる時などあまり無くなった。

 街を歩くなら確実に誰かが一人着いて来る。

 心配されるのは悪くは無いが自由が無いのは少し辛い。

 時たま自室で寝ていても気が付けば誰かが横で寝ているのもザラだ。

 男としては色々とマズイ。

 いつ手を出しても不思議ではない状態は健全とは言い難かった。

 

「おし、出来たぞ」


 だけどまあ、この姿を見れば保護者の気分になる。

 食事に群がる様は子供を相手にしている気分だ。

 だから問題ない。問題ないと言い聞かせる。




 いつものように食事を終えるとノドカとレンは率先して皿を片付けてくれる。


「それでここは何処だ?」


 食料自体はまだまだあるから別に問題はないが、自分の今いる場所くらいは把握しておきたい。


「ここはモルド帝国付近ですね。皇さんの車でなら直ぐに着くでしょうが、ここからなら歩いた方が目立たずに済みます」

「ならここからはハイキングだねー」

 

 気軽に言ってくれるが現代人には正直辛い。

 だからと言ってノドカやマイランさんに抱き抱えられる気は無いが。無いからどちらが持つとか話し合わなくて良いからな。


「ところでさー」


 先ほど捕った大きな雀の羽を(むし)りながら武内さんは爆弾を一つ落とす。


「さっき空歩いてたらモルド帝国の壁にモンスターっぽいのが沢山へばり付いてたんだけど何でだろうねー?」

「それ襲われてるって言わないか!?」


 まさかのんびり食事をしている間にとんでもない事象が起きているとか、ってか先に言わないかそれ?


「何でそれを今言ったんだ?」

「お腹減ってたし食べたかったから」


 言ったら飯が後になるの分かってたのかよ。


「襲われている人たちは大丈夫なのか?」

「ヤバイと思うよ。あまり対応出来てなかったぽいし」

「はぁ…、なら助けに行くか」

「食後の運動だね」

「たまには動くとしよう。取り合えず車で行くかね」


 自由奔放。少しは周りを顧みて欲しいものだが、それを言った所で変わらないのは分かっている。

 俺たちは片付けを終えると直ぐにモルド帝国に向かった。


「あんな事ってよくあるのかなー?」

「それは無いですよ。森は食料も豊富ですので一々無駄にデカくて資産の無駄遣いとしか思えない無駄に高い壁をよじ登って入る程ここの魔物は飢えませんので」

「マイランさんはこの国に恨みでもあるのかよ」


 無駄をひたすら連呼された壁に近付くが確かに無駄にデカいと言って良かった。

 天まで届く塔でも建てたかったのかと思える程、見上げさせられる高い壁はよじ登ってはけして入る事は叶わず、必ず門から出入りしなければどうにもならない物だった。

 しかしその壁には数えるのもバカらしくなるだけの魔物、身体は蜘蛛で顔は猿の姿をしたなんちゃってぬえが気持ち悪いくらい密集して壁を登っていた。

 その最後尾にはこのぬえの群れのボスと思われる通常の個体の三倍は大きい魔物が陣取っていた。


「主、あれはスパイダー・モンキーです」

「見た通りとは命名した者にもう少しひねろと言ってやりたいものだ」

「そんな場合じゃないと思うんだが。それでノドカはスパイダー・モンキーの特徴を知っているのか?」

「はい。しかしスパイダー・モンキーの特徴を知っていればあの様な事態にはならない筈なのですが」


 スパイダー・モンキー。別名、結束猿。

 基本的に集団生活を主とし、普段は森の奥地で生活をしている。

 人前に姿を現す事はなく、出くわしたとしても温厚な性格の為、戦闘になる事はない。

 ただし、スパイダー・モンキーは仲間意識が強く、一つの個体に攻撃しようものなら集団で襲い掛かり、襲撃者をとことん追い詰める性質を持つ。

 これが一体のスパイダー・モンキーを殺して素材を剥いだとなれば、地の果てまで追い仲間の遺体を取り返そうとする。

 この情に厚くかなりの結団力の強さから、けして手を出してはならない魔物として認定されていると。


「ですから普通は人の前に、ましてや壁を登って侵入しようとするなど有り得ない事態なのです」

「……誰かがやらかした?」

「そうなりますね」


 映画ならクライマックスだろうか。

 人々が城壁の上で必死になって矢や魔法を打って対抗し、国内に入ろうとする個体を剣で斬っては落とすゾンビ系の映画にありそうなワンシーンだ。

 

「それってさ、ボクたちが攻撃したらこっちに来ない?」

「武内さん正解です。確実に来ますね」

「なら止めるか。私は面倒なのは嫌いだ」


 確かにあれだけのスパイダー・モンキーが反転してこっちに走ってきたらと考えるだけで背筋がぞわぞわする。

 しかし俺としてはあのままスパイダー・モンキーに壁を超えられると困る。 


「デザートは新作アイスだ。張り切って倒してくれたら生クリームをトッピングするから」

「「ならやるか」」


 仕方ないので皇さんと武内さんには飴を投入。

 やる気になればこの二人だけでも十分に対処は出来る。


「師匠、そのレシピは教えていただけるのですか?」

「紙に丁寧に書いてやるから。ノドカも頼む。見捨てるのは忍びない」

「分かっています。主は優しいですから」


 そこに過剰戦力を投入する。

 さよならスパイダー・モンキー。国を荒らされて食材や調味料を台無しにされると悲しいからな。

 結局は自分の為。ノドカは俺を優しいと言ったが正直な話、見ず知らずの相手がどうなるよりも、その後で起きる被害の方が心配なのだ。

 俺の考えを他所に車を止めて四人は動く。


「……レン戦えない」

「レンは俺と待つか。俺も戦えないんだ。焦る必要はないぞ」

「……うん」


 落ち込むレンだが気にしても無理なものは無理だ。大人しく俺と一緒に観戦しよう。


「高い所から順に落とすとするか。【有現の右腕マールス・ノウン】アクティブモードに移行。同時に【六翼の欲望シックス・アウル】展開」


 ガシュッ、と強烈な機械音が響くと皇さんの右腕は黒く染まる。

 そして背中から六枚のファンが銀翼となって現れると音もなく飛んだ。


「うはー、あれボクと戦った時に使ってたやつだ。懐かしいなー」

「見覚えあるんだな」

「うん、どんだけ動いても音がしないからあれ使われると居場所が分からなくなるんだよね。しかも自由自在に動くから空中戦は不利だったなー」

「マジか」


 それが皇さんの科学力なのだから恐れ入る。

 今も黒くなった右腕から同じく黒のレーザーらしきものが照射され、壁を登っていたスパイダー・モンキーを次々と撃ち落としている。

 しかし不利と言いつつもノドカと戦った時も普通に空中戦をしていたと思うが。


「それじゃあ行ってくるね」

「気を付けてな」


 音もなく飛翔した皇さんに対し、空気を割る様に走る武内さんはあっという間にスパイダー・モンキーに接触して千切っては投げるを繰り返した。ゲームによくある無双をこの目で見ている様であった。


「では主、けして無理はされぬ様にお願い致します」

「まあ、あのスパイダー・モンキーが一体でも近付いたら呼ぶよ」

「はい、喚んで下さい。死ぬ気で駆けつけますので」


 何か呼ぶのニュアンスが違う気がする。

 【竜人解放】のスキルを使用したノドカは武内さんと一緒になってスパイダー・モンキーを討伐し始めた。


「師匠はここの方が安全だと思われます。私たちが引き付けて入ればあの魔物は襲っては来れないでしょう」

「マイランさんも気を付けて」

「ありがとうございます。お礼に今日こそは背中を」

「流さなくて良いから」

「残念です。では行って参ります」


 大剣を担いだマイランも殲滅を開始する。

 マイランさんは群れの中でも逃げようとしている個体を的確に叩いて、これ以上散らばって行くのを防いでいた。


「凄いな」


 たった四人で戦況が変わる。

 理不尽とも思える光景は味方であるから頼もしいが敵になったら白旗一択の横暴だ。

 空を舞う皇さんが数知れずの敵を落とし、地上を武内さんとノドカが圧殺して、マイランが逃げる敵を追い詰める。

 防戦一方だった壁の向こう側から歓声が、魔物たちからは悲鳴が聞こえ、既に勝利は確定的だった。


「……レンも今度は頑張る」

「期待してるよ」


 レンは少し寂しそうだった。

 この中で役に立てていない自覚のあるのだろう。でもそれは俺もだ。

 料理しか出来ない俺は彼女たちと同じ『天災』であっても、ああした戦闘には役に立てない。

 こうなってしまうと俺も凡人なんだと自覚するとレンと同じで寂しくなる。

 でもそれは仕方ない。適材適所だ。俺は陰ながら彼女らを支えていると思えば良い。

 そうこうしている内にスパイダー・モンキーは全て滅んだ。

 大きな個体も武内さんが血祭りに上げて俺たちに向かって引き摺っていた。


「終わったよー。陸斗くんこれ食べられるー?」

「それ食うのか?マズイと思うが」

「ならいいや」


 ポイっ、と武内さんは食べられないと分かるとあっさり捨てる。


「ふむ、久々に動いたな」

「お疲れさん。紅茶でも飲むか?」

「頂こう」

「あ、ボクも」

「私も頂いても?」

「主、私もよろしいですか?」

「……レンも良い?」

「皆で飲むか」


 多少血生臭いのは仕方ない。

 俺たちは食後のティータイムに入るのだった。

さっそく修正

・元の世界なら心現れる環境 → 元の世界なら心洗われる環境


心が現れるって………顔文字か?(*´Д`)

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